規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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封印の扉

 朽ち果てた大聖堂て地下室を見つけたオレは、静かに足をおろした。

 石畳の階段なのだが古びすぎているせいで、半ば土と化している。

 踏んだときにも土の触感がして、足がわずかにだが沈む。

 ぺき、とヒビ割れる音がして、亀裂が広がったりもした。

 

「先頭はオレ、二番目がマリナ。あとはミーユたちが適当に続いて、最後尾はリリーナにしよう」

「うん。」

「わかった」

「最後尾は任せておけ」

「レインとマリナとリリーナに頼って、全力で守られるぜなっ!!!」

 

 戦う可能性の高いマリナやミーユにリリーナよりも、気合いのこもったカレンであった。

 階段をおりていくと、扉があった。

 金属製の扉だ。

 魔法の力なのか、金属そのものの働きなのか、淡く白い輝きを放っている。

 

「これは……ピュアミスリル?」

「知ってるのか? ミーユ」

 

「名前の通り、純度の高いミスリルにつけられる名前だよ。

 大さじいっぱいのピュアミスリルで、大樽ひとつ分の黄金と交換できるってぐらいには珍しい鉱石だね」

「そいつはすごいな」

 

「それに加えて、封印の魔法もかかってると思う。

 ボクの家にも封印陣や封印紋の専門家の人たちはいたけど、これほどの封印は見たことないってぐらい強い……かな」

「なるほど……」

「レイン………。」

「どうした? マリナ」

(じぃ………。)

 

「石碑か」

(こく。)

 

 オレは周囲を警戒しつつ、石碑に向かった。

 

「よくわからない文字だけど……。ミーユやリリーナは読める?」

「ボクは無理かな……」

「わたしにもわからん」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!

 それはたぶん……神官文字っす!

 教会で独自に使われている暗号文字で、神官以上か、上級聖騎士の人にだけ教えられるっす!」

 

「ローリアは読めるのか?」

「たぶんですが、読めるっす」

 

 ローリアは、石碑に手をかけ読み始めた。

 

「アルバード歴八〇〇年。我らはこの地にタナトスとイルネス、マーダスの三魔騎士を封印することに成功した。

 しかしこの封印は、時を経るごとに効力が弱まる。三魔は、再び現れるであろう。

 この都市を中心に『眠り病』が蔓延し始めたときが、三魔騎士復活の合図だ。

 石碑を見ている勇敢なる者よ。

 封印という手段しか取れなかった我らに代わり、三魔騎士を滅してほしい。

 それが叶わずとも、再び封印をかけてほしい。

 

 封印の地は、扉の先にある迷宮の最奥にある。

 扉の封印を開く鍵である宝玉は、四ヶ所に封じられている。

 

 東方の聖地・ヴィーンミルト。

 北方の聖地・フリーズランド。

 南方の聖地・竜人が納める土地、ドラゴリュート。

 そして西方の魔境。世界の病が生まれし土地。ウエッターウエスト。

 

 宝玉を集めるだけでも、困難の旅となるだろう。苦難の道のりとなるだろう。

 友を失う旅になるかもしれない。

 しかしその程度の力もないようでは、三魔騎士に勝利することはできない。

 タナトスだけでも厳しいだろう。

 力なきものが不用意に封印を解除しないための措置であると思ってほしい。

 封印という形でしか、三魔騎士を抑えることができなかった不甲斐なさを恨む。

 それでも頼む。世界を救ってくれ。

 クリストフ・ウォーレン」

 

「クリストフ・ウォーレンだと?」

「知ってるの? リリーナ」

 

「アルバード歴七九〇年――つまり今から五一〇年前の人魔大戦において、人間やエルフの勝利に貢献したと言われる四勇者のひとりだ」

「人魔大戦?」

「歴史書の記述によれば、魔物化した人間である魔人と、純粋な人間に、獣人。エルフに竜人たちが一体となって立ち向かった世界戦争だ」

 

「ちなみにクリストフ様は、六〇〇年の歴史がある神聖教会の歴史の中でも、

 『最強の聖騎士』として名高いお人でもあるっす!

 銅像や肖像画もたくさんあるっす!

 大戦が終わったあとは、四勇者たちと並んで各地に点在している魔物を封印・討伐していたって話っす」

 

「ちょっと待ってほしいんだぜな!

 細かい用語がいきなりでてきて、わけがわからないんだぜな!

 つまりいったい、なにをどうすればいいんだぜなー!」

 

 カレンが両手を握って瞳を閉じた、(o><)oな顔で混乱した。

 オレもちょっぴり同感だ。

 ミーユが色々、整理してまとめる。

 

「歴史に残る聖騎士の、クリストフ・ウォーレン。

 そんな人でも封印が精一杯だった魔物が、この奥にはいる。

 封印が解ける日は近い。

 なんとかしないといけない。

 その魔物たちと戦えるだけの力があるかどうか示す意味でも、世界に散らばる宝玉を集め……」

 

「長いぜなあぁ!」

「ええっ?!」

「もっと短くしてほしいぜな!

 一息でズバッと言い切れるぐらいにしてほしいぜなあぁ!!!」

 

「えっ、ええっと……。

 奥にいるのが三魔騎士っていうのがすごい魔物で、

 だけど封印されていて、

 でもその封印は……いやでもこれじゃ一息じゃなくって……ええっと…………」

 

 ミーユは律儀に悩んでいた。

 眉をハの字にして悩み、情報をまとめようとがんばっている。

 オレは代わりに言ってやった。

 

「扉をあけるため、世界中に散らばっている宝玉を集める必要がある」

 

「わかったぜな!

 つまりアタシは、レインについていけばいいんだぜなっ?!」

 

 カレンは納得してくれた。

 

「ねぇカレン!

 ボクに説明を求めたわりに、納得の仕方がザックリすぎないっ?!」

 

 ミーユは涙目であったものの、カレンだから仕方ない。

 その時だった。

 

 ドゴォンッ!!!

 

 ピュアミスリルで作られた上に強固な封印もかけられていた扉がひしゃげ、もうもうと煙を立てていた。

 そして扉の奥からは、封印を自力で解いた三魔騎士が――。

 

 なんていうことはなかった。

 

 犯人はマリナだ。

 

 

 宝玉を集めて封印を解く必要がある扉を、蹴りでぶち壊していた。

 

 

「こわせそうに………みえた。」 

 

 ということらしかった。

 しかし実際に壊せている以上、マリナが正しいと言わざるを得ない。

 

「話を聞いた限りだと、封印からかなりの時間が経っていたみたいだからなぁ。

 弱まっていたのかな?」

 

「それにしたって、ピュアミスリルの扉をキックで壊せるのはおかしいよ……。絶対におかしいよ……」

 

(がーん………。)

 

 ミーユにおかしいと言われ、マリナはショックを受けていた。

 

「なにはともあれ、これで奥に行けるようになったわけか」

 

 その事実を前にして、オレは一回考えた。

 

「父さんを連れてこよう。

 オレたちだけで解決するには、ちょっとコトが大きすぎる」

 

「それにはわたしも同意しよう。

 昔の勇者を知らん以上、勇者が苦戦したという魔物の力もわからん。

 しかし『わからん』ということは、それ自体が警戒の理由だ」

 

「教会にも、知らせたほうがいいっすよね……?」

「それは不要と、わたし個人は考える」

「ほへっ?」

 

「組織とは、その大きさに比例して行動が遅くなるものだ。

 神聖教会の場合では、五賢人だか五聖人だったかに伺いを立てて、

 話がまとまるまでのどうこうを待たねばならなくなる」

 

 淡々と説明したリリーナは、眉間にシワを寄せて言った。

 

「率直に言って面倒だ」

 

「確かに時間はかかるかもしれないっすが……」

「要点は、それだけではない。むしろこちらのほうが大きいのだが……」

「大きいのだが……なんっすか?」

 

「教会の神官や聖騎士の百万人より、レリクスひとりのほうが強い」

 

「ほへえぇっ?!」

「百万は言いすぎたかもしれんな。

 だが一〇万や二〇万なら、レリクスひとりでも勝てる。

 これは絶対的な真実だ。

 そのレリクスを連れてくる以上、教会などは知らんし要らん」

 

「…………」

 

 ローリアは、口をポカンとあけてほうける。

 しかし横目で、オレのことをチラと見た。

 聖騎士二〇人をあっさり倒したオレから、父さんの実力を図ろうとしている感じだ。

 

「父さんは強いよ。色んな魔法もスキルもあるし、軽く見てもオレの十倍は強い」

「その人は、実在しているんっすか?!」

「圧倒的にしているよ」

 

 ローリアは愕然としていたが、オレたちは一度戻ることにした。




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