規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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ミーユの親と今後の方針

 

 ミーユが手紙をだしてから、一週間目の朝。

 オレたちは、学園の指導室に呼びだされた。

 左右の壁や天井に魔法封じの紫水晶が混ぜこまれた上に、魔法封じの魔法陣が地面に書かれた小さな部屋だ。

 魔法学園であるこの学園の場合、魔法を封じれば大概の生徒は無力化できる。

 

 

 オレはパンチで壁ぶっ壊せるけど。

 

 

 机を挟んで向かいにいる、教官のアリアが言った。

 

「呼んだのは、ミーユひとりであったはずだシ……?」

「ついてきてほしいって言われたので」

「わたしは………。ついて行きたかったので………。」

 

 オレが言うと、マリナはオレの腕にくっつく。

 メンバーは、生徒側がオレとミーユとマリナの三人。

 先生側は、リリーナとアリアのふたりだ。

 ふたりそろって小さいために、どちらが生徒なのかわからない。

 

「細かい話をする前に、これを読んでほしい」

 

 リリーナは、懐から一枚の封筒を取りだした。

 机の上に置く。

 ミーユが封筒を手に取って、中から手紙を取りだした。

 

 読むにつれて、丸い瞳が見開かれていく。

 そこにあったのは、失望や絶望ではない。

 いったいなにを言われているのか、ただただわからないといった表情であった。

 

 ミーユの体がぐらりとよろけた。

 オレは反射的に押さえる。

 

「大丈夫か?」

「ごめん……」

 

 ミーユは謝り、座り直した。

 手紙を握り、改めて見つめる。

 ようやく感情が追いついてきたのか、涙がじわりと浮かび始めた。

 いったいなにが書いてあるのか。リリーナが解説してくれた。

 

「そこに書いてある範囲では、キミはグリフォンベール家の偽物――ということになっている」

 

 意味がわからなかった。

 もう本当に、わけがわからないとしか言いようがなかった。

 そもそも――。

 

「そもそも……、通るような主張なんですか……?」

「手紙の主張によれば、学園にいる『ミーユ』は、洗脳魔法、またはアイテムでグリフォンベール家の者を洗脳していた――ということだ」

「学園に落ち度はなくてグリフォンベール家の落ち度であって問題である――とも書かれているので、こちらとしては反論しにくくもあるのでシ……」

「そして争いになれば…………」

 

 リリーナは暗い表情をしつつも、ハッキリと告げた。

 

「キミは負ける」

 

 ともすれば冷たすぎる断言に、ミーユはまったく反論しない。

 自身の胸に手を当ててつぶやく。

 

「グリフォンベール家の後継者は、男子でなければいけませんものね……」

 

 しかしミーユの性別は女。

 実際には家督を分家にゆずりたくない実の両親がミーユを男として育てたわけだが――。

『洗脳魔法でも使われていなければ、後継者として認めているはずがない』と言われてしまうとミーユは弱い。

 

「相手側の要求は、どんな感じのものですか?」

「今回の問題による責任は、あくまでもグリフォンベール家に帰属するとある。

 よって向こうの要求は、ミーユ=ララ=グリフォンベールを名乗っている者の引き渡しだ。

 もしも本人に反論があるなら、学園に在籍したまま裁判に望む方向でもよい――ともある」

 

 しかしミーユが女子である以上、裁判に勝つのは難しいだろう。

 訴えてくるのが三公の大本ともなれば、裁判官にも家の息がかかっている可能性は高いし。

 

 なんらかの方法でミーユが女であることを白日に晒したあとは

『グリフォンベール家を継げる嫡子は男のみ。よって嫡子に女はいない。それが女ということは、洗脳魔法などを使って我々を騙し、三公の地位を狙った犯罪者でもない限りありえない』

 と持っていくだろう。

 

「負けたら、どうなるんですか……?」

「上級貴族の僭称は、事情を問わず死罪だ」

「……」

「しかしそうであるからこそ、わたしとしては見過ごせない。

 完全に庇護・擁護するのは難しいものの、質問したら逃亡してしまった――というシナリオを描くことはできる」

 

「三公のグリフォンベール家サマに洗脳魔法をかけれる者デシからねぇ~。

 我々の隙を突いて逃亡するぐらい、わけないに決まってるデシぃ~~~」

 

「と、いうわけだ。

 学園としては、以上のスタンスも以下のスタンスも取れん」

 

 冷たいようだが、充分でもある。

 ミーユの家がミーユを偽物であると言った以上、ここにいるミーユはただの犯罪者候補だ。

 学園がいくらかばおうとしても、「白黒をつけるために裁判を」と言われたらどうしようもない。

 

 しかも今回、ミーユの家は『学園に責任はない』と言っている。

 学園としては、渡すほうが正しいぐらいだ。

 

「急なことだが、いつなにがあるかわからん。

 できれば早い段階で、安全なところに避難したほうがよい」

 

「わかりました」

 

 オレはぺこりと頭をさげた。

 ミーユをつれて部屋をでる。

 

「大丈夫か? ミーユ」

「……うん」

 

 うなずいたミーユだが、大丈夫そうには見えない。

 足にも力が入らないのか、オレにもたれかかってる。

 だがしかし、問い詰めても仕方ない。

 オレはミーユの支えになりつつ部屋に戻った。

 

「ご主人さま!」

「ミリリか」

「お話……なんでしたにゃあ?」

 

 オレはベッドにミーユを座らせ、ゆっくりと話した。

 並んでいたリンとミリリとカレンらは、話が進むに連れて沈み込んでいく。

 

「貴族のかたでも、そのようなことがあるのですね……」

「ひどいですにゃ……」

 

 親に売られて奴隷となっているふたりは、自身の境遇と重ねつつもうなずいた。

 

「レインはレインは、どうするつもりなんだぜなっ?!」

「とりあえずは……父さんに相談かな」

「確かにレリクスであれば、キミとミーユによくしてくれるであろうな」

「リリーナ?!」

「その通りだが?」

 

「学園のほうは、この件に関しては中立なんじゃ……?」

 

「わたしは元々、頼まれて魔法などを教えていた客員魔術士だからな。

 学園に在籍している客員魔術士・リリーナとしての協力をすることはできないが、

 『ただのリリーナ』としてなら問題はない」

 

「リリーナ……」

「そもそもわたしは、こういう時に自由でいるため特定の組織に所属していないのだ」

 

 スパリと言い切るリリーナは、ロリでありつつ格好のいい、大人の女性という感じであった。

 が――。

 

「……少年」

「はい?」

「今のわたしは、キマっていたと思わないか?」

「……はい?」

 

「そもそもわたしは、こういう時に自由でいるため特定の組織に所属していないのだ」

 

 ロリ化しているリリーナは、胸に手を当てポーズを取った。

 ほめろ、ほめろと言わんばかりに頬が染まって口元がゆるんでいる。

 

 今はロリっ子な彼女ですが、実年齢は二八〇です。


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