規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。イカと戦う。

 砂浜に行くと、イカの群れが穴を掘ってた。

 

 なにを言われているのかわからないかもしれないが、そのままの意味である。

 直径三〇センチぐらいのイカの群れが、あちこちに穴を掘ってる。

 若干デフォロメされているかのような、可愛らしいフォルムが特徴だ。

 

 モンスターの(しるし)である宝石は、イカのトレードマークである三角な頭の中央にあった。

 

「砂浜イカ――ビーチ・スクイッドか」

「知ってるんですか? 父さん」

 

「名前の通り、砂浜(ビーチ)に住んでいるイカ(スクイッド)じゃ。

 時期になると上陸し、砂や土の中にタマゴを産むのじゃ。

 長期に渡ってほうっておくと砂浜(ビーチ)が削られ、陸地の面積が減ってしまう」

 

「それなら、倒したほうがいいですか?」

「危険なモンスターを、用心棒にしていることもあるしの」

 

 父さんは、小さくうなずきつぶやいた。

 

「しかしこの地方には、いないはずのモンスターなんじゃがのぅ……」

 

 不穏な話も聞こえたが、剣を構える。

 ちょっと可哀想な気もするが、間引かなければ仕方ない。

 

「できるだけ経験も積みたいので、父さんはサポートメインでお願いします」

「うむ」

「サンダーソード!」

 

 オレは魔法を剣に走らせ、タンと地を蹴り踊りだす。

 

「せやあっ!」

 

 剣を振るえば雷撃が飛びだし、イカたちを焼いた。

 

〈〈〈ぴぎぃー!〉〉〉

 

 イカの半数が海へと逃げて、もう半数が怒りに震えた。

 最前列の一体が触腕を伸ばす。

 身をのけぞって回避した。

 別の二体がスミを吐く。

 

(ん………。)

 

 マリナが右手をツイッと伸ばして、イカのスミを凍らせた。

 が――。

 氷の壁をぶち破った砲弾のごとき影が、オレの腹部にぶち当たるっ!

 

「ごほっ!」

 

 みぞおちに鋭いのが入り、オレはちょっと痛かった。

 足元を見れば、どろりととろけた球体のようなものが転がっていた。

 

(なんだこれ……?)

 

 と思う間もなく、追加の砲弾が飛んでくる。数は八つ。

 

「オラァ!!」

 

 オレはサンダーソードを振るいまくって、一瞬で撃ち落とす。

 

「ビーチスクイッドのタマゴじゃな。

 硬質のカラに覆われた自身のタマゴを、やつらは武器としても使う。

 自身の口から、砲弾のように放つのじゃ」

 

 なんてひどい生態だ。

 クワガタのメスは、エサが不足すると自分が産んだタマゴを食べることもある――って話を思いだす。

 

 心の中にちょっぴりあった可哀想って気持ちが、粉々になって吹き飛んだ。

 オレは気を取り直し、戦闘を再開した。

 

 鋭く伸びた触腕の先を切り裂いて、右の手からファイアーボールを放つ。

 一匹、二匹をイカ焼きにして、三匹目には雷を落とす。

 

 イカスミがくればジャンプで回避し、戦いながらも視野は広げる。

 飛んできたタマゴは、身を翻して回避した。

 

 砂の足場は戦いにくいものがあったが、なんとかなった。

 マリナのほうはシンプルに、イカを氷漬けにしている。

 

 海に住んでいるイカは体表が塩水で覆われているせいか、ちょっと凍りにくかった。

 マリナは、それがちょっぴり不満そうであった。

 

 イカは五、六〇体はいたと思うが、残り一〇体になったら逃げた。

 オレはひとまず、剣をしまった。

 

 その時だった。

 不意に背後に怖気を感じた。

 

「レイン!!!」

 

 父さんの声もして、オレは反射で地を蹴り跳ねた。

 

 どごぉんっ!

 

 オレの立っていた足場に激しい衝撃が入り、砂色の砂が間欠泉のように舞いあがった。

 視線の先には――――。

 

 なにもない。

 ただの景色が広がっている。

 それでもオレは、とりあえず叫んだ。

 

「ライトニング!」

 

 虚空を走る雷撃は、しかし途中でなにかに当たった。

 

〈PiGiiiiiiiiiii!!!〉

 

 悲鳴があがり、見えない脅威が振るわれる。

 オレは空気の流れでそれを感じて、右に左に回避した。

 

 やがてそいつが、姿を現す。

 それは巨大なクラーケン。

 二階建ての一軒家ぐらいの高さを持った、とても巨大なイカである。

 マリナを守っていた父さんが、マリナといっしょにやってきて言った。

 

「大王スクイッドじゃな」

「知っているんですか? 父さん」

「名前の通りの、大王なイカ(スクイッド)じゃ。

 ビーチ・スクイッドが雇うモンスターとしては、比較的ポピュラーな種でもある」

 

「そうなのですか……」

「しかし擬態化も使える個体は、見るのも聞くのも初めてじゃのぅ……」

 

 となるとけっこう、レアで危険なモンスターってことか。

 オレは鑑定を使用してみた。

 

 

 名前 なし

 種族 大王スクイッド

 レベル 2270

 

 HP  58920/58920

 MP    0/0

 筋力  42880

 耐久  53580

 敏捷  12200

 魔力   0

 

 

 安全に倒そうと思えば騎士が一〇人ぐらい必要な、ホーンボア(ツノイノシシ)はこうである。

 

 

 HP  320/320

 MP   0/0

 筋力  276

 耐久  288

 敏捷  220

 魔力   0

 

 

 父さんですら知らないスキルを持っている、変異種なだけはある。

 常識で言えば、かなりヤバいモンスターだ。

 でも父さんに鍛えられたオレのステータスは、こんな感じだ。

 

 

 レベル 10240

 

 HP  107040/107040

 MP   84094/84294

 筋力   93660

 耐久   90308

 敏捷   91901

 魔力   93221

 

 

 わりと勝てそうな感じで、ちょっとばかり気がゆるむ。

 それでも一応、剣を構えた。

 

 こちらを警戒しているイカは、触手を動かし威嚇している。

 その姿たるや、迂闊に近づいたものをすべて絡め捕りそうな雰囲気がある。

 

 女の子とか捕まえて、うにょうにょしそうな雰囲気がある。

 女の子とか、捕まえて……。

 

 オレはちょっぴり変な気分で、マリナのほうを見やってしまった。

 マリナはオレをまっすぐに見つめて、まっすぐに言った。

 

「わたし、捕まったほうがいいの?」

「なに言ってんの?!」

「レインが、期待しているような気がした」

 

 

 当たってる!

 

 

 でもまさか、正直に言うわけにはいかない。

 ここはウソになってしまうが、ハッキリ否定しておこう。

 

「そんなことはないアルよ!」

 

 しかし自分にウソはつけず、似非中国人みたいな本音がでてきた。

 やましい気持ちは、人種も変えるっ……!

 

「ばか………。」

 

 頬を染めて言ったマリナは、律儀に捕まってくれた。

 守りたい、この眼福。

 

「なにをやっとるんじゃ?!」

 

 父さんは目を見開いて、自身の剣に手をかけた。

 

「落ち着いてください、父さん!」

 

 変なテンションになっていたオレは、父さんを抑えて叫んでしまった。

 

 

「あのイカは味方です!!!」

 

 

「おヌシはなにを言っているんじゃ?!?!?!

「邪魔をするなら、父さんだろうと容赦はしません!!」

「ワシは……育て方を誤ったのか…………?」

「育て方の問題ではありません!

 オレが生来所得していた、魂の問題です!!」

 

 オレはガチで剣を構えた。

 マリナは致命的なダメージは食らわないよう、器用に触手を凍らせていた。

 

 しかしながら細い触手を、首にプスリと刺されてしまった。

 痺れ毒だったのだろう。ぐったりとしてしまった。

 巨大なイカが口をあけ、マリナを飲み込もうとした。

 

 

「捕食は許さんっ!!!」

 

 

 オレは素早く自身の剣に、雷を流し込んだ。

 一直線に地を蹴って、イカの触手をぶった切る。

 マリナをしっかり抱きとめて、荒ぶるイカにライトニングファイア。

 その一撃で、イカはあっさり黒焦げになった。

 

「一撃……じゃと?」

「ライトニングファイアは、海水をよく伝う雷の性質に、体を焼き焦がす炎の性質も加わっている魔法ですからね。海の生き物にとっては、クリティカルだったんだと思います」

「それにしても、一撃で倒せるのはすごいのぅ」

 

 父さんは、しきりに感心してくれた。

 

「とりあえず邪魔者は排除したが、どうやって持って帰るんじゃ?」

「そこはマリナの力を借ります」

 

 オレは、オレにお姫さま抱っこされているマリナを見やった。

 体は麻痺したマリナだが、魔法自体は使えるらしい。

 小さくうなずき、海に向かって指を伸ばした。

 

「ん………。」

 

 すこしキツそうにしながらも、海の水を凍らせる。

 あるていど凍らせて、オレのアイテムボックスに入れる算段である。

 

「なるほどのぅ」

 

 父さんは、心静かにうなずいた。

 一〇分か二〇分が経って、かなりの量の海水が凍った。

 

「うむ」

 

 父さんが、なぜかおもむろに近づいた。

 そして――。

 

「ふうぅんっ!!」

 

 一軒家ほどはある塊を、たったひとりで持ちあげたっ!!

 

「えっ、ちょっ、なにやってるんですか?!」

「海の水を凍らせて、ワシに運ばせる計画ではなかったのか?」

 

「違います!

 っていうかそのサイズの氷塊を持って運べるだとか、さすがに想定していませんでした!

 空間魔法のアイテムボックスで持って帰る予定だったんです!」

 

「そうじゃったのか」

 

 うなずいた父さんは、テレビのリモコンを置くかのような気安さで、一軒家サイズの氷塊をおろした。

 ちなみにおさらいしておきますが、父さんのステータスはこれです。

 

 

 レベル 48200

 

 HP  530000/530000

 MP  397500/397500

 筋力   463750

 耐久   430625

 敏捷   450500

 魔力   457125

 

 

 マジ半端ない。

 

 


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