規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

97 / 111
vsクリストフ

「ではゆくぞ――聖封・散弾射!!」

 

 迷宮の守護者――クリストフの死霊が、触れた相手を封印する、無数の封印弾を放った。

 オレは目を閉じ、封印弾の流れを感知する。

 クリストフは言った。

 

『自分は貴公にひとつでも当てればいいが、貴公はわたしの封印弾すべてに当てる必要がある』

 

 これは間違っていない。

 だが正確でもない。

 

 クリストフの封印弾は、オレに当てなくてはいけない。

 だからオレが回避できないスピードも、ださなくてはいけない。

 

 オレは違う。

 クリストフの封印弾に、オレの魔力弾を当てればそれで終わりだ。

 勢いをつける必要がないのだ。

 

 封印弾が通るであろう軌道の上に、オレの魔力がたっぷりこもった火炎弾を『置く』

 クリストフの弾が、オレが置いた魔力の弾にぶつかっていく。

 

 ぼしゅぼしゅぼしゅんっ!

 クリスフトの弾は勝手に当たり、勝手に消えた。

 オレはズドンと地を蹴った。

 一直線に向かっていく。

 渾身の魔力を、右腕に込めて――。

 

 クリストフの顔面を殴る!!

 

「グハアッーーーーーーーーーー!!!」

 

 クリストフは吹っ飛んだ。

 それと同時に、オレの体はぐらりとゆれた。

 右足が封印されている状態での無理な突撃だったため、うまくブレーキをかけれなかったのだ。

 

(これは転ぶな……)

 

 と思った。

 次の瞬間。

 

(ぎゅっ………。)

 

 マリナがオレを抱きとめた。

 遠くで見ていたリリーナが、目を丸くする。

 

「今の動きは早かったな……。

 少年が地を蹴ると同時に、マリナも地を蹴っていたぞ」

 

「今のタイミングだと、レインがころぶと思った。

 あとは………パンチも当てれると思った。」

 

 オレに対する、絶大な信頼であった。

 そんなマリナは、オレにくっついたままほっぺたを赤くする。

 心臓の、どきどきという音も聞こえた。

 かわいいマリナは、ぽつりと言った。

 

「ハグできて………うれしい。」

 

 じー………。と、オレの横顔を見つめてもくる。

 えっちを求めてるときの顔である。

 

「………したい。」

 

 本人も言っているのだから間違いない。

 なんというのか、ブレない子である。

 

「くっついてるとしたくなるのは、あなたのことが、好き好き病………だから。」

 

 本当にブレない。

 ただここでするのは、いくらなんでもまずい。

 オレは殴り飛ばしたクリストフを見た。

 

「戦いと魔力を通して、キミのことが伝わってきたが……。

 人のために戦える正義の心と、けっして折れない強い魂。

 弱い者に手を差し伸べる、温かなやさしさ。

 そして………………」

 

 クリストフは、しばしの間をおいて言った。

 

「色欲の魔王ですらドン引きしそうなやらしさ」

 

 とても台無しになった気がするが、否定できないのも事実であった。

 

「正しい………。」

 

 誰よりもオレを理解しているマリナが言うのだから、それはもう間違いない。

 

「しかし全体の98パーセントを占めるやさしさを除きさえすれば、清く正しい心を持った、勇敢な戦士だ」

「98パーセントも除いたら、それもう別人じゃないですか?!」

「残った2パーセントの正義の心や勇敢な魂も、S級の戦士を超えるそれであるから大丈夫だ」

「つまりオレのやらしい心は、S級クラスの正義の心や勇敢な魂をたった2パーセントに追いやってしまうほどあるっていうことか……」

 

 それってどんだけなんですか。

 そんな風にも思ったが――。

 

「正しい………。」

 

 肯定されてしまった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。