ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
その後、ツナ達は収穫祭を見て廻った。
珍しい植物(ラビットイーターではない)を眺めたり、屋台の食べ物を、主に耀が買いまくったり。勿論、農園に植えるための苗や種なんかも物色していた。
現在は見たこともない動物の毛皮を使った製品やこの地域特有の民族衣装の試着をしている。どれもが元の世界には無かった色合いや模様をしていて、女性陣は楽しそうに着ている。
ツナは皆が楽しそうにしているのを見てしみじみと思う。
(皆も、連れて来たかったな……)
こういうイベント事はいつだって友人達と過ごしてきた。そして、すぐ近くにはあの
「ツナ。これ、どうかな?」
耀はツナの目の前でクルリと回った。現在の彼女は牧場でミルクの缶を運んでいそうな純朴な格好をしている。それが元のイメージとマッチしていてとても似合っている。
「うん、凄く似合ってると思うよ」
飛鳥は色は控えめだがヒラヒラがついたドレスタイプの衣装を着ている。髪を結ぶリボンもそれに合ったものを着けていた。
黒ウサギはいつもと違って露出度は控えめなワンピースのような衣装を着て、長い耳の間には帽子がちょこんと乗っかっている。あの長い耳は帽子を被るのには不便そうだ。
「沢田。アナタ、もうちょっと気の利いたこと言えないの?」
「ええっ!? そんなこと言われても!」
今の対応に見かねた飛鳥はツナに抗議をするが、これは仕方ない。何せ、ツナに女性用の服の良し悪しなど分かるわけもないのだから。
ある程度廻った後は、ヒッポカンプの騎手やその他もろもろのギフトゲームの登録を済ませ、宿舎に戻って談話室で談笑していた。
「ねえ、黒ウサギ。もしかして前々からアンダーウッドに来たかったの?」
アンダーウッドに着てから、黒ウサギのテンションが高めなことに疑問を持っていた耀は、談笑の最中にそれとなく聞いてみた。
「え? ええと、そうですね。黒ウサギがお世話になっていた同士が南側の生まれだったので興味はありました」
同士。きっとレティシアのように魔王に連れ去られてしまった者の一人なのだろう。
ツナの予想は当たっていた。黒ウサギは幼い頃、絶大な力を持つ魔王に一族が散り散りにされて、一人放浪していたところ、その人物に"ノーネーム"へと誘われたと本人は語っている。
黒ウサギが"ノーネーム"の生まれでないことに一同は驚いている。
「黒ウサギを同士として受け入れてくれた恩を返すため……絶対に"ノーネーム"の居場所を守るのです。そして皆さんのような素敵な同士が出来たと帰ってきた皆に紹介するのですよ」
彼女の言葉には熱が篭っていた。弱体化してしまった"ノーネーム"を今日まで見捨てずに、ずっと支えていたのだ。一体どれほどの思い入れがあるのか。
耀と飛鳥は優しく微笑み、ツナは力強く頷いた。
「そう。ならその日、とても楽しみにしてる」
「オレも。また皆が揃うまで頑張ろう!」
「私もよ。ところでその……黒ウサギの恩人ってどんな人だったの?」
飛鳥に問われて、黒ウサギは遠くを見つめる。その口には笑みが浮かんでいた。遠い昔の出来事を思い出しているのだろう。
「――彼女の名前は、金糸雀様。我々のコミュニティの参謀を務めた方でした」
◆
ツナは自室に戻ると自分のヘッドホンの手入れを始める。最初はリボーンにやらされていたことだが、大分こなれてきた。
(そういえば十六夜君のヘッドホンは見つかったかな?)
やることなすこと滅茶苦茶な男だが、悪人ではない。一緒に過ごした時間は短くとも、友達であり、共に戦った仲間だ。
「ガウ!」
「ん? ナッツも心配?」
ツナがナッツに笑いかけていると近くで大きな破壊音、そしてそれが原因で起こった地震のような揺れに驚かされる。
「な、何!?」
ツナは
「あれは……?」
外では仮面をつけた巨人が長刀を片手に宿舎を襲っている。その大きさは以前戦ったGHOSTの比ではない。
そして巨人が襲っているのは皆が泊まっている部屋の近くだった筈。
しかし、あそこまで大きいと並みの攻撃ではグラつかせるのも難しいだろう。
「ナッツ、
ナッツはその形を手甲へと変化させXグローブと一体化した。
「バーニングアクセル!!!」
X BURNERと同等の一撃は巨人に炸裂し、吹き飛ばされる。
「皆、無事か!?」
「YES! ありがとうございますツナさん」
「う、うん。ありがとう」
「感謝するわ」
皆の無事な姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。しかし、間髪いれずに三体の巨人が落下してきた。
飛鳥がそれを見てギフトカードを取り出す。ディーンのパワーであればあの巨人にも対抗できるだろう。
だが、黒ウサギはそれと止めた。こんなところでディーンと巨人が暴れまわったら都市が目茶目茶になってしまう。
「皆さんは地表へ! ここは黒ウサギにお任せ下さい!」
「……耀、どうした?」
さっきから上の空だった耀に疑問を持ったツナは彼女に話しかける。
「あ、うん。大丈夫……」
耀は飛鳥を抱えてツナと一緒に地下都市から地上へ上がる。
地上はすでに乱戦状態であった。敵の数は約200体ほどだが、その体格差故に巨人に対してその十倍程の人数でやっと足止めが出来ている状況だ。
「おかしい」
ツナは気がつく。周りで飛び交っている声を聞く限りでは混乱しているようにしか思えない。数では勝っていても連携が取れていないのだ。
理由はすぐに分かった。長であるサラが別な三体の巨人に釘付けにされている。それも他の巨人とは違って装飾をつけ、武器も違う。おそらく主力だろう。
「沢田。あなたはサラの方に加勢してちょうだい」
普通、無理にあそこに割り込めば大打撃を喰らい、サラも危険な目に遭わせてしまうかもしれない。長がやられてしまえばこちらの勢いも一気に削がれてしまうだろう。
それは攻撃範囲の広い飛鳥のディーンやまだ空中戦になれてない耀ならそうなっていただろう。しかし、他二人と比べてこういった乱戦を何度も経験しているツナであれば話は変わってくる。
「ああ、そっちは任せた」
二人と別れてツナはサラの元へ向かう。その前には別の巨人二体が立ちはだかる。一人は槌を、もう一人は槍を持っている。巨大な槌はツナを押し潰さんと振り上げられた。
そこでツナは加速し巨人の顎に蹴りを入れる。槌を振り上げれば当然重心は後ろへ移動する。そこに前か押されればそのまま仰向けに倒れていくのは自明の理。
もう一体が槍で突き刺そうとしたところで切り替えしてそれを避ける。槍は勢い余ってそのまま転倒中の巨人の脇に突き刺さった。
巨人を切り抜けたツナは今度こそサラの元へ到着する。そのままサラの後ろに迫っていた巨人の足元にXカノンを撃つ。
バランスが崩れたところで顎に拳を叩きこんだ。
「すまない、助かった!」
「気にするな。ここを守りたいのはオレも同じだ」
サラは先程のツナとの差異に驚きながらも気を取り直す。そして彼女は他二体の巨人を押し返すと翼を広げて戦場の上空へ立った。
「主催者がゲストに守られては末代までの名折れ! "龍角を持つ鷲獅子"の旗本に生きるものは己の領分を全うし、戦況を立て直せ!」
サラの一喝で我に返った各コミュニティは高らかに声を上げ、各々自分の役割に就く。これが本来の"龍角を持つ鷲獅子"であった。
向こうの方でも飛鳥が操るディーンや耀の活躍もあって押し返している。
「そこにいる一体を任せても平気か?」
「分かった」
刹那、琴線を弾く音がすると、唐突に発生した濃霧が戦場を覆った。この巨人達の仕業かと思ったが、そうであれば何故今更になって使ったのかという疑問が生じる。
ツナは辺りを警戒して見回す。ツナやサラの炎は向こうからすれば格好の的になってしまう。
「はあっ!」
真横から薙ぎ払うように振り回された腕を軽く避けて手刀を御見舞した。例え視界が悪くともツナには超直感がある。
サラの方もツナほどではなくても直感には自信があるようで巨人の攻撃を避けている。
霧が出てから一分も経たない頃に突風が吹きく。
「グリフォンか!?」
グリーやその仲間達がやってくれたのだろう。その突風により霧は晴れていく。
霧が無くなり……――そこには先程まで戦っていた巨人の死体が転がっていた。
「これは、一体……?」
他の巨人達も同様に頭、首、心臓を刺されて息絶えている。驚くことに全て同じ殺し方なのだ。
その人物はすぐに見つかった。純白の髪を頭上で黒い髪飾りで纏め、白いドレススカートに美しい装飾を施された白銀の鎧。顔の上半分は白黒の舞踏仮面で隠されていて正体は分からない。それらを巨人の血で真っ赤に染めている女性が飛鳥と耀に何やら話しかけている。
巨人だけを殺しているのだから敵ではないだろうが、それでもツナは警戒せずにはいられなかった。
ツナが二人の元に駆けつけた時には謎の女性は姿を消していた。
「二人とも、無事か?」
「ええ」
「うん」
二人は苦い顔をしながら頷く。ああも圧倒的な実力差を見せられれば耀だけでなくプライドの高い飛鳥でも認めざるを得ない。『あの仮面の女性は自分達より遥かに強い』と。
◆
「気分はどう? 春日部さん」
宿舎の有様を見るなり気を失ってしまった耀を担いでツナと飛鳥は緊急の救護施設として設けられた区画に来ている。そして今、目を覚ましたところだ。
「一体何があったの? それにそれって……」
ツナは耀が大事そうに抱えている残骸。ツナはこれに見覚えがあった。十六夜が探している筈のヘッドホン、炎のシンボルマークが何よりの証拠だ。
「説明してくれるわよね?」
彼女が寝ている間にツナも飛鳥から大体の事情は聞いている。耀が己の無力さに悩んでおり今回の収穫祭に強い意気込みを持っていたこと。飛鳥と共に"ウィル・オ・ウィスプ"のゲームをクリアして、それを飛鳥の承諾のもと彼女個人の戦果として申告していたこと。
ツナは耀がそこまで思いつめていたなんて、あの夜に励ました時には知る由もなかった。
「もしかして、オレって余計なこと言ったかな?」
今思えば無責任なことを言ったかもしれないと不安になってくる。
「そ、そんなことない! ツナに『私にだって出来ることがある』って言って貰えて凄く元気付けられた!」
それを耀は強く否定した。耀は父親がいなくなって自分の事を親身に思ってくれる人がいなかった。だからこそツナの優しさが温かく、身に染みた。
耀は自分の事とヘッドホンは無関係だと言っているが、それでも事実十六夜のヘッドフォンは彼女の荷物に紛れ込んでいた。とても彼女が嘘をついているとは思えない。
「あ、耀のギフトを使えば……」
「「あ!」」
ツナの提案で耀はエンブレムの匂いを嗅ぐと、やがて複雑そうな表情を浮かべた。どうやら犯人に心当たりがあるようだが、彼女はどうしてこの臭いの持ち主が犯人なのかわからないようだった。
そんなとき、カーテンの向こうから声がかかる。
「えっとっと、"ノーネーム"の春日部耀さんと。ここでいいですか、三毛猫の旦那さん」
声の主は三毛猫と、三毛猫行きつけのカフェテラスの店員女性だった。声を聞いた途端に顔を顰めた耀を見て、察しの悪いツナでもなんとなく犯人は分かった。
「どうして……?」
『いや、その……お嬢があまりにも不憫やったから……仕返しにって……』
だから耀のことを気にかけてくれているツナではなく十六夜を狙ったのだが、三毛猫もまさか耀を悲しませることになるとは思っていなかったのだ。
三毛猫を十六夜に突き出すのは簡単なことだが、果たしてそれでいいのかと、自分に責任は全く無いのかという気持ちになる。
「やっぱり犯人がわかっただけじゃ駄目だ。何とかしてヘッドフォンを直さないといけない。……手伝ってくれる?」
「ええ、喜んで」
「あはは、こういうのは苦手だけど出来ることがあったら言ってよ」
その後、皆に事情を話して残骸の回収を手伝って貰ったのだが。
「諦めましょう」
「早いよ!?」
正直ビックバンアクセルよりバーニングアクセルの方が強いことに納得いかない