規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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vsネクロ 01

 どれくらいの時間が経っただろうか。

 レインは二百八十六体のステーシーを切り払って焼き払って葬り去った。

 現れるステーシーは徐々に強さを増していき、ネクロは前線にでなくなる。

 

 ステーシー・ロザリィが弓を放った。

 遠距離攻撃をしてくる個体は、そいつが初だ。

 完全に意識の外からであった矢は、レインの脇腹をかすめた。

 

 毒の効果もあったのか、レインの体がふらりとよろける。

 ステーシーの部隊一二〇体とネクロが列を作った。

 魔力で弓矢を召還してくる。

 

「さぁ――耐えられるかな?」

 

 放たれるのは、一二一本の矢。

 地面と水平に飛んでくる直線的な軌道を描くそれから、放物線に飛んでくるそれ。

 宙でカーブしてくる矢もある。

 すべてを自力で回避するのは、物理的に不可能。

 地面に穴を掘ることですら、垂直に落下している矢のせいでできない。

 

「ハアアッ!」

 

 レインは魔力を放出し、炎と雷の入り交ざったドームを作った。

 ステーシーが放った矢たちは、ドームに当たった瞬間に消える。

 

 しかしネクロが放った矢だけは、ドームに当たっても消えない。

 レインのドームを相殺させるッ!

 そして降り注いでくる第二弾。ひとりのステーシーが複数放ったりもした矢は、合わせて二五〇本!

 

「オオオオッ!」

 

 雄叫びを放ったレインは、魔力をまとって突っ込んだ。

 右手の剣に魔力をまとわせネクロの魔弾を魔法剣で弾き、ステーシーの矢は自身の周囲に炎雷の魔力をまとってかき消す。

 そして空いた左手に、魔力を込めて掌底打っ!

 

 それはネクロの脇腹をかすめ、背後にあった木々と、三〇のステーシーを吹き飛ばす。

 攻撃の余波で吹き飛んだネクロは、口の端から垂れた血をぬぐう。

 

「一度見た技であるなら、二回目には最善の対処法を実行できる――というわけか」

 

 しかしそのつぶやきは、レインの耳には届いていない。

 レインはネクロに注意を向けつつ、迫りくるステーシーを葬り続けている。

 実戦では初となる苦戦に、その感覚は研ぎ澄まされる。

 

 視界に映るステーシーはもちろん、横手や背後にいるステーシーのことも肌の感覚で察知して、一〇、二〇、三〇と、苛烈なる斬撃を放つ。

 一方で、体力は摩耗する。

 近づくものは瞬時に払うが、足の動きが鈍くなる。

 その切っ先に鋭い刃は残しつつも、切っ先以外は錆びて朽ちていく刀剣のごとき状態。

 それでもレインは気を振り絞り、一〇〇〇体のステーシーを葬った。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

「さすがは、レリクスの息子さんだねぇ」

 

 ネクロはすこし寂しげな、遠い目をして言った。

 

(もしもボクにも子がいれば、狂わずとも済んだのだろうか)

 

 しかしすぐさま首を振る。

 リリーナを手にかけた今、自分はあとには戻れない。

 

(狂人は、最期の時まで狂人でいなければいけない……よね)

「ずいぶんと手間はかかったが……コイツで一対一だな……ネクロ」

 

「後学のためにひとつ教えておこう。七英雄レリクスの息子である、レイン=カーティスくん」

「……?」

「わたしはネクロマンサーであり、その性質は死者を操る」

 

「ああ……」

「しかしこの性質は、厳密に言うと違うんだ」

「なに……?」

 

「そもそも死とは曖昧なものだ。ここにいるわたしは『生きている』存在だ。

 しかしわたしの中を流れている血を垂らせば、外にでた血は生きていることにはならない。

 腕を切り落としてみても、切り落とされた腕は生きていることにはならない。

 足を切り、胴を切っても同様だ」

 

「……」

「そして首を切り落とし、わたし自身がわたしの口で、わたしは生きていると言えなくなると、それを人は死であると認知する」

「……そうだな」

 

「しかしこれが死であるならば、手足をもがれて舌を抜かれて目も抉られた人間は、死したことになるのだろうか?

 言葉によって訴えることも視線によって訴えることも、触覚によって訴えることもできない者は、死したことになるのであろうか?

 それは死とは言わないだろう。

 我々が生きている証拠を感知できないというだけで、その人間は生きている。

 ならば首をもがれた人間であろうとも、我々が感知できないレベルの意識を持っている可能性は否定できない。

 死霊術者とは、一般人から『死者』と認定されるほどに朽ち果てようとも消えることのない想いを感じ取り、術者の魔力や土や肉体を媒体に、それを具現化してやる魔法の使い手を言うのだ」

 

「つまりオマエは、なにが言いたいんだ……?」

 

 オレが問うと、ネクロは言った。

 

 

「ステーシーは甦る」

 

 

 レインが砕いたステーシーたちに眠る魔力が、ネクロの周りで渦を巻く。

 

「今の彼女たちにあるのは、果たせなかった想いとうずくまる未練が作りだした無念」

 

 一〇〇〇に及ぶ少女たちの情念は、レインの力を持ってしても近寄りがたい威圧感に満ちていた。

 

「そして無念は力を欲する。理性を失くして心を失くして、自分がなにを求めていたのかわからなくなってなお、力だけを欲し続ける」

 

 現れたのは、三体のドラゴン。

 幽体を示す透き通った体を持った、赤いドラゴンと青いドラゴンと漆黒のドラゴンだ。

 

「三三三人の無念が篭った竜が三体。彼女たちが吐く一撃に、キミは耐えられるかな? レイン=カーティス」

 

 三体の竜の口に魔力が溜まる。

 煌々と光り輝く。

 大気は震えて大地はゆれて、木々の木の葉はパチリパチリと弾け飛ぶ。

 

「ひとつ忠告しておくならば――全身を守ろうとはしないことだ。

 全身を守ろうとすれば全身が吹き飛ぶが、上半身のみに守りを集中させておけば、上半身は残る。

 手足は吹き飛び二度と戦えぬ体にはなっても、命を失うことはない」

 

「なんだよ……いきなり」

「細かいことは気にしないでくれ。偽善者のたわ言だ」

「…………」

 

 レインは無言で構えたが、ネクロの言葉に虚慢やハッタリは感じなかった。

 ただの客観的な真実として、レインに忠告を与えている。

 戦う意志を見せるようならすべてを失い滅されて、手足を捨てて防御に回れば、四肢を失くそうと命は繋がる。

 

 いずれにしても、ガードは必至で敗北は必須。

 弱っている時はもちろん、全力をだせたとしても防げるかどうか。

 レインは自身の魔力を高める。

 地をもゆらす咆哮が、異様な密度の閃光を放った。

 それは軌道線にあるものすべてを掻き消しながら、超高速でレインへと突き進む!

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