ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ? 作:妖刀終焉
『了解シマシタ、ボス。"
ツナの声に連動してヘッドホンから機械音声が発せられた。そして右手を後ろへと向けて、柔の炎を少しずつ出す。ツナの目についているコンタクトディスプレイには上下に二つのゲージが見えている。その中心が捉えているのは
ジンはツナが何をやろうとしているのかは分からない。黒ウサギにも分からない。だが彼が行おうとしているのは単純に強い炎を前へと噴出させることだ。
(成程、作用反作用の法則か。チッ、まだこんなモン隠してやがったのかよ)
ニュートンが見つけたとされる。ある物体が他の物体に作用を及ぼすとき、それとは逆向きで大きさの等しい反作用が常に働くというものだ。摩擦のない床でキャスター付き椅子に座ったまま前に向かってバスケットボールを投げると椅子が逆の方向に進むという話が有名だ。
十六夜は炎を後ろへと噴出させることが支えの役割を果たすことを見抜いていた。それもあれ程の炎を後ろへ噴出するのであれば前へと放出する炎の量は計り知れない。
「はっ、真っ向勝負というわけか、無駄な足掻きを!」
ルイオスには目もくれず、ある程度柔の炎を出した辺りから、今度は左手の甲に剛の炎を充填し始めていた。
雲ゴーゴンも負けじとより砲撃を大きくするためにさらにエネルギーを収束していく。ここでルイオスは自分の力が急速に減っていくことに今更気がつく。雲ゴーゴンはルイオスがリングから発している炎を勝手に吸収しているのだ。
「お、おい! 何をやっている! 止めろ!」
雲ゴーゴンはルイオスの言葉に反応していない。やつはもう誰の制御も受け付けなくなっていしまっている。ルイオスは恐くなってリングを引き抜いてそのままリングを投げ捨てた。
ツナは左手を前に出して剛の炎の出力をさらに上昇させていった。
(あれ、これはちょっと拙いのでは……?)
ツナの後ろにいるジンや色々規格外の十六夜はまだしも黒ウサギは離れているとはいえツナと雲ゴーゴンの中間辺りにいる。直撃はせずともその余波は確実に喰らうこととなるだろう。それに気がついた黒ウサギは冷や汗を滝のように流し始める。
「た、退避ーーー!」
黒ウサギも審判の仕事を放り投げてジンと同じくツナの後ろへと隠れる。それはきっとツナが勝つという願望の現われなのだろう。
そして互いに数秒程度であったチャージの時間は終わりを告げる。
「■■■■■■■■■ーーーーッ!!!」
『ケージシンメトリー!! 発射スタンバイ!!』
ヘッドホンからX BURNER発射準備が整った事が告げられた。
「
黒と赤と紫が交じり合った邪悪な砲撃とX BURNERが真正面からぶつかり合う。
「うっ!」
「キャ!?」
「なんつー衝撃だよ」
その余波と熱は後ろにいる三人にも伝わってきた。
X BURNERは少しずつ邪悪な砲撃を飲み込んでいく。
「うおおおおおおおっ!!」
濃いオレンジ色の炎は邪悪な砲撃を消し去り、雲ゴーゴンさえも飲み込んだ。雲ゴーゴンはツナの炎さえも吸収しようとしたが、大空の属性は"調和"。鎧は破壊され、吸収を封じられては成す術などない。X BURNERと共に観客席へと突っ込み、それでもその勢いは止まらずにそのまま外へと吹き飛ばされたのだった。
「あががが……」
ルイオスは削り取られた闘技場と大穴が開いた観客席を見て、開いた口が塞がらない。雲ゴーゴンに力の大半を吸い取られ、さらにこの有様を目撃したこの男は完全に戦意喪失していた。
"ノーネーム"が"ペルセウス"に勝利した瞬間である。
◆
「ふむ、よきかなよきかな」
傘下である"ペルセウス"が"ノーネーム"に倒されたというのに白夜叉はご機嫌だった。それもその筈、ルイオスの行動には少々どころではないレベルでやりすぎていた部分があったからだ。これを期に心を入れ替えて真面目に働くようになるだろう。
レティシアは無事"ノーネーム"へと正式に戻ることが決定。恩義を感じたレティシアは"ノーネーム"メンバー達のメイドとなることを買って出てしまったのだった。ちなみに十六夜:ツナ:飛鳥:耀:黒ウサギ=2:2:3:2:1の取り分となっている。飛鳥の取り分だけ微妙に多いのはジャンケンの結果だ(ツナは最初から辞退していた)。黒ウサギはレティシアが戻って嬉しい反面、箱庭の騎士がメイドにジョブチェンジしたことを嘆いていたのだった。
「久しぶりに面白いものが見れたぞ。まさかおんしが
友人であるジョットは死んだが、その意思は生きてツナへと受け継がれていた。白夜叉にとってそれを視認できたことほど嬉しいことはなかったのだ。彼女の今の気分は成長した孫を見ているようなものかもしれない。
ツナ本来の零地点突破はあれではないのだが、これはまたいずれ語られることがあるだろう。
雑談もそこそこにツナは本題に入るように促す。
「あはは……ところで」
「ああ、おんしの言っていたリングと匣についてだな」
白夜叉は扇子を閉じて顔を引き締めてツナへ向き直る。
ツナが白夜叉の元を訪れたのはこのためだ。ルイオスは何故リングと匣を持っていたのかを彼女に調べて貰っていたのだ。リングも匣も使い捨て仕様だったのか砕けていて、もう使い物にならない状態だった。
「ルイオスに問い詰めたところ、ギフトゲームの三日前にローブを被った何者かに渡されたそうだ。声は女の者だったらしいが、音声変更のギフトや術でどうにでもなるから宛てにはならん。何でも『アルゴールを最強の魔物へと変える最新式の兵器』だとか言われていたらしい。事実アルゴールは凶悪化して使い手でさえも制御できない状態であったからその部分は間違いではなかったのだろうな」
ローブを被った何者か、もしくはそいつらを操っている者。そいつらがリングと匣をここへと持ち込んだ可能性が高い。
(ここでやらなきゃいけないことが増えたな)
"ノーネーム"を立て直すだけでなく、自分の世界の技術を持ち込んだ黒幕を突き止める。そしてそいつがそれを悪用しようとしているのであれば全力で止めよう。
不安はあったが、仲間がいる。それだけでも自分を奮い立たせるのには充分だった。沢田綱吉とは元来からそういう男だ。
その日の夕方から、黒ウサギの提案で"ペルセウス"戦の祝勝会とレティシアが帰ってきた記念にパーティーが行われることになった。
"ノーネーム"もあまり食糧が潤沢にあるわけでもない。実際少し無理をしている方だとは思われるが、めでたいことだし、こういうのもたまにはいいことなのかもしれない。
黒ウサギが乾杯の音頭に子ども達が歓声を上げてパーティーが始まった。
「さーて、説明してもらおうじゃねーか。ルイオスがアルゴールを強化したあれは何なんだ?」
「ツナのリングのことも聞きたい」
「終わったら話すって約束だったわよね?」
「ちょっと待って! 順番に話すから!」
ツナは問題児三人から詰め寄られた。
「ガウ♪」
『おじょおおおおおおおおおおおおおおおう!!』
耀はあれからナッツのことが気に入ってしまい今も撫で回している。ナッツも最初は怯えていたものの、だんだん気を許すようになった。そして三毛猫はいつもの定位置をナッツに奪われて泣いていた。
どうやら耀の"
ツナは自分のリングのことから匣兵器のことについて、マフィアについてはできる限り避けながらも知っている限りのことを三人へと話す。
「地球をつくった基盤の石……スケールが大きすぎてちょっと……」
「一体どういう仕組みなんだこれは?」
「欲しいわね、その辺に落ちてないかしら?」
耀は流石にそこまで凄いものだと思ってはいなかったようで、逆に戸惑っている。十六夜と飛鳥は匣兵器にとても興味心身のようだ。それもその筈、天才と呼ばれたケーニッヒ、イノチェンティ、そして元アルコバレーノのヴェルデの技術と偶然に偶然が重なって生まれた理論がきっかけとなって作られたものなのだから。ここでもそれを欲しがりそうな輩はこの夜空にある星の数ほどいることだろう。
「問題は何でルイオスがそれを持っていたのか、なんだけど……」
「分からない、ってか」
十六夜の言葉にツナは頷いた。現状では手掛かりが少なすぎる。
四人で話していると、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促した。
「それでは本日の大イベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」
その場の全員が料理に手を伸ばす手や談笑する口を止めて満天の星空を見上げる。都市部ではお目にかかることはまずない綺麗な夜空だ。
空に輝く星々に異変が起きたのは、注目を促してから数秒後だった。
一つ星が流れた。
それは次第に連続し、すぐに全員が流星群だと気が付いて、歓声を上げた。
「凄い、流れ星だ!」
ツナも見事な流星群に歓声を上げる。
「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」
「「「「え?」」」」
どうやら今回"ノーネーム"に敗北したことで、"ペルセウス"は"サウザンドアイズ"から追放され、夜空に浮かぶ
とてつもなく大掛かりな事柄にツナ達は絶句する。ここ数日で様々な奇跡を目の当たりにした彼らだが、今度の奇跡は規模が違う。
「今夜の流星群は"サウザンドアイズ"から"ノーネーム"への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で鑑賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」
ツナはこの見事な流星群を仲間達にも見せてあげたかったと思う。獄寺隼人、山本武、笹川了平、笹川京子、古里炎真、三浦ハル、ランボ、イーピン、クローム、そしてリボーン。
周りの皆が笑いあっている中で、皆は今頃どうしているだろうか、それを思ったツナは少しセンチな気分になる。他三人と違ってツナは元の世界に残したものがあるのだ。
「ふっふーん。驚きました?」
黒ウサギがピョンと跳んで十六夜たちの元に来る。黒ウサギはしてやったりなドヤ顔をしていた。
「やられた、とは思ってる。世界の果てといい、水平に廻る太陽といい……色々と馬鹿げたモノを見たつもりだったが、まだこれだけのシショーが残ってたなんてな。おかげ様、いい個人的な目標も出来た」
「おや?なんでございます?」
「
ペルセウス座が消えた夜空を指差し、十六夜は笑う。
黒ウサギも弾けるような笑顔でそれに賛同した。
(うん、寂しがってなんていられないな……)
これからこの世界とは長い付き合いになるだろう。
ツナは自分に気合を入れ直すのであった。
『……ツ……どう……ボン……』