規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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第95話

 迷宮の攻略は順調だった。

 

「ワシは第三の扉を守る番人……グハアアァ…………」

「資格なきもの、立ち去れ……立ち去……げりっぺえぇ…………」

 

 定期的に死霊はでてくるのだが、一瞬で死ぬ。

 

「気をつけよ。

 ここより十二歩進んだところに罠がある」

 

「わかるんですか?」

「わずかじゃが、壁の隙間から悪意と邪気が滲みだしておる」

 

 さらに父さんは、右手側の壁をコンコンと叩いた。

 

「この反響音から察するに、壁の中は空洞。

 入っているトラップは、ガス系のナニカじゃろうな」

 

 それだけでわかるとか……。

 今日《Kyou》も父さんはお《Oka》しいぜ。

 英語で言えばKOだ。疑いなしのノックダウンだ。

 

「んっ。」

 

 マリナが氷の塊をだした。

 

   ∧

 ヽ(・・)ノ  イカー

 

 という感じの、ちょっとお茶目なマスコットだ。

 

 しかし反応はない。

 まったくの無音。

 けど――。

 

「空気の流れが変わった?」

 

「匂いはもちろん音もない。

 それでいて凶悪な作用を持った痺れガスだな。

 ひとたび浴びれば全身の筋肉はもちろん、心臓までが痺れるだろう。

 レリクスはもちろんのこと、わたしやキミに、マリナが吸っても平気な程度の毒ガスだろうが

 後ろの連中は危なかったな」

 

 オレが言うとリリーナは答えた。

 魔法でバリアを張ってもいる。

 おかげで後ろの連中も平気だ。

 

「危険なトラップだなー」

 

「世界中に散らばっているらしい『宝玉』とやらを集めていれば、無効化できる可能性もあったかもしれんがな」

「しかし秘宝に頼りすぎると、カンが働かなくなることもあるからのぅ」

 

 父さんの場合は、カンとかそういうレベルで語っていいものでもない気はするけど。

 

「次の曲がり角を右に曲がると、モンスターがおるの。

 風の流れから、スケルトンじゃと思われる」

 

 オレは心の中で思った。

 

(だからどうしてわかるんですか)

 

「んっ。」

 

 マリナがツイッと前にでた。

 今度の氷像はこんな感じだ。

 

 ヽ(゚д゚)ノ タコー

 

 氷の通路を地面に作り、軽く蹴ってすべらせる。

 氷像が、曲がり角を通過すると――。

 グシャガアッ!

 スケルトンに襲われて、氷像が砕けた。

 

「………アイスニードル。」

 

 そこにマリナは、マシンガンのようにツララを出した。

 ズガガガガ。

 スケルトンの群れは、バラバラになった。

 

 と――思いきや。

 

「再生した?!」

 

「竜牙兵、と呼ばれる個体かもしれんな。

 生前にドラゴンの骨を煎じた粉を飲んだものがなれるというスケルトンで

 粉みじんにされても無限に再生する上、神聖魔法にも高い耐性を持つ」

 

 実際、そのスケルトンたちはタダモノではない。

 死霊でありながら父さんを前にして、死んでいないのがその証拠だ。

 が――。

 

「アブソリュート………ゼロ。」

 

 マリナは丸ごと凍らせた。

 砕いても再生されるなら、氷漬けにしておけばいい理論だ。

 厄介そうな敵であったが、一撃で完封だ。

 

(じ………。)

 

 マリナが無言でオレを見てくる。

 

「ほめてほしいの?」

「うん………。」

 

 マリナは小さくうなずいた。

 ほんのわずかに頭をかたむけ、差しだすようなポーズも取ってくる。

 よしよしよし。

 オレはマリナの頭を撫でた。

 

「ん………♥」

 

 うれしかったらしい。

 ほんのりほっぺを赤くする。

 

 生まれが恵まれていなかったマリナは、自分を肯定する気持ちが弱い。

 隙あらば、オレに認めてもらいたがるところがある。

 

 そんなマリナも愛らしい。

 それなのでオレは、マリナの手を握りながら先へ進んだ。

 のんきと言えばのんきだが、オレにとっては世界よりもマリナだから仕方ない。

 世界のためにマリナを――なんてやつがいたら、光の速さでぶちのめすよ。

 


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