ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
もう一つの方にかまけすぎた反省
"造物主の決闘"の決勝戦の舞台に用意されたのは巨大な樹木の根に囲まれた迷路。ギフトゲーム名"アンダーウッドの迷宮"が開始された。
耀の対戦相手は"ウィル・オ・ウィスプ"のプレイヤー、アーシャ=イグニファトゥスと彼女の作品と思しきジャック・オー・ランタン。
耀は相手の攻撃が天然ガスを発火させたモノだと素早く見抜き、そして持ち前の鋭い五感でゴールを見抜くこともできて途中までは有利に進めることができた。
しかし、先程まで彼女の付き従っていたジャック・オー・ランタンが喋り出す。てっきりアーシャが操っていたものかと思えばそういうわけではなかった。やつは先行していた耀の目の前に突然現れて行く手を遮る。そして敵プレイヤーであるアーシャに先を越されたしまった。
実はこのジャック・オー・ランタンこそ耀が警戒していた"ウィル・オ・ウィスプ"リーダーであるウィラ=ザ=イグニファトゥス製の大傑作。世界最古のカボチャ悪魔、ジャック・オー・ランタンだったのだ。
ジャックは耀のギフトの正体すら見破り、おまけに不死の怪物。
耀は今の自分に勝ち目はないと悟ってリタイヤを宣言した。
「一つお聞きしても?」
割れんばかりの歓声の中で、ジャックは穏やかな声音で耀に問う。
「このゲームは一人だけ補佐が認められています。同士に手を借りようとは思わなかったのですか?」
耀はその問いに一瞬戸惑って、そしてステージの端っこにいるツナに目を向けた。
最初は頼りなさそうに見えたあの少年に前回のギフトゲームで二回も助けられたが、自分は彼に対して何か助けになるようなことは何もできなかった。
「……私一人で勝ちたかったから」
「それが悪いことであるとは言いません。しかしこうは思いませんか? 『今回誰かがサポートに居ればその誰かに私の相手をさせて自分が先へ行くことができて勝つことができた』……と」
(確かに、ツナだったら)
彼なら例え不死の怪物相手だったとしても耀がゴールするまでの時間を稼ぐくらいきっとやってのける。
「今回の様に、コミュニティで生きていくうえで誰かと協力するシチュエーションというのは多く発生するものですよ」
「……助けられてばかりで辛いって思ったら?」
「ならその分だけ助けておあげなさい。どれ程強くても、どれ程賢くても、一人で物事を行うのには限界があるのです。例えば愛しの彼だってそうでしょう」
ジャックが顔を向けたのはツナ。向けられた本人は少しビビッている。
顔がカボチャをくり抜いただけにしか見えないが、もしジャックが人間であればきっとニヤニヤ笑っていることだろう。
「~~っ!? ツ、ツナとは別にそういう関係じゃ」
「おやおや? 別に
「おい、オマエ! ……何で顔真っ赤にしてんだ?」
アーシャの指摘に穴が入ったら入りたい気分になった耀であった。
◆
「えっと、お疲れ。残念だったね」
戻ってきた耀に対して労いの言葉を掛けるツナ。耀は冷静さを取り戻すのに少しかかったがとりあえず顔色は普通の筈だ。
「ごめん、負けちゃった」
「仕方ないよ二対一だし」
ジンとレティシアも労いの言葉を掛けようとしたが、空気を読んで一歩さがった。
「お疲れ様でした耀さん」
審判をやっていた黒ウサギは舞台を降りて様子を見に来たようだ。
「次はツナの番、頑張って」
「うん……うん?」
気づいたのはツナだけではない。上空から雨のように降ってくる黒い
「こ、これって!」
ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"
プレイヤー一覧、現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。
プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター、太陽の運行者・星霊、白夜叉。
ホストマスター側勝利条件、全プレイヤーの屈服・及び殺害。
プレイヤー側勝利条件、一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
"グリムグリモワール・ハーメルン"印
何気なく手に取った書類の内容、これに書かれていた内容に5人は驚愕した。
――いや、4人だけではない。
「魔王が……魔王が現れたぞオオオォォオオオ!!」
爆弾が弾けたような叫び声は連鎖してさらなる恐怖と混乱を呼び込み、会場内は大混乱に陥った。さらにバルコニーでは白夜叉が黒い風に包み込まれて近くにいた者達は吹き飛ばされる。
飛鳥を抱えて舞台に着地した十六夜も神妙な顔つきをしている。
「魔王が現れた……そういうことでいいんだな?」
「はい」
十六夜の問いに対して真剣な表情でそれに答える黒ウサギ。
「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子は?」
「ありません」
魔王の襲来を知っていた彼女は己の"主催者権限"を用いて防衛策をとっていた。内容は『主催者権限を持つ者は参加者となる際に身分を明かさなければならない』『参加者は主催者権限を使用することが出来ない』『参加者でない者は祭典区域に侵入出来ない』の三つ。
黒ウサギがいる限り誤魔化しはきかない。となると、魔王はこのルールに則った上でゲーム盤に出現しているということだ。
「さすがは本物の魔王様、期待を裏切らねえぜ」
軽薄に笑ってはいるものの、言葉の内容とは裏腹にその目にいつもの余裕を感じられない。
「ここで迎え撃つ?」
「ああ……だが全員で迎え撃つのは具合が悪い。"サラマンドラ"の連中も気になる」
十六夜は守勢に回るような性格ではないが、相手にこうも先手を打たれた以上、どうしても後手に回るしかない。
ここは役割分担をすることとなった。
十六夜、ツナ、レティシアで魔王に備え、黒ウサギはサンドラを始めとした"サラマンドラ"の者達を探しに、そして残りのメンバーで白夜叉の所へ向かうこととなった。
「ねえ見て!」
耀が指を差した先には上空から三つの人影が会場内に降りているのが見える。
「準備はいいか? 俺が黒いのと白いの。二人はデカイのと小さいのを任せる」
「え!? ちょ、十六夜君!!」
十六夜は言い終わるとツナの答えを待たずに地面を砕く勢いで人影へ跳躍して行った。
「……大丈夫かなぁ?」
「主殿なら問題なかろう。こちらも行こうか主殿」
レティシアはメイドになったことでツナ達のことを主殿と呼ぶようになっている。ツナは止めてくれと言っても彼女には彼女の矜持があるようだ。
ツナは死ぬ気丸を飲んで
そこにいたのはあまり趣味が良いとは言えない黒い斑模様のワンピースを着た少女と白い陶器の巨兵。
「BRUUUUUUUUUUUM!!」
巨兵は空気を吸い込んで奇声を上げながら暴風を巻き起こした。
「ナッツ頼む!」
「ガウ! GYAAAAAAAA!!」
ナッツの咆哮によって白い陶器の巨兵は周りと同じ石となった。しかしそれでも構わずまた空気を吸い込んでいる。
「へえ」
その様子を感心したように見つめるワンピースの少女。巨兵は石化した際に脆くなり、空気の圧力に耐え切れず、ボロボロと崩れ出す。
「やるじゃない、こうもあっさりとシュトロムを倒すなんて。良い手駒になりそう……ああ、やっぱりそのオレンジ色の炎は気に食わないから要らないわ」
仲間をやられてもその無表情は微笑へと変化しまた無表情へと戻る。少女への不気味さだけが増していった。
「
「ああ」
神格を失ったレティシアだが、彼女も幾度のギフトゲームを乗り越えてきた経験がある。敵の名前が勝利の鍵となりえることも心得ていた。
「お前がハーメルンの魔王か?」
「いいえ、違うわ。私のギフトネームの正式名称は"
つまり目の前の少女を含めて魔王が二人いる。それは十六夜が戦っている二人のどちらかかもしれないし、先程破壊したシュトロムかもしれない。最悪のケースは今ここにハーメルンの魔王がいないことだ。
「中々強いようだけど、これはどうかしら?」
少女から発せられる白夜叉を閉じ込めたのと同じ黒い風。
――これはダメだ。触れてはいけない。
「X BURNER!!」
危険を感じ取ったツナが放つチャージ無しのX BURNER。威力は高くなくともそれは黒い風を大空の炎の特性である"調和"で飲み込んで消し去った。
「(
黒死斑の少女は後ろから来た紅い閃光に気がついて それを回避する。この閃光の正体を少女は容易に察していた。これは彼女が待ち望んだ北のフロアマスター、サンドラの一撃だと。ただ、予測していたのにツナの炎に気を取られたせいで反応に一瞬遅れてしまった。
「名前を聞いてもいいかしら? ああ、そこの男のことよ」
少女は気になった。自分を不愉快にさせるオレンジ色の炎を使う少年のことを。
「沢田綱吉」
「そう」
「オレからも一つ聞きたい。何でこんなことをするんだ?」
黒ウサギは『魔王は天災のようなもの』だと言っていた。もしかしたらこの少女も何の理由もなくここを襲っているのかもしれない。
「そこの二人は予想がついてるだろうし、隠すことでもないから教えてあげる。太陽の主催者である白夜叉の身柄と、星海龍王の遺骨。つまりそこの"サラマンドラ"の頭領がつけてる龍角が欲しいのよ」
「成程、流石に魔王を名乗るだけあってふてぶてしい」
雑談は終わり、黒死斑の少女は再び正体不明の黒い風を噴出させ、ツナ、サンドラ、レティシアは身構える。
この一触即発の空気を一つの雷鳴が制した。
『"
拡張された黒ウサギの声が全域に響き渡る。
その本人は宮殿の屋根のてっぺんで
「フン、悪あがきね。まあいいわ」
少女はそう吐き捨てて先に行ってしまう。
「ふう。レティシア、こういった場合はどうなるんだ?」
ツナはゲーム経験が浅いのもあり、こういった不測の事態にはそれ程詳しくないというのが痛い。
「黒ウサギの指示に従って中断し審議が行われる。向こうに違反があればこのゲームを即刻終わらせることもできるが、ヤツの自信を見る限りそう容易くいくとは思えない」
◆
「あの、大丈夫ですか白夜叉さん?」
「大丈夫に見えるか?」
「……すいません」
十六夜達が"ハーメルンの笛吹き"との審議の最中、ツナは白夜叉の様子を見に行っていた。白夜叉は黒死斑の少女が見せた黒い風と全く同じものに囲まれてそこを動けないでいる。現在は暇そうにバルコニーで寝転がっていた。
「おんしのX BURNERとかいうやつでバーンと壊せないか?」
「いやいやいや白夜叉さんも一緒にバーンってなっちゃうでしょ!?」
そもそもこの封印が力任せで壊せるのなら白夜叉自身がそうしている筈だろう。
白夜叉は伸びをしながら身体を起こした。
「私を封印した方法に検討はついているが、どうやら言動にまで制限が掛けられているようだ。何とまあ用意周到なやつらだよ」
白夜叉が言い残すことができたのは『故意に説明不備を行っている可能性が高いこと』そして『敵は新興のコミュニティであること』の二つ。
「私のことはいいからお前は休んでいろ、いつこのゲームが再開されるか分からないのだからな」
「でも……」
「ふふっ、異様なくらい御人好しなのも
昔を思い出した白夜叉は懐かしむように笑う。
だが、直ぐに真剣な表情になった。
「綱吉。おんしと十六夜、そしてサンドラが戦力の要だ。それを忘れるな」
「はい!」
(良い目をしている。逆境でも諦めずに立ち向かう男の目だ。さてはこういった状況を何度か経験しているな。いつか酒でも飲みながら話を聞きたいものだ)
そんなことを考えながら白夜叉はまた寝転がる。
「……早く行かんか」
「え? あ、はい。……絶対に助けます」
「期待しておるよ」
ツナと白夜叉って孫とおばあゲフンゲフン