ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
タイトルの意味は後半で分かると思います
ゲームが開始されたと同時に突然、地鳴りと共に黒い光に包み込まれる。
次の瞬間、街はその姿を全く別のものへと変えていた。天を衝くような境界壁は消え、黄昏時を髣髴とさせるようなキャンドルやランプはなくなった。その代わりにパステルカラーの木造建築物が一帯を作り変えている。
ハーメルン側も謎が解かれた時の対策は怠ってはいなかったのだ。
「これって前に白夜叉さんがやってた」
「いえ、これはおそらくここに直接ハーメルンの街を召喚したのでしょう」
黒ウサギはツナの疑問に対して答える。
突然街が変貌したことで少なからず動揺してる者も多いが、ジンやマンドラが指揮をとってなんとか落ち着かせている。
「サンドラ様、ツナさん。とにかくペストを探しましょう」
「その必要はないわ」
その声に三人は足を止めて上を見上げる。斑模様のワンピースにその身を包んだ少女、"魔王ペスト"がフワフワと空中に浮いている。
「あなた達の様子を見る限り、こちらが出題した謎は解けたようね」
そう言いながら他の参加者をチラリと目で追うペスト。勝利条件が明かされたというのにどこまでも余裕の態度だ。
「ええ。ですがここであなたを倒せばこちらの勝ちです」
どこまでも強気なペストに対して黒ウサギも悠然とした態度をとる。ペストは鼻で笑い、黒い風を巻き起こした。
「一つだけ忠告してあげる。以前の
ここはハーメルンの街。ここがホームタウンであるハーメルン側は以前よりも力が増している。前回はツナ一人でもどうにかなるレベルであったが今回はそう簡単にいかないだろう。
「まずは私が先陣を切る。二人とも、サポートを頼むぞ!」
「はい!」
「うん!」
サンドラの幼くも雄々しい声にツナと黒ウサギは強く頷き、ツナは死ぬ気丸を服用した。
ツナの額と両手から噴出するオレンジ色の炎にペストは顔をしかめる。
「何処を見ている!」
ツナの炎に気を取られていたペストをサンドラは側面から球体の炎を吐いて狙う。しかしペストは悠々と避けていった。黒ウサギも飛び交いながら"
「くっ」
「言ったでしょう、以前の私達と同じだと思うなって」
サンドラの炎も黒ウサギの雷撃も神格級のギフト。しかしペストにはそれがまるで通用しない。攻撃をしてこないのはタイムオーバーを狙ってのことだろう。
「
ツナは
ペストはサンドラの炎と同じように黒い風で打ち消そうとする。
だが、そうはいかなかった。
ツナのXカノンが黒い風のガードを破りかけている。それを確信したペストは黒い風を操作してXカノンを逸らした。
「やっぱりこの中で一番やっかいなのはあなたね、沢田綱吉」
ペストは軽く深呼吸をする。今まで余裕を崩さなかったペストがここで始めてペースを乱した。ツナの力は力を増したペストにも通用する。
黒ウサギが横を見ると、サンドラの息が上がってきている。才があるとはいえ、この中で最も実戦経験が不足している彼女は慣れない戦いに民の命を預かっているというプレッシャーも相まって疲弊してきていた。
「"
「え?」
「そうよ」
「えっ!?」
二人のやり取りに思わずサンドラは声を上げる。ツナも声こそ上げなかったが驚いていた。目の前にいる魔王は白夜叉と同レベルの霊格の持ち主だということになる。
「貴女の持つ霊格は『百三十人の子供の死の功績』ではなく、十四世紀から十七世紀にかけて吹き荒れた黒死病の死者――――『八千万人もの死の功績を持つ悪魔』」
「それだけの功績があれば神霊に転生することも」
「無理です」
「無理よ」
黒ウサギとペストにキッパリと否定されてしまい歳相応の子どもらしくシュンと落ち込んでしまった。
神霊となるには一定以上の"信仰"が必要。つまりはその神の存在を信じること。"信仰"は恐怖という形でも構わないのだが、当時は不死の病と恐れられた黒死病も現在の医学では治療法が見つかり、神霊に至るまでの信仰は集められなかった。
「だから貴女は、最も貴女を恐怖する対象として完成されている形骸として"
「残念ながら所々違うわ」
元々ツナ達の役目はペストを引きつけることであり倒すこと自体が目的ではない。ペストの方も時間稼ぎは望むところだとあえて策に乗り、真相を語り始める。
「私は自分の力でこの箱庭にきたわけではない。私を召喚したのは魔王軍・"
一気に黒ウサギの顔に驚愕が浮かぶ。
「八千万もの死の功績を積み上げた悪魔……いいえ、八千万の悪霊群である私を死神に据えれば神霊として開花出来ると踏んだのでしょうね」
彼女は黒死病が具現化したのではなく、黒死病の死者達の霊群だったのだ。
「でも、私を召喚しようとした魔王は儀式の途中で何者かに敗北してこの世を去った。そう……」
ペストはツナを見る。
「かの魔王を倒した男もそのオレンジ色の炎を額に灯していたわ。顔は良く覚えてないけどね」
ツナと黒ウサギは息を飲む。まさかここでもジョットが関連していたなどと誰が予想できていただろうか。そしてサンドラだけが話しについていけない。
「私……いいえ、
今まで無表情だった彼女が始めて怒りの表情を見せる。八千万のもの怨嗟に応えるべく彼女はこの神々の箱庭で太陽に復讐をするのだ。
「お前はそのためにその力で誰かを殺すのか」
今まで黙っていたツナがここで口を開いた。
「……何が言いたいのかしら?」
「お前は復讐のために関係ない誰かを巻き込むのか」
太陽に復讐するという大それた発言に戦慄した黒ウサギとサンドラであったが、ツナはまるで泣きそうな子どもを見ているかのように悲しそうな目でペストを見ていた。
「何よ……その目は」
「自分一人の願いじゃないから自分で自分を止められないんだな」
ペストは身体を怒りで振るわせていた。
何も知らないくせに知った風な口を利くな、と表情が物語っている。
「そんな目で、そんな哀れむような目で私を見るなァァァ!!!」
彼女の怒りに応じるかのように死を与える黒い風は勢いを増して荒れ狂う。
「こい、ペスト!!」
ペストの黒い風とツナの大空の炎、まるで闇と光がぶつかり合うような光景だ。
「これが、魔王とのギフトゲーム……」
二人の次元が違う戦い振りを見てサンドラは落ちこんだ表情で呟いた。
「はは、情けないな。これではフロアマスター失格だ」
こうも他所のコミュニティに頼りっぱなしだと長としてもフロアマスターとしても面目が立たないだろうとサンドラは落ち込んでいる
「サンドラ様。今、私達にできるのは戦っている皆を信じて待つこと。そして時が来た時に瞬時に動ける体力を残しておくことです」
黒ウサギはサンドラを元気付けているが、彼女自身もツナや十六夜にまかせっきりなことに歯がゆさを感じている。
黒い風はツナの手刀で切り裂かれ、それでも調和しきれずに攻撃を防がれてしまう。しかしペストもツナの炎を防ぐのにかなりの労力が必要になり一進一退の攻防が繰り広げられていた。
魔王ペストは沢田綱吉が気に入らない。
最初は自分を召喚しようとした魔王の怨念だと思ったが、そうではなかった。
死を与えるものと死から救おうとするもの。相反するものが相手だったのだ。気に入るわけがない。
そして極めつけはその人を哀れむような目。
彼女にとって敵に哀れまれるなど屈辱以外の何ものでもない。
ペストの操る死の風がより毒々しい色へと変わっていく。
「さっきまで余興とは違うわ、これは触れただけで死ぬわよ」
「や、やはり"与える側"の力!死の恩恵を与える神霊の御業ですか……!」
触れただけで死をもたらす風がツナへと迫る。
それに対してツナは、拳に死ぬ気の炎を集中させる。そして死の風に真正面からぶつかって行った。
「バーニングアクセル!!」
X BURNERと同等とも言える一撃で死の風を殴りつける。
「そんな……!?」
触れた者に死を与える最悪の恩恵をツナのバーニングアクセルが貫いていくことにペストは驚きを隠せない。
だが、その一撃も死の風を進むたびに勢いが殺されていき、ペストの目の前でツナの拳が止まった。
今の一撃が通っていたらさしものペストも拙かっただろう。しかしこれでツナの勝ち目はなくなった。
――そう、ペストは安心して、一瞬行動が遅れてしまった。
気がつけばペストの目の前で止まった拳は広げられて手のひらはペストに向いている。そして反対の手からはツナを支える柔の炎が噴出していた。
「
「しまっ」
「
時は既に遅し。零距離からのX BURNERがペストに炸裂する。
「や、やった!」
「いえ、まだです」
黒ウサギの言う通り、ペストはまだ倒れていない。X BURNERで全身を焼かれ、着ていた斑模様のワンピースもほとんどなくなり上半身はほとんど露出してしまっている。
そして、
「――――っ、それは……何故、お前がそれを……」
目に飛び込んで来たものにツナは絶句した。
「ああ、これの……ことを言って……ハァ……いるのかしら?」
ペストは息も絶え絶えになりながら
――修羅開匣。
未来でトリカブトと戦った時のことを思い出す。
「こ、これは!?」
一際大きく響いた震動。
「十六夜、勝ったのか」
主であったペストはヴェーザーとラッテンが消えたことを直感で感じ取った。
時間稼ぎのために戦力を分散させてしまったことが一番の失敗。もし最初から纏まってかかれば、あるいは目的のために敵の被害を最小限に抑えようなどと欲張らなければ、ここまで戦況を悪くすることはなかったかもしれない。
残りのステンドグラスも60枚をきった。その上自分もここまで追い詰められてもう後がない。
「……止めた」
ペストはどこに隠し持っていたのか、藍色の宝石がついたリングを右手の中指に嵌める。
「時間稼ぎは止めた。白夜叉だけ手に入れて――――皆殺しよ」
「な、何だ!? 奴はいったい何をするつもりだ!?」
「これは、まさかルイオス様と同じ……」
リングから間欠泉のように噴出するインディゴの炎にサンドラはわけも分からず動揺し、黒ウサギは警戒の色を強める。
リングは彼女、いや彼女達八千万人分の波動に耐え切れずひび割れながら壊れていくが、ペストはそれに構わず――――胸に埋め込まれた匣に炎を注入した。
その瞬間、彼女は球体状の霧の炎に包み込まれる。
◆
「何だ、まだ倒してなかったのか」
「十六夜さん。ツナさんがペストを追い詰めたのですけど」
黒ウサギはそう言ってツナと、藍色の炎に包まれたペストに目を向ける。ツナの方は大技の連続使用で息を切らしていた。
「あれが修羅開匣ってヤツか」
「十六夜さんはあれについてご存知なんですか!?」
「いや、俺もツナから聞いた程度にしか知らねえよ」
「え、黒ウサギは聞いてないんですけど!?」
黒ウサギは軽くショックを受けた。ツナが十六夜達に喋ったのはあの流れ星の夜だけだったので黒ウサギは聞いていない。
修羅開匣とは白蘭率いるミルフィオーレの技術によって実現した力。人体に匣兵器を埋め込むことで匣アニマルの特殊能力を人間自身が発動することができるというものである。
もしそれを魔王であるペストが使ったのだとしたら一体どれほどのものになるのか。そう思うだけで十六夜はゾクゾクした。
しばらくすると霧の炎が消えてそこからペストが現れる。
修羅開匣によって先程までの傷は癒えて、燃えたワンピースも霧の炎の特性である"構築"によって修復されている。そして彼女の背には蝶々のような形の霧の炎でできた羽根が生えていて、彼女の幼い容姿も相まって何も知らない人が見れば妖精のようにも見えるだろう。
「ふ~ん、貰い物だしあんまり期待してなかったけど。悪くないわね」
「一体どこでその力を……?」
「そうね、このゲームに勝てたら教えてあげてもいいわよ」
ツナの問いに対して不気味な笑みを浮かべながらペストは答える。自分が追い込まれ、仲間がやられ、そして相手を滅する算段がついたペストには先程までの怒りも恐怖もない。その代わりに、憎しみだけが残った。
「さあ、第二ラウンドを始めましょう」
皆はここが踏ん張り所だと身構えた。
次回でハーメルン編も終わりです
アニメ放送分も終わって寂しい
二期やんないかな~