入学式兼始業式の後は休み時間になり、学級活動の時間だ。
やっぱりと言うか、休み時間になると、僕の周りにはクラスメイトが集まって来た。
何処の街に居たのか、何処に住んでいるのか、何か部活はしてたか等々、色々聞かれた。
学級活動は明日からの予定と、学校側からの案内などで済み、お昼前には全部が終わった。
「今日は人気だったな、テイ」
チノとマヤ、メグの三人と一緒に帰ってると、マヤがそう言ってくる。
「単純に転校生ってのが珍しいだけだよ。明日になれば興味が減って、一週間も経てば興味なんて無くなるよ」
「なんか珍獣が来日した様な感じですね」
「私知ってる!エリマキトカゲとかだよね!」
メグの話は何処かズレてる気がする。
でも、珍獣か。
言い得て妙だな。
そう考えていると、今朝、二人と出会った所に着き、ここで僕とチノ、マヤとメグの二組に分かれる。
「じゃあな、チノ!テイ!」
「また明日~」
二人に手を振り、僕とチノは家に向かう。
「今日はお疲れさまでした」
「転校生とか小学校の時、一回だけ見たことあるけど、まさか自分が転校生になるとは思わなかったよ」
そんなことを話しながら、店の扉を開ける。
「あ!おかえり~!」
店の中ではココア姉が制服で店の掃除をしていた。
高校生はもう入学式は終わったのかな?
「ただいまです」
「ココア姉、ただいま」
僕はおかえりの抱擁をしてくるココア姉の顔を見て尋ねる。
「ココア姉、高校はどうだった?」
するとココア姉は固まり、そっぽを向いた。
「この街って可愛い建物が多くて素敵だよね!」
「あ、うん。そうだね……」
「……ココアさん、高校はどうでしたか?」
「まるで童話の中の街みたいだよね!」
「………」
「………」
露骨に高校の事を話そうとしないココア姉に、僕とチノは顔を見合わせ、一緒に尋ねる。
「「高校の方はどうだった(でした)?」」
「聞かないで!」
どうやら入学式の日を間違えたみたいだ。
本当は明日だって。
「チノちゃん、お店に大きなオーブンとかってないかな?」
翌日、学校が終わり、店の手伝いをしてるとココア姉がチノにそう尋ねた。
「大きいオーブンですか?それならありますよ。昔、お爺ちゃんが調子に乗って買ったのが」
「本当!?今度のお休みの時、皆で看板メニュー開発しない?」
「ココア姉、もしかしてパン作るの?」
コーヒーカップを洗いながらココア姉を見る。
「うん!今日、学校帰りにパン屋さんでパン見たら、作りたくなっちゃった!」
「パンか……そう言えば最近作ってないね」
「パン作るんですか?」
チノがそう聞いて来た。
「うん。うち、実家がパン屋なんだ。店の手伝いとかで作ったりするよ」
「焼きたてパン、すっごく美味しいんだ!」
「話ばっかしないで仕事しろよー」
リゼさんがココア姉の後ろを通りながら、そう言うと、リゼさんの方からお腹が鳴る音が聞こえる。
リゼさんは顔を真っ赤にしていた。
「……リゼさん、焼き立てのパンは凄く美味しいですよ」
「そ、そうだな……」
休みの日。
皆で“ラビットハウス”の看板メニューとなるパンを作ることになり、僕とチノ、ココア姉にリゼさん、そして、ココア姉の友達がキッチンに集まった。
「同じクラスの友達の千夜ちゃんだよ!」
「今日はよろしくね」
「で、チノちゃんとリゼちゃんに、私の弟のテイ!」
「よろしくです」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「あら?そのワンちゃんは?」
千夜さんが、チノの頭の上に居るティッピーを見てそう言う。
「犬じゃありません。ティッピーです」
「この子はただの毛玉じゃないんだよ!フワフワ感が最高なんだ!」
「まぁ、癒しのアイドル毛玉ちゃんね!」
(誰かアンゴラウサギだってツッコめよ………)
一しきりティッピーと戯れると、パン作りを開始する。
「みんなパン作りをなめちゃいけないよ!少しのミスが完成度を左右する戦いなんだよ!」
ココア姉が麺棒を手に熱く語る。
「ココアが珍しく燃えている……!このオーラ、まるで歴戦の戦士のようだ……!今日はお前に教官を任せた!よろしく頼む!」
「サーイエッサー!」
「私も仲間に!」
「暑苦しいです」
「いいから始めようよ」
「それじゃあ各自パンに入れたい材料提出ー!」
「イエッサー!」
「サ、サー!」
「暑苦しい……です」
それぞれ自宅から持ってきたパンに入れる材料を取り出す。
「私は新規開拓に焼きそばパンならぬ焼きうどんパン作よ」
「私は自家製の小豆と梅と海苔を持ってきたわ」
「冷蔵庫にいくらと鮭と納豆とごま昆布がありました」
「私はイチゴジャムとマーマレードと……ってこれってパン作りだよな?」
「ご飯が欲しくなるラインナップですね」
ちなみに僕が持参したのはチョコチップだ。
「じゃあまず、強力粉とドライイーストを混ぜてー」
「ドライイーストってパンをふっくらさせるんですよね?」
「よく知ってるねぇ。チノちゃん偉い偉い!乾燥した酵母菌なんだよ?」
「こ、攻歩菌!?」
酵母菌の名前を聞いた瞬間、なぜかチノは青ざめ震えだす。
「そ、そんな危険なものを入れるくらないならパサパサパンで我慢します!」
チノは、一体何を想像したんだろう?
生地の材料を全部入れると後は一気に材料を捏ね、生地を作る。
「パンをこねるのってすごく力がいるんですね」
「腕が……もう動かない……」
「千夜さん、あまり無理しないでください。パン生地を捏ねる作業って本当に力が居るんで、無理すると筋肉痛になるんで」
「リゼさんは………平気ですよね」
「なぜ決めつけた?」
決めつけた理由は何となく察しが付くけど、絶対に言わないでおこう。
リゼさんが傷付きそうだし。
「で、ココアさんは……!?」
チノがココア姉の方へと振り向くと、ココア姉の周りには先程よりもメラメラと炎が燃え上がっていた。
久々のパン作りで張り切ってるな~
「このときのパンがもちもちしててすごくかわいいんだよ!!」
「すごい愛です」
その後、なんとか生地は完成し、それを一時間程寝かせる。
生地を1時間程寝かせた後、形を作っていく。
クロワッサンや渦巻き型や団子型などなどいろんなものを作っていく。
「チノちゃんはどんな形にするの?」
「おじいちゃんです。小さな頃から遊んでもらっていたので……」
「おじいちゃん子だったのね」
「コーヒーをいれる姿はとても尊敬していました」
「みんなー、そろそろオーブン入れるよー」
「……ではこれからおじいちゃんを焼きます」
さらっと怖いこと言ったな………………
オープンに生地を入れてからと言う物、チノはずっとオーブンの中を眺めていた。
「チノちゃんはさっきからオーブンに張り付きっぱなしだねー」
「パンを見ててそんなに楽しいか?」
「はい。どんどん大きくなってきてます。あっおじいちゃんがココアさんと千夜さんに抜かされました!」
「おじいちゃんもガンバレー!」
「リゼさんだけ出遅れています。もっと頑張ってください」
「私に言うなよ」
どう頑張ればいいんだろう……………
そう思ってると、ココア姉がコーヒーを千夜に持ってくる。
「千夜ちゃんにおもてなしのラテアートだよ!」
「まぁ!すてき!」
「今日のは会心の出来なんだ」
「味わっていただくわね」
千夜さんはココア姉の作ったコーヒーを飲もうとするが、
「あっ!あぁー……傑作が……」
ココア姉の言葉に凄く飲みにくそうにしてた。
それから暫くすると、パンが焼き上がり、オーブンから取り出す。
「みんな焼けたよー!さっそく食べよー♪」
それぞれ自分の作ったパンを一口食べる。
「……!美味しい!」
「いけますね」
「これは納得のいく味だ」
「これなら看板メニューに出来るよ!この焼きうどんパン!」
「この梅干しパン!」
「このいくらパン!」
「このチョコチップパン!」
「テイのはともかく、どれも食欲はそそらないぞ……」
本人たちは喜んでるし、味自体は問題なんだと思う。
商品に出来るかは別として……………
「そう言えば、ココア姉。まだ他に焼いてたけど、アレは何?」
「実はね…………ジャーン!ティッピーパン!」
そう言ってココア姉が出したのはティッピーの形をしたパンだった。
「「「おぉーー!」」」
「看板メニューはこれで決定だな」
「食べてみましょう」
「もちもちしてる……」
「えへへー美味しく出来てるといいんだけど」
一口食べてみると、中にはイチゴジャムが入っていた。
「中身はイチゴジャムか」
「うん!リゼちゃんが持ってきたイチゴジャムを入れてみたの!」
「これも美味しいわ♪」
うん、美味しい。
見た目のよく出来てるし、看板兎であるティッピーの名前が付いてるし、看板メニューには申し分ないと思う。
ただ…………イチゴジャムの所為でとてもエグイパンになってるけど……………
「あの、テイさん」
「ん?何?」
千夜さんとリゼさんが帰り、三人で後かダ付けをしてるとチノか声を掛けて来た。
振り返ると、チノは恥ずかしそうに手に何かを持っていた。
「これ、テイさんに上げます」
「パン?」
「はい、一つだけ別に作ってまして、よかったらテイさんに味を見てもらおうと」
差し出されたのは見た目は普通のパンだ。
一体何パンだろう?
「ありがとう、チノ。頂くよ」
パンを受け取り一口齧る。
「あの………どうですか?」
チノが不安と期待、半々と言った感じに聞いて来る。
「………チノ、このパンって」
「はい。沢庵パンです!冷蔵庫に余っていたので作ってみました!」
はっきり言うと、あまり美味しくない。
だけど、チノのこんな顔を見ると……………
「うん。美味しいよ」
そう言うと、チノは嬉しそうな表情をする。
僕はその笑顔に見つめられながら、沢庵パンを食べた。
少し気持ち悪くなったがそこは男のプライドと根性で堪えた。