規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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屋敷の秘密

「ミーユ!!!」

 

 部屋に入ったオレが見たのは、異形に飲まれるミーユであった。

 上半身は完全に飲み込まれ、足だけがかろうじてでている。

 オレはタンッと床を蹴る。一直線に距離を詰め、ミーユの足を掴もうとした。

 

 が――遅い。

 ミーユはずるりと飲まれてしまった。

 

 オレは窓枠に手をかけて、ミーユを飲み込んだやつを見た。

 ヘドロ状の体に真っ暗な体を持ったそいつは、壁を伝って裏庭へと降りていく。

 

「ファイアボルト!!」

 

 オレは魔法をぶっ放す。

 

「クキャアアアアアアアアアア!!!」

 

 ヘドロのそいつは、悲鳴をあげてのけぞった。ミーユの体がわずかに見える。

 

「こおり………!」

 

 マリナが横から氷を伸ばし、ミーユの足を捕まえた。

 

「きてたのか」

「声………したから。」

 

 マリナは淡々とつぶやくと、ミーユの体を引っ張りあげた。

 ちなみにマリナがいたはずの部屋の壁には、大きな穴があいている。

 ドアを使わず、ぶち破ってきたわけだ。

 まぁしかし、マリナにはよくあることだ。

 オレはミーユを、壁を背にして座らせる。

 

「平気か? ミーユ」

「んっ……」

 

 ミーユはうっすら目をあけた。

 

「ちょっと……痺れてる」

「そうか……」

「レイン。」

 

 外を見ていたマリナが、外の一部を指差した。

 それはつい先刻に見た、古井戸であった。

 黒いナニカが、井戸の中に入っていくのが見えた。

 

「あそこが巣だったか……ファイアボルト!」

 

 オレは裏庭に炎を放つ。

 雑草を除去すると同時に、ぬかるんでいそうな庭を乾かす。

 うっとおしそうな雑草が生い茂っていた庭は、見事に乾いた大地となった。

 

「じゃあ行くか」

 

 ミーユを背負う。

 

「ごめん……」

「気にするなよ」

 

 マリナといっしょに窓から飛んだ。着地して井戸に近づく。

 警戒しつつ中を覗いた。

 一見すると真っ暗だ。なにもない。

 オレは指をパチッと鳴らし、炎をだした。

 小さな炎を、井戸の中へと落とす。

 

「深さは十五メートルぐらい。

 炎が燃え続けているところから、酸素はある。

 それでも特になにもないから、降りて調べるしかなさそう……か」

 

「んっ………!」

 

 マリナが巨大なツララを作った。井戸の真ん中に刺す。

 オレはツララを柱代わりに、井戸の中へ降りて行った。

 

 底につく。

 びちゃりと黒い泥がはね、ブーツとズボンの裾を汚した。

 オレは周囲を軽く見渡し、それに気づいた。

 

「扉……?」

 

 井戸の底にはあるはずのない、木製の扉があった。

 おりてきたミーユとマリナもそれに気がつく。

『異形』のための通り道なのか、下にはわずかな隙間がある。

 

 ドン!

 オレはドアを蹴り破った。その先にあったのは、真っ白な廊下。

 井戸や屋敷の汚さがウソのような、真っ白な廊下であった。

 特殊な鉱石でも使っているのか、蛍光灯でも使っているかのようにまぶしい。

 

「なんだこりゃ……」

 

 一段、二段と段差をのぼり、廊下を進んだ。

 新たな扉などが見つからないまま、見えてきたのは行き止まり。

 

「ふぅむ……」

 

 うなりながら歩みを進める。

 すると――。

 

「うわっ!」

 

 落とし穴。

 オレは咄嗟に剣を抜き、壁にグサリと突き立てた。

 ガリギャギャギャッ!

 剣の力で減速しながら、かろうじて止まる。

 

 剣を抜いて地面におりる。

 間の抜けた声がした。

 

「どうも~~~」

 

 白衣とメガネの女であった。黒い髪をショートポニーに束ね、右手には試験管を持っている。

 しかしその下半身は、巨大なるスライム。

 六畳一間ぐらいは完全に埋め尽くしそうな、黒いスライムで構成されていた。

 

 オレは素早く後ろに下がり、警戒の色を強めた。

 女がスライムにもぐった。下のほうからどぷりとでてくる。

 

「ワタシはスティアというもので、この屋敷の――」

「ファイアボルト!!」

「ほぎゃあああ!!!」

 

 スティアと名乗っていた女は、オレの雷撃を食らって倒れた。

 

「ちょ……なっ、なにをするデスかぁー!

 ワタシでなければ、完全に即死デシたよぉー?!」 

 

「得体の知れない謎の相手に接近されたら魔法だすだろ」

「なんという潔癖……!」

「そんなことより、みんなはどうした……?」

「そちらですぅ~~~」

 

 スティアがオレの背後を指差す。

 オレは奇襲を警戒しつつ、背後を見やった。

 リンにカレンにミリリにリリーナ。

 行方不明になっていた全員がいた。

 

 決まり悪げなリンとリリーナに、祈るように両手を重ね、尊敬の眼差しでオレを見るミリリ。

 そしてカレンは餌付けされてた。

 四つん這いでがふがふと、肉っぽいものを食べている。

 

「それでオマエは、なんなんだ……?」

「ワタシは、この屋敷の管理人で――ほぎゃあああ!!!」

 

 しゃべろうとしていたラティアだが、脳天にツララがぶち刺さった。

 マリナであった。

 オレを追って飛び降りてきたマリナが、とりあえず攻撃をしかけていた。

 

 ツララの攻撃でスティアが異形と知ったマリナは、氷の剣をだして突撃をかける。

 哀れスティアは、真っ二つになった。

 マリナがオレのほうにくる。

 

「へいき………?」

「平気……だけど」

「よかった………。」

 

 マリナは、ぎゅっ………と抱きついてきた。

 

「ですからですから、いきなりナニをするデスかぁー!」

「敵かと思った。」 

 

 そう言って、マリナはオレをチラと見た。

 オレがファイアボルトを使ったので、敵と対峙したものと考えた――ということか。

 結果的には早計だったが、合理的ではあるだろう。

 なにしろオレが攻撃したのだから。

 

「わたしが説明したほうがよさそうだな」

 

 リリーナが、ハアッとため息をついた。

 

「そこにいる女は、スティア=ハラス。この屋敷の地下にこもって、スライムの研究をしていたらしい」

「しかしデスねぇ~~~。

 長いこと、地下にもぐりすぎていたせいでねぇ~~~。

 体を壊してしまったのデスよぉ~~~」

 

「そこでスライムに自らを食わせ、同化できないかどうか試したらしい」

 

「実験は成功!

 見事スライムになったワタシは、病気知らずのケガ知らずになったデースよぉ~~~。

 今は毎日研究できて、幸せデスうぅ~~~~~」

 

 かなりマッドな経歴の持ち主であった。

 

「で……ミリリたちをさらった理由はなんだ?」

「基本的には幸せデスが、時々人が恋しくなるわけでして……。

 お話相手になっていただこうかと……」

 

「そういうことなら、普通にでてくればよかったじゃん」

「なななな、なんちゅー恐ろしいことを言うデスか!

 しょしょしょしょ、初対面の相手に、自ら名乗って交流を……?」

 

 スティアは、青くなって震えた。

 

「わたくしをここに連れてきた時は、その黒いスライムの陰に隠れておりました」

 

 最初にさらわれたリンが、そんな風に補足した。

 いわゆるひとつの、コミュ障であるらしかった。

 

「アタシのこともさらったりしたけど、お肉をくれたからいい人だぜなっ!」

 

 カレンはやっぱり餌付けされてた。

 怖がっていたミーユが、恐る恐る尋ねる。

 

「おばけじゃなかった……ってこと?」

「そうなりマースねぇ~~~」

「そっか……。えへへへへ、そっかぁ……」

 

 腰が抜けてしまったらしい。ミーユがぺたりと、あひる座りでへたれ込む。

 

「えへへへへ、あは、あは……」

 

 笑いかたがちょっとおかしい。

 気になったらしいマリナが、ミーユの隣にしゃがみ込む。

 すん………と鼻を動かして言った。

 

「もらした………?」

(ぴくぅ!!!)

 

 ミーユがすくんだ。

 

「ええっと、それは、その……」

(じぃ………。)

 

 誤魔化そうとしたミーユだが、マリナの目線には耐え切れなかった。

 元がいい子なせいもあり、正直に答えてしまう。

 

「すこし……」

「パンツ取ってきてやるか?」

「なななな、なに考えてるんだよ! ばかっ!」

 

 オレのミーユは、真っ赤になって怒鳴ってしまった。

 パンツどころかその下も舐めたりさわったりしている関係なのに、パンツは恥ずかしいらしい。

 

「それならいっしょに行くか?」

「うん……」

「そーいうことなら、屋敷までの通路をあけますデスよぉー」

 

 スティアが、道を開いた。真っ黒なスライムが、モーゼの滝のように割られる。

 奥にあるのは階段だ。オレはミーユといっしょに進もうとした――が。

 

(ぴと………。)

 

 マリナが背中にくっついてくる。

 

「おんぶ………。」 

 

 短いひと言ではあったものの、ちょっとしたヤキモチが感じられた。

 つい先刻に、オレがミーユをおんぶしたのを、羨ましいと思っているわけだ。

 かわいい。

 オレはマリナをおんぶした。

 

(むにゅうぅ……)

 

 豊満なバストが背中に当たった。マリナのマ乳は、今日も健在である。

 階段を登る。

 コツ、コツ、コツ。

 薄暗く湿っぽい階段は、なにもないが不気味だ。

 

「リンやカレンをさらったのはスライムだったけど、それはそれとして幽霊もでてきそうだよな、この屋敷」

「ヘヘヘ、ヘンなこと言うなよぉ! ばかあぁ!」

(ぎゅうぅ………!)

 

 ミーユが泣きそうな声で叫ぶと、マリナは(><)な顔でしがみついて抗議する。

 かわいい。

 行き止まりについた。オレは天井を押しあげる。

 屋敷の一階。ホールのような空間にでた。

 

「よし」

 

 ミーユの手を引き、引っ張りあげる。

 階段を登って廊下を渡り、荷物がある部屋へ向かった。

 その時だった。

 横手にイヤな気配を感じた。

 

 目を向ける。

 なにもない。単なる壁だ。

 しかしオレが警戒していると――。

 

「うぅ、らぁ、めえぇ、しいぃ~~~~~~~~~~」

 

 幽霊が現れた!

 

「ファイアボルト!」

 

 だけど燃やした!!!

 

 真っ白な幽霊は、跡形もなく消え去った!!!

 

「まさか本当にでるとはな」

 

 オレはやれやれとつぶやくと、ミーユのほうを見た。

 

「はわわ、あわ、はわ…………」

 

 オレのミーユは、哀れにも泣きじゃくってしまった。

 棒立ちのまま涙をこぼし、ズボンをぐっちょり濡らしてる。

 初めて出会った時に次ぐ、二回目のおもらしだ。

 

「わたしも………すこし。」

 

 マリナはオレにおぶさったまま、恥ずかしそうにつぶやいた。

 ぽんぽん。

 オレはミーユの肩を叩いて、にっこりと笑顔で励ました。

 

「ふえぇん……」

 

 それでも泣いてしまうミーユがとても愛らしかったので、部屋に連れ込んでヤッた。

 ズボンもパンツもひん剥いて、押し倒してヤッた。

 

「あっ、やだっ、ばかっ。なに考えてんだよっ! ばかああぁぁ!!!」

 

 とか言っていたミーユだが、なんだかんだでしっかりと堪能していた。

 

 オレの恋人たちは最高だぜ!


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