ネオ・ボンゴレⅠ世も異世界から来るようですよ?   作:妖刀終焉

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第2章スタートです


あら、魔王襲来のお知らせ?
火龍誕生祭来る!


 あの"ペルセウス"とのゲームから約一ヶ月が経過。

 

 あれから飛鳥がツナから奪った死ぬ気丸を飲んで筋肉痛で二週間程寝込んだことや、三毛猫がナッツを強襲して返り討ちにあったこと、十六夜に暇つぶしにと模擬戦を挑まれることを除けば何事もない日々が続いていた。

 

 十六夜たちはあれからもギフトゲームをしていたが、あの時のような刺激はしばらく味わっていない。ツナは刺激を求めているわけではなかったが、リングと匣を持ち込んだ者の手掛かりもなかなか掴めない。

 

 そんな日々も今日この瞬間で終わりを告げた。

 

「北側の祭典の招待状?」

 

「ああ、そうだよ。俺もさっきお嬢様から聞いたんだけどよ。酷いよな~。俺達頑張ってるのによ? こんな楽しそうなこと秘密にされてたんだぜ?」

 

 ツナがヘッドホンの手入れをしていると、十六夜が突然現れて北と東の"階層支配者(フロアマスター)"が共同で行われる祭典。"火龍誕生祭"に一緒に行かないかと誘われたのだ。他二人も既にことのとは知っているらしい。

 

 十六夜から手渡された手紙の内容を見ると、『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会及び批評会に加え、様々な"主催者"がギフトゲームを開催。メインは"階層支配者"が主催する大祭を予定しております』と記載されている。

 

「確かに楽しそうだけど、勝手に行くのはちょっと拙いんじゃ……」

 

 勿論ツナだって祭りは好きだし、異世界の工芸品というのにも興味がある。彼だってまだ中学二年生なのだから当たり前だろう。

 

「その辺は問題ねーよ。うちのリーダーも()()()()()()()()()()()()()()()()。それにお前の知りたがっていることの手掛かりを北のフロアマスターが知ってるかもしれねーだろ?」

 

 十六夜はものすごくいい笑顔でそう言っていたが、皆とカフェテラスで合流して、実際にツナが見たのは拉致されて半泣き状態のジンだった。今回はいつもと違ってリリという狐の少女もついてきている。

 

「ツナさん、三人を止めてください」

 

「…………ごめん、無理」

 

「そんなーーーーー!!?」

 

 今頃黒ウサギも問題児達の行動に気がついて、怒りのあまり絶叫していることだろう。

 

「それで、何かいいプランはねーのか? 我らがリーダー」

 

「はあ、予想はしてましたけど……北側までの距離をご存知ないのですか?」

 

 ジンはここから北側まで行くのに98万kmくらいの距離があると説明する。とても一日で行ける距離じゃない。ツナが休みなしで飛んでいってもどれくらいかかるか分かったものではない。そこまで行くための"境界線(アストラル・ゲート)"を使おうにもそんな資金はどこにもない。

 

 そんな中でツナはふと思いつく。

 

「白夜叉さんなら……」

 

 とツナが言いかけるとジンの顔が青ざめて、その反対に十六夜、飛鳥、耀が「その手があった」みたいな顔をしている。

 

「ツ、ツナさん! 何て余計なことを!」

 

「そうよね。主催者なんだし送ってってくれてもいいわよね!」

 

「ツナ、賢い」

 

「そうと決まれば早速行こうぜ!」

 

 一行はジンを引きずりながら"サウザンドアイズ"支店を目指すのであった。

 

 

 

 

「というわけで招待者として北側まで連れてけやコラ」

 

「ちょっと十六夜君、それ人にモノを頼む態度じゃないでしょ!?」

 

 一行は"サウザンドアイズ"の支部まで来ていた。途中で割烹着の女性に阻まれたり、白夜叉がまたもやダイナミックな登場をしたりと色々あったが、無事に店内へと通された。

 

 現在は十六夜が仁王立ちで喧嘩腰に頼み込んでいるのをツナが注意している。

 

「よいよい、まあ座れ。招待者としてそれぐらいはやるが少し話したいことがある」

 

「話したいこと?」

 

「本題の前に一つ聞く。"フォレス・ガロ"の一件以降、おんしらが魔王のトラブルを引き受けるとは真か?」

 

 ジンを含んだ全員がその言葉に首を縦に振った。リスクは覚悟の上、無関係な魔王を引き付けても逆に隷属させてやると十六夜は言う。

 

 それに対して白夜叉はしばし瞑想した後に、呆れたように笑いながら本題へと入る。

 

「うむ。実はその"打倒魔王"を掲げたコミュニティに、東のフロアマスターから正式に頼みたい事がある。此度の共同祭典についてだ。よろしいかな、ジン殿?」

 

「は、はい!謹んで承ります!」

 

 白夜叉はどこから話そうか迷いながらキセルで赤塗りの灰吹きをカンと叩く。

 

「北のフロアマスターの一角が世代交代したのを知っておるかの?」

 

 ――"階級支配者"とは箱庭の秩序の守護者であり、下位のコミュニティの成長を促す為に設けられた制度である。そして秩序を乱す天災・魔王が現れた際には率先して戦う義務があるのだ。

 

 北のフロアマスターの一角"サラマンドラ"の頭首が急病によって引退。そしてその後を継ぐのが末の娘のサンドラだそうだ。ジンはまだ11歳の彼女が頭首の座についていたことに驚きを隠せないでいる。彼が"ノーネーム"のリーダーをやっているのは人材不足だったことが大きいから仕方ないが、"サラマンドラ"が"ノーネーム"と同じだとは到底思えない。

 

 ここまで来て十六夜とツナはピンとくる。幼い少女がリーダーになることに反発する勢力もきっとあることだろう。だから同じ北のフロアマスターではなく東の白夜叉に協力を要請することになったのだろう。

 

「そう、神仏が集う箱庭の長でも思考回路は人間並みなのね」

 

 白夜叉の言葉を聞き、飛鳥が不満そうに言った。

 

「うう、手厳しい。……共同でやる理由は他にもあるのじゃが」

 

 その言葉を聞き、耀が口を開く。

 

「その話って長くなる?」

 

「ん? そうだな……短くとも後、一時間はかかるかの?」

 

「それまずいかも。黒ウサギに追いつかれるかも」

 

「え? 黒ウサギがどうかしたの?」

 

 ツナは知らない。問題児三人が黒ウサギと追いかけっこをしていることを。ツナを含めた全員を捕まえないと"ノーネーム"から出て行くという手紙を黒ウサギに渡したことを。

 

 そしてジンが何か言おうとしたら飛鳥が"威光"を使って黙らせる。

 

「白夜叉、このまま北に向かってくれ。事情は追々話す。何よりその方が面白い。俺たちが保証する」

 

「ちょ、ちょっと待って! 「沢田もちょっと黙ってなさい」……!? ……!?」

 

 ツナもジンと同じく飛鳥によって黙らされてしまった。何もかもがもう遅い。白夜叉も既に乗り気の状態で笑っている。

 

「そうか、面白いのか。ジンと綱吉には悪いが面白いなら仕方ないの?」

 

 彼らを尻目に白夜叉は両手を前に出して二度拍手を打つ。

 

「ふむ。これで望み通り北側に着いたぞ」

 

「「「は?」」」

 

「……は!? あ、やっと喋れるようになった」

 

 

 

 

 外に出て、高台から町を一望する。

 

 まず目に飛び込んできたのは北と東を隔てる天にまで届くような巨大な赤壁。そして遠目でも分かる色彩鮮やかなカットガラス。数多の巨大なランプが炎を灯し、挙句キャンドルが二足歩行で街を闊歩しているのが見える。昼間でありながらもまるで夕暮れのような色合いに染まった街並み。

 

 東は和風な街並みであったが、北はどちらかというと中世ヨーロッパのそれに近い。

 

 特に飛鳥は子どものように目を輝かせていた。

 

「今すぐ降りましょう! あの歩廊に行ってみたいわ」

 

「ああ、構わんよ。続きは夜にでもしよう。暇ならこのギフトゲームにでも参加していけ」

 

 白夜叉が袖から取り出したチラシを全員に見せる。

 

 それを覗き込んでいたら、何かが爆音と共に落ちてきた。

 

「ふ、ふふ、フフフフ……! ようぉぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方! そして見損ないましたよツナさん!」

 

 そこには悪鬼羅刹の如き表情で怒る黒ウサギの姿があった。

 

「何!? どういうことなの!? 何か勝手に見損なわれてるしーーー!!」

 

「逃げるぞ」

 

「逃がすか!」

 

 突然の事態にオロオロするツナ。飛鳥を抱き上げて逃走する十六夜。耀は逃げようとしたが一手遅れて黒ウサギにブーツを掴まれる。

 

 今回ばかりはトサカにきた黒ウサギ。耀も身の危険を感じて怯えながら黒ウサギが耳元で囁いた言葉に頷いた。

 

 着地した黒ウサギはそのままツナに向かって耀を投げつけた。

 

「きゃ!」

 

「うわっ!?」

 

 ツナは反射的に受け止めたが、勢い余ってそのまま後ろに倒れこむ。

 

「白夜叉様、そこのお二人の事をお願いします! 黒ウサギは他の問題児様をとらえて参ります」

 

「お、おお……よく分からんが頑張れ黒ウサギ」

 

 白夜叉は黒ウサギの勢いに負けておずおずと頷く。そしてそれを確認した黒ウサギは十六夜達を追って全速力で走っていった。

 

「イテテ……大丈夫?」

 

「うん、ありがとう」

 

(柔らかかったな……って何考えてんだよオレ!?)

 

 二人は今の状況に気がついて慌てて離れる。それを白夜叉はニヤニヤと見つめていた。

 

「若いっていいの~。私もあと10年若ければ……あんま変わらんか」

 

「茶化さないでくださいよ!」

 

「カカカッ、まあそう怒るでない。少し話したいこともあるし中へ入れ。茶くらい出すぞ」

 

 白夜叉に促されて先程までいたサウザンドアイズ旧支店まで戻る。

 

 そこで耀は出された茶を啜りながらことの経緯を二人へと説明した。

 

(脱退とか聞いてないんですけどーーーー!?)

 

「ふむ、なるほど。しかし脱退とは穏やかではない。ちょいと悪質ではないか?」

 

「一言、言えば良かったんじゃないかな? 黒ウサギだってきっと分かってくれたと思うけど」

 

「ツナまで……で、でも黒ウサギもお金がないことを説明してくれたら、私達だってこんな強硬手段に出たりしなかった」

 

 耀は珍しく拗ねたような口調で話す。要は信頼の問題なのだ。

 

「でもごめん、ツナにはちゃんと言うべきだったかも」

 

「……うん、せめて次からはそうして」

 

 ツナは乾いた笑いを浮かべてお茶菓子を取ろうとしたが、既に耀の胃の中に全て収まっていたようだ。

 

 そんな談笑が続く中で白夜叉が爆弾を落とした。

 

「さっきから思っとったが、おんしら付き合っておるのか?」

 

 白夜叉の言葉に場が一瞬凍りつく。

 

 そして真っ先に我に返ったツナが顔を真っ赤にしながら反論した。

 

「いや、何でそういう話になるんですか!?」

 

「仲が良いからもしやと思っておったが、違ったか?」

 

「当たり前でしょう!」

 

「……そんな風に言われると傷つく」

 

 耀はムスッとしながら残りのお茶をがぶ飲みしている。

 

「春日部さんも否定してよ!?」

 

「ほう……して? 元の世界に女はいたのか? ん?」

 

「それ凄く気になる」

 

「ちょっと! 何でそんな話になってるの!?」

 

 ツナは女二人の迫力に圧倒されている。女二人と男一人で嫐るというか。

 

 ツナには彼女はいないが、想い人である笹川京子がいる。過去に二度死ぬ気弾を受けて告白しようとしたが失敗。昔と比べれば大分見直されているが、今もなお告白できずにいた。それに一方的ではあるものの三浦ハルという少女にも好意を持たれている。ダメとか言われつつも結構人気はあったりするのだ。

 

 焦ったツナはとりあえず話を変えようとする。

 

「そ、そういえば大きなギフトゲームがあるってさっき言ってましたよね?」

 

「……まあ綱吉の女関係については今度改めて暴かせて貰うとして、そういえばまだ説明しておらんかったの」

 

 そう言って白夜叉は先程のチラシとそれとは別のチラシ。合計二枚のチラシを出してきた。

 

 耀の前に出されたのは"造物主達の決闘"というギフトゲームについて記載されているチラシ。参加資格は創作系のギフトを所持していること。

 

 ツナの前に出されたのは"生命の炎"というギフトゲームについて記載されているチラシ。参加資格は炎系のギフトを所持していること。

 

 戦いの内容はどちらもその都度決まるというものだった。

 

「耀の"生命の目録(ゲノム・ツリー)"に綱吉の"死ぬ気の炎"。この二つの恩恵であれば力試しのゲームも勝ち抜けると思うのだが……」

 

 勿論勝者への恩恵は強力なものを用意していると付け足す。

 

 ツナは白夜叉には普段からお世話になっているからと二つ返事で了承したが、耀はあまり興味なさそうであった。

 

 ――――だが、ふと何かに思い立ったようだ。

 

「ね、白夜叉」

 

「なにかな?」

 

「その恩恵で……黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

 幼くも端正な顔を、小動物の様に小首を傾げる耀。それを見たツナと白夜叉はやや驚いた顔を見せたが、次の瞬間暖かな笑みで白夜叉が答える。

 

「出来るとも。おんしがそのつもりがあるのならの」

 

「……そっか。それなら、頑張らなきゃ」

 

「うん」

 

 ツナも優しい顔で耀の言葉に頷いた。


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