規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
無能なるダンソンのもとに、ルークスら四神将が転送された。
「これは……」
「ダンソン様……?」
「フン、きたか」
ダンソンは、鼻を鳴らすとレリクスたちのほうを見た。
「見ての通りだ。あの老いぼれは、十六人を相手に苦戦しておる。
貴様らが加われば、勝利も容易にできるだろう」
「……」
その発言に、ルークスたちは眉をしかめる。
確かに一見するならば、レリクスは苦戦している。
しかし一線級の実力者が見れば、手加減があることは明白だ。
(あの十六人を相手に、『手加減』をできる余裕があるとは……)
というのが、ルークスの率直な感想であった。
一方で思った。
(それでも我らが加われば、あるいは……?)
戦士としても、たぎるものがそこにはあった。
「ゆくぞっ!」
ルークスは走る。
クロガネ、ロッカ、ソフィーネも続いた。
「苦労をかけたな! イドルフ!」
自らの聖剣を貸していた部下に声をかけ、自身の剣を投げ渡す。
代わりに聖剣を受け取った。
レリクスに切りかかる。
マリナとの戦いにおける影響はない。
体力は消費しているが、気力が満ちに満ちている。
自身の人生の中で、過去最高の状態と言えるかもしれない。
勝利とは言わずとも、善戦程度は――。
ルークスは、そう考えた。
一方のレリクスも、ルークスの雰囲気にただならぬものを感じた。
ほとんど半ば無意識で、手加減を切り替えた。
虫も殺さぬようなやさしさでしていた手加減を、虫なら死んでしまうかもしれない手加減に変えた。
デコピンを入れる。
バチイィィィィィィンッ!
その一発で、ルークスは吹き飛んだ。
眉間にロケットでも取りつけられたかのように頭部だけが後ろに下がる。
その勢いについていけない腹部や下半身が置き去りにされて、頭が地面に叩きつけられる。
ひとりバックドロップのような姿勢だ。
ガオンと激しい音が鳴り、地面にクレーターができた。
衝撃の余波は周囲の地面にも伝わった。
蜘蛛の巣状のヒビ割れが生まれ、地割れも三ヵ所で起こる。
「ヒ、ヒール! ヒール! ヒール!」
癒し手のソフィーネが、必死にヒールを連打した。
致死はまぬがれたものの、意識を戻すには至らない。
それを見て、ほかの騎士たちも理解した。
レリクスを相手に善戦できていたのは、レリクスの温情にすぎなかった。
ほんの少しでも本気をだせば、自分らなどは土くれに変わっていた。
これでなお戦う気など、起きてくれるはずがない。
レリクスの足止めをしていた十六騎士に、無事だった三神将。
戦いを見ていた三万の兵士たち全員が、武器を捨ててひれ伏した。
「きっ……貴様ら! なにをしている! 戦え! 戦わんか!!!」
「誰のロクを食み、今まで生きてきたと思っているのですか?!」
ダンソンとその妻が、青ざめて叫ぶ。
二十万の兵を用意した。
勝てるはずの戦いだった。
勝てるのは当たり前。重要なのは、どう勝つか。
それを考える戦いであった。
それが相手はたったのふたり。
たったのふたりに蹂躙されて、残った兵も武器を捨てた。
「やめましょう……父上」
ミーユということになっている少年が、馬をおりた。
「魔竜殺しの七英雄には、手をだしてはいけなかったのです。
この場においてはこうべを垂れて、虜囚の辱めを受けつつも、レリクス様の慈悲にすがるしかないかと」
「だっ……黙れ黙れ黙れえぇ!
三公のダンソンが、虜囚だと?! ふざけるでないわあぁ!!!」
しかし立ち向かうような勇気を、ダンソンは持ち合わせていない。
馬の手綱を強く引き、自身の馬を反転させた。
金にモノを言わせて買った、最高級の軍馬だ。
本気をだせば、三歩で十メートルは進む。
元々の距離を鑑みれば、追いつけるものではない。
が――。
「さすがにおヌシを、逃がすわけにはいくまいて」
レリクスは、わずか一歩で軍馬を追い越していた。
跳躍の名残でダンソンの手前に浮かび、自身の拳を叩き込む。
バゴオォンッ!!!
爆発音のような音が響いた。
ダンソンは落馬する。
どしゃっ、どしゃっ、どしゃっ。
豚のような音を響かせながら転がる。
顔は深く陥没し、殺虫剤を浴びたハエのようにぴくぴくと動くだけの存在になる。
「ワシと戦った騎士たちは、これを何発も受けていたのじゃがのぅ」
レリクスは、やれやれとつぶやいた。
そして同刻。
ゼフィロスはつぶやいた。
「四神将を引き戻すとは……自ら勝ち目を潰しましたか」
そこにレインの刃が迫る。
ゼフィロスは避けなかった。
ザン――と、胸元に刃が走る。
赤いコートにできた裂け目を撫でて、ゼフィロスは笑みを浮かべた。
「いやはや、すばらしいですねぇ……」
レインは左手を前につきだし、ファイアボルトを発射した。
それはゼフィロスの傷口に、的確に当たった。
ゼフィロスの背後の空間と空にヒビが入った。
「あなたの勝ちですよ。クトゥフフフ。
今の魔法の衝撃で、幻想世界の維持ができなくなってしまいました。
現実《外》で続けることも、可能ではありますが――」
ゼフィロスは、狂気めいた笑みを浮かべる。
怪しく光る怪しい瞳で、にやりと言った。
「そうすると、『殺り合い』になってしまいますからねぇ」
それはレインを持ってして、怖気を走らせる狂気であった。
人間の形の奥に潜む、異形の怪物の姿を見せられたような気分だ。
形容しがたく名状しがたい、異質の空気。
それは勝てる勝てないを考える以前の、根源的な恐怖をレインに与えた。
しかしこの空間においては、完全なる勝利。
ゼフィロスは、細かい霧となって消えた。
空間も崩壊し、元いたところへと戻る。
「レインよ。無事に戻ったか」
「はい、父さん」
レリクスは、ダンソンとその妻、本物のミーユということになっている少年を縛りあげていた。
そして言う。
「勝敗は決した! 戦意なき者に手はあげん!
大人しく自領へと帰り、経緯を報告するがよい!!!」
「「「ははあっ!!!」」」
敵だった兵たちは、まるで部下のようにうなずいて去って行った。
――完全勝利!