規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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マリナたちの戦い

 戦いが始まった。

 マリナが剣士ルークス、リンが槍使いクロガネ、ミリリが弓師のロッカと対峙する。

 金髪の剣士ルークスは、陣容を見て思う。

 

(頭に羽がついている女とリリーナ様は、ミーユ様のおそばで護衛――か)

 

 しかし考えている隙は、ルークスにはなかった。

 マリナが無言で突っ込んでくる。

 両の手から伸びるは、氷の剣。

 ルークスは、自身の剣を縦にして受ける。

 ギリィンッ! と激しい音が鳴る。

 蒼い火花が、美しく散った。

 

(これは……)

(………。)

 

 ルークスとマリナ。互いが互いに舌を巻く。

 今回ルークスが持っているのは、神器ではない。

 神器のほうは、レリクスを抑える十二騎士のひとりに貸してる。

 

 それでも今回の装備は、かなりの業物である。

 特殊な力がないだけで、単純な強度と切れ味は神器に近い力を持っている。

 マリナが作りだした氷の剣は、そんな剣とほぼ互角。

 

(それを無詠唱で作りだすとは……、さすがはレリクス殿のご子息の婚約者だ)

 

 逆にマリナからすると。

 

(かたい………。)

 

 ザッと下がって距離を取り、氷のツララを八本だした。

 一気に放つ。

 独特の軌道を描いて進むツララを、ルークスは剣技で落とす。

 マリナはわずかに顔をしかめた。

 タメなしで放つことのできる魔法では、ルークスは倒せない。

 かと言って、タメるための時間があるのかと言うと――。

 

 ルークスが突っ込んできた。

 マリナは剣で迎撃する。

 二刀の剣をクロスさせて切りおろしを受ける。ルークス、素早く剣を引く。

 横薙ぎの斬撃。

 

(はやい………!)

 

 リリーナの加護を受けているマリナでも、そう思える速度。

 かろうじてさばき、剣を振る。ルークスは、後ろに下がった――かと思いきや、すぐさま剣を振ってくる。

 

 単純なステータスで言えば、マリナはルークスよりも強い。

 しかしルークスの洗練された動きは、究極に無駄がない。

 

 マリナとて、素人ではない。

 幼いころから、あのレリクスと訓練をしている。

 そこらの二流が相手なら、剣術だけでも圧倒できる。

 

 それでも適正は魔術士だ。二流には勝てても一流が相手だと厳しい。

 適性が魔術士であるのに、剣士のルークスと接近戦で渡り合えているのがおかしいとも言える。

 が――。

 

(………。)

 

 マリナは、リンとミリリのほうも見る。

 クロガネの、三段突きをさばくリン。しかし槍の穂先を器用に突きあげられてしまった。

 槍が浮く。致命的な隙が生まれる。

 

 だがクロガネは動かない。

 というよりも、動けない。

 ナイフを構えているカレンが、ジトォ……と自分を見ている。

 もしも迂闊に踏み込めば、リンを突けても自分が刺される。

 カレンの攻撃を回避しながら、リンを突破できるルートは――。

 

 などを模索させるほど、リンも甘い戦士ではない。

 相手がコンマ一秒も逡巡すれば、体勢を立て直すことができる。

 本来であればこういう時に相手を矢で射るロッカは、ミリリに翻弄されていた。

 ミリリは小さな体で円を描くようにして動き、癒し手のソフィーネを狙っている。

 

(杖さえ取れれば、なんとかなりますにゃ……!)

 

 それを守るのがロッカだ。

 弓矢を構え、矢を放つ。

 しかし狙いが定まらない。

 ミリリの動きが素早い上に、砂や泥でかく乱してくる。

 

 一方のミリリも、楽な戦いではなかった。

 必死にかく乱できてはいるが、攻めるための隙が見えない。

 攻め込もうと思っても、ロッカの矢が飛んでくる。

 

 カカカカッ!

 トンファーで弾く。 

 

(はにゃあっ……!)

 

 ダメージはないが、矢の衝撃は重い。

 チャージをかけることはできない。

 第二陣が飛んでくる。

 

「はにゃああっ!!!」

 

 横に跳び、かろうじて回避する。

 ミリリに回避された矢は、背後の木々を貫いた。

 直撃すれば、ただでは済まない。

 

 一見すると互角の戦い。

 だが実際には、互角であればマリナたちが勝利する。

 それは支援者の差だ。

 

「……」

(はっ……、あっ……!)

 

 涼しい顔のリリーナに対し、ルークスサイドの癒し手、ソフィーネは、息切れを始めている。

 

 この世界における支援魔法や回復魔法は、かなり高度な術式だ。常人が使うのは厳しい。

 癒し手のソフィーネも、呪杖の性質も合わせ持つ神器・ミストルテインを使用している。

 それでようやく、三人分の支援と回復をできている。

 ただ杖を構えているだけで、ブリザードの中に置かれているかのような消耗がある。

 

 一方のリリーナは、完全に素だ。

 その気になれば紅茶もすすえるであろうほどの余裕を見せてる。

 それでいて、使用している術式はソフィーネよりも遥かに高度。

 ソフィーネの術式がせいぜい二千なのに対し、三万近く引きあげている。

 その数値そのものもおかしいが、それでリンたちが崩壊しないのもおかしい。

 

 身体能力を引きあげる魔法は、使われている人間にも負担がかかる。

 限界を超える力をだす以上、それは当然とも言える。

 リリーナは、それによって壊れるはずの肉体を、治癒の魔法でカバーしている。

 それこそが、魔竜殺しの七英雄の力だ。

 

(このままではまずいな……)

 

 劣勢を察したルークスが叫ぶ。

 

「クロガネ! ロッカ! ソフィーネ! オーダーをかけるぞ!!」




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イラストはどれも愛らしいですが、個人的には天使の羽が生えているマリナと、笑顔のかわいいミーユがお気に入りです。
レリクス父さんのカッコいいイラストもあります。

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