ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ?   作:妖刀終焉

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今回からオリ章が始まります


問題児たちが並盛に行くそうですよ?
問題児たちが並盛を観光するようですよ?


「よっと。……へえ、俺がいたとこと大して変わらねえな」

 

「ここは神社かしら……」

 

「何だかレトロな空気」

 

「ここがツナさんが住んでいた世界ですか」

 

 ここは並盛神社。

 

 その何も無い空間から突如現れた5人組み。

 

 金髪で学ランを気崩した不良のような風貌の少年、逆廻十六夜。

 黒い長髪を赤いリボンで結び、ワインレッドのドレスを着こなすお嬢様、久遠飛鳥。

 ノースリーブのコートに白いインナー、そして黄色いショートパンツと軽快な服装の少女、春日部耀。

 いつもと違い、サマードレスに大きめの帽子を被っている女性、黒ウサギ。

 

「帰って……来たんだ」

 

 そして沢田綱吉。

 

 本来であれば箱庭に居る筈のこの五名なのだが、何故この並盛の地に足を踏み入れているのか。それは数刻前に遡らねば分からない――――

 

 

数刻前

 

 

「死ぬ気丸が無くなった……ですか」

 

「……うん」

 

 黒ウサギの確認の問いに対して力なく頷くツナ。そう、彼が死ぬ気になるために必要な『死ぬ気丸』が前回のアンダーウッドでの戦いでとうとう底をついてしまったのだ。『死ぬ気丸』が無ければ死ぬ気になれない。つまりツナは戦えなくなってしまう。これは"ノーネーム"にとっても痛手になる。

 

「とりあえずリボーン……オレの仲間に連絡して取りに行くからちょっとの間いなくなるけど……」

 

「そうですか、仕方ありませんね。……くれぐれも問題児様方には気づかれないよう……」

 

「ん~? 俺達がどうかしたのか?」

 

「「!?」」

 

 全身をビクリと振るわせた二名が振り向くと、そこにはニヤッと笑う十六夜、満面の笑みを見せる飛鳥、期待に胸を膨らませる(膨らむほど大きくないと言ってはいけない)耀、三名の姿があった。

 

 黒ウサギは恐れていた。この箱庭にやってきた四名の中で一番戦闘経験があるのはツナだ。であればそのツナが育った世界に他三名が興味を持つのは当然の事。確実に自分達も行くと言って聞かないだろう。

 

「沢田が一旦里帰りするって? ならそのまま逃げないように俺もついて行ってやるよ」

 

「私からすれば未来になるのかしら。私はもう帰ることはないでしょうけど、日本が将来どうなるのかは単純に興味あるわね」

 

「ワクワク。ワクワク」

 

 「もしかして聞かれてなかったのでは?」という淡い希望は粉々に打ち砕かれて頭を抱える黒ウサギ。ツナも当然がっくりと肩を落す。

 

 ちなみに十六夜は口ではそんな事言っても欠片もそんな事思ってはいない。

 

「アンダーウッドの収穫祭の時も言いましたが、ただでさえ戦えるメンバーが少ない"ノーネーム"の主力四名がいきなり居なくなる事がどれだけ危険か分かってるんですか! その間に魔王に攻め込まれたら……」

 

「まあ、落ち着け黒ウサギ」

 

 黒ウサギを制したのはレティシアであった。どうやら彼女も聞いていたらしい。しかし彼女自身はこの四名が一時的にとはいえ居なくなることにそれ程否定的な態度を取っていない。

 

「収穫祭の時と違って精々2,3日程度だろう? なら目くじらを立てるようなことでもあるまい。それに以前と違ってペストに白雪、それに新しく加入したグリーもいる」

 

「で、ですがツナさんにご迷惑が……」

 

「なら、お前もついていけばいいのではないか?」

 

「は、はあ?」

 

 レティシアの返しが黒ウサギにとっても予想外で気の抜けた返事しか出来ない。先程戦力が少ないと言ったばかりだ。自分まで抜けるわけにはいかないだろう。

 

「この四名ではストッパーが主殿(ツナ)しかいない。下手すればズルズルと滞在期間が延びる恐れもある。ならお前も行って監視すればその危険もなくなるだろう。早く帰ることが出来ればそれだけ"ノーネーム"の主力不在期間が減らせるぞ」

 

「うっ」

 

「私では箱庭の外へ出る事は出来ないし、ペストや白雪では監視に向かん。ツナの世界に幻獣の類はいないそうだからグリーは問題外だ。黒ウサギが一番適任なんだよ」

 

 レティシアの言う事に間違いは無い。ウサギ耳さえ隠せればその辺にいるコスプレ好きの女子大生と誤魔化しも効くだろう。

 

「収穫祭でも審判役だのなんだので忙しかっただろう。たまにはそういったことを忘れて羽根を伸ばして来たらどうだ?」

 

 流石に今の格好はどうかというツナの意見から自分で適当な服をチョイスして着替えることになった。

 

 これが冒頭に至るまでのあらまし。

 

 

 

 

 ツナの箱庭組み四名はすぐにこの世界の人間に迎えられることとなった。

 

「お久しぶりです10代目! お怪我はございませんでしたか!?」

 

「よっ、元気そうだな」

 

「極限に久しぶりだぞ沢田ー!」

 

「ボス、後ろの人達はお友達……?」

 

 獄寺隼人、山本武、笹川了平、クローム髑髏。彼の友であり守護者でもある四名にそれぞれ声をかけられるツナ。

 

「どうだ? ちっとは強くなったか?」

 

 その中でも異彩を放つのが黒スーツを着込んだ赤ん坊。彼こそ世界最強の殺し屋(ヒットマン)にしてツナの家庭教師。その名はリボーン。

 

「そいつらが沢田の言ってた友達ってやつか?」

 

「あ? テメェ、何10代目に馴れ馴れしい態度取ってんだ!」

 

 ツナに気軽に話しかけた十六夜の態度が気に入らなかった獄寺は十六夜を睨みつけ、くってかかる。すると山本はいつものように獄寺を宥めに入った。

 

「まあいいじゃねえか。そいつもツナのダチってことだろ? なら俺達のダチってことだろ?」

 

「テメェと一緒にすんじゃねえよ野球バカ!」

 

 一方で耀はこの中で唯一の女性であるクロームを直視している。

 

(……私から見ても可愛い。パイナップルみたいな髪型と髑髏の眼帯はちょっとセンスを疑うけど)

 

 クロームという女友達がいるという話は白夜叉と一緒に聞いていた。しかし自分が思っていたよりも何十倍も可愛らしいのだ。

 

(あのヘアピンの人、ずっとこっち見てる)

 

 見られてるクロームは何故初対面である筈の自分が直視されているか理解出来ない。しかし口下手なこともあってか中々その理由を聞き出せないでいる。

 

 全くと言っていいほど言葉を交わさない二人とは対照的に、こちらは煩かった。

 

「オレの名前は笹川了平! 座右の銘は『極限』だァァァァァ!!」

 

「(う、うるさ!?)しばらく黙ってなさい!!」

 

「……!? ……うおおおおおおおっ!! い、今のは一体何なのだ!?」

 

「嘘ッ!?」

 

 飛鳥の"威光"による『黙っていろ』という制約を気合だけで振り払った了平に飛鳥は思わず声を上げて驚いてしまった。流石は常時死ぬ気男と感嘆せざるを得ない。

 

 問題児と守護者達が交流をしている頃、黒ウサギとツナはリボーンと話をしている。

 

「そっちのリーダーはお前でいいのか?」

 

「"ノーネーム"のリーダーという点では私ではありませんね。引率者という点ではそうですけど」

 

「立ち話も何だ。詳しいことは家で話すぞ」

 

「で、でも死ぬ気丸は?」

 

「後で良いだろ。それよりもママンに顔でも見せに行ってやれ」

 

 一行は腰を落ち着けるためにツナの家に赴くこととなった。飛鳥は途中で見つけた自動販売機や売っているペットボトル飲料を物珍しそうに眺めたり、耀は散歩している猫とお喋りして周囲の人から奇怪な目で見られたり、いつの間にか十六夜が行方不明になったりと様々なトラブルがあったが、無事辿り着く事が出来た。

 

「全然無事じゃありません! 十六夜さんはどうするんですか!?」

 

「おい芝生! ちゃんと見張ってろって言ったじゃねえか!」

 

「そこまで言うなら貴様が見張っていれば良かったではないかタコヘッド!」

 

「別にいいだろ。今の並盛はそこまで治安は悪くねえ」

 

「今はってどういうことですか!?」

 

 最悪、黒ウサギが隠してる耳を使えば十六夜の居場所を探知出来るとは思うが、彼女が心配しているのは彼の大き過ぎる力でこの世界を壊してしまわないかという点だ。もっとも、しばらくした後にそれが杞憂だと気が付くのだが。

 

 そして一行が沢田家のインターホンを押そうと手をかけようとしたら、あのウザい笑い声が聞こえてきた。

 

「ガハハー! ()ね! リボーン!」

 

(久しぶりに自分の使命を思い出してるーーーー!!)

 

 庭の茂みからニュっとランボが出てきた。そして手に持ったダイナマイトをリボーンへと投げつける。そう、元々ランボはリボーンを暗殺するために日本にやってきたのだ。

 

 それをリボーンは呼吸するかのようにさり気なく相棒の形状記憶カメレオンのレオンが変形したバットで打ち返した。打ち返されたダイナマイトで爆破されたランボは「ぐぴゃ!?」と悲鳴を上げて何処かへと吹き飛んでいった。

 

「さっさと入るぞ」

 

「え? 今の一連の動作は一体何ですか?」

 

 黒ウサギの質問に答える者は居なかった。

 

「あらリボーン!」

 

 結局、インターホンを押す前に玄関のドアが開いたのだった。そこから現れたのは――

 

「んげえ!? 姉……ガハッ!」

 

 沢田家から出てきたのは獄寺の姉でありリボーンの愛人でもある女性、ビアンキだった。獄寺は彼女の顔を見た直後、口から泡を吹いて倒れてしまう。

 

「わーっ、ビアンキ! ゴーグル! ゴーグルつけて!」

 

「あら、隼人もいたのね。うっかりしてたわ」

 

 ビアンキは何処からか取り出したゴーグルを身につける。しかし一度ビアンキを直視してしまった獄寺は当分回復することは無いだろう。

 

 

 

 

「沢山食べていってね」

 

 飛鳥、耀、黒ウサギの前にはツナの母である奈々お手製のスパゲティ・ボンゴレが置かれている。リボーン達が根回ししたことで奈々は『ツナが家光に連れられて世界中の工事現場を見て回っている』と伝えられているのだ。この三名についても旅先の友人と認識しているのだ。

 

 ちなみに獄寺はソファで横になっていて、山本と了平は部活の練習を抜け出していたらしくすぐに学校の方へ戻っていった。

 

「あ、このアサリのパスタ美味しいわね」

 

「おかわり!」

 

「耀さん食べるのはやっ! 人様の家なんですからもうちょっと遠慮した方が……」

 

「遠慮なんてしなくていいのよ。えっと、確か月野さんだったかしら。あなたもおかわりはどう?」

 

 流石に黒ウサギと名乗るわけにもいかないので、彼女だけ『月野 兎』と偽名を使っている。何分即興で考えたものなので捻りとか期待してはいけないのだ。

 

(ツナさんはお母さん似なのですね)

 

 ついつい気を許してしまいそうな優しい雰囲気。それは箱庭に彼が来て初めて見せたあの優しさによく似ている。 

 

「ではお言葉に甘えて。後、もし良ければなんですけど……作り方とか、教えていただけるわけには……」

 

「私の作り方で良いのかしら? だったらそれくらい構わないわ。そういえば月野さんは孤児院の経営を手伝ってるんだったわね」

 

「Yes! きっと子供達も喜んでくれます」

 

 何から何まで捏造だらけの設定に黒ウサギは内心冷や汗をかいている。

 

「ママン、オレもおかわりだぞ」

 

「ランボさんもだもんね!」

 

「はいはい。ちょっと待っててね」

 

(あれ? ランボちゃん、さっき何処かに吹き飛んでましたよね?)

 

 久々の母親の料理に少し温かな気持ちになりながらボンゴレを食べるツナ。そこでふと何名かこの家に居ないことに気がつく。そう、ランボがいるのにフゥ太とイーピンの二人がいない。

 

「母さん、フゥ太とイーピンは?」

 

「二人なら遊びに出掛けたわよ。ツっ君が帰ってくるまで遊んで来るって言ってたからもうすぐ帰ってくるんじゃないかしら」

 

「「「ブフッ!?」」」

 

 飛鳥、耀、黒ウサギが同時にパスタを噴出した。

 

「ツ、ツっ君……」

 

「ちょ、飛鳥さん失礼ですよ」

 

 飛鳥は笑いを堪えるのに必死で振るえている。それを必死で咎める黒ウサギだが、彼女も少し笑っていた。そして耀は「ツっ君……ツっ君……いいかも」と誰にも聞こえないくらい小さい声で呟いていた。

 

「か、母さん! 友達の前でその呼び方は止めてって言ってるじゃん!」

 

「いいじゃない。可愛いわよ、ツっ君」

 

「だーかーらー!」

 

 傍から見れば、意地を張っている息子を微笑みながら優しく接する母親。ただそれだけの事。

 

 ほとんど家族と会う事が無かった飛鳥、母親が行方不明の耀、そして幼い頃に生みの親と離れ離れになった黒ウサギにとって、その光景はとても羨ましいものだった。

 

 

 

 

 ところ変わって、行方を晦ましていた十六夜は一人で並盛を散策している。彼の知識の中に『並盛』という地名は存在しない。であれば、ただ忘れているだけ。もしくは十六夜の世界とツナの世界は別のものということになる。

 

 『探せばカナリアファミリーホームもあるかもしれないのでは?』という疑問が一瞬頭の中に浮かんだが、それをすぐに振り払った。

 

 仮にあったとしてもそこに金糸雀がいるとは限らないし、仮にいたとしても彼にとっての金糸雀はもう死んだのだ。

 

「アホらし。望郷の念にでも駆られたか?」

 

 何とはなしに歩いていたら目の前には学校があった。校門には『公立並盛中学校』と表札が付けられている。よくある地元の公立校だ。

 

「学校か……」

 

 別に懐かしくなったというわけではない。ただ、高い所からであれば探し物もし易いと思っただけ。『この世界に存在する自分を楽しませる者』という探し物を。

 

 特に躊躇うこともなく彼は並盛中の屋上へと跳んだ。

 

「さてと……ん? あれは鳥か?」

 

 普通の鳥ではない。まるで鶏の雛のように黄色で丸っこくてフワフワしている。だというのにあの鳥は空を飛んでいるのだ。

 

「ミードーリタナービクーナーミーモーリーノー♪」

 

「へえ、歌う鳥とは中々洒落てるじゃねえか」

 

 グリフォンやぺリュドンのような幻獣を見た十六夜としては歌う鳥くらい珍しくも何ともない。特に構う必要もないと背を向けようとしたその時だった。

 

「――騒がしいな」

 

 静かに、淡々と喋る声。

 

「その制服……君、並盛の生徒じゃないね」

 

 その鋭い相貌は獲物を狙っている狼そのもの。そして彼が羽織っている学ラン。その袖にあるのは『風紀』と書かれた腕章。

 

「教えてあげるよ。僕の眠りを妨げるとどうなるかを……ね」

 

 最強の問題児――逆廻十六夜。

 最恐の風紀委員――雲雀恭弥。

 

 出遭ってはいけない二人が今、出遭いを果たしてしまった。  




カナリアのことを考えてたらヒバリに遭遇する十六夜君

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