スキマ妖怪、邁進す   作:りーな

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シャルティア洗脳という一大イベントが無くなったので、大幅に改変。


偽装

「…成る程、ワールドアイテムですか…」

 

傾城傾国を左手に持ち、右手を顎に当てて唸るアインズ。

そこには苦々しさと苛立ちと、そして警戒心が多分に含まれていた。

 

「精神支配の力を持つ厄介な物ね。ごめんなさいね、先にその可能性を伝えておけば良かったわ」

 

端整な顔を歪め、後悔の念をありありと浮かばせる紫に、アインズはいやいやと手を横に振った。

 

「八雲さんが警戒、そして対処していなければ、今頃シャルティアは洗脳されていたでしょう。それを思えば八雲さんの失態は帳消しになって余りある」

「…そう言ってもらえると気が少し楽になるわね」

 

アインズが、ふぅ、と安堵を分かりやすく滲ませた溜息をつく。

 

「取り敢えずは階層守護者を全員呼び戻して、事情を伝えた上でワールドアイテムを渡しておきましょう。ワールドアイテムを持ってさえいれば、無効化できますから」

「そうね。あとは奪われないようにだけ注意しておけば良いと思うわ」

「傾城傾国は…取り敢えず、宝物殿の最奥に収めておきましょうか」

「という事は、アインズさんはあの黒歴史(パンドラズ・アクター)と会うことになるのね」

 

びっくーん。

面白いほど分かりやすく肩が跳ねたアインズに、紫は悪戯っぽい笑みを浮かべる。こういうのは突っつかねばなるまい。

妙な使命感に駆られた紫は、更に追撃を開始する。

 

「色々設定してたわよね、ドイツ語とか」

「うっ」

「装備も軍服、しかもネオナチ親衛隊のを着せて」

「ううっ」

「『Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)』とか言いそうよねぇ」

「うううっ…おぅふ」

「あ、強制精神鎮静」

 

これ位にしておくか、と紫は思う。

ユグドラシル時代にもよくパンドラ関連で弄りまわしていたが、こっちに来てからは本当に動いているだろうという事もあって、弄り甲斐が増している。

強制的に精神鎮静化したにも関わらず頭を抱えて「うがー」と言いながら悶絶する骸骨の頭を紫は引っ叩き、さっさと行け、と言わんばかりに促す。

お前のせいだという非難の視線をまるっと無視し、面倒だったのでアインズの足元にスキマを開いて強制的に宝物殿に落とした。

紫の耳に「何してくれてんですかあぁぁぁ…」という何処ぞの骸骨の断末魔の叫びが聞こえたような気がしたが、幻聴だろう。余人はいざ知らず、紫はそう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当に…よくもやって、くれましたね…」

「文句が言えるならまだ大丈夫ね。もう一回行っておく?」

「断固として拒否します」

 

種族特性として疲労無効を持っている癖に妙に疲れたアインズに向かい、相も変わらず軽口を叩く紫。

紫が宝物殿ではどうだったか聞くと、アインズは体をぴくぴくと軽く震わせた。

紫としては面白い。とっても面白い。先程のように少し突っついたらもっと面白いだろう。でも生まれたての小鹿の如く足腰諸共体を震わせる姿を見ては、弄るに弄れないではないか。

心の傷口に塩どころか再度刃を突き立てる行為を寸前で止めた紫は、ぴくりとアインズが反応し、何処か遠くに意識を向けるのを視界に捉えた。

恐らくは《メッセージ/伝言》による会話であると当たりをつけた紫は、アインズが何かアクションを起こすまで無言で待つ。

やがて紫に向き直ったアインズは、真面目さの滲む声で端的に告げた。

 

「ナーベラルから、組合長が指名依頼で呼んでるとのことなので行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死を撒く剣団の討伐、ねぇ…』

『シャルティアに潰すよう命じた野盗団ですよね』

『そうね。間違いないわ』

 

組合長からの依頼。

それは死を撒く剣団と呼ばれる、戦時は傭兵、平時は盗賊となる野盗団の討伐だった。

戦時中は戦力として重宝するものの、帝国と王国の戦争は大概が睨み合いで済む、半ば形骸化したもの。ほぼ一定周期で行われるとはいえ、平時の被害が大きすぎた。ここで大きすぎなければ見逃していたという事実がある辺り、王国の闇と腐敗具合が窺える。

アインズらだけならばまだ誤魔化しようは幾らでもあった。が、今回は他のミスリル級チーム────アインズらはズーラーノーンと名乗る秘密結社を踏み台にして、一気にそこまで駆け上がった────まで一緒にいるという。

あの洞窟の破壊痕は消していないし、ましてや血痕なんて放置である。面倒な事になるのは目に見えていた。

 

『…どうしましょう?』

『そうね…死体を2つ、それと自然湧き(POP)するアンデットを大量に使っても良いのなら、やりようはあるわ』

『それでお願いします』

『決断早いわね。そっちで全部滅ぼしてくれれば良いわ』

『分かりました』

 

魔法を切る。うぅん、と伸びをしてから、紫はシャルティアに向けて《メッセージ/伝言》を使った。

 

『シャルティア?これからレベル15位までのアンデットを取り敢えず大量に集めてくれるかしら?それが終わったら連絡を頂戴。スキマを開くからその中に進軍させなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルから派遣されたミスリル級冒険者チーム。その合計は4。

『天狼』『虹』『クラルグラ』そして『漆黒』。

彼らは一様にある洞窟へ向けて突き進んでいた。

死を撒く剣団。そう呼ばれる野盗の塒となる洞窟である。見過ごせないレベルになってきたその被害に、遂に重い腰を上げた結果がこれだった。

半ば過剰戦力とも思えなくもないが、近くには鬱蒼と茂った森がある。例えば『漆黒』のリーダーであるモモンが乗る森の賢王のような、強力なモンスターが現れる事を考えれば、ある意味で妥当な戦力とも言えた。

やがて一行は目的の洞窟の前に着く。しかしそこに広がっていたのは、およそ彼らが想像していたものとはかけ離れていた。

盆地に建てられた物見櫓に、頑丈そうな防壁に、洞窟の入り口近くに。

ありとあらゆる場所にべったりと、酸化して黒く変色した血が大量にこびり付いていた。

誰かの襲撃があった事は明らか。しかも、人ならざるものであると容易に想像がついた。

各々が得物を構え、辺りを警戒する。

モモンに何かと食って掛かるイグヴァルジをリーダーとするクラルグラが洞窟内を先行し、他の者たちは少し下がって様子を見ることになった。

無論そこには、モモンよりも先に手柄を立ててやろうというイグヴァルジの意向が強く反映されていたのは言うまでもない。

そんなイグヴァルジは注意深く、しかし内心は舞い上がらんばかりに高揚しながら洞窟内にチームメンバーと共に進入し────

 

────何が起きたのかも察知できずに吹き飛ばされた。

 

入った途端に吹き飛んで帰ってきたクラルグラの面々に全員が一瞬度肝を抜かれるも、すぐさま臨戦態勢に入る。

イグヴァルジは頭の左半分を砕かれ、その亡骸を晒していた。他のメンバーも似たようなものだ。

ズン、ズンと重い存在が歩く足音が響き、クラルグラを一瞬で無残な姿に変えた存在が姿を現した。

幾本もの棘が突き出した漆黒の鎧を身に纏い、右手には巨大なフランベルジェ。そのフランベルジェに見合った大きさの体躯すらほとんどを覆い隠すタワーシールドを左手に携えている。その顔は朽ちたもので、呼気は瘴気を伴っていた。

死の騎士(デスナイト)』。その存在を知る者からは推定難度百以上とまで言われる、伝説級のアンデッド。

 

「オォォォァァアァアアアア────────!!!」

 

咆哮。

デスナイトはただ吼えただけである。それだけで、その場にいる冒険者たちの過半数が委縮し、恐怖した。埋まることのない絶対的な差というものを知って。

しかし、止まらない者達もまた存在するのだ。

転移かと見紛う程の神速の踏み込みと共に、モモンが二振りのグレートソードを以てデスナイトに斬りかかる。

デスナイトは余裕を持ってタワーシールドでそれを防ぎ、お返しとばかりにフランベルジェが振るわれる。

それを身を屈めて回避したモモンに対し、次撃としてタワーシールドを叩き付ける。

それをあえて双剣を交差させて受け止めたモモンは、しかし踏み止まるようなことはせずに、力の流れに従って後方へ大きく飛び退る。

それを追うようにして今度はデスナイトの方から接近し、剣と盾の両方を用いた連撃が人外の膂力と無限の体力を以て繰り出される。

モモンはそれを躱し、いなし、或いは弾き返しと、次々に捌いていく。

そこで漸く立ち直った他の冒険者たちがモモンをサポートしようとして、

 

「《ライトニング/雷撃》!」

 

────横槍が入る。

振り向いた先に居たのは、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。魔法を使ってきた時点である程度予測できたことではあったが、そこから先は完全に予想外だった。

洞窟内から、最初はぽつりぽつりと、後から後から続々とアンデッドが湧き出してくる。一体全体何処にいたのかと聞きたくなるくらいに。

一体一体はさほど強いとは思わないアンデッドが多い。時々骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)などの強力なアンデッドが混ざってることがあるが、彼らミスリル級冒険者にとっては許容範囲だ。しかしその後ろのエルダーリッチから飛んでくる魔法はいただけない。

配下であるはずのアンデッド達を巻き込んだ《ファイアボール/火球》や《ライトニング/雷撃》、召喚による強力なアンデッドの追加。乱戦中に何処からともなく飛来する、無詠唱化されて詠唱の声で察知できなくなった《マジック・アロー/魔法の矢》。更には、攻撃頻度にも緩急をランダムでつける厭らしさ。

奇妙なまでに立ち回りが狡猾すぎるエルダーリッチに、次第に冒険者たちは疲弊を隠せなくなってきた。

その間にも、モモンとデスナイトの戦いは続く。近付いたアンデッドが何時の間にか細切れになるほどの剣撃の嵐を生み出しつつ。

 

叩き付けられたタワーシールドを横に飛び退って回避し、デスナイトが続けて振るったフランベルジェを受け流し、更に後ろから押して加速させる。

いかなアンデッドとはいえ、自身の攻撃速度よりも更に速さを増したフランベルジェを制御できず、デスナイトは姿勢を崩す。そしてその隙をモモンは見逃さなかった。

一閃。

デスナイトの右肘から先が斬り飛ばされ、フランベルジェが宙に舞う。

痛みに無縁なアンデッドであるデスナイトは怯むことなく怒りの咆哮を上げ、残った左手に握りしめたタワーシールドを全力で押し出した。

まともに受ければ、モモンの全身鎧に包まれた体躯すらひしゃげ飛びそうな剛撃。

死の一撃をモモンは片方のグレートソードを地に突き立て、その刃の腹を蹴って(・・・・・・・)横に急加速し回避する。

近場に居たアンデッドを蹴り飛ばして方向を変え、さらに加速。

デスナイトはタワーシールドを引き戻そうとするが、その腕は伸びきっている。全力の一撃ゆえに隙も大きかった。

一瞬の交錯。デスナイトの首が横にずれ、偽りの生命力を全て失った体は地に倒れ伏す前に消失する。

その瞬間、音が消えた。ミスリル級冒険者達も、エルダーリッチも、知性の無い低級のアンデッド達ですらも。死を体現した騎士を討ち果たした男を、敵味方の区別なく一様に見つめていた。

 

「…さて、残りは先程のアンデッドに比べればまだ楽だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスリル級冒険者『天狼』リーダーのベロテは、エ・ランテルに到着した今も―――もしくは安全地帯に着いて気が抜けたからこそ―――、生あることへの喜びを噛み締めていた。

正直言えば、ベロテは生きて帰れるとは思っていなかった。あの死を濃密に纏ったアンデッドが現れた瞬間に、無意識の内に己から命を手放しかけていたのだ。

あのアンデッドによって殺された『クラルグラ』の面々の亡骸はついぞ見つからなかった。アンデッド共に貪られたか、それとも踏み潰されて肉塊と化したのか。

ベロテは先の死地の戦いを思い出す。死の化身の如きアンデッドと剣を交え、あまつさえ勝利を勝ち取った男の戦いを。

 

「モモンさん、か…」

 

無意識の呟きに敬称が付いたのは自然な事だった。あの戦いを見て尚、敬意を込めてモモンの名を呼ばないものがもしいたら、ベロテはその者を殴り倒したことだろう。

ベロテは思う。

あの男のような者を、人々は尊敬と憧憬を込めて『英雄』と呼ぶのだろう、と。

 

 

 

その後、エ・ランテルの冒険者組合は確認されたアンデッドの騎士の詳細を知る為、王国の冒険者組合所属のアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』『朱の雫』に件のアンデッドの情報提供を要請。

その結果、『蒼の薔薇』所属の冒険者であるイビルアイの証言により、死の騎士(デスナイト)と呼ばれる、難度にして百を超えるアンデッドであると判明。

冒険者チーム『漆黒』がアダマンタイト級へと昇り詰めるのを止める者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミスリル級、つまり現地世界での強者の部類に入る者の死体が手に入ったのは僥倖だったわね」

「デスナイトとエルダーリッチの作成に使用した死体が2体、その他のアンデッドは時間経過で補充可能ですからね。手に入った死体は5体。差し引きプラスです」

「おまけに『漆黒』がアダマンタイト級まで行ったわ。異例の昇進らしいわね。今回はいいこと尽くしね」




・いじめっ子ゆかりん
人の黒歴史突っついて楽しむサディスト。
そしてスキマを使った即席の落とし穴。(心臓がある奴には)心臓に悪い。

・偽装ゆかりん
デスナイトとエルダーリッチを作成して投入。
現地勢からすれば絶望的な組み合わせ。
ちなみにゆかりんは死霊系魔法を取得していない上に、アンデッド作成が行えるクラスを保有していません。
新たなチート要素の片鱗が垣間見える。
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