スキマ妖怪、邁進す   作:りーな

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初めまして、りーな13です。
初投稿ですが、途中で途切れないように頑張ります。


架空は現実へ

「…あんまり来ませんでした、ね」

 

そう言ってモモンガは溜息を吐いた。

彼にとって、輝いていた日々を提供してくれたユグドラシル。12年にも及んだそれが終わるまであと10分もない。

かつてのメンバーへ最終日に集まらないかと呼びかけてみたものの、未だに引退せずに残っているメンバーを除いては、先程ログアウトしたヘロヘロが片手で数えられる集まったメンバーの内、最後のメンバーだった。

 

「まあ、仕方がないわよ。皆だって忙しいでしょうし」

 

そう言うのはモモンガと向き合うようにして座っているメンバーだ。

最後の最後まで残り続けた、モモンガ以外では唯一のメンバー。

プレイヤー名を『八雲紫(やくもゆかり)』という。

100年ほど前のシューティングゲームや二次創作で人気だった『東方Project』。その中に出てくる人外の存在、妖怪の内でも相当な力を持つ1人だ。

そのキャラを再現すべくユグドラシルを始め、PKを繰り返しつつ上位ランカーへ食い込んだ後、このギルドへと誘われたのだ。

ちなみに未だに東方Projectにハマっている一部の者達からは結構強い人気があったりする。

その入れ込み具合は凄まじく、メンバーの設定魔・タブラよろしく設定欄を一字の無駄もなく埋め尽くす程。

ネタビルドなのにギルド内でも最精鋭だったのは意外だったとは本人の言。

 

彼女もまた、ユグドラシルに見切りをつけられず残り続けてきた者だ。

 

「八雲さん…」

 

若干暗い雰囲気になったその空気を払うように、紫は少し声を張った。

 

「はい、ネガティブな思考はそこまでよ。もういい時間だし、折角なんだからそれ持って玉座の間で最後を迎えたら?」

 

それ、と言いながら紫が指差したのは、モモンガの背後にあるギルド武器。結局動かされることのなかった武器だ。

 

「…そうですね。最後なんだし、皆も許してくれるでしょう。八雲さんはどうするんですか?」

「私は第6階層の幽幻殿で最後を迎えるわ。折角手を掛けて作った場所だし」

 

まあ当然か、とモモンガは思う。彼女の入れ込み方は凄かった。流石にこれはしょうがない。

紫は特殊な指輪『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使い、第6階層にある『幽幻殿』へと転移した。

 

一瞬視界がブラックアウトし、全く違った視界が開ける。

視界に映ったのは和風の屋敷。元々は原作の紫達の住居を再現したのだが、いかんせん名称が不明だった。故に勝手に名付けざるを得なかった、再現を追求している彼女が苦い思いをした場所だ。

素朴だがそれなりに大きな屋敷で、周囲には濃い霧が漂っている。この霧はマジックアイテムと防衛システムの複合の産物で、決められた方向、決められた歩数の組み合わせで進まなければ侵入した場所へ強制的に戻される仕様になっている。

畳敷きの広間に一体のNPCが立っている。

幽幻殿の領域守護者、『八雲藍(やくもらん)』。原作では八雲紫の式として仕えていた九尾の妖狐だ。

八雲紫を再現した以上、藍も再現したかった彼女は仲間と相談しながらNPCとして組み上げた。外装は仲間に頼りきりで無理させてしまったと申し訳なく思っていたが。

座布団の上に正座し、ちゃぶ台にだらしなく頬杖をついて時間を待つ。視界の端に映る残り時間は既に1分を切っていた。

 

はぁ、と紫は溜息を吐く。

楽しかった。仲間とバカ騒ぎしたし、PKしたりもした。敵対ギルドを攻め潰した事もあるし、逆に攻め込まれたりもした。

でも1人、また1人と欠けていき、最後に残ったのは自分を含めて2人だけ。寂しい気持ちはあったが、同時に諦めてもいた。仕方がない、と。

そして最終日。集まった数はフルメンバーには程遠い。

仕方がない。仕方がないのだが、やはり寂しかったし惜しかった。

だが、それもあと少しで終わり。目を閉じて架空の世界の終焉を待つ。

あと5秒、4、3、2、1…0。

 

「…あら?」

 

終わらない。

おかしい。彼女はそう思う。幾らごねたところで、サーバーがダウンしてしまえばイン状態を維持し続けることは流石にできない。

訝しげな声を上げた彼女の鼓膜を、本来なら返るはずのない声が震わせた。

 

「どうなさいましたか?紫様」

 

びくり、と反応しそうになる体を精神力で抑え込み不自然にならない速度で声のした方を振り向くと、藍が心配そうな顔をして膝をついていた。

 

「…いえ、何もないわ。ありがとうね、藍」

 

口ではそう言ったものの内心は千々に乱れ、動揺の嵐だった。

当然の事ながら、NPCに自己判断を下して柔軟な応答をするAIなど存在しない。表情の変化など以ての外だ。あまつさえ勝手に動くなど。

ユグドラシルにはあるはずもないNPCの反応に内心で戸惑う紫に、奇妙な感覚があった。

例えるならば、粘着質な糸が引っ付くと言ったところか。

 

『八雲さんですか?!やっと繋がった!』

「…モモンガさんかしら?」

 

つい数分前に別れた相手だ、間違えようもない。

 

『そうですよ!いやぁ、良かった…。今変な事が起こっててですね…』

「NPCが動き出した、とかかしら?こっちでも起きてるわ」

『あ、やっぱりですか。これからセバスに命じて外を探索させるつもりなんですが、どう思いますか?』

「良いんじゃないかしら。ついでに藍も向かわせるわ、能力的にも十分でしょう」

『…そうですね。じゃあお願いします』

「了解よ、ギルドマスター」

 

少し茶化すと、若干固かった雰囲気が和らいだのを感じた。

繋がっている「何か」を切り、話を打ち切る。

恐らくさっきのは《メッセージ/伝言》の魔法だろう。NPCが動き出すという異常に合わせて魔法の仕様も変わっているらしい。

 

「藍」

「何でしょう、紫様」

「モモンガさんがセバスをナザリックの外に偵察に出すらしいから、貴方も付いていきなさいな」

「畏まりました」

「無論、生きて帰るのは必須よ?」

「承知しております」

 

藍は一礼して虚空へ手を翳す。するとその空間に切れ目が入り、広がった。切れ目の中から大小様々な無数の目が覗いている。

思わず動揺からぴくりと紫の腕が動いた。

再び一礼し、藍はその切れ目へ姿を消した。切れ目は何事も無かったかのように綺麗に塞がった。あれは「スキマ」だ。原作では紫と藍の2人だけが使えるもの。

当然、あんなものスキルには無い。というか、あってたまるか。

でも、何らかの原因があるのは確実。藍のNPCを作った時の事を思い出しながら首を傾げること20秒足らずで紫は答えを得た。

 

「…設定が現実化している?」

 

藍の設定に色々と書き込んだが、その中に「『スキマ』を扱える」という主旨の記述をした覚えがある。

 

「…まさか」

 

紫は藍がしたように手を翳す。

設定に書き込めるのはNPCとプレイヤーのみ。

紫は書き込んでいた。しかもびっしりと。

果たして、中空にスキマが開いた。

 

「『境界を操る程度の能力』…まさか設定欄の記述が適用されるのがNPCだけではないとは、ね」

 

これは良い。意味不明な事柄が続いているが、それを差し引いても再現に拘ったコアなプレイヤーとしては嬉しい出来事だ。

スキマの中に身を入れ、入り口を閉じる。

ありとあらゆるところに取り留めもなく大小様々な目が浮かんでいる、何とも奇妙な空間だ。

だが、不思議と不快さや恐怖は感じなかった。むしろ「戻ってきた」というような充足感があった。

一度認識してしまえば、元々自分の能力であったかのように、息をするように使いこなせる。

スキマの中の目の内の一つを覗き、円形闘技場(アンフィテアトルム)の様子を観察する。

そこではモモンガがNPCの姉弟であるアウラとマーレを連れ、的代わりの藁人形に《ファイアボール/火球》を撃ち込んでいた。

 

「ユグドラシルの魔法は問題なく使用できるのね。これで幾分か取れる行動が増えるわね」

 

そう呟き、モモンガの横へスキマを開いて現れる。

 

「お楽しみね、モモンガさん」

 

びくぅ、と面白いほどに白骨の体が跳ねた。

 

「や、八雲さんですか…びっくりさせないでくださいよ」

「あら、ごめんなさいね」

「絶対思ってないでしょう…ところでそれ、何です?ユグドラシルには無かったはずですが」

「あ、これ?『スキマ』って言うのよ」

「へぇ…」

 

しげしげとスキマを眺めるモモンガに《メッセージ/伝言》を繋げる。

 

『モモンガさん』

『…今度は魔法での秘密会談ですか?』

『そうよ。さっき「ユグドラシルには無かったはず」って言ったわよね』

『言いましたね』

『全くもってその通り。推測だけど、設定欄に書き込んだ内容が反映されている』

『……え?』

『だからあんなユグドラシルには無かったものが扱えるのよ。妙に馴染んでるし』

『…て事は、まさか…』

『ん?どうしたのよ』

『…最後だからって、アルベドの設定を弄ったんですよ』

『へぇ。それ、反映されてるでしょうね。どう弄ったのよ』

『…、……最後の一文の「ちなみにビッチである」を「モモンガを愛している」に…』

 

紫は吹きかけた。

 

『…それはまた、凄い弄り方したわね』

『うぅ、言わないでください』

『……ところで、こんな所で何してんのよ』

『ユグドラシルの魔法がちゃんと使えるかの実験を。あと、守護者達を集めて彼らの忠誠が私達にあるかどうかの確認ですかね』

 

露骨な話題の変化に乗ったモモンガを生温かい目で見やり、アルベドの恋路を応援する事を決めた紫はちらりとこの第6階層の守護者であるアウラとマーレを見やる。

アウラはきらきらとした目、マーレは設定故か若干怯えた目でモモンガと紫を見ていた。

二人からは悪意の類は感じられない。むしろ逆、忠誠を限界突破して崇拝の念にまで至っていそうな感情が読み取れた。

紫にそんな意識は無いが、NPC側からしてみればギルドメンバーは自分達の創造主。いわば神のような者だろう。そんな相手に害意を抱くとは考えにくい。恐らくは他の守護者を含めたNPC一同も同様だろう。もしかしたら、ナザリックに配置されているNPC以外のモンスター達も。

根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)と戦うアウラとマーレを眺めながら、ある程度の推測を立てる。

ふと、こんなに自分は頭の回る奴だったかと疑問に思い、次の瞬間にはその疑問は氷解する。

これも設定だ。「並ぶ者が無いほど恐ろしく頭が良く、特に数字に強い」。この影響だろう。

数字が微塵も関係しない事柄でこれだ。数字が絡むとどこまで行くというのか。

 

『紫様』

 

鼓膜ではなく、頭に直接響く声。《メッセージ/伝言》だ。

声を出さずに応答する。出してもいいが、極力アウラやマーレには悟られないようにした方がいいだろう。

藍の声には若干の戸惑いがあった。

 

『どうしたの?藍』

『…ナザリックの周囲は草原でした。現時点では知性を持つ存在は確認できていません』

『草原?…確かナザリックは沼地に存在していたのではなかったかしら』

『そのはずです…ですが、周囲は見渡す限り草原です』

『…そう、引き続きセバスに同行して周囲を探りなさい』

『畏まりました』

 

藍との《メッセージ/伝言》が切れる。それを確認し、再度モモンガへ《メッセージ/伝言》を繋ぐ。

 

『モモンガさん』

『5分と経たぬ内に第二回・魔法による秘密会談開催ですか』

『茶化してる場合じゃないわよ』

『…その反応は、藍辺りから外の情報を貰いましたか』

『ええ。ナザリックは毒の沼地が囲むダンジョンだったはずよね?』

『安心して下さい、覚え違いではないですよ。…ナザリックごとどこか別の場所へ移動したとしか考えられませんね』

『やっぱり…そうよねぇ…』

 

はぁ、と溜息を吐き、《メッセージ/伝言》を切る。横ではモモンガが双子に冷水をコップに入れて手渡していた。

 

《ゲート/転移門》で現れた第1〜3階層守護者のシャルティアと喧嘩し始めたアウラを見守っていると、次に現れたのは第5階層守護者のコキュートス。

それから1分もしないうちに残りの守護者である第7階層担当のデミウルゴス、守護者統括のアルベドが揃い、存在自体が管理層の第8階層のギミックの一部であるヴィクティムとそもそも大きすぎて動けないガルガンチュアを除く守護者全員が一堂に会した形になった。

コキュートスが口にした「盟友」––––––恐怖公は階層守護者ではないので除外だが。

 

「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

階層守護者が揃った事を確認したアルベドの声に、一斉に守護者が頷く。

アルベドを前に立て、少し下がって守護者が横一列に一直線に並ぶ。さっきまでのどこか弛緩した空気は皆無だった。

端に立つシャルティアが一歩前に進み出た。

 

「第1、第2、第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

跪いて胸元に片手を当て、頭を下げる。

それに残りの守護者が続く。

 

「第5階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

「第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

「お、同じく、第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」

「第7階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

「守護者統括、アルベド。御身の前に」

 

アルベドはモモンガには微笑みを向け、紫には他の守護者と同様の、しかし微かな嫉妬を含んだ表情を見せた。

彼ら曰く「至高の御方々」の一員である紫がモモンガの隣に女性的な意味で立つのを狙っていると思ったのだろうか。シャルティアの方がそういう意味では警戒した方がいいと思うが。

 

「第4階層守護者ガルガンチュア及び第8階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御方々の前に平伏し奉る。……ご命令を、至高なる御方々よ。我らの忠義全てを御方々に捧げます」

 

身じろぎもせずに待機する守護者達の無意識かつ強力な威圧に耐えかねたのか、《メッセージ/伝言》を使ってモモンガは紫に相談を仕掛けた。

 

『…どうしましょう。何か凄い評価になってます』

『取り敢えずスキルの一部を使って上位者っぽい雰囲気を醸し出したら?貴方は守護者達の忠誠心に感動してるでしょうから、知識の中にある「らしい」口調に合わせてその心の内を吐露するだけよ』

『…簡単に言ってくれますね』

 

そう言いながらもモモンガは《メッセージ/伝言》を切った。踏ん切りが付いたのだろうか。

助言通りスキルを使い雰囲気を演出。口調も変えている。声が若干低くなっているのは、あくまで「演じて」いるからなのか。まあ、そのうち慣れるだろう。

「何らかの異常」の説明をしている最中にセバスと藍が小走りで戻ってきた。

2人から正式に齎された情報は、やはり眉が顰められるのを抑える事が出来ないものだった。

 

曰く、周囲1キロは草原。

曰く、戦闘能力がほぼ皆無と思われるもの以外の生命体は発見できず。

曰く、天空城等を含む人工建築物は確認できず。

 

聞けば聞くほど頭が痛くなる話だ。

明らかにナザリックのあった場所ではないし、ユグドラシル内かも怪しい。

紫が何が起きたのかを考えている間にも、モモンガは意外にも適切な指示を飛ばしていく。紫は緊張してボロが出るかと思っていたのだが。

最後にモモンガの「私と八雲さんをどう思うか」という質問に対する、守護者達を含めたNPCの過大すぎて最早別人と化している評価を聞いて「忠誠の儀」は終わった。

 

『八雲さん、この後レメゲトンに来てください』

『了解よ』

 

《メッセージ/伝言》による転移場所の指定。恐らくは演技をやめて話したいのだろう。

モモンガが指輪で転移するのと同時に、いっそ不気味なまでに馴染んでいるスキマでレメゲトンへと向かった。

 




・ゆかりんの喋り方
 中の人は素です。

・案外演技が上手いゆかりん
 ロールプレイはお手の物。

・聡明さ&能力を手に入れたゆかりん
 この2つがないゆかりんは充電の全く無い携帯と同じ。

・何気にモモンガに全部やらせるゆかりん
 基本は裏から胡散臭く。
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