規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
洞窟の中を進んでいると、早くも敵が現れた。
銅褐色をした、一七〇センチ級の巨大カマキリである。
「ブロンズマンティスですね」
リンがタトンと前にでる。
自身よりも大きなカマキリの首元目かげて槍を放った。
ガキィン!
鳴り響くのは金属音。カマキリへのダメージもない。
けれども、リンは動じない。カマキリの反撃を、バックステップで回避する。
「ミーユさまっ!」
「うんっ!」
ミーユが詠唱に入った。
「敬虔なるしもべと化したイカヅチよ、我が敵を焼き払え! サンダーボルト!」
雷撃が、ブロンズマンティスにぶつかった。
「Pigggggggg!」
ブロンズマンティスは、黒焦げになって崩れ落ちた。
「魔水晶はないのかな?」
「そのようですね……」
魔水晶とは、この世界のモンスターをモンスターとしている由縁の石だ。
魔水晶がつくからモンスター化するのか、モンスター化したから魔水晶という器官ができているのかは不明だが、とにかく体のどこかに水晶のような宝石のようなものがついている。
それがない生き物は、どれだけ強くとも――。
「つまりこれは、ただの巨大カマキリですね」
ということになる。
便宜上はモンスターと言われるし、うっかりするとオレもそう言う。
しかし厳密な定義の話をすると、魔水晶がないのはモンスターではないのだ。
クモやムカデは『虫』と称されることが多いものの、厳密に言えば『虫』ではないのと同じような関係だ。
ミーユもカマキリを調べ、オレに言った。
「羽根やカマの材質は、名前の通り銅みたいだけど……どうする?」
「えっ?」
「いやだから、羽根やカマが銅みたいだけど……って話だよ。
質のいい銅じゃないけど、銅は銅だし」
「それで、なんだって?」
「だから、どうす…………って、違う違う違う!
ボクは銅だから
鉄でも銀でもオリハルコンでも、どうするって聞いていた!」
「ハハハハ」
「普通の会話を、すべったダジャレみたいに拾うのはやめろぉ!」
「とにかくそういう話なら、せっかくだし取っておくか」
ブロンズマンティスの死体を解体し、ハネとカマをアイテムボックスに収納した。
オレたちは進んだ。
リンとミーユが意外と強くて、特に苦戦することはなかった。
というかふたりががんばりすぎて、ふたり以外が全員空気だ。
トラップの探索も、リンが槍で地面や壁を叩いてやってる。
「落とし穴がございましたね」
オレたちは、穴をよけて前へと進む。
戦いにしても仕事にしても、『全員がしっかり働いて回る』という状況は、実はあまりよろしくない。
全員がフルに働いていると、誰かが倒れたり、新しい敵や仕事が入った時に終わる。
ダンジョンという性質を考えれば、ひとりかふたりは何もしないで突っ立っていられるぐらいでないと危ない。
しかしふたりがずっと戦ってるだけというのも、それはそれでバランスが悪い。
なんてことを考えているうちにも、リンは槍で床を叩いて、トラップを警戒している。
オレはふと思った。
「なぁ、ミリリ」
「はにゃっ?!」
メチャクチャ緊張していたらしい。
ミリリはビクッと身をすくませた。
お尻の尻尾も髪の毛も逆立っている。
「土魔法で罠の探索ってできないのか?」
「どういうことですにゃ……?」
「土魔法って、土とか地面に魔力を通して操る魔法だろ?
だったら異物とかわからないかな? 魔力を通した時の流れとかで」
「考えこともないですにゃ……」
「わたしも初めて聞く概念です」
「ボクも聞いたことないな……」
三人は、顔を見合わせほうけてた。
が――。
「でもですが、ご主人さまのお言葉。やってみる価値はあるですにゃ!」
ミリリはぺたっと両手をついた。瞳を閉じて、意識を集中させていく。
(はにゃあぁ……!)
ミリリの魔力が細い糸のように、床や壁に伝わっているのがわかった。
「前方……十五メートルぐらい先に、トラバサミと……」
「と?」
「二〇メートルほど進んだ先の右側の壁が、ちょっと薄い感じですにゃっ……!」
「隠し部屋か?」
「断言は、難しいですが……」
「それではミリリの言葉を頭に入れつつ、慎重に進んでみましょう」
リンが妥当なことを言い、トラップを探りながら進んだ。
果たして十五メートル先に、トラバサミがあった。
「この具合なら、次の壁も期待できるな」
先に進んで壁を見る。
ミーユが言った。
「見た感じだと、フツーの壁だな」
「そうだな」
「槍で叩いてみましたが、音も大して変わりません」
「ちょっとぶち破ってみるか」
オレは浅く腰を落として、正拳を放った。
バゴンッ!
壁に大きな亀裂が入る。
破壊には至らなかったものの、奥になにかあるような感じは受けた。
二撃目を放つ。
バガアァンッ!
今度は砕けた。
ガレキの厚さから、七〇センチか八〇センチぐらいの壁であったと推測できる。
壁の先には細い通路だ。
幅的に、ひとりずつしか通れない。
「オレが先頭な」
「レイン………♥」
マリナが背中にくっついてきた。
「あぶないところは、率先していこうとするあなたのこと………好き。」
「いや、あの、照れるんだけど……」
「わたし………。あなたのことが、好き好き病………だから。」
そしてマリナは、先頭に立って進もうとした。
「ナンデッ?!」
「ひとりずつしか進めない道は危ない。」
「だからオレが行くんだよねっ?!」
「あなたが危ないことはだめ。」
「そういうことか」
「うん。」
「それなら仕方ないな」
オレはマリナをガシッと抱きしめ、その唇にキスをした。
「っ?!」
マリナの瞳が驚愕に開かれるものの、オレはマリナへのキスをやめない。
強く抱きしめたまま舌を絡ませ、ずちゅっ、ずちゅっと前後に動かす。
マリナの瞳は強く閉じられ頬は赤らみ、体はブルブルと震え始めた。
同時にヒザは、ガクガクとゆれる。
オレは唇を離し、抱きしめるのもやめた。
マリナはがくっと崩れ落ちる。
か細い声で、かろうじて言った。
「ずるい………。」
「ここで待機な」
「うん………。」
すっかり従順である。
「こういう危険な道を通るために、わたくしたちがいると言っても過言ではないのですが……」
「にゃあ……」
リンとミリリがつぶやいてたが、あえて聞かなかったことにする。
ミリリにゴーレムだけはだしてもらって、それを先頭にさせて進む。
心配されたりはしたが、危険な罠は特になかった。
ゴーレムは開始十歩目で地面からでた槍に串刺しにされたが、オレは普通に回避した。
正面から六本の矢が飛びだしたりもしたが、指で挟めば当たらないから平気だ。
壁から槍が飛びだしてきても、見てから掴めばダメージはない。
広い部屋にでた。
宝箱がぽつんと落ちてる。
「宝箱か……」
「ダンジョンにはつきものだな」
「トラップは?」
「ボクが知ってる範囲だと、あることがあれば、ないこともあるって感じだったかな……」
オレはチラりと、ネクロのほうを見た。
「わたしが教えてしまっては、キミたちの授業にはならないと思うが?」
もっともである。
「カレンはわかるか? 元は盗賊だろ?」
盗賊と言えば、宝箱をあけるスキルを持っているのがお約束である。
が――。
「そんなの全然知らないぜなっ!」
カレンは、ドキッパリと言い切った。
さすがは首輪をつけて日々をすごしているポチ。
役に立たないシーンでも堂々としている。
「というかダンジョンの宝箱は、爆発とか毒ガスもあるんだぜな!
あけれるスキルを持ってる人は、とっても貴重なんだぜな!
罪人奴隷ってことで無理やり開けさせられていた人の二十人にひとりが、かろうじてスキルを身に着けるっていう感じなんだぜなっ!」
「なるほど、罪人奴隷か」
「そうだぜなっ!」
カレンは、これまたキッパリ言い切った。
オレは無言で、カレンの首元を見やる。
罪人奴隷の証とも言える、黒い首輪がついた首を。
「…………」
カレンは無言で、自身の首に手を当てた。
瞳を丸く見開いて、ぶるぶると震える。
「ざざざざ、罪人奴隷は、ご主人さまの命令を断れないぜなぁ……」
そして瞳を潤ませた。
ingと書いて、今(i ma)にも泣き(na ki)だす五(go)秒前な顔をしている。思わずGOと言ってしまいそうだ。
「オレが今まで、カレンが本気で嫌がる命令をだしたか?」
「…………」
カレンは、しばし考えて言った。
「意外とやっていないぜなっ! えっちなことはいっぱいするけど、イヤじゃない範囲に納めてくれてるぜなっ!」
「だろ?」
「ぜなっ♪ ぜなぁ♪♪」
カレンは、満面の笑みを浮かべる。
だがしかし、オレは言った。
「だから宝箱をあけろってのが、初めて言いつけるイヤな命令だ」
(ぜなあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
言葉にならない悲鳴があがった。
「まぁジョークだから安心しろ」
「心臓に悪いぜなぁ! 三回ぐらい止まったぜなぁ!」
オレはハハハと軽やかに笑い、マリナに言った。
「頼む」
「うん。」
マリナは以心伝心でうなずくと、宝箱に手を向けた。
「アブソリュート………ゼロ。」
ガキイィンッ!
宝箱が氷りつく。
オレは鋭く剣を振るった。宝箱の右端が、氷ごと切れる。
これで中に罠があっても、オレたちとは関係のない方向に発動してくれる。
「オマエ……相変わらずメチャクチャだな……」
「マリナさまの氷は、相当な硬度があるように見受けられるのですが……」
「わたしより、レインのほうがすごいから。」
「さすがです……にゃあ」
ミーユらが、異口同音にオレを称えた。
なにはともあれ、開帳タイムだ。
宝箱の横手に回って中を見る。
暗い箱の中に、煌々とした輝きがあった。
「刀身の紅い短剣か」
「ちょちょ、ちょっと待って!」
「どうした? ミーユ」
「それって魔剣じゃないかっ?! 振ると魔法が使えたりする!
平民だったら、売れば五年は遊んで暮らせるぞ?!」
オレは試しに振ってみた。
サッカーボールぐらいの大きさをした火の玉がでる。
「なるほど」
「なぁ、レイン。ちょっとでいいから貸してくれよ!」
「別にいいけど」
オレはミーユに渡してやった。
「うわぁ……、いいなぁ。カッコいいなぁ」
こういうものが好きらしい。
ミーユは、キラキラと輝く瞳でダガーを見ていた。
「こういうアイテムって、どういう風にするものなんだ?」
ネクロが解説してくれた。
「冒険者の場合、付き合いが長ければ話し合いのなぁなぁだ。
しかしそんなパーティでも、最初は契約書を結んでギルドへと提出する。
その場合に多いのは、売却してパーティで分割するか、誰かひとりが手にする代わりに、その分の代金をメンバーに支払うことだね。
売却のリスクとメリットを天秤にかけるわけだよ」
「なるほど」
「じゃあ今回の場合、ボクがみんなにおカネ払うって感じでもいいかな……?」
ミーユはギュッと、短剣を胸に抱いていた。
オレはみんなをチラと見る。
この手の短剣が好きそうなのは、ミーユ以外にいなかった。
「いいよ、持っとけ」
「やったぁ!」
ミーユは、跳ねて喜んだ。
年相応の子どもって感じでかわいい。
しかしこの子が、きのうはベッドでバックから突かれて喘ぎまくっていたのかと思うとエロい。