規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
地球の学園とはいろいろと違う日々であったが、マリナは幸せそうだった。
例えば座学の授業が始まる直前になると――。
「レイン………。」
「ん?」
「れきしのほん………。わすれた………。」
「きのう確認してなかったっけ?」
「………わすれた。」
「歴史の本なら、アタシが持ってきてるぜなぁ!」
カレンが笑顔で本をだす。
「今日は歴史の授業があるのに本が机の中にあったから、持ってきたんだぜなっ!」
一ミクロンの屈託もない、満面の笑みで言い切るカレン。
「すごいです、カレンさん! とっても気が利いてます!!」
「当然なんだぜなぁ♪」
ミリリは尊敬の眼差しでカレンを見つめ、カレンはえへんと巨乳を張った。
が――。
「………わすれた。」
マリナはあくまで言い張った。
オレの体にぺたりとくっつき、しつこいぐらいに言ってくる。
「わすれた………。」
「そうか」
「うん。」
「それなら、いっしょに見ないとな」
「うん………♥」
オレが本をズラしてやると、マリナはほっこりとはにかんだ。
小さな声で言ってくる。
「こういうの………、したかった………♥」
「なるほどだぜなっ……!」
「なるほどです……!」
素直に甘えるかわいいマリナに、カレンとミリリは感嘆していた。
それ以外だと、鉱山に出向いたりもした。
水晶を食べるクリスタルゴーレムを倒し、体内に溜め込んでいたクリスタルを取るのだ。
ゴーレムが一度食べた水晶は、魔力を帯びていい感じになる。
「しかし貴族が通う学園のわりに、冒険者みたいなことをけっこうするんだな」
オレがつぶやくとミーユが言った。
「四男とか五男になると、冒険者とか、上役みたいな貴族の護衛をすることも多いしな」
「なるほど」
「それと家によっては、長男でも強くないと部下とか下役に示しがつかないって言うか、裏切りとか暗殺とかの危険性が高くなるって考えもある」
「それはなんか、その家の日ごろのおこないの問題のような気もするんだが……」
「…………悪かったな」
「オマエんちだったのか」
「うん……」
ミーユは静かにうなずいた。
噛みついてくるような気配はまるでない。
一時の自分が酷すぎた自覚があるミーユは、家のことになるとしおらしくなる性質がある。
無駄に落ち込ませてしまった分は、夜にたっぷりとかわいがって慰めた。
積極性はあまりないミーユだけど、実際にした時の悦びっぷりは、マリナに勝るとも劣らない。
体を縮めて口元を手で隠し、上目遣いで言ってくることもある。
「もう一回、して……」
一回とは言わず八回やった。
しかしやはりと言うべきか、正妻はマリナであった。
単にやるだけではない。
その豊乳でオレのアレを挟んで絞りながら咥え、白いミルクを飲み干したあとはミリリにバトンを渡す。
「っていう………感じ。」
「はいです……にゃっ」
その教育を受けて、ミリリも挟んで絞りながら咥えてくれる。
オレにサービスをしてくれるだけでなく、ほかの子の教育もやってくれているわけだ。
オレはミリリの頭を押さえ、がっつりと飲ませた。
◆
そんな感じで日々を堪能していたある日。
食堂についたオレたちは、アリア教官に声をかけられた。
「ここにいたのだな!」
「ああ、はい」
「今日はちょっと、話があるのだ!」
「なんですか?」
「それについては、移動してから話すのだ!」
「オレだけですか?」
「レインとマリナ、その奴隷であるカレンとミリリだけで頼むのだ!」
「ボクは……?」
「ミーユ=グリフォンベールには、悪いが外れてもらうのだ!」
「……」
ミーユは軽く、しょんぼりとした。
オレは頭を撫でてやる。
「できるだけ、早く戻るようにするからさ」
「うん……」
うなずいたミーユは、頭をきょろりと見回した。
「あれ……?」
「どうした?」
「オマエたちと別になるなら、フェミルとごはん食べようと思ったんだけど……」
「いないのか」
「うん……」
フェミルとは、以前ミーユが足蹴にしていた少女の名前だ。
最低最悪のファーストコンタクトであったものの、ミーユは泣いて謝った。
それ以降、普通に仲良くなっている。
心がとても広い少女だ。
ミーユがフェミルを気にしていると、アリアの顔に動揺が浮かんだ。
それはほんの一瞬だったが、オレとマリナは気がついた。
「レイン。」
「ああ」
オレは深くうなずいた。
「早く行きましょう」
アリアといっしょに進む。
「…………」
ミーユはずっと、こちらを見ていた。
オレとマリナが通されたのは、会議室のような部屋だった。
二十人近くが椅子に座っている。
そこの中には、リリーナやネクロの姿もあった。
「おお、レインさま」
しわくちゃのじーさんがこちらへときた。
オレを椅子に座らせる。
「で、なんの用ですか?」
オレが問うとリリーナが答えた。
「暗黒領域へのゲートが開かれた」
「暗黒領域?」
確か授業で、聞いたことがあるような……。
あやふやな記憶を辿っていると、リリーナは補足してくれた。
「この学園の北部にある、闇に包まれた空間だ。
魔族の根城と言われることがあれば、異世界への入り口――とささやかれることもある」
「ゲートが開いたってのは、どういうことですか?」
「我が校で管理しているダンジョンのうち――初心者向けに近いダンジョンでゲートが開いた。そして探索していた六名のうち、四名が吸われた」
「そんな危険なところを探索させてんですか?!」
オレが叫ぶと、白い髪とヒゲが特徴のじーさんが答えた。
「そのようなことは、決して!」
リリーナも補足する。
「三〇〇年には届いていないからババアではないわたしでも、ビギナー用の迷宮に暗黒領域のゲートが開いたという事例は知らん」
「それは相当ですね……」
「だから捜索と調査に、戦力が必要となった。しかし生半可な戦力では、逆に被害を増やしかねん」
「ミーユはどうなんですか? 呼ばれませんでしたけど」
「実力的には問題ないが……。未来の三公だからな。危険とわかっているところには出せん」
「なるほど」
「ちなみにキミとマリナについては、上回りえる者がひとりしかいない――という計算で動いている」
リリーナは、ネクロのほうをチラリと見やった。
「いくらキミの予想とはいえ、模擬戦で負けている現実と天秤にかければレインくんのほうが上だと思うんだけどねぇ」
「だからわたしも、上回り
まぁ実際、お互いに本気だったらわからないところではあった。
オレは椅子に座った。
「救助対象の名前や特徴をお願いします」
「参加してくれるのか?」
「話を聞いた限りでは、オレの力が必要なようでしたから」
オレは、父さんに拾われて育てられた。
父さんは、見ず知らずの赤ん坊だったオレを拾ってくれた。
そんな父さんのおかげで繋いだ命と力なら、誰かのために使うべきだろうと思う。
「………。」
マリナが無言で、オレの隣に座った。
「キミも協力してくれるのか?」
「うん。」
マリナはうなずき、オレを見た。
オレが協力すると言った。
マリナにとって、以上も以下もいらなかった。
リリーナが、遭難者の名前を読みあげる。
「今回遭難したのは、ウブリ=ゴードン、ヒッグス=ウェージ、サジテール=ボスマン。そして――」
リリーナは抑揚のない声で、事務的に言った。
「フェミルだ」
その時ドアがバタンと開いた。
「フェミル?!」
現れたのは、ミーユであった。
「ミーユ?!」
「フェミルが食堂にいなくって、イヤな感じがしたからきたんだよ!!」
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http://www.futabasha.co.jp/monster/
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タイトル
規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士
著者名
kt60
出版社
双葉社
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