しゃるてぃあの冒険《完結》   作:ラゼ

16 / 26
んー、やっぱシャルティアが苦境に陥る話だったからちょっち酷評されてしまいました。とはいえ終わりに向けて必要なファクターでもあったのでご勘弁を。
無駄に鬱? 展開を長引かせるのは自分も嫌いなので、一応今話でどういう展開になるかは理解してただけるかと。


幕間

 スレイン法国、某所。漆黒聖典と陽光聖典が帰還し、トブの大森林で起きた事を余さず報告した時点で法国を運営する頭脳、各部門のトップが集結し事の次第を共有するべく会議が開かれた。

 

「破滅の竜王を捕獲せんと向かった先で、評議国の雄ツァインドルクス=ヴァイシオンを手にした――か。確かにそれは国を揺るがす事態だ」

「そうなるとその魔神……シャルティア・ブラッドフォールンでしたか。それを手中に収めたというのは不幸中の幸いでしたな」

「はい。もはや評議国との戦争は避けられません。故に周辺諸国を、人間種を纏めることは危急の案件になりました」

「戦争――か。人と異形は相容れぬ。故にいつか来る筈の未来ではあったが、いくらなんでも早すぎる。できることなら、今期の神の再臨を期待したかったが…」

「どうやら今回はあの吸血鬼が百年の揺らぎであったようですな。とはいえ番外席次に勝る実力の持ち主。怪我の功名ではあったのでしょう」

 

 法国のトップはいずれも帝国皇帝に劣らぬ傑物揃いだ。無能が蔓延る王国とは何から何まで対照的であり、故に多くを語る必要もなく全員が現状を理解した。すなわち『ツァインドルクス=ヴァイシオン』を洗脳した事実と、それが可能である事そのものが評議国との決裂を意味する、ということだ。

 

 真なる竜王はツアーだけではなく、完全に確認されてはいないものの大凡五体前後と推測されている。その中で抜きんでた実力を持っているのがプラチナム・ドラゴンロードというのは紛れもない事実だ。しかし評議国の永久評議員であり、ドラゴンロード達のまとめ役でもあるツアーを洗脳したとなれば、間違いなく残りの竜王は牙を剥くだろう。

 

 それに対抗できるとすれば法国秘蔵の神人たる、漆黒聖典の番外席次が筆頭に挙げられる。そして手中に収めたツァインドルクス=ヴァイシオン、この両名で評議国とドラゴンロード達を相手どれるかとなると――少々厳しいだろう。たとえ希望的な観測が当たりツアーと番外席次が数体の竜王と渡り合えたとして、評議国はドラゴンロード達だけが主戦力というわけではないのだ。雑兵であっても人間を凌駕する異形や亜人が揃っている。

 

 そして質でも負けているというのに、数も法国のみではまるで足りていない。蹴散らされるのは目に見えているのだが……そこにその二名を超えた実力をもつ魔神が加わるとなると話は別だ。余裕とまではいかなくとも、少なからず希望の目は出てくる。

 

「漆黒聖典、陽光聖典の両隊長が『ガゼフ・ストロノーフ』『青の薔薇のイビルアイ』『フールーダ・パラダイン』を見逃したのは、なるほど、勝手な判断ではありましたが慧眼でもあったということですか」

「うむ、既に事は人間種とそれ以外の生存競争だ。少しでも戦力は残さねばならぬ」

「加えてこれから各国を纏めねばなりません。ガゼフ・ストロノーフからは王国に、フールーダ・パラダインからは帝国に、青の薔薇のイビルアイからは冒険者に事実が少しでも伝わればありがたい。無論、真剣に事を構えるとすれば帝国のみでしょうが」

「支配した者達は今どうしているのだ?」

「カイレが情報を引き出しております」

「しかし『傾城傾国』の対象は一人のみの筈ではなかったのですか? 二名同時支配による効果減衰などは起きていないのでしょうか」

「それについては検証不足と言わざるを得んな。そもそも秘宝であり、存在を秘すべきとして碌に使用しておらなんだのが間違いであったのかもしれぬ。条件に関しては追々研究すべきではあるが――下手に弄って洗脳が解ければ、それこそ人間は滅ぶだろうて」

 

 各国を一つに纏め上げる。言うは易し行うは難しの典型ではあるが、やらねば滅びは見えている。タイムリミットは評議国が異変に気付くまで。元々ツアーは隠遁生活のような形であったが故に、今しばらくは大丈夫だろうとの結論にはなったものの、やはり竜王の感知能力は人間とは一線を画す。

 

 何かの拍子でツアーに異変が起こったことを察知されれば、そこが戦争の始まりとなるだろう。

 

「竜王国はどう致しますか? 再三に渡る陽光聖典派遣の依頼を断っている状態ですが」

「うむ……あまりに放置していてはいつのまにかビーストマンの国になっていたということもあり得る。しかし今は耐えてもらうしかなかろう」

「かしこまりました。情勢の把握だけは逐一確認致しましょう」

「うむ。しかしここ最近は特使も文も来ておらぬ。とりあえずは問題ないだろう」

「それすら送れなくなった――などということになっていなければ、ですが」

「あまり不吉な事を言うでない……とにかく各自、為すべきことを迅速に為せ。特に王国に関してはもはや躊躇などいらぬ。溜まった膿の浄化を待つには時間がない」

「は。残すのは王族派ということで?」

「うむ」

 

 従わぬ者には、暴力をもって脅しを掛ける。しかし、だ。脅しの意味すら理解できぬ愚者はもはやどうしようもないのだ。そんな愚昧が国の中枢に存在することが既に異常であり、しかし正常に矯正していくにはもう時間がない。野菜の腐った部分だけを取り除くような気軽さで、人間の命の取捨選択をしていく彼ら。

 

 どこまでも人類の事を考えて、どこまでも人間の事を考えぬ。それが正義だと信じて彼らは動き出す。全ては平和のためと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国。人類生存圏の端に位置する国家であり、それ故に常に獣人の攻勢に晒されている弱小国でもある。法国の戦力支援なしには立ちいかず、しかし見返りに渡す多額の献金もそれはそれで国家を衰退させる要因の一つなだけにこの国の女王は常に頭を痛めていた。

いた――と言うのは、現在はその状況が改善されつつあるからだ。

 

「此処をお離れになる、と? そう仰いましたかモモンガ様」

「ああ……おっと勘違いはしないでくれ。拠点は此処のままだとも。というよりかナザリック地下大墳墓がこの国にある時点で移す気はない」

「では何故…?」

「前々から言っていた部下の一人、シャルティア・ブラッドフォールンの状況が変わった。依然として《メッセージ/伝言》に反応は無いが…」

「…解りました。あなた方のおかげで急場は十二分に凌げました。どうぞその方を優先なさってください」

「いや、こちらこそ十分に世話になっているとも。これからもよろしく頼む」

「ふふ、どちらが世話を掛けているかは明白でしょうに。相変わらず謙虚な御方ですのね」

 

 

 竜王国の女王『ドラウディロン・オーリウクルス』はそうモモンガに告げた。この幼い少女――もはや幼女と言っても差し支えない人物が一国の女王というだけで傍から見れば異常と言う他ないが、その幼女が和やかに話している相手が貴重なマジックアイテムを身に纏った骨であることを考えれば、この場面の絵面がシュールであることに間違いはない。

 

 そんな穏やかな雰囲気を搔き乱すようにガギリ、ガギリと歯ぎしりの音が響く。その出所はと言えばモモンガの傍に控えている凄まじい美女――アルベドからである。

 

「あ、あのアルベド様? どうかされましたか?」

「…………」

「アルベド。ドラウは我が友でもあるのだぞ? 無礼な振る舞いは慎め」

「…失礼致しました」

 

 ナザリック地下大墳墓が竜王国の国境付近、丁度ビーストマン達との小競り合いがよく展開される場所に現れて早数週間。色々と話し合いや諍いはあったものの、好戦的なビーストマン達と最初に接触したモモンガは、逆に好意的に接してきたドラウディロンと友誼を結び竜王国と同盟を組んでいた。

 それは女王が純粋な人間ではなく竜の血が混じった人間――セバスのような竜人ではないとはいえ、近いものではあったからというのもある。加えて前述した通り最低の交流から始まって、次の出会いが悪くない交流であったためギャップ差で少しちょろくなっていたというのもある。

 

 だが最大の理由は女王の容姿のせいなのかもしれない。背伸びをする子供のようにこちらと懸命に接してきた女王、どうか我が国の力となってほしいと願われたモモンガは、異世界で右も左も解らぬ状況で承諾はできかねると考えたが――横に侍るセバスの後ろに、かつての友を幻視した。

 

――困っている人を助けるのは当たり前――

 

 というかつてのギルドメンバー『たっち・みー』の姿――ではなく、更にその後ろに聳え立つバードマンの姿を幻視したためだ。

 

――困っているロリを助けるのは当たり前――

 

 なんでやねんっ、と幻影を振り払うように目の前の机をバシンと叩いたモモンガ。その様子にビクリと体を震わせて涙目になった女王に、彼はちょっと罪悪感を覚えてしまった。

 

 まぁとにかく紆余曲折を経て彼と彼女は意外と仲良くなり、友誼を結んだというわけだ。特にその威厳もへったくれもない容姿でどう国を纏めているのかモモンガは気になり、支配者としての威厳の秘訣を学ぶためにこっそり女王の部屋へ出向くこともあった。というよりか友人になったのはそれが一番の理由である。

 

 まあそんなことをしていれば勘違いしてくる者も出る訳で、現在憎々しげにドラウディロンを見つめているアルベドもその内の一人である。

 

「まあどの道そろそろ他国への接触も考えていたし、何よりこの事がなくともシャルティアの捜索は急務だったしな。できれば最優先にしたかったのだが…」

「そうモモンガ様が仰っていた事を知るだけでシャルティアも報われます。まずは何よりもナザリック地下大墳墓の基盤を築くべきだと言われたモモンガ様に間違いなどあろう筈がございません。一守護者と御身の大事など比べてはいけませんわ」

「う……む、だがアルベドよ。私は友が残したお前達を、子のように思っている。あまり己らを卑下するような発言はやめよ」

「はい、その通りですわ! さあモモンガ様! あのヤツメウナギをこらしめにゆきましょう!」

「あ、はい」

 

 転移した直後からシャルティアの不在には気づいていた。しかし状況が状況であったためその捜索に本腰を入れ始めたのは昨日今日の話だ。慎重に慎重を期するモモンガの性格もそうだが、異世界転移時からてんやわんやの動勢だったためにナザリック主と僕の結びつき――その確認が多少遅れたというのもある。

 

 今現在その信頼関係が強固であることに疑いはないが、それでもその僅かな隙間に現地人――ドラウディロンが入る事が出来たのは、彼女にとって人生最大の幸運だったのかもしれない。

 

「法国には気を付けてください。かの国がナザリック地下大墳墓の存在を認めるとは到底思えませんから」

「ああ、肝に命じよう」

 

 モモンガが自らシャルティアを探しに行くと発言した際、当然ながらナザリックは荒れた。というか守護者統括であるアルベドが絶対に認めない姿勢を見せたのだが――その御供に彼女を付けようかな、という言葉がモモンガから出た瞬間に態度は一変。守護者最高の頭脳を持つ悪魔を舌戦でねじ伏せ、私めも是非と言った宝物殿の領域守護者を物理的に叩き伏せた。

 

 が。今朝になって状況は変わったのだ。今までのシャルティアは、この世界に居る事だけは確実だったが何処に居るかは不明、という形であった。しかし今日になって確認されたシャルティアの状態は、ナザリック離反の可能性を孕むものに変わってしまった。当然シャルティアとの戦闘の可能性が浮上してきたわけであり、アルベドとモモンガの二人旅などありえない状況になった。

 

 アルベドの不機嫌はそのせいでもあるのだ。あと一日我慢できなかったのか貧乳ウナギが、と心の中で悪態をつく統括守護者であった。

 

 そしてシャルティアの状態を知ったモモンガは、それでも自分が探しに行くという行動だけは止める気を見せなかった。むしろこれだけは自分がやらねばならぬと強行の姿勢を頑なにし、結局シャルティアが凶行に走った際に止めることができる戦力を厳選してパーティを組むこととなった。

 

 それはナザリックの戦力を分散させる愚行だと理解していてもなお、モモンガはシャルティアの捜索を最優先とした。守護者最強であり、一対一では自分すら倒しかねないシャルティアだけに、多少楽観視してしまった結果がこの有様だ。有体にいってモモンガは自分自身に一番怒りを感じており、それを超える責任を感じていたのだ。

 

 シャルティアが支配された可能性が残っている以上、その周囲にそれをなした存在がいる可能性がある。故に供をつけることに異は唱えなかったモモンガであったが、もしシャルティアと対峙する状況になったならば自分一人で片をつける覚悟もしていた。

 

 かつてのギルドメンバーが遺した彼ら彼女らが戦う姿など見たくもない、それ故に。

 

 そして挨拶を終えたモモンガとアルベドはそろそろ退室しようと立ち上がるが――その前に女王の側近が部屋に駆け込んできて急を告げる。

 

「いったい何事? モモンガ様もいらっしゃるのに失礼だ……でしょう?」

「私は構わんよ。それより何事だドラウ?」

「すみません……で? 何があったの?」

「そ、それが……法国から使者が参りまして、その…」

「…?」

 

 とても言いにくそうに言葉を切る側近。ちらりとモモンガを見た後、意を決してその報告を口にする。

 

「『早晩、人類と評議国の存亡をかけた戦争が始まると予想される。貴国の窮状は理解しているが、支援を要請する可能性も念頭に置かれたし。貴殿ならば評議国との絶望的な戦力差を熟知してるであろうが故、こちらの切り札も提示する。評議国永久評議員、プラチナム・ドラゴンロードこと『ツァインドルクス=ヴァイシオン』と、それに比肩する神人が一人。そしてその両名を凌駕する『シャルティア・ブラッドフォールン』なる魔神を配下に収めた。勝利の目は十分に存在する故、人類のために死力を尽くしてくれることを望む』……との、ことです」

「な…!?」

 

 『真にして偽なる竜王』とも呼ばれるドラウディロンは、評議国についても周辺諸国よりはよく知っている。人類すべてが一丸となっても覆しがたい戦力差であることも理解している。故に報告の最初の一文を聞いた時点で血の気が引き、次いでプラチナム・ドラゴンロードを手中に収めたことに驚愕し、そして魔神のくだりに入った瞬間、その身を抱いて膝をついた。

 いや、つかざるを得なかったと言う方が正しいだろう。何故なら――

 

 

 

――彼女の横には、悍ましい憤怒を眼窩の奥に燻らせている魔王がいたのだから




法国さんチーム「おちょくり作戦です()」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。