ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
ヘッドホンは外装がほとんど粉々になっていて、飛鳥が匙を投げるのも無理は無い。おそらくスパナや入江でも『一から作った方が早い』と諦めてしまうだろう。
その後、黒ウサギ達とも合流してヘッドフォンを直すより代わりの品を用意しようという相談が行われる。
しかしその時、緊急を知らせる鐘の音が"アンダーウッド"中に響き渡り、その直後に巨人の来襲を知らせる地響きが地下都市を揺らした。
地表へ出たツナ達が見たのは、既に半ば壊滅状態の"一本角"と"五爪"の同志達。鐘が鳴ってからまだそれ程時間は経過していない筈だというのに、一体何があったのかと一同は驚いた。
すると一頭のグリフォンがこちらへ向かって飛んできた。
『耀……! 丁度良い、今すぐ仲間を連れて逃げろ!』
グリーはこちらの軍勢が巨人の大群と竪琴の音色によって瓦解していると言って、東の白夜叉に救援をと叫んだ。竪琴の音色はここから音源がかなり離れている耀達でさえ意識が飛びそうになる。ツナは音で気を失わないように気を強く持った。
目の前でバタバタと倒れていく幻獣や獣人達を見て、ツナは我慢の限界だった。
「行ってくる!」
「ちょ、ツナさん!」
黒ウサギの制止の声を振り切ったツナは濃霧の中をオレンジ色の炎で照らしながら前線まで飛んでいく。その間にも巨人を転倒させ、殴り飛ばし、ナッツの咆哮で石化させる。
「――こっちか!?」
音がする方目掛けてツナは加速する。案の定だが、音に近づくにつれて巨人は増えていった。音色を放つ人物はきっとこの奥にいる。
霧の先に人型のシルエットが見える。ツナはそれに手刀を叩き付けた。
「くっ、誰ですか!?」
手刀は声の主が持つ剣によって受け止められた。白銀の鎧に顔の上半分を覆う仮面、つい先程飛鳥達を救ってくれた人物だった。
「あっ、すまない。竪琴の音色の主かと」
「構いませんが、次からは気をつけて――」
彼女は言いながらも迫り来る巨人を切り捨てた。
「気をつけてください。こうなりたくなければ」
「ああ、――ナッツ!」
「GYAAAAAAA!!」
ナッツの咆哮によって後ろの巨人は石化してそのまま仰向きに倒れる。
「やりますね。流石は『ジョットの血を引く者』といったところでしょうか」
「お前は……」
その名前が出たということは彼女もジョットを知る人物の一人ということになる。
「コミュニティ"クイーン・ハロウィン"のフェイス・レスといいます」
「コミュニティ"ノーネーム"の沢田綱吉だ」
直後にフェイス・レスは巨人を真っ二つに切り裂き。ツナはXカノンを巨人の顔にぶつけた。自己紹介をしている間にも二人は全く隙を見せていない。
『――――どこに逃げたの白夜叉ぁぁぁあああああああああああああああッ!!!』
突如、戦場に響き渡る少女の大声。ツナはこの声をついこの前聞いている。
「まさか……ペストッ!?」
そう、皆と共に戦い、最後は飛鳥との連携で倒した
「成程、黒死病を操る魔王を隷属させましたか。これなら……」
フェイス・レスが感心しているのは二つある。一つ目は巨人と黒死病の相性、ケルト神話の一説では黒死病を操ることで巨人を支配していたというのがある。二つ目は怒り狂うペストを上手く使役出来ていることだ。ツナは知らないことだが、これはジンのギフト"
"
ペストが巨人をバッタバッタと薙ぎ倒していく中で、霧はより濃くなっていく。竪琴の音色の主は戦況が不利になったことで逃げ出そうとしているのだろう。
しかし、ジンもここでペストを投下した時点で敵が姿を晦まそうとするくらい予想はついている筈だ。
この深い霧の中であっても、彼女であればそれを探すことが出来る。
耀が"黄金の竪琴"を奪い取ったことで、こちら側の勝利は確定した。
霧が晴れた後にツナが見たのは嬉しそうに"黄金の竪琴"を握り締めた耀と憤怒の表情で巨人の残党を片付けていく――何故か白いフリフリのメイド服を着たペストであった。
「ツナ、私やったよ!」
「うん……――ってそういえば何でペストがいるの? それにあの格好は……」
「黙りなさい沢田綱吉!!」
「ヒィ!?」
巨人を狩りながらもツナの声はしっかりと聞き取っていたようだ。何という地獄耳。何処かで見たことがあると思ったらレティシアが着ているメイド服に似ている。あの格好は白夜叉に無理矢理着せられたのだろうか。ジョットが関係したらそうでもないが、それ以外ではやっぱり駄神だった。
「ああ、また新しい被害者が……」
黒ウサギは似たような境遇なだけに同情の涙を流している。
ペストが最後の巨人を倒したことでこの戦いは終結した。
◆
次の日の朝、ツナ達を迎えたのはフェイス・レスであった。
どうやらフェイス・レスの力を借りて十六夜のヘッドホンの代わりになるものを"箱庭"に持ってくるそうだ。
「しかし、厳密には"クイーン・ハロウィン"の力で召喚するのではなく。星の巡りを操って因果を変えるので、耀さんがヘッドホンを持っていないと成立しないのですが……」
「つまり過去を変えるってこと?」
「はい」
ジンは心配そうに頷いた。
「それは大丈夫。十六夜のヘッドホンの同じメーカーのが家にある」
「そうなの!?」
話を聞けば、耀は十六夜やツナよりも未来の世界から来たらしい。もしかしたら十六夜の世界の未来から耀が来たのかもしれないなと、ツナは何とも言えない気持ちになった。
「うん。父さんがビンテージ物だって言ってた。あれなら十六夜もきっと許してくれると思う」
「でもお父様の物なんでしょう? 勝手に持って行っていいのかしら?」
「それも大丈夫。父さんも母さんも行方不明のままだから」
さっくりと述べる耀に対して両親を亡くしている飛鳥は俯き、ツナは押し黙ってしまった。
(オレって、恵まれてるんだな……)
よく家を開けて、しかも実はボンゴレのNo.2だとか言われて文句を言っていたあの頃の自分を殴りたい気分になった。
未来の世界で自分の両親が行方不明になってることを知って自分の身体が張り裂けるような気持ちになった。耀はそれをもっと長い間その痛みに耐えてきたのだ。
「……ツナ?」
「あ、うん。何でもない。ちょっとボーっとしてただけだから」
「嘘」
ツナは笑顔を取り繕ったが、明らかに不出来で飛鳥ですらツナが暗い気分になっていることに気がついている。
「確かに、父さんと母さんがいなくなったのは辛かった。けど、私にも一緒に笑ってくれる友達が出来た。力を貸してくれる仲間が出来た。だから、そんなに辛くないよ。それに、これからは待ってるだけじゃなくてもっと歩み寄ろうって」
耀は周りの人達を見て、最後にツナに微笑みかける。ツナは要らない同情だったと今度こそ本当に笑い飛ばした。
――もし、機会があったらオレの友達をたくさん紹介しよう。
ツナは心にそう決めた。
◆
一同は"アンダーウッド"の螺旋階段を登って地表に出る。そこにはフェイス・レスが用意した"黄道の十二宮"を描いた陣があった。
耀はその中心で座ったまま、必死にヘッドホンへの想いを高めている。このまま半日ヘッドホンについて考え続ければ後はフェイス・レスがどうにかしてくれるらしい。"クイーン・ハロウィン"の力を借りているとはいえ、人間がそれだけのことを可能に出来るというのは黒ウサギも驚きであった。
そしてヘッドホンは届いたのだが……。
「猫耳?」
「可愛い! それ凄く可愛いわ!」
飛鳥には好評のようだが、ツナを含め他は微妙な顔をして見ている。
外装は十六夜のヘッドホンとほぼ同じなのに何故か猫耳がついている。耀が着ける分には問題ないだろうが、これは十六夜に渡すものだ。とても男が着けるようなものじゃあない。最も、十六夜ならもしかしたら喜ぶかもしれないが。
フウと息をついたフェイス・レスは召喚が失敗したことに驚き、その原因と思われる耀のペンダントを確認させて欲しいと言った。
耀は戸惑いながらもペンダントを渡す。
フェイス・レスは耀に2,3質問をした後にペンダントを返した。
「――召喚に失敗した代わりと言っては何ですが……一つご忠告を」
フェイス・レス曰く、耀のペンダントは他種族からギフトを貰うだけでなく、進化させたり合成させたり出来る代物らしい。
「気をつけて、そのギフトは本来であれば人間の領域を大きく逸脱したものですから。もっとも……」
フェイス・レスは次にツナのリングを見た。
「おそらくアレ程ではないでしょうが」
フェイス・レスはそう言って崖を跳び下りて姿を消した。
修繕を諦めた一同は、何か代わりのものをと店を回ったが、結局何も見つからず、猫耳ヘッドホンを十六夜に渡すことになった。
そしてツナが宿舎に戻った時、また通信が回復した。
『やっほー久しぶり♪一週間ぶりくらいだね♪』
「びゃ、白蘭!?」
外して仕舞おうとしたヘッドホンから流れた少しおどけた声は紛れも無く白蘭の声だった。
『転送装置だけどね♪まだ未完成なんだけどさ、とりあえず一人くらいは送れるくらいになったよ♪でも十年バズーカみたく制限時間が来たら強制送還だけどさ♪』
『おい、代わりやがれ! 十代目、待っててくださいね! 十代目の右腕獄寺隼人がジャンケンで勝ってみせますんで』
(ジャンケンーーーーー!?)
結構大事なことなのだが、どうやらジャンケンでここに来る一人を決めるらしい。
『ちゃおっす。ツナ、そっちはどうだ?』
獄寺は他のメンバーとジャンケンでもしているのか、リボーンが出た。
「とりあえず今は大丈夫だけど」
『あれから9代目に聞いたところ、一時期、Ⅰ世が行方不明になったことがあるそうだぞ。騒ぎになるからGやコザァートのような一部の信用の置ける者達しかしらされなかったらしいけどな』
その期間の間にジョットはこの"箱庭"に来ていたことになる。
『リングと匣兵器の不自然な流出については今のところさっぱりだ。新しい情報が入ったらまた回線を繋げて連絡してやる。おい、スパナ』
『ああ、ボンゴレ、ヘッドホンとコンタクトレンズの調子はどう?』
次はスパナ。自分の作成したものの調子を聞く辺りがメカニックである彼らしい。
「うん、大丈夫」
『そうか。また新しいアイディアを思いついたから今度改良――――』
ツナが聞いたのは"箱庭"全土に響くとすら思える明らかに人ではないモノの咆哮。慌てて外へ飛び出せば、上空には巨大な龍。白蘭が従えていたのとは比べ物にならない程大きい。
それに拍車をかけるように鐘がなる。龍だけでなく巨人までここを攻めて来ている。
『ボンゴレ、どうした! 今の音は!?』
「ごめんスパナ! また後で!」
ツナは通信を切って空へ飛んだ。
というわけで3巻終了
前哨戦みたいなものだし短かったしオリ要素とか加え辛かったです
現在『問題児達が並盛へ行くそうですよ?』を計画中