ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
異論は認めない
ツナ達の目の前にあるのは白い石造りの宮殿。今回のギフトゲームの舞台である白亜の宮殿だ。
ルールはゲームマスターであるルイオスを倒すことだが、ホスト側、つまりルイオスを除く"ペルセウス"のメンバーに姿を見られずにルイオスのいる最奥へと到着しなければルイオスの挑戦資格を失ってしまうというもの。
「つまり、ペルセウスを暗殺しろってことか?」
ペルセウスがメドゥーサを睡眠中に暗殺したという伝説がある。立場は逆になるが、今回のゲームはそれを元にしているのだろう。しかしルイオスも馬鹿ではない。戦いの最中に眠るなんてことはまずないだろう。
「誰かが囮になって敵を引き付けないと難しいな」
この人数ならルイオスまでたどり着いた頃には二人残っていればいい方かもしれない。おまけに敵は不可視のギフト"ハデスの兜"を持っている。
「なら、機動力のあるオレが囮になるよ」
メローネ基地へ潜入した時のことを思い出す。あの時はラル・ミルチが負傷して、代わりに自分自身が囮となり、スパナがチューニングした高性能のモスカと戦ったのだ。
「いや、沢田の"超直感"と春日部の動物染みた五感は不可視の敵を撃破するために必要だ」
十六夜は作戦を立てるために前もってツナのギフトについて聞いていた。ツナと耀はこの戦いで大きな武器となる。ツナはオレンジ色の炎が目立つのはこの戦いで欠点だが、それは逆にツナに注目が集まりやすくなるということでもある。最初から囮として扱うのは得策ではない。
「それじゃあ消去法で囮は私ということかしら?」
「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たないと意味が無い。あの野郎の相手はどう考えても俺が適している」
少し不満そう声を漏らす飛鳥。だが、名前負けのルイオスであるが腐っても"ペルセウス"のリーダーであるのは変わりない。事実、飛鳥の"威光"はルイオスに破られてしまっている。それに今回、飛鳥は水樹を持参してきている。それを最大限に発揮するならば不特定多数を相手にする方がいい。飛鳥であればその能力を十二分に発揮できることだろう。それは飛鳥自身も分かっているはずなんだが不満なのは不満らしい。
「……まあいいわ、今回は譲ってあげる。ただし負けたら承知しないから」
飛鳥の言葉に飄々と肩を竦める十六夜。これで方向性は決まった。十六夜とジンを優先的にルイオスの元へ行かせるために他三人がサポートをすることになる。
しかし、黒ウサギはやや神妙な表情を浮かべながら不安を口にする。
「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒せねば、非常に厳しい戦いになると思います」
「……あの無能、それほどまで強いの?」
「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど」
黒ウサギも案外毒舌だった。
問題なのはルイオスが隷属させている"元・魔王"。本来なら"ゴーゴンの生首"は戦神に献上しているのだから"ペルセウス"が持っている筈がない。なのに石化のギフトがあるのは、
「奴ら"ペルセウス"は星座として招かれたと推測できる。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」
十六夜はこのことに既に気がついていた。ツナ達は首を傾げているが、黒ウサギは十六夜が自力で答えに辿り着いたことに驚愕している。十六夜は案外頭脳派だったようだ。
◆
「そういえばよ、お前がつけてるそのヘッドホンは俺の真似か?」
「違うよ!」
飛鳥が水樹で暴れている間に他4名は宮殿内へと潜入に成功した。飛鳥がかなりの敵を引き付けてくれているお陰か、内部に残った敵はそれ程多くない。十六夜は先ほど耀が倒した敵から"ハデスの兜"のレプリカを奪って姿が見えない状態で、ジンは近くにあった木箱に身を隠している。
今はツナと耀の二人で来る敵を迎え撃ち、ギフトを奪う作戦に出ている。
「ははっ」
「何笑ってるの?」
ツナのつい口からでた笑いに耀は疑問を持つ。
「いや、こういう風に皆で戦うって久しぶりでさ」
最後に戦ったのは虹の代理戦争で
「……皆で、か」
彼女は少し遠い目をしている。ツナには彼女が何を見ているかは分からない。でも少し寂しそうな表情をしている。
「来るぞ!」
ツナは死ぬ気丸を飲みこんで超死ぬ気モードになる。彼の"超直感"が敵の悪意を感じ取ったのだ。その声を聞いた耀も身構える。
「そこか!」
ツナは目に見えない何かをその手で掴む。姿かたちは見えなくとも悪意を感じ取るボンゴレの"超直感"と骸や幻騎士、トリカブトといった凶悪な幻術使いと戦った経験は"ハデスの兜"のオリジナルであっても彼を欺くことはできない。
「ツナ、そのまま逃がさないで」
まるで気がついていなかった耀は一瞬驚いていたが、すぐに気を引き締め顔と思わしき部分を殴り飛ばした。手応えはある。耀に殴り飛ばされた敵は壁に叩きつけられた。
「くっ、"ハデスの兜"を見破ることができる者が何故"ノーネーム"に……」
「姿を消すことができる敵とは何度か戦ったことがあった。そのお陰でお前に気がつくことができた」
「見事だ……」
敵の騎士はそう言って気を失った。姿を消していたから故の慢心だったのかもしれない。普通に戦えば苦戦は避けられなかっただろう。
「ツナ凄い。私、全然気がつかなかった」
「まさかお前のいた世界って
「話は後だ。これで兜は二つ、少なくとも十六夜とジンはルイオスと戦うことができる」
ツナは騎士が落とした兜を広い、木箱に隠れているジンに手渡す。
「沢田はどうする?」
「ここに残って敵を迎え撃つ。オレは敵に姿を見られているからルイオスとは戦えない」
「安心しろ、お前のリングをみすみすあいつに渡させやしねえさ」
「任せた」
二人はそう言葉を交わし、十六夜は先を急ぐため宮殿の奥へと進んでいったのであった。足音からしてジンも十六夜の後を追いかけていっただろう。この場に残ったのはツナと耀だけだ。
「ここは私だけでも大丈夫」
「二人で戦った方が早い」
ツナは耀の申し出を却下。十六夜達が先へ向かってから直ぐに敵の団体がやってきた。姿が見えていることから敵は"ハデスの兜"のレプリカを持っていない様子。向こうも不可視のギフトをいくつも奪われたらたまらないのだろう。
ツナと耀はこの敵軍をどう捌こうかと考えながら戦うのであった。
◆
「これで最後」
耀が最後の敵を蹴り飛ばして相手方はほぼ全滅。不可視のギフトを持っている敵はあれから現れることはなかった。ツナはそれでも警戒して死ぬ気モードを解いていない。
「……そういえば、ツナのリングについて聞いてない。十六夜と黒ウサギは何か知ってるみたいだった」
耀は少し恨めしそうな目でツナを睨んでいる。ツナとしてはマフィアについて等はあまり話したくないのだが。
「……終わったら話す。今は警戒しよう。それに囮をやってる久遠のことも気になる」
いつもの無表情がブスっとなる。拗ねているのだ。そのことがおかしくて少し笑ってしまう。仲間や自分の大切なリングを賭けた戦いだということを忘れてしまいそうだ。十六夜はもうルイオスの元へ辿り着いただろうか、もう戦いは始まったのだろうか。
――ツナは背筋が凍る感覚に襲われる。
「(何だ今のは!?)春日部!!」
ツナは嫌な予感を感じ取って大急ぎで耀の元へと駆け寄る。そして耀を抱き寄せて大空の炎を最大出力にして自分自身と耀を包み込んだのだ。未来でスクアーロが雨の炎を盾にしてザクロの嵐の炎を防いでいたのを思い出し、直感でそれを行ったのだ。大空の炎の特性は調和、これであれば外からのどんな攻撃であっても調和して無効化することができる。しかしその分消耗も激しい。
「大丈夫か?」
「う、うん。急にどうし……嘘っ!?」
顔を真っ赤にしていた耀だったが、何かに気がついて愕然とする。
「これは……」
ツナも周囲を見渡すと、先ほどまで神秘的な白い宮殿が灰色一色の死の世界と化してるのだ。"ペルセウス"の騎士達も、植物や水でさえも時が止まったこのように石となっている。
「……さっきまで聞こえてた声が聞こえなくなってる」
死の世界を見た耀は顔を真っ青にして震えている。ツナが気転をきかせなければ自分もこの仲間入りだったのだ。おそらく飛鳥も石になっているだろう。今も奥の方から禍々しい気配が感じられる。こんな恐ろしいことができる化け物に勝てるのだろうか。
「ナッツ、春日部を守っていてくれ」
「ガウ!」
リングがら相棒のナッツが飛び出してくる。今のナッツはツナに影響されてとても気高いライオンへと変わっていた。耀はそのことにも驚いたが、それを自分に託したことに何より驚いた。
「ナッツと一緒に久遠の様子を見てきてくれ」
「ツナは、どうするの?」
「十六夜達の元へ向かう。ルイオスとは戦えなくても何かできることがあるかもしれない」
ツナのオレンジ色の目は奥を見つめている。耀には今の彼が何よりも頼もしく見えた。
「分かった。でも、無茶しないで」
――無茶しないで。
一瞬だが、耀の姿と未来で自分を見送ってくれた京子の姿が重なって見えた。
「ああ」
オレンジ色の炎をグローブに灯してツナは最奥へと飛ぶ、ツナの姿はあっという間に暗い奥へと消えていった。
あの禍々しい気配がするのはてっぺんからだ。急いでいたツナは一度外へ出てそのまま最上階を目指す。外からだと見つかりやすく、格好の的になる上にルイオスがいるのが最上階だとは限らないのでこの手段は使われなかったが、今はその心配をする必要はない。
辿り着いたツナが見たのはそこには薄気味悪いが荒れまくった闘技場のような場所に軽薄な笑みを浮かべる十六夜と驚愕し過ぎて唖然としている黒ウサギにジン、そして、戦意が枯れ果てたルイオスが地面に膝をつけて立ち尽くしていた。ルイオスの後ろにいる灰色の翼に体中に拘束具と捕縛用のようなベルトを巻いており、乱れた灰色の髪を逆立たせている怪物は元・魔王のアルゴールだろうか。
(杞憂だったか)
「おっ、沢田。無事だったのか」
飛んできたツナに気がついた十六夜は明らかにテンションダウンしている。思っていたほどの相手ではなかったのだろう。彼はほぼ無傷であることからワンサイドゲームだったと予想できる。
「そんな、バカな……いや、まだだ。まだ終わってない」
戦意を失っていたかと思っていたルイオスだが、何かを思い出したかのように自分を奮い立たせる。そしてポケットから何かを取り出した。それは紫色の石がついた指輪と、少し大きめのサイコロのような箱であった。十六夜は不審に思う。ペルセウスの伝説と指輪や四角い箱の関連性がすぐに思いつかないからだ。黒ウサギも同様に、ルイオスがあんなギフトを持っているなどと聞いたことがない。
だがツナはあれが何なのかを知っている。
(あれは
ルイオスは指輪をつける。紫色の石から純度は低いが紫色の炎が噴出し始めた。
「さあ、アルゴール! お前に新しい力を与えてやる。名無し共をを押しつぶせ!!」
ルイオスは
「いいなぁオイ! 面白い展開になってきたぜ!!」
「待て! 十六夜!」
ツナの声に十六夜がブレーキをかける。
「……お前はあれが何か知ってんのか?」
「ああ、やつの額を見ろ。死ぬ気の炎が灯っている」
「? 死ぬ気の炎ってのはお前のオレンジ色だけじゃないのか?」
「済まない、詳しくは後で話そう。協力してやつを倒すのが先だ」
「ならさっさと終わらせてやるさ」
十六夜は地面を蹴って猛スピードで接近しようとする。だが雲ゴーゴンは口から大小様々な大きさの雲ヘビを口から大量に吐き出して十六夜に襲い掛からせる。この程度は十六夜にとってものの数ではない、片っ端から殴り、蹴り、千切り、踏み潰し、次々と倒していく。だが雲の炎の特性は"増殖"、倒されたヘビの肉片は全て新しいヘビに再生して数を増やし、また十六夜へと襲い掛かる。
「なんだこりゃ!? キリがねえ!!」
このヘビには、いや死ぬ気の炎には十六夜のギフトが通用しない。十六夜が保有しているギフト"
このままではジリ貧だと悔しがりながら十六夜は後退する。だがヘビの動きは止まらずにそのまま前進する。
その中でツナが十六夜の前に出た。
(何だ? ツナの炎が消えた)
ツナの額に灯った炎とXグローブの炎が消える。その手で雲ヘビの大群に触れた。
「死ぬ気の零地点突破・
かつてジョットが使っていたとされる。死ぬ気の炎を正反対の力である"冷気"によって封じるボンゴレの奥義だ。雲ヘビの大群は徐々に凍っていき、その動きを完全に封じられる。
ルイオスは十六夜を手古摺らせたヘビの大群をこうもあっさりと攻略したことに驚きを隠せなかったが、同時にツナのルール違反に気がついて指摘する。
「おい黒ウサギ! 規約違反だ! やつには僕への挑戦権はない」
そう、ツナは敵に見つかってしまったことでルイオスへの挑戦権はないのだ。この状況にあっけにとられていた黒ウサギはルイオスの声にハッと我に返る。
「そうですね、確かにルイオス様とツナさんが戦うことはできません……」
黒ウサギは言葉を一端切る。見落としをしているのはルイオスの方であったのだ。
「ですが、今ツナさんが戦っているのは元・魔王アルゴールが変質した敵とみなされます。よってルイオス様の部下とみなされますので規約違反ではありません」
ツナはルイオスと戦いさえしなければいいのだ。十六夜や黒ウサギもこれに気がついていて、あえてツナの介入を見逃していたのだ。
ルイオスは舌打ちするが雲ゴーゴンが常軌を逸した強さを持つのもまた事実。直ぐに気を取り直して命を下した。
「アルゴール! そいつも纏めて葬ってしまえ!」
「■■■■■■■■■■■■!!!」
雲ゴーゴンはこの世のものとは思えない雄叫びを上げて高密度のエネルギーを圧縮させる。十六夜が先ほど破壊した砲撃とは違って雲の炎で周囲の物体もエネルギーに変換して収束していく。段々と肥大化していったそれは大きさだけなら前の5倍以上だ。死ぬ気の零地点突破・
あれを砕くにはそれ以上のエネルギーだ必要だ。
「オペレーション
次回 VSペルセウス決着