規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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暗黒領域のミノタウロス

 スケルトンやフレイムウルフに襲われながら進んでいると、遠目に集まって座っている人影が見えた。

 

「フェミルっ?!」

 

 ミーユが駆けだす。

 それに気づいたフェミルが叫んだ。

 

「きてはダメですっ!」

「えっ?!」

 

 ミーユの足が止まった。

 その直後、ミーユの前を深紅の炎が通過した。

 軌道線状にあった木々や地面が、円筒状に抉れる。

 抉られた木々や地面は、軽く見ても五〇メートル近く先までの木々や地面を抉っていた。

 

「ブモゥ……」

 

 そこにいたのはミノタウロスだ。

 体のところどころに炎をまとった、体長三メートル級の怪物である。

 

「罠かっ?!」

「どういうことですか?!」 

「知能のあるモンスターの中には、人をあえて殺さない者もいるっ!

 捕えておけば、新しい獲物がくることを知っているのだっ!」

「ミノタウロスは、それをやる個体でもあるねぇ……」

 

 リリーナが叫ぶと、ネクロが補足の説明を入れた。

 そして罠ということは――。

 

「モゥ……」

「OOH……」

「BuHuhuhu……」

 

 新しく、三体のミノタウロスが現れた。

 それぞれに斧を持ち、炎を体にまとっている。

 

「フー……」

 

 ネクロがマントをたなびかせながら、一直線に突っ込んだ。

 サーベルを抜く。

 トトトトンッ。

 コンマ一秒のあいだに、二〇を超える突きを放った。

 

 ミノタウロスが吹き飛んだ。

 燃えている大木に当たる。

 

 めきめきめき。

 直径五〇センチはあった木は、音を立てて派手に倒れた。

 ミノタウロスの体には、マシンガンで撃たれたかのような穴があいてる。

 実戦経験の差と言うべきか、電光石火の先手必勝である。

 が――。

 

 傷はみるみる再生し、流れでる血も止まった。

 

「これはちょっぴり、厄介だねぇ」

 

 ネクロはマントを軽くめくった。

 赤い液体の入った、無数の試験管がある。

 ネクロはそれを、三本投げた。

 

「顕現しろ。死の巨人。ブラッドギガント」

 

 試験管は空中で炸裂し、一体の巨人となった。

 その体長は、ミノタウロスと同じ三メートル級だ。

 

「コイツについてはわたしが抑える。残り三体については、キミたちでやってくれ」

 

 オレは素早く指示をだす。

 

「ミーユとリンは左の一体! ミリリも左のやつに当たれ!

 マリナとカレンは右の一体を頼む! リリーナは中央で支援して、ミリリはリンのサポートをしろ!」

 

 この組み合わせだと、オレはひとりで当たることになる。

 マリナもミーユもリンもカレンも、不安そうな表情を見せた。

 が――。

 

「………うん。」

「死……死ぬなよっ!」

「ご主人さま……!」

 

 迷いながらも散ってくれた。

 リリーナが、中央で叫ぶ。

 

「即死と四肢切断にだけは注意しろ!

 即死はどうしようもなく、四肢切断は時間がかかるっ!

 骨が砕けた程度なら、コンマ五秒で治療してやるっ!」

 

 地味に人外が入っているスキルだが、頼もしいことは間違いない。

 オレは静かに剣を構えた。

 タンと地を蹴り前にでる。

 ミノタウロスの斧がくる。体をゆらりと右にズラした。

 

 ズオンッ!

 オレが立っていた位置に斧がめり込む。

 大地はゆれて空気が軋み、巨大なクレーターができる。

 

 食らえば即死。あるいは四肢切断だ。

 リリーナの回復魔法とは、非常に相性が悪い。

 だがオレは、走る速度をゆるめていない。

 ミノタウロスと交差する。

 

「Bumoッ……!」

 

 ミノタウロスの腕が飛ぶ。斧を持っていないほうの手だ。

 ミノタウロスは千切れた腕の筋肉の強め、出血を強引に止めた。

 斧を横薙ぎに振るう。

 やはり食らえば即死だが、オレは真上に飛んでかわした。

 が――。

 

「MOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

 ミノタウロスは吠えた。

 その咆哮は凶器と化して、オレの鼓膜を痛めつけた。

 意識も飛びそうになる。

 

 ミノタウロスは頭突きを放った。

 直撃すれば、頭部のツノで゛串刺しだ。

 オレは宙で身を翻し、錐揉み状に回転した。

 相手の攻撃を受けながらもいなし、その後頭部にライトニング。

 ミノタウロスの牛の頭は、その一発で吹き飛んだ。

 が――。

 

 ミノタウロスは、腕を振るって反撃してきたっ!!

 

(頭を吹き飛ばしたのにっ?!)

 

 これは流石に予想外。

 オレもガードが精一杯。

 両の腕をクロスさせ、ミノタウロスの裏拳を受けた。

 めきっと鈍い音が鳴る。燃えている木に向かって吹き飛んだ。

 

「少年!」

 

 リリーナが、すぐにヒールをかけてくる。

 元より大したダメージはなかったが、痛みが消えたのはうれしい。

 

 首が飛んだミノタウロスは、最後の足掻きであったらしい。

 血を噴水のように噴出しながらその場で腕をブンブン回し、最後はぐらりとよろけて倒れた。

 

 オレはみんなの様子も見やる。

 マリナは氷の足場を作ってタトンタトンと宙を舞い、ミノタウロスを翻弄している。

 カレンは遠くでダガーを構え、マリナの援護をうまくしている。

 ミリリやミーユは、魔法をうまく使ってる。

 

「小さき者よ舞いあがり、望む形を作ってください! サンドエレメンツ!」

「ボクに従え、白き風! ウインドストリーム!」

 

 ミリリが巻きあげた砂をミーユが風で操って、ミノタウロスの目を隠す。

 同時にミリリの作ったへこみが、ミノタウロスの足を取る。

 

「GUMOOOOO!!!」

 

 ミノタウロスが炎を吐くが――。

 

「ハアッ!」

 

 リンが手前で槍を回して、赤い炎を遮断する。

 常識で言えば手も顔も胸板なども、致命傷に近いヤケドを負う。

 しかしリリーナのおかげで、まったくの無傷だ。

 それでも肌を焼くような痛みはあると思われるのだが、奴隷なので痛みには強い。

 

「リン先輩、さすがです……にゃあ」

「あなたの砂で威力が削減されているおかげですよ、ミリリ」

 

 そしてネクロの巨人とミノタウロスは、真正面から殴りあってる。

 ネクロの巨人がミノタウロスの横っ面を殴ればミノタウロスはアッパーをかまし、巨人がミノタウロスの頭を掴んで膝蹴りを入れれば、ミノタウロスはリバーブローで反撃をする。

 巨人の体がぐらりとゆらぎ、ミノタウロスは首筋に噛みついた。

 

 巨人の喉笛が裂ける。

 巨人はアンデッドなため、その程度では死なない。

 だがしかし、ミノタウロスが止まらなかった。

 

 巨人の頭を掴んで首をへし折り、地面に倒して踏みつける。

 ぐしゃっ、ぐしゃっと音を立たせて、最後にはブレス。

 ネクロの巨人は灰と化した。

 

「Gumohuhohuhoho!!!」

 

 勝利の雄叫びをあげたミノタウロスは、ゴリラのようにドラミングをした。

 

「やれやれだな」

 

 ネクロはマントの内側から、試験管をだす。

 二体目の巨人。

 

「Gumoッ……?!」

 

 戸惑うミノタウロスに、巨人のラリアットが入る。

 疲弊していたミノタウロスは、その一撃で絶命した。

 本人はまったくの無傷で一歩も動いていないことを考えると、さすがとしか言いようがない。

 オレは剣を構えると、残ったミノタウロスも掃討していった。


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