ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
2期に期待です
互いにランスを一打投擲して、受け手は止められねば敗北という単純なゲーム。レティシアはそれで十六夜とツナの実力を測るつもりのようだ。
レティシアは空を飛び、ランスを構える。
放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線へと十六夜に向かって落下していく。その流星の如く大気を揺らしながら放たれた槍の先端を前に十六夜は牙を剥いて笑い、
「カッ―――しゃらくせえ!」
十六夜は槍の先端を殴りつけた。槍はあっさりと破壊されてそれは散弾となりレティシアに襲いかかる。彼女も硬直してしまい、このままでは当たってしまう。これが直撃したらただでは済まない。
「危ない!!」
ツナは死ぬ気モードになって大急ぎでレティシアを抱きかかえ、安全な所まで避難させた。レティシアは決闘を邪魔されたことにたいして不満の声を上げる。
「な、何をする!?」
「良かった……」
「……レティシア様、ちょっと失礼します」
同じくレティシアを助けようとしてた黒ウサギは確認したいことがあるのかレティシアのギフトカードを掠め取る。記されてあったのは"
「……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」
「ハッ。どうりで歯ごたえが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」
十六夜は隠す素振りも見せずに舌打ちをする。彼からすれば期待はずれもいいところかもしれない。しかし、彼の言う通り商品とするのであればあまり強くあられては困るからギフトを没収するというのはありえることなのかもしれない。
それについては黒ウサギが否定した。
「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトと違い、"恩恵"とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪う事は出来ません」
ということは、レティシアが自分からギフトを差し出したという事になる。その本人であるレティシアは二人の視線を受けて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら目を逸らす。黒ウサギも苦い表情でレティシアに問いかける。
「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため"魔王"と自称するほどの力を持てたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……!」
「……それは」
レティシアはそこから二の句を告げることができない。言いたくない事情があるのか、そのまま口を閉ざしてしまった。話にならないと十六夜は頭を掻きながら鬱陶しそうに提案する。
「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」
十六夜の提案に皆は頷く、黒ウサギとレティシアはとても沈んだ表情だ。
ツナは立ち上がろうとして顔を上げると、褐色の光が目に飛び込んできた。
「何だ……?」
「あの光……ゴーゴンの威光!?」
レティシアがハッとして叫ぶ。その光の直線状にいたのはツナだった。それに気づいたレティシアは渾身の力でツナをできるだけ遠くに突き飛ばす。
「「レティシア(様)!?」」
褐色の光線を一身に受けたレティシアは瞬く間に石像となって横たわり、ピクリとも動かなくなってしまう。ツナと黒ウサギが悲鳴を上げた。すると光が差し込んだ方角から、翼の生えた靴を装着した騎士風の男達が押し寄せてきた。
「いたぞ! 吸血鬼は石化させた! すぐに捕獲しろ!」
先程の褐色の光線はこの男達の仕業のようだ。コミュニティ"ペルセウス"、今現在レティシアを所有している"サウザンドアイズ"傘下のコミュニティ。光線の正体はリーダーと思われる男が手に持った"ゴーゴンの首"だろう。
"ペルセウス"は石像となったレティシアを回収しようとするが、それをツナは見過ごせない。起き上がって運ぼうとしていた男にタックルを喰らわせる。そして彼女を背にして立ちはだかった。
「貴様!? 邪魔をするな!」
「この人をどうするつもりだ!!」
「これより、箱庭の外へと売却するのだ」
「箱庭の外ですって!?」
黒ウサギはこの場を見逃す気にはなれなかった。それもその筈、レティシアを始めとしたヴァンパイア――"箱庭の騎士"は箱庭の特別な加護のお陰で太陽を浴びても灰にならないのである。そんな彼女が箱庭の外に連れ出されるということは彼女の自由は奪われることになる。
黒ウサギは抗議するも、"ノーネーム"であるが故に発言権は弱い。しかし、"ノーネーム"での敷地内でここまで勝手なことをされては黙っているわけにはいかない。
「こ、この……! これだけ無遠慮に無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言もないのですか!? それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね、貴方達は!!」
激昂する黒ウサギだが"ペルセウス"の騎士達は鼻で笑った。
「ふん。こんな下層に本拠を構えるコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ"名無し"が」
「なっ……なんですって……!!」
黒ウサギから堪忍袋が爆発した音がした。レティシアの扱いやコミュニティを侮辱する行動と発言の数々に、黒ウサギの沸点は一気に振りきれたのだ。怒りに震える黒ウサギを見下す騎士達はその姿に再度鼻で笑う。
彼女の沸点は既に限界を迎えていた。
「いでよ! "インドラの槍"!!」
それは金色をした三叉の槍。同じ三叉の槍でも六道骸が使っているものとは形状が違う。帝釈天が使っていたとされる雷の槍で別名をヴァジュラともいう。
黒ウサギはいつもの弄られキャラの汚名を雪ぐかのごとく勇猛果敢に黄金の槍で狼藉者どもを蹴散らそうと槍を投げようとした……が、十六夜に邪魔されて、挙句の果てに逃げられた。あの一撃は流石にやばいと判断したことと、不可視のギフトを使っても
「ああ、おいたわしやレティシア様」
「元に戻す方法とかないの?」
石化したままのレティシアを見て黒ウサギは涙を流す。奪われずには済んだものの、彼女を元に戻す方法がない。"ゴーゴンの首"というくらいだから元に戻すにはおそらく"メドゥーサの涙"が必要なのだろう。勿論"ノーネーム"にそんなものある筈がない。それに"ペルセウス"がこのまま黙って引き下がるわけがない。
「なら、こっちから乗り込むとしようぜ」
この意見には皆賛成だった。その場でギフトゲームになる可能性も考慮して治療中の耀と万が一のために本拠地に残ると言ったジンを除いて全員で"サウザンドアイズ"二一〇五三八〇外門支店を目指すのだった。
◆
一行は"サウザンドアイズ"二一〇五三八〇外門支店へと到着、店内へと通されて中庭を抜けて離れの家屋に黒ウサギ達が向かう。中で迎えた男、ルイオスは黒ウサギを見て盛大に声を上げた。
「うわお、ウサギじゃん! うわー実物初めて見た!噂には聞いていたけど本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つーかミニスカにガーターソックスなんてエロいなぁ」
ルイオスは黒ウサギを"ペルセウス"に来るようにと勧誘している。黒ウサギはこんな言葉に耳を貸すことはない。
「――先に断っておくけどこの美脚は私達の物よ」
「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」
「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」
「十六夜君も何言ってんの!!?」
「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で買おう!!」
「売・り・ま・せ・ん」
「ツッコミが追いつかねーーー!!」
ボケ三人にツッコミ二人は流石にきついものがある。それに黒ウサギは胸の方がゲフンゲフン。
肝心のルイオスは完全に置いてけぼりを食らっている。"ノーネーム"+白夜叉のやり取りを唖然と見つめて、黒ウサギがボケ組をハリセンで叩いた辺りで唐突に笑い出した。
「あっはははははは! え、何? "ノーネーム"っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうならまとめて"ペルセウス"に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベットで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」
「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」
ルイオスのセクハラ極まりない言葉に対して黒ウサギはとりつくしまもなく拒否をする。
「「「てっきり見せ付けるために着てるのかと思った」」」
これにはツナも擁護するつもりはなかった。ミニスカートにガーターソックスとか身持ちの硬い人のする格好ではない。
「ち、違いますよ皆さん!これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しにすると言われて嫌々……」
(白夜叉さん何やってんのーーーー?)
一方で白夜叉と十六夜の間には変態同志の奇妙な友情が芽生えていた。話が全然先に進まず黒ウサギは泣く。
そして話し合いは再会する。ルイオスが求めてきたのはレティシアの引渡しだ。それに対して黒ウサギは本拠地で"ペルセウス"のメンバーが行った暴挙についての謝罪、もといゲームでの決着を申し出る。
「いやだね。逃げ出した商品を捕まえに行っただけだし、そもそも名無し風情の敷地内に仮に僕達が入ったとして、それがどうしたって感じだけどね」
ルイオスは黒ウサギの申し出を全面的に却下、挙句の果てにレティシアが同じコミュニティの同志だったこともあり結託しているのではないかと言い出す始末。
「大体さ、"ペルセウス"が君達に勝って一体何の得があるっていうのかな? 君達がそれに見合った貴重なギフトでも持ってれば話は別だけど。それともあの吸血鬼と黒ウサギを交換でもするかい? 黒ウサギが"ペルセウス"に来るっているのなら、あんな女渡してあげてもいいよ。あの貧相な体系はどうも僕の好みじゃないんだよな」
ルイオスの提案に黒ウサギは僅かに顔を叛ける。自分とレティシアの交換。その条件は彼女にとって即座に拒否できるものではなかった。
「月の兎ってのは自己犠牲が本望なんだろ。それなら、僕の提案を断る理由は」
「黙りなさい」
ツナもそうだが、このやり取りに一番苛立ちを覚えたのは同じ女である飛鳥だ。彼女の一言でガルドの時と動揺にルイオスの口は塞がれる。
「貴方の言葉は聞くに堪えないわ。そのまま黙って地面に頭をついてなさい」
「っ……! おい女、そんなものが通じるのは、格下相手だけだっ!」
しかし、そこまでだった。ガルドの時とは違い、ルイオスは"威光"による拘束を跳ね除け鎌のように湾曲した剣を飛鳥に振りかざす。不死の怪物であるゴーゴンの首を斬りおとしたとされる"ハルペー"だ。
「なっ!?」
その剣を人差し指て止めた十六夜。それに驚いて思わず後ろに退がるルイオス。互いに一触即発の空気になってしまった。
「いい加減にせんか戯け共! 話し合いで解決できぬなら放り出すぞ」
白夜叉の一喝によって互いは攻撃の手を収める。
ルイオスは悪態をつきながらその場に座った。
「……レティシアさんに見合った貴重なギフトがあれば、ギフトゲームを受けてくれるんですよね」
「ツナさん」
沈んでいた黒ウサギはツナの方を振り向く、ツナの目は真っ直ぐルイオスを見ていた。
「言ったけど、それが何?」
ツナは大空のリングを着けている方の手を差し出し言い放った。
「ならオレのギフトを、このリングを賭けます!」
「ツナさん!?」
「なっ、やめんか綱吉!」
このリングが何なのか知っている黒ウサギと白夜叉はツナを止めようとする。
「ふ~ん?」
ルイオスは鼻で笑って断ろうかと思ったが、白夜叉の焦りようを見て、ツナのリングに興味を示す。軽い鑑定だけしても損はなさそうだ。
(彫金は……見事だ。それにこんな石見たことないな……好事家に高値で売れそうだ)
ツナのリングを見てニヤリと笑う。予想以上の品だ。レティシアとは比べ物にならない価格で売れるかもしれない。
「いいよ、やってあげるよギフトゲーム」
「ほ、ホントですか!?」
「ただしこちらが勝った暁には黒ウサギも貰おうか。それとゲーム内容もこっちで決めさせて貰うよ」
ルイオスが提示した条件は"ノーネーム"側の更なるベットとルールの決定。飛鳥や黒ウサギはこれに対して怒りをみせる。
「何よそれ!?」
「それではあまりにも!!」
「おっと恐い恐い、勿論こちらも景品を増やさせて貰うよ」
ルイオスはギフトカードから透明な液体の入った小瓶を取り出す。
「これ何だか分かる? "メドゥーサの涙"だよ、吸血鬼を元に戻すのに必要だろう?」
ルイオスの言うことも最もだ。石像だけそもまま渡されても元に戻す方法がないのでは話しにならないのだ。
「こっちとしてもかなり譲歩してる方なんだけどね~」
ルイオスはムカつくが、この条件を飲む他にない。ツナも断腸の思いでリングを賭けの対象とし、チャンスをつくった。それを十六夜や黒ウサギは無駄にすることはできない。飛鳥はツナのリングがどんなものか知らないので戸惑っている。
"ノーネーム"はこの条件を承諾、ゲームは一週間後に"ペルセウス"が指定した内容で行われることになった。
◆
ルイオスが浮き足立って帰って行った後、"ノーネーム"はその場に残された。
「このバカ者!! ……と言いたいところだが、あの局面では仕方ないか」
「あはは……」
本当はもっといい方法があったのだが、と白夜叉は言おうとしたが無粋なので止めた。あの時のツナの目には確かな覚悟を見た。
黒ウサギはきっかけをつくってくれたツナに頭を下げて感謝する。
「あの、ありがとうございます。私達のために」
「ううん、オレが勝手にやったことだし。それにレティシアさんには助けて貰ったから」
ツナはただレティシアに恩を返したかっただけだ。
「よし、そうと決まればさっそく準備に取り掛かるか」
十六夜からすれば初めてのチーム戦に腕がなる。狙いは当然ルイオスだ。
「要は勝てばいいのよね」
飛鳥も自分の"威光"が破られたことに屈辱を感じている。"ペルセウス"に一泡吹かせなければ気が済まないようだ。
「……私は審判しかできませんけど、精一杯サポートさせていただきます」
つまり十六夜、飛鳥、ツナ、耀(それまでに治れば)、そしてリーダーのジンで"ペルセウス"と戦うことになる。向こうも当然数の差を生かしたゲームを用意することだろう。
しかし、黒ウサギは不思議と負ける気がしなかった。
"ペルセウス"とのギフトゲームまで後一週間。5
次回
VSペルセウス