規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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第94話

「いきなり迷路とはのぅ」

「そのようですね」

 

 大聖堂の地下。

 マリナが蹴り破った扉の奥に、オレたちはいた。

 天井や壁が、うっすらと白い輝きを放っている。真珠を粉にして混ぜたかのように神秘的だ。

 

「迷路と言えば、壁を破壊して直進するのが定石じゃが……」

 

 そんな定石は知らない。

 

「しかしこの壁は、迂闊に破壊すると洞窟そのものが壊れそうじゃの」

「そういうことなら、普通に進むしかないですね」

「そうじゃな」

「うん。」

 

 オレたちは進む。

 メンバーは、父さんとオレに、マリナとリリーナ。

 あとはローリアと、聖騎士たちが七人だ。

 リンとカレンに、ミリリとミーユは留守番である。

 ミーユやミリリは、ついてきたそうにはしていたが――。

 

『ボクは……行かないほうがいいよね』

『ミリリは戦いでは足手まといでも、罠を探る能力が……』

『逆探知で攻撃を食らう可能性があるからダメ』

『にゃううぅ……』

『…………』

 

 ミリリがうなだれ、ミーユはしばらくのあいだうつむく。

 しかし不意に顔をあげると――オレの唇にキスをした。

 

『戻ってこいよ! 絶対! ごはん作って待ってるからな!!』

『ここにいるミリリも、お待ちしておりますですにゃああ!』

 

 そんな風に言って、泣きながらオレを見送った。

 

「ふたりのためにも、無事に帰らないとな」

「うん。」

 

 マリナがうなずき、オレの隣を歩く。

 そして淡々と歩いていると――。

 

「敵か!」

 

 スケルトンが現れた。

 数は八体。

 死霊都市というだけあって、スケルトンも透けている。

 普通の物理攻撃は、効かないに違いない。

 オレたちを見つけたスケルトンは、くぼんだ眼窩に赤い光を宿してオレたちを見つめ――。

 

「「「Guえeeeeeeeeee…………」」」

 

 死んだ。

 普通に外敵として現れたかと思ったら、父さんを見た瞬間に死んだ。

 リリーナが補足する。

 

「今のレリクスは、気を張っているからな。

 スケルトン程度、姿を見せるだけで撲滅できる」

 

 にらむだけで敵を爆発させたり、四神将を手加減したデコピンで倒したりしていた父さんは、姿を見せるだけで敵を倒すこともできるらしい。

 意味がわからない。

 でもそれが父さんと言われたら、納得しかない。

 

「力なき死霊のモンスターにしか通じんところではあるがの」

 

 それでもおかしいと思います。

 そんなチートのかいあって、危ない敵はでてこなかった。

 ただのスケルトンではない、剣と盾を装備したスケルトンもでたが――。

 

『Gyaaaaaaaaa……』

 

 一見手ごわそうに見える、半透明のデスキマイラの死霊も――。

 

『Gueeeeeeeee……』

 

 と消えていく。

 圧倒的父さん。英語で言えばATTだ。

 いやもうほんと、父さんひとりでよかったんじゃないの。

 

 なんてふうに思っていたら、すこし開けた空間にでた。

 半透明のサイクロプスがいる。

 その出で立ちと雰囲気から言って、このフロアのボスなのは間違いない。

 オレとマリナに、リリーナも構える。

 オレは聖騎士たちに言った。

 

「死にたくなければ下がっていろよ」

「くっ……」

 

 聖騎士たちは、メイスを構えて後ろにさがった。

 サイクロプスの死霊は、オレたちに言った。

 

「よくきたな……強き人間よ。

 我はこの、第二の門を守護する…………Guえぇぇぇぇぇぇ………………」

 

 そして死んだ。

 強いと思われていたサイクロプスの死霊も、父さんの前では少ししゃべるのが精一杯だった。

 

「死霊の身でありながら、レリクスさまを相手にしゃべることができただと……?!」

「あのサイクロプス、生前は名のある存在だったに違いないっす……」

 

 だが背後では、そんな評判が立っていた。

 オレの父さんを前にした場合、そういう評価になってくるのだ。

 

「扉の守護者を倒したはよいが、門が開く気配はないのぅ」

「ちょっと手をあててみましたが……魔法的な力で封印されておりますね」

 

 しかもこの封印、マリナが蹴破った第一の門と雰囲気が似ている。

 

「ここでも、門の鍵となる宝玉がないとダメってことなのかな……?」

 

 オレが仮説をつぶやくと、呼応するかのように人魂が現れた。

 人魂は、オレたちの周りを旋回する。

 

『資格なき者よ…………ぎゃあああ』

『どのようにしてここにまで辿りついたのかは知らぬが……ぐええぇぇ…………』

『立ち去れ……立ち去……ごふうぅぅ…………』

 

 でも父さんの力でやられていった。

 

 バランスブレイカーな父さんは、シナリオブレイカーでもあった。

 

「しかし宝玉がないと門が開かないって言うんじゃ仕方ないな」

「そうっすね! 諦めて探すっす!

 わたしたち聖堂教会も、全力でサポートするっすよ!!」

 

 後ろではローリアが、協力体制をアピールする。

 が――。

 

 ドゴオォォンッ!!!

 

 オレはパンチで吹っ飛ばした。

 

「それじゃあ行こうか」

 


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