規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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軍隊との戦い方――父さん編

 

 軍勢を前にした父さんが歩みでる。

 殺してくれと言わんばかりに悠長だ。

 

 戸惑っていた騎士が槍を構えた。

 後方の魔法部隊や弓隊も、詠唱を始めたり弓を構えたりした。

 騎兵たちも、父さんを囲む動きを見せ始めた。

 その直後。

 

 ギンッ!

 父さんが、騎士たちをにらんだっ!

 

『『『ひっ……』』』

 

 その一睨みで、騎士たちはすくんだ。

 情けないように見えるかもしれないが、父さんの圧は半端ない。

 後ろで見ているだけのオレでも、ビリビリとくるものを感じている。

 

 実際ににらまれている騎士としては、ドラゴンを前にした子ネズミの心境であろう。

 父さんは、睨みを解いてオレに言う。

 

「まずこのようにして、睨みで先頭にいる兵士の行動を封じる」

 

 いきなりおかしい気はするが、父さんだから仕方ない。

 次に父さんは、手近にあった岩に手をかけた。

 高さ二メートル超の、見るからに重く頑丈そうな岩だ。

 数字で言えば、一トンか二トンはあるだろう。

 

「フンッ」 

 

 父さんは、それを片手で持ちあげて――。

 

「ぬおおっ!」

 

 ぶん投げた。

 

「ハアッ!」

 

 火炎弾を放ち、投げた巨岩を跡形もなく消し去った。

 騎士たちは、完全にほうけていた。

 

『今の魔法……詠唱してたか……?』

『してねぇ……』

『つまり無詠唱で、あの威力……?』

 

『その気になれば、連発できる可能性も……?』

『だだだだ、だれだよ……。レリクス=カーティスは隠居している老人だから、かつての力はないとか言ったの……』

 

 前線の騎士が震える中で、父さんはオレを見て言った。

 

「とまぁこのように、自分の力を見せて戦意をくじくのも手じゃ」

 

 十万の軍勢を相手にしているというのに、ゴブリン一匹を相手にしているかのような気安さだった。

 

「そしてこのように、先頭の者たちの戦意をくじくとじゃな……」

『怯むなっ! 怯むなあぁ!!

 我らは偉大なる三公・グリフォンベール家直属の十二爵が一爵・アドニア=レール=シュタインの騎士であるぞっ?!』

 

「あのように、部隊の(おさ)が激励をかける」

 

 父さんは、敵の指揮官を指差した。

 そして次の瞬間に――。

 

 消えた。

 

 そう錯覚させるほどのスピードで動いた。

 超スピードで敵の軍勢の中に飛び込み、激励をかけていた隊長の背後に周り、首を打って意識を奪った。

 隊長が離脱した時に指示をだす副官のみぞおちも剣の鞘で突く。

 ふたりを担いで再び消える。

 部隊から離れたところにふたりをおろし、騎士たちに言う。

 

「シュタイン家の者に告ぐ!

 貴公らの隊長は、レリクス=カーティスが捉えた!

 シュタイン家の者たちは、構えを解いて踵を返せ!!」

 

 威圧を受けた騎士たちは、構えを解いた。

 先鋒を務めるシュタイン家四〇〇〇の騎士と、二〇〇〇の魔術士が無力化された瞬間である。

 

「とまぁこのように、敵を容易く見渡せる広き土地では、指揮官を見つけるのも捉えるのも容易い。

 ゆえに短き時間でもって、無数の兵を無力化できるわけじゃな」

 

 うん、おかしい。

 

 矛盾はない。

 実行できれば効果的な戦術だとも思う。

 そして父さんが実際にやっているため、実行不可能な戦術とも言えない。

 

 でも、おかしい。

 世間一般の感覚で言えば、その指揮官を倒すためにすごい手間と時間をかけて戦闘っていう行為をするはずじゃないのっ?!

 なんで一連の流れが、『水を飲めば水分を補給できるのじゃ』みたいな感じで進められてるのっ?!

 指揮官を捕縛されたシュタイン家はもちろんのこと、シュタイン家が崩れた時のために後方に控えていた軍の人たちも唖然としてるよっ?!?!?!

 

 

 まぁオレもできたけど。

 

 

 相手が反応できないスピードで動いて敵陣に潜り込む。

 指揮官そのものが強いケースや、強力な護衛が左右に控えていることもあるが、アゴに拳を叩き込んだり、みぞおちを殴ったりすれば気絶するので問題はない。

 

 魔法使いの攻撃も、基本的には詠唱が入る。

 オレは学園で勉強もした。

 詠唱の内容で、どんな魔法なのかは大体わかる。

 

 詠唱が始まった時点で相手を倒すか、詠唱されている隙に魔法の有効射程から離脱すれば問題はない。

 指揮官のみぞおちに拳を入れて意識を落とす。

 敵の指揮官ゲットだぜっ!

 そして別の指揮官を捕まえた父さんと合流し、本陣に戻る。

 

「殺してはおらぬな?」

「はい」

「大切な存在を失った者の復讐は、恐ろしいからのぅ。

 殺さずに済むなら、それに越したことはない」

 

 父さんの言葉には、実感がこもっていた。

 復讐に囚われた存在と、過去に接したことがあるかのような口振りだった。

 

 実際、その通りでもある。

 遺恨を残さないようにするなら、中途半端はよろしくない。

 殺さないと決めたなら、殺さないようにするべきだ。

 逆に殺すと決めたなら――。

 

 

 歴史に残る虐殺を。

 

 

 考えが、殺気となって漏れてしまった。

 オレたちを阻もうとしていた騎士たちが怯む。

 それを見たオレは、『やっぱ殺さないほうがいいよな』と思った。

 殺気や敵意を向け続けてくる相手ならともかく、そうじゃない人を殺すのは気が引ける。

 

 指揮官を本陣において、再び敵陣に突っ込んだ。

 敵が前にでてくるたびに突っ込み、指揮官とか強いやつを捉えること三時間。

 捉えたり倒したりした指揮官や強いやつの数は五百に届き、軍勢は六万が無力化されてる。

 

 こちらの被害はゼロである。

 ひとりも離脱していないという意味でゼロならば、かすり傷を負っていないという意味でもゼロだ。

 開始三時間での戦果としては、異様なものといってよい。

 あとは本隊であるグリフォンベール家の部隊と、直属である十二爵の部隊だけだ。

 先鋒のやつは先鋒ということで倒したが、残り十一爵はそのまま残っている。


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