規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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戦い前の軽いドタバタヽ(・∀・)ノ

 父さんを連れて、リンたちがいたところに戻る。

 

「ハアッ!」

 

 リンが訓練用の槍を突き出した。

 聖騎士は盾でいなすと、カウンターの袈裟切りを放つ。

 バギィ!

 リンが持つ訓練用の槍が、音を立ててへし折れた。

 

「おおっ!」

「さすがはサムソン!」

 

 観戦していた聖騎士から歓声が沸いた。

 戦っていた聖騎士の口元に笑みが浮かぶ。

 

 けれども、リンは動じない。

 槍を折られた反動を利用して、自らの体を回転させた。

 

 リンは聖騎士の横に回り込み、兜で覆われた頭に肘鉄。

 頭をゆさぶられた聖騎士は、ぐらりとよろけた。

 リンが自身の掌底を、相手の胸板に打ち込んだ。

 

 ドンッ!

 

 聖騎士、吹き飛ぶ。ゴホりと軽く血を吐いたりもした。

 けれども、倒れたりはしない。

 自身の胸元に手を当てる。聖騎士の胸元は、白く輝く。

 

「中級以上の聖騎士となりますと、セルフヒールに自己強化の魔法も使用できるようですね……」

「それゆえの聖騎士よ!」

 

 サムソンと呼ばれた聖騎士が突っ込んでくる。

 サムソンは剣と盾を持ち、リンは素手。

 しかも相手は、自己回復と強化もできる。

 状況は、圧倒的に不利――。

 と、思いきや。

 

 リンはサムソンの剣を白羽取りした。

 

 パシッと掴んでグイッとひねる。

 サムソンが、剣を取られまいとして引っ張っる。

 リンはその瞬間に合わせ、剣を離した。

 

「うおっ?!」

 

 支えがなくなったサムソンは、バランスを崩す。

 無防備になったところで、華麗なる回し蹴り。

 それは完璧な軌跡を描き、サムソンの首筋にめり込んだ。

 ヒールで回復する間もないまま、サムソンは白目になった。

 

「あなたに限ったことではございませんが……。

 ヒールがあると思うことで、打撃攻撃に対するケアが単調となるところがございますね」

 

 リンは淡々と解説していた。

 

「テストは終わったのか?」

「ミリリやカレンとも精査いたしましたが……最悪でも弾除けにはなりそう、という意味では、七名ほどかと」

「リンに勝ったのがひとり、ミリリやアタシと互角だったのがふたり、負けはしたけど筋がよかったのが四人、だぜなぁ!」

「リンに勝ったやつもいたのか」

 

「わたくしに勝ったのは団長。

 ミリリやカレンと互角だったのは副団長、です」

 

 敗北したにも関わらず、リンの口調は淡々としていた。

 あくまでもテストであって、本気ではなかったことがうかがえる。

 聖騎士の団長が、オレに言う。

 

「改めて申しあげますが……。

 さすがはレリクス様のご子息。

 引き連れている奴隷も、強者ばかりでございますな」

 

「いやいや、それはレイン独自の力じゃ」

 

 聖騎士の団長がオレを褒めたが、父さんが割り込んだ。

 

「ワシは指導が苦手でのぅ。部下や奴隷を育成できたことはない」

「あ、あなたはもしや……。最強の七英雄・レリクス=カーティス様で……?!」

「そう呼ばれることは多いの」

 

 聖騎士たちがざわついた。

 

(おお……!)

(すごい……!)

(あれがレリクス=カーティス様か……!)

 

 団長が口を開く。

 

「し……失礼ですが、レリクス殿。

 手合せをしてはいただけないでしょうか?」

 

「む?」

「騎士として生まれたからには、一度は……」

「ふむ……。よかろう」

 

 父さんと団長が、あいたスペースに移動した。

 オレには掌底一発で吹き飛ばされた団長であるが、父さん相手にはどうなるのか。

 そんな気持ちで見ていると、父さんは団長を見つめた。

 

「なんというプレッシャー……!」

 

 団長は、風に押されたかのように吹き飛びかけた。

 それでも吹き飛ぶことはなく、二本の足で立っていた。

 

「レリクス様に見つめられて立っていられるとは……団長殿はおさすがですね」

「リン様に勝利しただけのことはありますです……にゃあ」

「すごいぜな……!」

 

 立ってるだけで強者あつかい。

 それがウチの父さんを相手にするということであった。

 父さんが、人差し指を団長に向けた。

 

 五メートル以上は離れた位置から、ツン……と押す。

 次の瞬間。

 

 

 ズドォンッ!!!

 

 

 団長は、殴られたかのように吹き飛んだ。

 街の城壁に激突し、バゴンと激しい炸裂音。白い煙がもうもうとあがる。

 団長は、大の字になって城壁に食い込んでいた。

 

「やりすぎてしまったかの……?」

 

 つぶやく父さんに、リリーナが言った。

 

「明らかにやりすぎだ」

 

「近ごろは、レインと訓練することが多かったからのぅ。

 手加減はしたつもりだったのじゃが、失敗したようじゃ」

 

「やれやれ」

 

 リリーナは、指パッチンでヒールをかけた。

 三〇メートル離れている相手に指パッチンでヒールをかけることができるのもおかしいのだが、父さんの仲間だった人なので仕方ない。

 

「聖騎士の方々が百万人いても勝てるってのは、大袈裟な話でもなかったんっすね……」

 

 ローリアも納得していた。

 

「それでもリンに勝った以上、あの人も連れて行くってことでいいのか?」

「わたくしは、ミーユ様とレイン様の判断に従いますが……」

 

「レインやレリクスさんがおかしいだけで、普通に強い人だぜな!

 レインの『いちばんどれい』のアタシから見ても、強い人だと思うぜな!」

 

「お待ちなさい、カレン。誰が一番奴隷ですか?」

「アタシだぜなっ!」

「どうしてそうなるのですか?」

 

「アタシはミリリよりも、『せんぱい』で『おねーさん』だぜなっ!

 そしてミリリは、リンに勝っているぜなっ!

 だからアタシが、レインの『いちばんどれい』なんだぜなっ!」

 

「それは聞き捨てなりませんね……」

 

 リンはすうっと目を細める。

 事務的で物静かな目つきと声音に、わずかな怒りが篭っていた。

 

「ミリリがわたくしの上に行くのは当然ですが、あなたがミリリの上――という判断には、納得がいきかねます。

 レイン様に仕える時期が早かった――ということ以外に、ミリリよりも優れている点はどこですか?

 強さ、可憐さ、ひたむきさ。

 どれを取ってもミリリが一番であり、あなたやわたくしが一番になれる余地はございません」

 

「はにゃあぁ?!」

 

 想定以上の絶賛に、ミリリが一番驚いた。

 

「そそそそっ、そのように言われますと、ミリリはミリリは恐縮で、照れてしまうのですが……にゃあ」

「ですが事実です」

「にゃうぅ……(*ノノ)」

 

 褒められ慣れていないミリリは、真っ赤になってしまった顔を両手でおおった。

 

「そっそっ、そんなことはないと思うぜなっ!

 ミリリにも、足りないところは色々あるぜなっ!」

 

「どこですか?

 マリナ様やリリーナ様と比べれば劣るところはあるでしょうが、あなたやわたくしと比較した場合には……どこですか?」

 

 

「おっぱいだぜなっ!」

 

 

「にゃうぅん!」

 

 ミリリは胸を、両腕で隠した。

 ミリリはけっして、小さくない。平均からすれば、むしろ大きい部類に入る。

 しかしリンやカレンが、とても大きい。

 なので比較した場合だと、小さい部類となってしまう。

 

「言ってはいけないことを申しましたね……?」

「ぜっ、ぜなっ?!」

 

 氷のナイフのような冷たく鋭いリンの視線と声音に、カレンは怯んだ。

 

「そっそっそっ、そこまで怒ることだぜなぁ?!」

 

 負け犬という名の小物っぽい挙動であたふたと慌て、視線を左右に泳がせた。

 そこで気づいた。

 ミリリと同じく胸を押さえて、気重に視線を伏せているミーユに。

 

「きっきっきっきっ、気にしてないぞっ?!

 ボクは全然、気にしてないぞっ?!

 リンやマリナやカレンと比べておっぱいがちっちゃいことや、背が低いことなんて気にしてないぞっ?!

 っていうかちっちゃくないからな?!

 ボクはちっちゃくないからなっ?!

 リンやマリナやカレンと比較するから――ってだけで、ボクはちっちゃくないからなっ?!」

 

 必死な上に涙目だった。

 誰がどこをどう見ても、滅茶苦茶に気にしていた。

 かわいい。

 

「でも意外だなぁ。ミーユが気にしているのって」

「それはあなたのせいだと思う。」

「オレの?」

 

 ミーユが慌てて否定する。

 

「べべべべ、別にレインのせいとは違うっていうか。

 ボクが勝手に気にしてるだけっていうか。

 おっぱいの大きい子をさわってる時間のほうが長いのは気になっているんだけど、ボクを大事にしてくれる時間も、短いわけじゃないし……っていうかまったく気にしてないしっ?!」

 

 もう本当に涙目だった。

 見ていて可哀そうになってくる。

 しかもオレが悪い。

 抱きしめておこう。

 

「ミーユはさびしがり屋だなぁ」

「ううぅ……」

 

 ミーユは恥ずかしそうに歯を食い縛りつつ、オレの胸板に顔をうずめた。

 もしも犬の獣人だったら、尻尾をブンブン振っていたと思う。

 かわいい。

 

 それはさておき。

 

「リンとカレンはどうするんだ?」

「レイン様が許してくださるのであれば、上下の関係はつけておきたい――と考えます」

「アタシはレインが許さなくても、きっちり上下を教えたいぜなっ!」

 

「ミリリは?」

「ご主人さまがミリリをかわいがってくださるのであれば、何番目でも構わないです……にゃあ」

 

 ミリリらしい答えであった。

 

「それはいけませんよ、ミリリ。

 なんらかの事情でわたくしたちとレイン様が別行動になったとき、指示系統はどうするのですか?」

 

「それは……」

 

「話し合いができる場合であれば、話し合いでもよいでしょう。

 しかし『話し合いに時間を使う』という行為自体が、状況を悪化させることもあります。

 そういう事態も想定し、指示系統は整えておくことは重要である。

 訓練施設でも教わりませんでしたか?」

 

「確かに教わりました……にゃあ」

「そーいうときは、アタシに従えばいいだけだぜなっ!」

「…………」

「どーしてそこで目を逸らすぜなっ?!」 

「ふ……深い意味も浅い意味も、いい意味も悪い意味もないです……にゃあ」

 

「ほんとーぜな?」

「ほんとうです……にゃあ」

「アタシの目を見て言ってほしいぜな」

 

 カレンは、ジトーっとミリリを見つめる。

 その距離はとても近い。

 キスできそうな至近距離だ。

 

「ふみいぃ……」

 

 可哀そうなミリリは、目を閉じて顔をそらした。

 目尻に涙が浮かんでいたりもした。

 本当に可哀そうだ。

 

「ぜなあぁ~……」

 

 カレンのほうも涙目だった。

 

「思っていたより、尊敬されていなかったぜなあぁ……」

 

 カレンの頭の中では、『自分は頼れるおねぇさん奴隷。ミリリは自分をウルトラ尊敬している』となっているらしかった。

 手持ちの棒を、リンへと向ける。

 

「決闘するぜなっ!」

「はい……?」

 

「リンはアタシを、弱いと思っているところがあるぜなっ!

 だからアタシがリンに勝ったら、話はそれで終わるぜなっ!」

「ではレイン様たちが地下へともぐっているあいだ、わたくしとあなたは戦うことにしておきましょう」

 

「リンはついてこないってことか?」

「客観的事実関係から考えて、カレンやわたくしは足手まといになる可能性が濃厚です。

 合理性で言えば、『弾よけ』という役割もございますが……」

 

「それは無理だな」

「レイン様なら、そうおっしゃるかと……」

 

 リンはなぜか、ほっぺをぽうっと赤くした。

 その原因は、すぐにわかった。

 

「わたくしを抱いてくださるときも、おやさしいですし……」

「わかる………。」

「うむ……」

「はにゃあぁ……」

「行為に入るタイミングは強引だけど、実際にさわる時はやさしいんだよな……。

 ツメもちゃんと切ってくれるし……」

 

 心当たりのある全員が内股でもじもじとしたり、自身のおっぱいをさわったりした。

 

「ぜなぁ……」

 

 唯一本番はしていないカレンも、もじもじとした。

 

「とにかくそういう話なら、オレたちだけで行ってくるよ。留守番はよろしく」

「はい」

 

 オレたちは、リンたちを置いて地下迷宮へと向かった。




リンとカレンの戦いは、書籍版の4巻に描き下ろしで描こうかな、と思っております。
11月30日に発売した3巻ではなく、その次に発売する4巻です。

その4巻の発売にこぎつけるためにも
11月30日に発売した3巻を買っていただけるとうれしいですヽ(・∀・)ノ

かわいいミーユが目印です。

【挿絵表示】

https://img.syosetu.org/img/user/137216/35773.jpg

http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-75172-7.html

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