規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

98 / 111
復活の三魔騎士と、規格外れの英雄

「それではキミに、封印の力を託そう」

 

 三魔騎士を封印していた迷宮の守護者・クリストフの体が光り輝く。

 光はオレの体に移り、オレの全身を包んだ。

 全身が、じんわりと温かい。

 光は、オレの左の手首に集まる。

 銀色のリングになった。

 

「それは封印の輪だ。身につけているあいだは三魔騎士も封印できるほどの、封印の力を使えるようになる」

 

 マジですか。

 

「ただし使用できるのは、三回だけだ。

 三魔騎士を可能な限り弱らせてから、リングの力を発動してくれ。

 弱らせれば弱らせるほど、封印の時間は長くなる」

 

 それは慎重に使わないといけないな。

 

「それでは最後の扉をあけよう。幸運を祈る」

 

 扉が開いた。

 その奥には――――扉。

 

「大切な封印だからな。二重にかけられている」

 

 クリストフは、二枚目の扉にも手を当てる。

 

「クリストフさんは、どうするんですか?」

 

「キミたちが三魔騎士を封印するのを確認し次第、この空間に再び自らを封印する。

 そしてまた遠い未来に、三魔騎士たちの封印が解けるころ――」

 

「今回と同じような形で、人を呼ぶ……ということですか」

 

「この地には、天然の魔力が眠っているからな。

 自らを封印しつつ、力を蓄えるにはちょうどよい」

 

「死ぬまではもちろんのこと、死んでも世界に尽くすわけですか……」

「そうしてもよいと思えるほどの感謝を、わたしはこの世界にしている」

 

 クリストフは、穏やかに笑った。

 

「………わかる。」

「マリナもわかるんだ」

「ここはわたしを、あなたに出会わせてくれた世界。

 世界を守ることに理由が要るなら、わたしにとってはそれがすべて。」

 

 今日もマリナは、健気を擬人化したかのように愛らしかった。

 この子がオレの恋人ですよ、と世界に自慢して回りたい気分だ。

 

「ちなみに……クリストフさんは、もしオレたちが三魔騎士を倒したらどうします?」

「そのときは…………浮遊霊として、世界を見て回りたいかな」

「そ、そのときは、自分が案内するっすよ! 神聖教会の後輩として!」

 

 背後で見ていた神官のローリアが、そんな風にも言っていた。

 

「「「我らも護衛いたします!!」」」

 

 ローリアの護衛についていた聖騎士たちも、そんな風に言った。

 

 二枚目の扉が開く。

 

「では改めて、幸運を祈る」

 

 力を使ったせいだろう。クリストフが薄くなる。

 オレたちは扉を抜けて、封印の間へと入った。

 細長い通路を抜けて、封印のかかっていない扉をあける。

 

 祭壇があった。

 高潔なる魂を持った聖騎士・クリストフが、生涯を賭してほどこした封印の祭壇だ。

 祭壇の上には、毒紫色に輝く水晶があった。

 

「これが三魔騎士を封じている水晶かな……?」

「この禍々しい気配。それで間違いないじゃろう」

「封印魔術であればわたしにも心得はあるが……。この封印は、まさに限界が近づいているな」

「んっ………。」

 

 マリナが右手に、氷の魔力を貯めこんだ。

 

「それではワシが、封印を解くとしよう」

 

 父さんが、右手の剣に魔力を込めた。

 

「フンッ!」

 

 剣を振る。白い闘気が放たれた。

 封印の水晶は、真っ二つに裂けた。

 毒紫色の煙の中に、三魔騎士のシルエットが浮かぶ。

 

「んっ………!」

 

 マリナはいきなり、氷のツララを飛ばしまくった。

 無数のツララが、毒紫色の煙の中に入り込む。

 そして――。

 

 跳ね返ってきた!!!

 

 父さんが剣を薙ぎ、無数のツララを一撃でなぎ払う。

 

「マリナ自身が放つそれより、威力が増しておったのぅ」

「うん………。」

 

 マリナは、やや不満を持ちながらもうなずいた。

 気持ちとして納得はいかないが、真実なのは間違いない。

 煙の奥から現れた、ひとりの騎士が言った。

 

「我は魔法をすべて受け止めて増幅して反射するスキルを、魔王様より授かった存在。

 よって魔法は通用しない」

 

 紫色のフルフェイスの面で顔をおおった、紫色の甲冑騎士だ。

 その騎士が煙の奥からでてくると同時に、ほかの魔騎士も現れる。

 黒いフルフェイスの面と甲冑で全身を包んだ騎士に、銀色の髪をオールバックにまとめた男だ。

 銀色の髪の男の耳は、魔族のように尖っていた。

 

「封印を解かせてみれば、我らとの『戦い』ではなく『封印』を選んだ弱虫クリストフはおらず……。

 我らと『戦い』ができそうにない者も、七名近く……」

 

 銀色の髪の男の視線は、オレたちの後方にいるローリアと、ローリアを守る聖騎士たちのほうに向かった。

 

「黒騎士、シュバルツ。わかっているな」

「…………」

 

 シュバルツと呼ばれた黒騎士が、口に指を当てた。口笛ならぬ指笛を吹く。

 ヒュー――――と音が駆け抜ける。

 頭痛をもよおす不快音。

 オレや父さん、マリナやリリーナにとっては『嫌な音』で済んだ音だが、後方の聖騎士にとっては――。

 

 死をもたらす音。

 

 音が流れると同時に、聖騎士たちはバタバタと倒れた。

 耳から赤い血が流れ、開かれた瞳に光りはない。誰が見ても、死人のそれだ。

 

「ハアッ、ハッ、ハッ…………」

 

 聖神官のローリアだけが、かろうじてバリアで凌いでいた。

 ただそれも、いつまで持つかわからない――といった感じだ。

 銀髪の男が言った。

 

「我ら三魔騎士は、虫が嫌いでねぇ……。

 虫けらが現れたときは、殺虫音で一掃させていただくことにしている」

 

 それを聞き、クリストフが資格にこだわっていた理由もわかった。

 数を集めて潰そうとする戦術は、三魔騎士には通用しない。

 少数の精鋭を集める以外は、無意味なのだ。

 

 次の瞬間。

 ゴッ! と破壊音が鳴る。

 その音は銀髪の男の顔からでていた。

 一瞬で移動した父さんが、男の顔に拳をめり込ませた音だ。

 男は吹き飛び、壁にぶち当たる。

 

「…………?!」

 

 死の音を鳴らした黒騎士が口をあけ、攻撃の音をだそうとした。

 だが父さんは、音よりも早くに動いた。

 手刀で黒騎士を裂く。

 

 マリナの魔法を跳ね返した紫の騎士が、剣を父さんに振り下ろす。

 父さんは、右手を構えて炎を放った。

 火炎魔法だ。

 それは騎士に吸収される。

 騎士の手前で増幅し、太陽のごとき巨大な炎のカタマリとなって、父さんに――。

 

 放たれることはなかった。

 

「喝ッ!」

 

 父さんは叫ぶと同時に両手を重ね、火炎魔法をさらにぶち込む。

 それは紫の騎士が反射しようとしていた魔法をぶち抜き、紫の騎士を貫通した。

 紫の騎士の上半身と下半身のほとんどが消え、頭と手足がわずかに残されるだけとなった。

 

「命を奪うことはよい。

 彼らはその覚悟でこの場へとおもむいた。

 しかし強きことを理由に弱き者を『虫けら』と罵ることが許されるなら、ワシはあえて言うてやろう」

 

 かつて見たことのない怒りと殺気を携えて、父さんは言った。

 

「おヌシらこそが、虫けらであると」

 

 それは魔竜殺しの七英雄の中でも『最強』と謳われた、規格外れの英雄の姿であった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。