規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
運命の歯車がひとつズレていればトンヌラになりかけていたという、オレ史上最大の危機がオレにはあった。
しばし呆然としてしまっていたが、気を取り直して父さんに説明した。
子どものできたミーユが、実家に手紙を送ったこと。
すると家から、ミーユを偽物と認定する手紙がきたこと。
曰くミーユは魔女であり、洗脳魔法でグリフォンベール家の者たちを騙していたとのこと。
オレの話が続くにつれてミーユは泣きそうになってきたので、手を繋いで話を続ける。
話が終わった。
「なるほど……」
父さんは、深くうなずくと言った。
「即ちワシは、その鬼畜どもを皆殺しにすればいいんじゃな……?」
「そうです」
「違うよ?!」
オレが言うとミーユは叫んだ。
「ボクそこまでのことは望んでないから! もっとこう……普通に、平和的な感じので!」
「それでいいのか?」
「それでいいっていうか……、それがいいっていうか……。レインといっしょにいられれば、もうそれだけでいいっていうか……
ミーユは目を伏せ、オレのことを上目使いでチラチラと見た。
かわいい。
「あと……レリクスさん」
「なんじゃ?」
「ボクのこと……信じてもいいんですか? 洗脳魔法を使ってレインのことを騙しているとか、考えなくてもいいん……ですか?」
「それはなかろう」
即答だった。
「洗脳魔法の使い手だったら、知っている顔がおる」
いつの間にか戻ってきたいたリリーナが、苦虫を噛み潰したかのような顔で言った。
「ゼフィロスか」
「ゼフィロスって……矛盾の妖魔ゼフィロスですかっ?!」
「なにそれ?」
「小さいころに契約妖魔辞書で見た、SSランクでも足りない
好きなことは強者を切ること。
得意なことは強者を切ること。
生きる意味は強者を切ることをモットーにしていて、呼びだした相手の願いを叶えてくれる幻術や洗脳が得意な妖魔!」
「願いを叶えてくれるのか」
「でも代償として、ゼフィロス本体と戦わないといけない!
勝てる必要はないけど、最低限は楽しませないとダメなんだ!
だけど相手はレジェンドクラス!
辞書の中でも、『この妖魔を楽しませるほどの力を持っているなら、この妖魔に頼る必要はない』って書かれているぐらいだ!
矛盾の妖魔もそこからきている!」
「そんなことはなかったがのぅ」
「役に立つ男ではあった」
「契約したことあるんですか?!」
リリーナと父さんは交互に話す。
「魔竜と戦う際に、強い仲間がほしくてな」
「大概の妖魔には断られてしまったが、やつだけは『では一時間、わたくしを楽しませてください』と言ってのぅ」
「だがレリクスは……」
リリーナは目を伏せて言った。
「一撃で倒した」
「自信がありげじゃったから、すこし本気をだしても大丈夫かと思っての……」
「貴重な仲間候補が、出会って五分で死にかけたわけだな」
「相手はレジェンドクラスなんですよね?!」
「なにを言っているのだ、ミーユ=ララ=グリフォンベール。ここにいるレリクスは、伝説そのものだぞ?」
「…………」
「当時のワシは、元気があったからのぅ。逆に今のワシだと、ちと厳しいかもしれん」
ミーユは驚き絶句していた。
それはオレも同様だった。
ただその驚きは、ミーユとは真逆のベクトルである。
「その妖魔……すこしとはいえ父さんの本気を食らって『死にかける』で済んだんですか……?」
「そこはやはり、『魔竜殺しの七英雄』と呼ばれるようになる男だからな。多少のことで死にはせんよ」
「そ、それはおかしいです……にゃあ」
「どうしてだ? ミリリ」
「七英雄さまのことは、教養の時間で習いましたにゃ。だけどミリリは、そのお名前を初めて知りましたにゃあ」
「契約妖魔は通りが悪い――ということで、正義の使徒ジャスティ、などと名乗っていたからな……
」
「ジャスティ様は、偽名だったのですにゃ?!」
「そうだったのだ」
「知らなかったですにゃ……」
「脱線したがそういうことだ。
ゼフィロスと共にいたレリクスやわたしは、洗脳魔法や幻術魔法の臭いというものを知っている。
キミからは、それをまったく感じない。
そこまで含めて洗脳できるような実力があるのなら、グリフォンベール家の者が洗脳に気づくこともできんだろうよ」
「……」
「まぁリリーナの話を抜きにしても、息子のレインが連れてきたんじゃ。いい子に決まっておるじゃろうよ」
父さんは、心の底から楽しげに笑った。
この人に拾われてよかったと、心から思った。
問。
規格とはなんですか?
答。
ぶち壊すものです。
みたいなところのある父さんだけど、オレを心から思ってくれているのも確かだ。