規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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使者がきた

 訓練が終わり、オレたちは村に寄った。

 村の人たちは、そろって荷物をまとめてる。

 

「避難を始めている方々を見ておりますと、戦いの近さを感じるな」

「だねぇ」

 

 リリーナのつぶやきに、オレはうなずく。

 近くにいた村長と村人たちに、父さんが言った。

 

「迷惑をかけるのぅ」

「いえいえ、いいんですよ」

 

「元よりこの土地は、魔物を倒せるレリクスさまがいらっしゃらなければ住めない土地でした」

「レリクスさまがリリーナさまを呼んでくださらなければ、毎年訪れる病にも勝てませんでした」

「蓄えがなく、この村で死ぬしかなかった当時のわたしたちとは違います」

「それに……」

 

 そこにいた村人たちは、異口同音に言い切った。

 

「「「レリクスさまが負けるはずはないかと」」」

 

 抜群の信頼であった。

 実際オレも、父さんが負ける姿は想像できない。

 

 でも世の中は広い。

 父さんが倒した『魔竜』も、父さんひとりでは勝てなかった相手だ。

 

 そんなのを操れる力が、ミーユの父母のような腐った人間にあるとは思えない。

 しかし油断は禁物だ。

 『魔竜』ほどではないにしろ、油断をしたら危うい強敵がくる可能性はある。

 

 そんな感じで村の人たちも避難させると、屋敷に男が現れた。

 庭にワイバーンをおろし、恭しく頭をさげる。

 

「初めまして、レリクス=カーティス様。わたしは王国よりの使者。ビルス=マトソンと申します」

「うむ」

 

 父さんは、応接間へと案内した。

 メイドのメイさんがお茶をだす。

 

「用件の予想はついておるが……念のために聞いておこう」

「訴状です。グリフォンベール家から、王国の法務部に提出されました」

「うむ」

 

 父さんは、だされた手紙を受け取った。

 じっくりと眺める。

 

「グリフォンベール家の長男を騙り、学園にもぐり込んでいた魔女。

 それがワシの家にいるという情報が入った。

 偽りであるとは思うが、念のために調査をさせてほしい……か」

 

「はい」

「その件については、端的に伝えておいてくれ」

 

 父さんは言った。

 

「アホウ」

 

 ビリィ、ビリッ! 手紙を畳んで二回破ると、封筒の中に戻して返した。

 

「国法で言いますと……犯罪容疑者情報の隠匿は、国に庇護される権利を失います。

 調査を受諾すれば、裁判以上の手続きをグリフォンベール家が取ることはできません。

 しかし調査も拒否となりますと――」

 

「戦争をしかけられても、国は関与してくれない――じゃったかな?」

「おっしゃる通りでございます」

 

「そういうことなら万も承知じゃ。ワシも息子も、戦う覚悟はできておる」

「…………」

「どうした? お若いの」

 

「本当に、グリフォンベール家とコトを構えるおつもりなのですか……?」

「その通りじゃが?」

「失礼ですが……勝てるとお思いで?」

「思うか思わぬかで言えば、思っておるに決まってるじゃろうて」

 

「三公の一家との争いともなれば、その分家とも言える十二侯爵。

 十二侯爵が抱える百子爵。百子爵ともことを構えることになります。

 数で言えば、軽く見て八万単位となりますが……?」

 

「軍との戦いは心得ておる」

「…………」

 

 ビルスは顔を曇らせる。

 父さんを脅しているというよりは、単純に心配している感じだ。

 

「七英雄様と言えど、戦いに絶対はございませんし……」

「それはその通りでもあるの」

 

 父さんは、あっさりと認めた上で言った。

 

「しかしワシらは、ただ守りたいだけなのじゃ。

 頭を下げて守れるのなら下げる。腹を切って守れるのなら切る。

 しかしてこたびは、戦わなければ守れそうにない。となると戦うしかあるまいて」

 

「決意はお堅いようでございますね……」

「うむ」

 

 ビルスは、封筒を受け取った。

 

「それではしかと伝えておきます。アホウ――と」

「そうしてくれ」

 

 王国の使者であるビルスさんは帰還した。

 これにより、グリフォンベール家は大義名分を得る。

 

 同時にオレたちは、国の庇護を得ることができなくなった。

 グリフォンベール家が制裁的な侵略をしても、自力でなんとかするしかないのだ。

 だがあえて、ハッキリと言おう。

 

 

 上等だよ。クソ野郎。


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