規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
目的を決めたオレたちは、ミリリの土魔法で作られたボートに乗り込む。
「ふえっ?! ちょっ、なんっすか、これは!」
どぎまぎしているローリアを後部座席に押し込めて、オレという名のエンジンを点火する。
「ふひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ローリアの悲鳴を聞きながら、一直線に飛ばす。
死霊都市の場所は、街をでてから三時間ぐらいでわかった。
かなり遠くにあるというのに、空が薄暗い。
そして薄暗い空の下に、空よりも暗いドーム状の霧に包まれた街がある。
左右は森に囲まれて、いかにも死霊がでそうな空気だ。
「死霊都市の名前に恥じない瘴気だな……」
ボートを止めた。
隣のマリナが、くいっ………と袖を引いてくる。
オレに耳打ち。
(こしょこしょこしょ。)
「やっぱりおばけが怖いって?」
(こくこく。)
二回うなずいたマリナは、再び耳打ち。
(こしょこしょこしょ。)
「だから漏らさないよう、今のうちにおトイレに……って?」
(こく………。)
マリナは頬を赤く染め、恥ずかしそうにうなずいた。
「そういうことなら行ってきな」
(こく。)
マリナは静かにうなずいた。
(くい、くい。)
ミーユの袖を二回引き、無言で付き添いを頼む。
「うっ、うん……」
気持ちは同じだったらしい。
ミーユは恥ずかしそうにしながらも、マリナといっしょに森の茂みのほうに向かった。
カキィン!
念には念をというやつだろう。
マリナは氷の壁を作った。
あの壁の向こうでは、マリナとミーユが下着をおろし、おしっこをしているわけか……。
想像すると、変な気分になってくるな。
「ご主人さま……」
「どうした? ミリリ」
「よろしければ、おあちらのほうで……」
ミリリは、マリナたちがいるのとは逆の茂みを視線で示した。
「オレが付き添いで構わないなら、別にいいけど……」
オレはミリリと、森の茂みのほうへ向かった。
そこそこ大きな木の陰に隠れる。
ミリリは静かに下着をおろすと、大きな木の幹に、抱きつくかのようにしがみついた。
「どうぞです……にゃあ」
「えっ?」
「マリナさまとミーユさまが、お立ち去りになられたあと、昂ぶられている気配がございましたので……」
ふり……ふり……ふり。
ミリリは小さくかわいいお尻を、小さく振った。
ぴょこんと立った、猫の尻尾も小さくゆれる。
そして浮かべる表情は、瞳はうるんでほっぺも赤い、恥じらいの表情だ。
そのくせ幼いクレパスは、樹液で濡れてしずくを垂らす。
ありがたくいただいておきますか。
オレは静かにズボンをおろした。
◆
レインがミリリと始めているのと同刻。
マリナとミーユは、済ませていた。
「ん………。」
「……戻るか」
野外でするのは恥ずかしいのか、ふたりそろって頬を染めてる。
「ところでさぁ……マリナ」
「………?」
「ボクってさ、レインを好きでいてもいいの……?」
マリナは、即答した。
「レインを大好きになるのは、女の子なら当たり前。」
「えっ?」
「レインはちょっとえっちだけど、素敵でやさしくてカッコいい。
女の子なら、大好きになるのが当たり前。」
「確かにボクも好きだけど、当たり前って言うほどなのかなぁ……。
えっちなのも、『ちょっと』って感じじゃないし……。
好きだけどさ……。
えっちするのも、好きだけどさあぁ……!」
ミーユは顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込んでしまった。
「とにかくレインを大好きになるのは、女の子なら当たり前のこと。
だからミーユがレインを大好きなのも、女の子だから当たり前。」
「マリナがそう言ってくれるなら、ボクは……それで……」
「うん。」
ふたりは、手を繋いで戻った。
レインもふたりと同じように、ミリリと手を繋いで戻ってくる。
「にゃうぅ……」
ミリリの頬の染まり具合は、明らかに『したあと』であった。
「ねぇ、マリナ……。
レインのいやらしいところは、本当に『ちょっと』なのかな……?」
「ちょっと。」
淀みない即答であった。
マリナ自身がえっちな子なので、レインのえっち度も『ちょっと』なのだ。
仕方ないとも言える。
◆
コトを済ませたオレたちは、死霊都市・デストピアに入った。
入った瞬間にそうとわかる息苦しい瘴気。
率直に言って気分が悪い。
生ぬるい水が、ゆるやかになだれ込んでいるかのようだ。
「っていうか早速、なんかいるな」
それは蚊だ。
地球と同じ、体長一、二センチの蚊だ。
オレは試しに剣で切る。
が――。
剣は蚊をすり抜けた。
(ぶうぅ~~~~~ん…………ぴとっ)
蚊は普通に飛ぶと、カレンの頬に止まった。
「ぜなあぁ?!」
カレンは自身のほっぺたを、ビシビシと叩く。
だが死なない。
ただの蚊だが死霊であるため、物理攻撃は通用しない。
「ぜなぁ~~~、あっ、ああぁ~~~~~!
生理的にイヤだぜな! 生理的にイヤだぜなあぁ!!!
むずむずとかゆいのに叩いても死ななくて、ほっぺたを叩くと痛いのにかゆいぜなあぁ~~~~~~~~~~!!!」
「フンッ」
パチンッ。
リリーナの指パッチン。聖属性の魔力が蚊に触れる。
蚊はあっさりと弾け飛んだ。
「このように――この都市の死霊は、生者の生命エネルギーを欲している。
しかも物理攻撃がきかない。
倒すには、魔法か魔力のこもった武器しかない。それがなければ――」
「かゆいことになるってことぜなっ……?!」
「入り口付近ではそうだな」
なんとも微妙でありながら、最高に嫌だった。
踏んでも蹴っても死なない蚊とか、魔王よりも最悪じゃないか。
しかし相手が蚊だと思えば、殺したい気持ちはマックスに高まる。
初心者に推薦されるのも、当然と言えば当然だった。
(ぶうぅ~~ん)
(ぶぅ~~~~~ん)
(ぶうぅう~~~~~~~~ん)
蚊は群れを作っていた。
一直線に向かってくるわけではないが、遠巻きにオレたちを見ている。
オレはギロ――と軽くにらんだ。
(ボンッ!)
(ボンッ!)
(ボンッ!)
蚊たちは爆発四散した。
「なかなかやるな、少年」
「父さんがよく、にらむだけで敵を爆発させていましたので」
「そういう意味では、蚊たちも少年の修行にもなるかもしれんな」
「基礎の修行って意味では、いいと思います」
「義父さんがやっていたのはわかるけど、それでできちゃうのはどうなんだ……?」
「ミーユさまがおっしゃりたいこともわかりますが、それがご主人さまですにゃあ……」
「確かにレインだもんなぁ……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!
どうしてそれで納得してしまうんっすか?!
いくら雑魚の蚊とはいえ、にらむだけで倒せるのはおかしいっすよ?!」
「だけどレインだし……」
「ご主人さまですし……にゃあ」
「常識の破れていく音が聞こえるっす……」
ローリアは、ただひたすら呆然としていた。
しかし『死霊都市』なんていう危うげなワードの街に入って、一番最初に対峙するのが、蚊の死霊であったとは……。
一寸の虫にも五分の魂とは言うが、実際にでてこられると中々に微妙だ。
ちなみにまったくの余談だが、蚊という文字は、虫に文と書く。
これは江戸時代に当てられた文字で、その由来は――。
蚊は、ぶ~んという羽音のする虫だから。
ということらしい。
言わんとすることはわかるけど、漢字にまでしてしまうのはすごい。