規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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新たなる旅立ち

 リチャードとの邂逅があってから、さらに半月がすぎた。

 オレはマリナと訓練をしていた。

 場所はいつもの荒野だ。

 

 オレが右手、左手でワンツーパンチを放つと、マリナは器用に受け流す。

 マリナ、カウンターに掌底。

 氷の魔法も携えたそれは、オレを軽く吹き飛ばす。

 

 魔力の障壁も張っていた影響でダメージは最小限だが、なかなかの衝撃だ。

 マリナが周囲にツララを浮かばせ、一直線に放つ。

 

 オレが火炎で撃墜すると、蒸気が舞った。

 視界がホワイトアウトする。

 オレは目を閉じ気配を探った。

 円を描くように動くマリナの気配と、飛んでくるツララ。

 そして声。

 

「………アブソリュート。」

 

 水蒸気が凍り、オレを一気に閉じ込め始める!!

 しかしオレは冷静に、地面をえぐった。

 火炎魔法で器用にえぐり、マリナの足元にまで穴を掘る。

 マリナはそれに気づいていない。凍りつく蒸気のほうを見ている。

 

 ツウッ。

 オレは完全に無防備な太ももを、指でなぞった。

 

「あっ………。」

 

 マリナがびくっと小さく震えた。

 カクッと腰砕けになり尻餅をつく。

 

「オレの勝ちだな」

「うん………♪」

 

 オレは土からでるついでに、マリナを後ろから抱きしめた。

 敗北を喫したマリナだが、そこはかとなく満足そうでもあった。

 オレのマリナは、『全力をだした上でオレに負けて組み伏せられる』みたいなシチュエーションを好む傾向がある。

 ちょっとえっちで、エムっ気があるのがマリナだ。 

 

「地形が変わっているのですが……」

「マリナさまの魔法の余波で、ミリリの体も冷たいですにゃぁ……」

「レインばっかり目立つけど、マリナもけっこうすごいよな……」

「ぜなぁ……」

 

 リンやミリリにミーユやカレンも、そんなふうに言っていた。

 だがリリーナは、言った。

 

「まぁしかし、準備運動といったところだろうな」

 

 事実であった。

 

「それではゆくぞ。レイン」

「はい」

 

 父さんに、礼をして構える。

 自然体の父さんに対し、オレは一気に飛びかかる。

 地を蹴った反動で地面がえぐれた。

 

 二十メートル近くあった距離は、コンマ一秒にも満たない合間にゼロへと変わった。

 木剣を振るう。

 父さんは、わずかに身をかがめて回避する。

 

 懐に潜られかけるが、素早く下がる。

 牽制のファイアボルト。

 牽制と言いつつ、二三〇〇度の炎雷だ。

 

 並大抵の戦士やモンスターなら、一瞬で焦げる。

 だが父さんは、その程度なら素手で弾く。

 弾かれた炎雷は横手の岩に直撃し、岩を真っ二つに割った。

 父さんによる、ファイアーボールのカウンター。

 

 オレは新技を使った。

 雷の自分を複製する『ダブル』

 猛烈な火球は、ダブルの腹部を素通りしていく。

 

 オレはさらに『ダブル』を増やした。

 ひとりのオレをふたりに増やし、ふたりのオレを四人に増やす。

 一体の分身と本体のオレで、二方向から切りかかる。

 残った二体の分身は、後方で待機だ。

 

「なるほどのぅ」

 

 分身の攻撃は、まともに食らえばもちろんのこと、ガードしても雷撃で痺れる。

 

「フンッ!」

 

 父さんは、睨むだけで分身を吹き飛ばした。

 

「えええっ?!」

 

 それはさすがに予想外。

 オレは反射で後ろに下がる。

 

 ビシッ。

 父さんが、親指で虚空を弾いた。

 空圧弾が飛びだしてくるっ!!

 

 オレは体をくるりとひねった。かろうじて回避する。

 背後の樹木が、べしりと折れる。

 展開していた分身二体を、父さんへと向かわせる。

 

「ムンッ!」

 

 父さんは、両手を伸ばして二体を飛ばした。

 オレは一気に前にでる。

 木剣に雷撃を流し、それを一気に横薙ぎに――。

 

 振る振りをして投げた。

 

「むっ!」

 

 さすがさすがの父さんも、これは普通に回避する。

 オレはサッとブレーキを踏むと、魔法の力を両手に込めた。

 

「焼き焦がせ――サンダーストーム!」

「ぬおおおおっ!!!」

 

 オレが放った渾身の魔法は、父さんを中心とした、半径三メートルの空間を雷撃で満たした。

 ミリリやカレンはもちろんのこと、マリナでも黒焦げになりかねない出力だ。

 周囲の地面も、ガラス状に溶けている。

 

 ただし父さんは無傷。

 

 多少の焦げ目はついてるが、逆に言えばそれだけだ。

 

「やるのぅ、レイン」

 

 とオレを褒めてる。

 そして手刀の寸止めが、オレの首筋に入った。

 

 (Aki)らかにおか(Oka)しい(Ki)がするAOKIだが、父さんなので仕方ない。英語で言えばTNSだ。

 AOKIでもTNSだ。

 父さんを超えるのは、まだまだ先でありそうだった。

 

 そんな感じで訓練を終えたら、転移用のドアを使って学園に行く。

 色々あったりはしたが、なんだかんだで無事に復学できている。

 学園からすると、オレとの関係が途絶えてしまうのは、かなり避けたい様子であったし。

 ただしミーユは、男装のままだ。

 

「スカートって、なんていうか、こう……。足とか……見えるし……」

 

 まぁ要するに、『露出度的に恥ずかしい』ということだ。

 かわいい。

 

「オレには毎日、もっと恥ずかしいところを見せているのにな」

「ううぅ~~~~~」

 

 オレがへらりと笑って言うと、真っ赤になってもだえた。

 それはとても愛らしいので、通学前に一発やった。

 

「じと………。」

 

 とマリナがうらやむジト目で見つめてきたので、前と後ろで三発やった。

 

 そして学園では、主に魔法の授業をやった。

 オレは教える側だった。

 ほかの生徒はもちろんのこと、先生たちも並んでいた。

 

『すごすぎて参考にならないですな……』

『基本的にはその通りですが、威力にこだわらないのであれば応用できる部分も……』

『確かに……』

 

 そんな感じでメモを取り、オレの技術を盗もうとしている。

 『すごい』と言っているのが先生で、偉そうにしているのがオレだ。

 

 そして魔法はイメージだ。

 オレがすごい魔法を実演してみせることで、ほかの生徒の魔法も強化されてる。

 そして夜がくれば――。

 

「………(ぬぎぬぎ。)」

 

 マリナがいそいそ服を脱ぐ。

 

 リンやミリリにリリーナやミーユも日によって休むのだが、マリナだけは皆勤賞だ。

 四つん這いから始まる日とか騎乗位から始まる日とか、正常位から始まる日などはあったりするが、しない日はない。

 今日は四つん這いの日であった。

 頬を染め、お尻と顔をこちらへ向ける。

 

(………ふりふり。)

 

 お尻を小さく振ったりもした。

 かわいい。

 

 そんな感じの日々であったが、これだけではよくない、とも感じていた。

 その気持ちに気づいたのは、父さんだった。

 組手が終わったところで言う。

 

「悩んでおるようじゃのぅ、我が息子レインよ」

「はい」

 

 オレはうなずいて言った。

 

「父さんとの訓練は、ためになっていると思います。

 ただオレは、もっといろんな相手と戦うべきではないかと思いまして」

「前回の戦いが、尾を引いておるようじゃのぅ」

 

 父さんは、自身のアゴをさすって言った。

 実際、その通りであった。

 ゼフィロスは強かった。

 かろうじて勝利はしたが、もう一度戦って勝てるかというと怪しい。

 それに――。

 

「ワシが相手では、殺意をもってかかる相手との訓練はできんしの」

 

 ということだ。

 やはり一回、どこかで武者修行的なことをしたい。

 

「そういうことなら、南東にあるブランドラ。その南にある竜人の里がよいじゃろう」

「二ヶ所、ですか」

「ブランドラは、単純に大きい。

 ギルドなどの施設があれば、犯罪者などもおる。

 荒事を求めるのであれば、ちょうどよい修行になる」

 

「懐かしい響きだな」

 

 リリーナは、フフフ……と笑った。

 

「ブランドラと言えば、異常増殖した八〇体のワイルドワイバーンを、レリクスがひとりで退治していた都市だ」

「ほうっておくと、都市が壊滅しかねなかったからのぅ」

 

 父さんの口調は軽かった。

 ひとつの都市を滅ぼしかねないワイバーンの群れが、ハエの大群と大差ないあつかいになっていた。

 

「まぁしかし、ブランドラなら手ごろではあろうな」

 

 リリーナもうなずいた。

 こうしてオレは、住み慣れた土地を一旦離れ、修行の旅にでることにした。

 ブランドラはよくわからないが、竜人の里というのは楽しみである。

 竜人の里の前に行くのは、ブランドラとかいう街になりそうなんだけど。


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