規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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未然に回避されていた、レイン最恐最悪の危機

 転移用のとびらをくぐり、家に戻った。

 食堂にでる。

 看板めいた木の板があり、伝言があった。

 

〈わが息子レインへ。

 領民の者から魔物化したクマが出現したとの報告があった。

 ワシは退治に行っておる。

 夕暮れまでには戻るじゃろうから、裏庭かこの食堂で待っておれ。

 わが息子レインよ〉

 

「ボクたちがくるのがわかってたかのような伝言だな……」

「違います」

 

 ミーユが言うと、涼やかな声が響いた。

 メイドのメイさんである。

 

「旦那様は一定時間席を立つ場合、レイン様がお帰りになられることを前提として伝言を残しておられます」

「そうだったんですか……」

「そうだったのです」

 

 なんというのか、父さんだった。

 

「……」

 

 そういう父母に育ててもらっていなかったと思われるミーユが、目に見えて落ち込んだ。

 頭をぽんぽん叩いてなぐさめ、裏庭へと向かってみる。

 

 いた。

 二階建ての一軒家ぐらいありそうな巨体に、赤い体毛が印象的なクマの死体を目の前に、「ふーむ」と腕を組んでいる。

 オレは言った。

 

「ただいま帰りました」

「おお、レインか」

「依頼されていたクマのモンスターですか?」

「倒したはよいのじゃが、どう解体すればよいのかと思ってのぅ」

「村に持っていくのが一番ではないですか?」

「やはりそうか」

 

 オレはアイテムボックスの機能を使い、クマの死体を収納した。

 

「便利じゃのぅ」

「自分でもそう思います」

 

 オレはくるりと踵を返す。

 ミーユやカレンにミリリにリンが、なぜか唖然とこちらを見ていた。

 

「どうした?」

「「「「いろいろとおかしい」」」」

「だろっ!」

「ぜなっ!」

「にゃあ!」

「ですっ!」

 

 語尾はそれぞれ違ったが、みな一様に突っ込んだ。

 

「なんでその大きさの魔物を普通に倒して、汗ひとつかいてないの?!」

「っていうか普通に倒せるものぜなっ?!」

「平然としているレイン様もおかしいですにゃあ!」

「もっと疑問を持ってください!!」

 

「いやでもクマだし……」

「強いだろ?! 普通のクマならともかく、魔物化しているようなクマなら!」

「しかもその毛並、レッドベアーだと思われますにゃあ!」

「魔物化しておらずとも、厄介な猛獣です……」

 

「厄介かなぁ……」

「そうだよっ!」

 

 ミーユは苛烈に突っ込むが、父さんは言った。

 

「そうでもなかろう」

「ですよね」

 

 マリナにも尋ねる。

 

「マリナでも勝てるよな? 今ぐらいの大きさだったら」

「苦戦はするかも。」

「でも勝てるよな?」

「うん。」

 

 即答だった。

 

「わたしは戦闘が得意ではないため勝てるかどうかは怪しいが、さして驚く猛獣でもないとは思うな。

 そこそこ戦える戦士が三人と、わたしの補助と治癒魔法があればどうにでもなる」

 

 リリーナも、そんな風に言っていた。

 父さんはおかしいけど、ミーユたちも大袈裟だと思う。

 

 オレは村に出向き、死体を村の人たちに任せた。

 ケガ人や病人が何人かいたので、リリーナは治癒のために残ると言った。

 リリーナを置いて屋敷へと戻る。

 椅子に座った父さんが言った。

 

「して今日は……なんの用じゃ?

 もちろん用などはなく、ただ食事をしにきた、遊びにきた、顔を見にきたというだけでも歓迎であるしそのような形での来訪が増えればよいとも思っておるが、それはそれとして用があるような顔に見えるのでの」

 

 さすがに鋭い。

 

「前にも紹介を受けたと思いますが、ここにいるミーユはオレの恋人です。やることもやってました」

「うむ」

「すると……」

「なんじゃ?」

 

「できました」

 

「避妊魔法は使っておったのではないか?」

「そのはずではあるんですが、避妊魔法の壁も突き破ったのではないかという仮説でして……」

「どのような勢いでしておったんじゃ……」

 

 父さんからも言われてしまった。

 

「あっ……、あんまりストレートに言うなよ……。やっていたとか、恋人……とか」

「だけど隠すことじゃないだろ?」

 

 オレはほっぺにキスをした。

 

「……ばか」

 

 ミーユは真っ赤になりつつも、ほっぺを押さえて目を伏せた。

 そして父さんは、なにかの本を開いていた。

 

「なにを読んでるんですか?」

「孫ができた時の名前の候補じゃ。

 女子であればミユミユ。男子であれば、鷹の英雄と言われたトンヌラなどが……」

 

「どちらもダメだと思います!!!」

「トンヌラなどは、おヌシを拾った日に雨が降っていなければ候補にも挙がっていた名前なのじゃが……」

「それでもダメだと思います!!」

「ほかの候補となると、レミリアやミルシアなどになってしまうが……」

 

「そっちのほうがいいと思います!!」

「そうかのぅ……」

「そうです!!」

「よいと思うんじゃが……。ミユミユもトンヌラも」

 

 父さんのネーミングセンスは、何気にトンでもなかった。

 降っていてくれてありがとう、雨!

 もしもキミが降ってなければ、オレは今ごろトンヌラだった!!


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