規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
ダンソンの屋敷。
玉座の間。
三公がひとり、グリフォンベール家の誇る四神将と十二騎士がそろった。
「ご命令通りです。四神将と十二騎士、ここに集結いたしました」
「うむ」
ダンソンは、一冊の魔導書を取りだした。
血を垂らす。
『血肉が我の一部なら、汝は我を食らいし者。血の盟約に従って、我が元に出でよ!』
煙があがった。
濁った血液を彷彿とさせる、赤黒い煙だ。
煙はもくもくと集まると、ひとりの男を形作った。
赤いコートに帽子を被った赤づくめの男。
帽子の裾はカウボーイハットのように長く、片目しか見えない。
そんなわずかに覗く瞳も、血のような赤。
『わたしの名前はシェイド=ゼフィロス。
好きなことは強者を切ること。得意なことは強者を切ること。生きる意味は強者を切ること。
よろしくお願いしますよ。クトゥフフフ』
『ゼフィロス……?!』
『あの、矛盾の妖魔の……?!』
『そう呼ばれることも多いですねぇ』
〈ゼフィロス〉は、自身の帽子を押さえて言った。
『それでこたびは、いかなる用事で?』
『我らの息子を騙った魔女がいる! レリクス=カーティスの一族がそれをかばった! 討伐に協力しろ!』
『なるほど、レリクスの……』
『貴様が望む報酬は知っている! 〈強者と戦う時間〉だろう?!』
『おっしゃる通りでございます』
『しかしその契約書に、〈一対一で〉という一文はなかった』
ダンソンは、にやりと狡猾な笑みを浮かべた。
してやったりという顔だ。
ルークスたちが察する。
『ま、まさか、ダンソン様……』
『我らを……?』
『傷ついた老いぼれとも戦えぬと言った貴様らが、なにを言うかっ!』
『『『…………』』』
『それに死すると決まったわけではない! こやつと戦い、勝利すればそれでよい!』
『おっしゃる通りですねぇ』
ゼフィロスは、クトゥフフフ、と笑った。
『楽しませてください』
剣が入った鞘を構える。三分の一程度抜く。銀色の輝きが見えた。
四神将と十二騎士が身構える。
次の瞬間。
ゼフィロスは、四神将と十二騎士たちの背後へと回っていた。
剣をパチリと、鞘に納める。
『ぐハッ!』
『があっ!』
『ぎゃああっ!』
三人の騎士が、血飛沫をあげて倒れた。四人の騎士の武器も壊れる。
四神将は流石に無傷であったものの、一歩も動くことができなかった。
『今のはただの小手調べだったのですが……。大丈夫ですか?』
言いながら構えるは、八本のナイフ。
ゼフィロスの指に挟まれたそれらは、しかし投げられる前に消えた。
『?!』
驚愕する四神将と騎士。
しかし次の瞬間に――。
地面から飛びだしてきたっ!!!
ズババババッ!
ターゲットにされた騎士が、なます切りにされる!!
『張り合いがありませんねぇ』
『『うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』』
双子の十二騎士が、予備の武器で踊りかかった。
巨岩のような体躯に、分厚いブレストアーマーを身に包んだ重騎士だ。
『これはこれは、お力強そうですねぇ』
ゼフィロスは剣を消し、やれやれといった感じに両手を広げ――。
小鳥でも握るかのようにやわらかく握りしめた拳で、ふたりの胸板に拳を当てた。
そのやわらかな一撃で、ふたりの体はゴッと吹き飛ぶ。
『防具はなかなかに上質でしたが、肝心のご本人がこれではねぇ』
ゼフィロスは、十二騎士の残りを切り裂く。
『このおぉ!!』
四神将のルークスが切りかかる。
その手には聖剣。
歴代の四神将筆頭に与えられてきた、由緒ある剣だ。
ゼフィロスは回避する。
聖剣の斬撃が、白い残滓を虚空に残す。
消えずに残る白い残滓は、それ自体が殺傷力を持つ。
振りおろし、右薙ぎ、逆袈裟と、ゼフィロスを攻める。
ゼフィロスは、自身の剣で受けるのに徹する。
互いの剣が打ち当たるたび、火花と剣劇の音が響いた。
『これはこれは、なかなか……』
ゼフィロスがつぶやいたところに、右手から槍。
『卑怯とは言うまいな』
四神将のひとり、無双のクロガネである。
黒い髪に黒い瞳の、整った顔立ちの男だ。
槍の腕前は国士無双。
突きを放ったと思った瞬間には槍がすぐに引かれていて、第二陣、第三陣と止まることがない。
そこに金色の髪が美しい女――四神将のロッカが、弓矢を放つ。
世界樹で作られたという伝説もある純白の弓から放たれる純白の矢はけっして味方を傷つけない。
ルークスの体を通過して、ゼフィロスへと向かう。
完全なる死角からの奇襲。
しかしながらゼフィロスは、身を翻して回避した。
ルークスの剣とクロガネの槍を、自身の剣で弾く。
赤い魔力と白い魔力が、火花のように飛び散った。
『クトゥフフフ、なかなかのお強さですねぇ』
剣を持っていない左手を、ルークスとサイゾウに向ける。
『ぐあっ!』
『がああっ?!』
ふたりの体が炎に包まれた。
『ディレイトヒール!』
しかしすぐさま火は消えた。
やわらかな光りに包まれた体は、火傷の傷もたちまち治す。
ふたりは光りに包まれたまま、ゼフィロスに向かって突っ込む。
その動きは、つい先刻のそれよりも素早い。
一見すると小柄な少女でありながら四神将に名前を連ねる、癒しのソフィーネが使った『女神の息吹』の効果であった。
身体能力を増強し、自然回復の力を一八〇倍にまで増加させる。
あらゆる補助魔法に加えて、常にヒールがかかっているようなものだ。
今のルークスとクロガネは、即死以外でやられることはない。
魔法自体はソフィーネというより神杖・ミストルカースの力だが、それを維持できるのはソフィーネの力だ。
今でこそ神杖と称されているミストルカースだが、かつては呪いの杖だった。
並みの魔術士であれば、一分と持たずに全身の魔力が枯れて死ぬ。
名前の由来も、『命を吸う者』という意味だ。
そんな杖の力を、二十万とも三十万とも言われる膨大な武芸者の中の頂点に立ったふたりが一身に受ける。
ミストルカースに勝るとも劣らない神器をあつかい、ゼフィロスにかかる。
だがゼフィロスの、形よい唇から漏れたのは――。
『まだまだですねぇ』
次の瞬間ゼフィロスは、ルークスとクロガネの背後に回っていた。
ふたりの体から鮮血が噴き出す。
一八〇倍の回復力でも間に合わない超高速の斬撃が、ふたりの体には入れられていた。
治癒も間に合わないままふたりは倒れた。
「ひっ……!」
怯えたロッカが弓を放つ。
神器たる弓から放たれる矢は、音の速さでゼフィロスに向かう!!
だがゼフィロスは――。
それを素手で掴んでしまった。
一閃、二閃と剣を振る。
鋭く飛んだ剣圧が、ふたりの少女を薙ぎ払った。
「ふぅー」
ゼフィロスは息を吐く。
虫の息だった騎士たちが、紅い炎に包まれた。
『戦闘時間、三分二十一秒――ですね』
『グリフォンベール家の四神将と十二騎士が、五分と持たない、だと……?!』
『確かに普通の人間に比べれば、そこそこ強い部類ではございましたね。
特に聖剣を持っていた金髪の彼は、鍛えあげればモノになりそうでした』
ゼフィロスは指を鳴らした。
景色にピシリとヒビが入って割れた。
ダンソン、ゼフィロスの立ち位置に、四神将と十二騎士の座っている位置も変わった。
戦いで乱れていたはずの隊列が、戦う直前のものへと変化していた。
体の傷も消えている。
完全に五体満足だ。
『なっ……?!』
『これは……?!』
『我々は確かに、切られたはずで……』
『わたしの名前はシェイド=ゼフィロス。
好きなことは強者を切ること。得意なことは強者を切ること。生きる意味は強者を切ること。
その目的は切ることであり、殺すことではございません』
ダンソンが尋ねる。
『つまり今のは、幻覚であったと……?』
『近いものではございますね』
四神将も十二騎士も、いぶかしむ。
つい先刻の痛みも怒りも恐怖も、ほとんどリアルのものだった。
先刻の戦いが現実で、今この瞬間こそが幻想――と言われたほうが、まだ納得できてしまうほどだ。
『
領域内の全員を、箱庭世界に飛ばします。
そこでわたくしに切られたかたは、わたくしが死ねと思えば死にます。
死なずともよいと思えば死にません。クトゥフフフ』
『それで……どうなのだ。我らの依頼は、受けるのか、受けないのか』
『達成できるかどうかはわかりませんが、全力は尽くしましょう。ただしいくつか、条件がございます』
『条件、とは……?』
『その一、作戦中は、わたくしの指示に従うこと。
その二、依頼が終わったら、そこにいる四神将の方々と、もう一度わたくしを戦わせること』
『ひとつ目はともかく、ふたつ目は……?』
『今はまだ未熟な彼らですが、磨けば伸びる気がしましてねぇ。クトゥフフフ』
ゼフィロスは、心の底から楽しげに笑った。
『この条件を破った場合
契約は反故されたものとみなされますのでご注意を。クトゥフフフ』
矛盾の妖魔、シェイド=ゼフィロス。
好きなことは強者を切ること。得意なことは強者を切ること。生きる意味は強者を切ること。
その言葉に偽りはない。
作者の別作品であるらぶえっちハーレム
「物理さんで無双してたらモテモテになりました」の
コミカライズが発売されました。
http://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF00000033010000_68/
この作品と同じような勢いでヤッている作品のコミカライズです。
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