規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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とてもおかしいリリーナさん

 オレたちは、街に入った。

 石畳の通路に、石造りの建物。

 遠目に見える広場では噴水が美しい水をだして虹を作り、子どもがきゃっきゃと騒いでる。

 ゲームなんかで、『中世ヨーロッパ風』と言われそうな街並みだ。

 

「ままま、待て! 少年!」

 

 ロリ化しているリリーナが叫んだ。

 

「この街が初めてであるキミは、ここの地理も知らないだろう!

 だからわたしが案内してやる!

 名誉返上だ!」

 

 ロリ化しているリリーナは、つい先刻の、リリーナ基準では失態にあたる失態をカバーしようと必死であった。

 でも……。

 

「名誉を返上なさるのは、いけないと思います……にゃあ」

 

 素朴で純粋なミリリから、素朴で純粋な突っ込みを受けてしまった。

 

「はぐうぅ……!」

 

 失態の上塗りで名誉を返上してしまったリリーナ。

 しかし気を取り直し、オレの手を引く。

 

「いいからくるのだ! こちらにくるのだぁ!」

 

 やれやれだ。

 

  ◆

 

「このカドを曲がれば、冒険者ギルドがある!

 名前の通り、冒険者が集うギルドだな!

 武者修行的なことをしたいなら、ここで色んな依頼を受けてみるとよい!」

 

 リリーナは、満面の笑みで紹介していた。

 このギルドにまで案内をしたことで、自分の汚名は返上できたと言わんばかりの表情だ。

 そんな甘くはないと思うが、かわいいのでスルーしておく。

 

 リリーナの言う通り、カドを曲がった。

 大きな店が見えてくる。

 そこにあったのは――。

 

 

『レズビアン専用風俗店。ピンクサキュバス』

 

 

「……」

「………。」

「………………」

 

 メンバー全員の長い沈黙の末、オレは言った。

 

「ある意味、冒険者の店だな」

 

「ふあぁんっ!」

 

 リリーナは、涙目で叫んだ。

 店員と思わしき、かわいい女の子がでてくる。

 

「お客さんですかー?」

「ちちちちっ、違う! 違う! 断じて否だ! 断じて否だぁ!」

「では、このお店で働いてみたいとか……」

 

「それも違う! 断じて否だあぁ!

 どういうことだ?!

 この場所は、冒険者ギルドがあったのではないか?!」

 

「冒険者ギルドでしたら、広場の近くに引っ越しましたよー」

「そ、そうであったのか……」

「はいー」

 

 コホン。

 リリーナは、頬を赤くしつつも咳払い。

 

「それでは行こうか! 改めて!」

 

 リリーナは歩きだし、オレたちはついていく。

 ただオレの視線は、風俗の看板に残っていた。

 視線に気がついたマリナが、オレの腕にくっついたまま言った。

 

「レイン………。」

「なに?」

「きょうみ、あるの………? ふうぞく………。」

「そこはまぁ……。男として……すこし……」

「………。」

 

 マリナは無言で、オレの腕を組んだまま歩いた。

 

「性欲を持っているのも処理したいと考えるのも、男性に限ったことではございませんが……」

「リンさまっ?!」

 

 後ろでリンがぽつりとつぶやき、ミリリが驚いていた。

 

  ◆

 

「広場はこちらだ! わたしはとても知ってるぞ!

 この街には、それなりに長いこと滞在していた期間があるからな!

 引っ越しがなければ完璧だ!」

 

 リリーナが、三度目の正直と言わんばかりに先頭を歩いた。

 オレたちはついていく。

 その途中だった。

 

「教会の前で、なにか騒ぎが起きてるぜな」

「そのようだな……」

 

 リリーナが、視線でオレに確認を求めた。

 

「いいよ。行こう」

 

 群衆の合間を割って進む。

 野次馬をさえぎる聖騎士らしきヨロイを着込んだ人たちに止められた。

 

「神聖教会の幹部候補生である聖神官・ロリーアさまのお祈り中だ。

 これ以上先に進むことは許されん」

 

 横柄なる態度だが、言ってることはもっともだ。

 オレは黙って、ロリーアとかいう聖神官を見つめる。

 わずかに赤みのかかった黒髪のショートカットに、ミリリにも並びそうなほどの幼い顔立ち。

 それでいて、顔立ち相応に薄い胸。

 

「若いですね」

「武者治療の旅をなされているところだからな」

「武者治療?」

 

 ミーユが補足してくれた。

 

「教会がやる治療の旅だよ。

 幹部候補の若い神官が、国を回って色んな人を治療するんだ。

 幹部候補生の修行になる上、教会の威信が高まって寄付も集まる。

 三得の儀式だな」

 

「なるほど」

 

 会話している合間にも、少女の詠唱は続く。

 

「敬虔なる信徒なる我が、治癒の神なるあなたに祈る。

 邪知暴虐の魔霊の呪怨に侵されし哀れなる子羊に、一片の慈悲を!

 セイントール・ブレイクカース!」

 

「かなりのレベルの解呪魔法ですね……」

「ミリリの三倍はすごいと思います……にゃあ」

「使われている聖水も、高いものの匂いがするぜな……!」

 

 リンとミリリとカレンが、そんな風につぶやいた。

 カレンの感想はすこしズレている気もするが、カレンなので仕方ない。

 太陽をほうふつとさせる治癒の光が、倒れている冒険者を包む。

 が――。

 

「駄目っす……」

 

 聖神官・ロリーアは、首を左右に振った。

 

「神聖教会の幹部であるロリーアさまでも、眠りの呪いは解けませんか……」

「断言はできないっすけど、大司教さまか、三公の一家・ユニコンラードの四聖さまが、三日三晩をかけて解呪をがんばるぐらいでないと難しいと思うっす……」

 

「それほどの呪いなのですか……」

「体を蝕む効力が低い代わりに、解けにくさを優先している感じっすから……」

「このブランドラも、王国の中では有数の大都市ではありますが、大司教さまや三公の四聖さまにお越しいただくことはさすがに……」

「興味深い話だな」

 

 リリーナが、聖騎士のあいだをするりと抜けた。

 武道の動きと言うべきか、相手の隙を縫う歩行術だ。

 

「あなたは……どなたっすか?」

「通りすがりの冒険者だ」

 

 パチンッ。

 リリーナは、自身の指を軽く鳴らした。

 倒れている冒険者にまとわりついていた邪気が、その一瞬で吹き飛んだ。

 

「「「なっ……」」」

 

 ギルドの人やローリアに、聖騎士たちも驚いた。

 だがリリーナは、目覚めた冒険者に声をかける。

 

「キミに呪いをかけたのは、どのような存在だ?

 わたしたちは、修行の旅をしている者でな。

 強い相手の情報はほしい」

 

「どのような相手かは、よく覚えていないのですが……。

 場所は東の、『死霊が住まう荒廃都市・グラレコス』でした」

 

「グラレコスか」

「知っているの? リリーナ」

 

「名前の通り、死霊が住まう荒廃都市だ。

 人の死霊はもちろんのこと、虫の死霊や鳥の死霊に、クモやダンゴムシに、ナスやカボチャの死霊もいる」

 

 ふざけたような話だが、リリーナは真面目な顔で言っていた。

 ミーユなども、話は普通に聞いている。

 どうもこの世界では、虫や野菜が死霊になるのも普通らしい。

 

「浄化したりは、しないのですにゃあ?」

 

「グラレコスの死霊は、弱いものが多い。

 瘴気が強いグラレコスでないと、存在を保てないほどだ。

 放置しても害はないうえ、初心者の神官や冒険者にとってはほどよい経験を積める相手となる。

 だから放置されていたのだが……」

 

「厄介な呪いをかけるようなやつがいると、話は変わるってことか」

 

 オレが言うと、ギルドの人も言った。

 

「現状、眠りの呪いは一週間程度で解けるのですが、今後もそうであるという保証はございませんので……」

 

 もっともな懸念だ。

 

「次の目的地は決まりだな」

「そうだな、少年」

 

 オレたちは、踵を返して進もうとした。

 その時だ。

 

「ちょちょ、ちょっと待ってほしいっす!」

「教会幹部のローリアさんだっけ? なんの用?」

「自分も、連れて行ってほしいっす!」

「え?」

 

「あのややこしい呪いを一瞬で解呪できるなんて、すごいっす!

 弟子入りがしたいっす!

 せめてグラレコスでの動きは見たいっす!」

 

「……?」

 

 リリーナはほうけた。

 ローリアが、どうして自分をほめているのか。理解できていない顔だった。

 一秒、二秒、三秒と、考えてから気づく。

 

「少年!

 つい先刻の呪いを軽く解呪できるのは、すごいらしいぞ!

 即ちキミは、わたしを尊敬してもよいのだぞっ?!」

 

 その様子は、道案内をしようとしていた時の姿をほうふつとさせた。

 

 教会の大司教クラスの人物を連れてこないと解呪できない呪いを、あっさりと解呪する。

 リリーナにとってそれは、オレをギルドや広場に案内することよりも軽かった。

 

 しかもこのリリーナ、一度死んでる。

 死んだ状態から再生し、大幅に弱体化している。

 その状態でこれ。

 

 やはり父さんの知り合いは、スペックがおかしい。


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