規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
圧倒的な賛成多数で、ミーユのことは守ると決まった。
と――思われた時だった。
「でも……やっぱり……」
ほかならぬミーユが、難色を示す。
「どうしたんだよ、ミーユ」
「めいわく……、かかるから……」
「別にいいじゃん」
「今回のおヌシは、ワシの息子と幸せになろうとしただけであるしのぅ。
そこを支えあうのが家族とも言えるじゃろ」
「そっ、それだけじゃないんです。ボクの家には、『四神将』と『十二騎士』がいるんです」
「なんだそりゃ」
「グリフォンベール家の守護者とも言われるみんなだよ!
二十万とか三十万とかいるグリフォンベール家と傘下の家から、
特に優秀な四人と次点の十二人がもらう称号だ!!
ただ強いだけじゃなくって、三公にだけ伝わる武器や防具をあつかったりもする!」
「よくわからんがすごそうだな」
「よくわからんが、すごそうじゃのぅ」
「すごいの! すごそうじゃなくって、すごいの!
一対一ならなんてことないと思うけど、四対一や十二対一になると……」
「危ないかもしれないってことか」
「うん……」
「自らが消されようとしておるのに、ワシらの心配をするとは……流石はわが息子レインが選んだ少女じゃのぅ……」
必死に説得をするミーユだが、父さんは戦慄するよりも感涙していた。
リリーナが言う。
「ひとつ言っておくぞ、ミーユ=ララ=グリフォンベール」
「はい……」
「わたしやレリクスは、魔竜とも戦ったことがある。
だがそれは、楽に勝てるから戦ったのではない」
リリーナは、息を整えて言った。
「守りたい者がいたから、戦ったのだ」
「リリーナさん……」
迷いことなく言い切るリリーナは、紛うことなき英雄だった。
ミーユの目にも、尊敬の色が芽生える。
しかしオレのほうを見て、視線でハッキリ言ってくる。
(今のわたしは、よいことを言ったと思わないか?!)
例によって台無しだった。
◆
ミーユたちがのんびりとしていた時分。
グリフォンベール家の屋敷。
四神将のひとり、ルークスからの報告を聞いたミーユの父――ダンソン=グリフォンベールは怒り狂った。
『我らを洗脳していた魔女を逃がしただと?!』
『逃がしたのではございません。我らが向かったころには、すでに……』
『どういうことだ?!』
『学園の教官アリア=ロッド曰く、〈グリフォンベールの人たちでも洗脳しちゃう魔法使いだシ! わらしたちがなんかアレされるのも仕方ないシ!〉とのことで……』
『奴隷あがりの〈犬〉が……』
ダンソンは、床にツバを吐き捨てた。
首輪をつけた奴隷の少年が、それをふき取る。
ルークスは、ダンソンに気づかれない程度に顔をしかめた。
奴隷あがりなのは、ルークスもそうであるからだ。
『手がかりはないのか?! あの魔女の手がかりは!』
『そこは調査をいたしましたが、同級生のレイン=カーティスと仲がよかったとのこと』
『カーティス? いったいどこの三流貴族だ?』
『魔竜殺しの七英雄がひとり、レリクス=カーティス様のご子息です』
『なるほど、そのカーティスか』
『レリクス=カーティスと言えば、怪物揃いと謳われた魔竜殺しの七英雄の中でも規格外れと称されし英雄。
コトを構えることは得策ではないかと……』
『むしろレリクス様と関係を持てたことを、誇りに思うべきでは……?』
ルークスの右腕的な存在であるロッカも、そんな風に言う。
が――。
『なにを言っているのだっ!』
ダンソンは一喝した。
『学園にいたというミーユ=ララ=グリフォンベールは、我らの息子を騙った大罪人!
それが英雄との繋がりを持っているからなんだと言うのだ!
ここにいるミーユこそが、グリフォンベール家の正当後継者だ!』
ダンソンは、隣に控えている少年を指差した。
そこにいるのは、ミーユそっくりの少年。
ミーユが反抗的になりつつあることに危機感を感じつつあったダンソンが、貧民街から連れてきた空似の少年だ。
ミーユが学園に行っているうちに準備を進め、長期休みで帰ってきた時に『入れ替える』予定であった。
レインの件がなかろうと、ミーユのことは『処分』するつもりだったのである。
『しかし相手がレリクス様では……』
『かつて手合せをしていただいたこともございますが、眼光だけで我ら動けず……』
『しかしレリクス=カーティスは、すでに相当な年である上、魔竜との戦いで癒えぬ傷を負ったと言うではないか。
どこに恐れる要素があると言うのか』
『我らが威圧されたのは、その年老いた上に魔竜との戦いで負傷していたはずのレリクス様でして……』
『四神将とも呼ばれし者が、名前だけで怯んだか』
『仮に我ら四神将と十二騎士でレリクス様を抑えたとしても、相手の陣営にはレリクス様のご子息が……』
『学園の入試試験では、試験用の壁を相手に四億とも五億とも言える数字をだしたとかで……』
『臆病者め』
ダンソンは、フン、と鼻を鳴らしてみせた。
『まぁ、よい、策はある』
『策……?』
『このような時のための策だ。細かいことはあとで言う。残りの四神将と十二騎士を連れてこい』
『……はい』
ルークスは、なにも言わずにうなずいた。