しゃるてぃあの冒険《完結》   作:ラゼ

20 / 26
えらい詰まった…
原作に無い魔法って好きじゃないんだけど、許しておくれ…できる限り捏造部分には気を使ったつもり(気を使ったとは言ってない)


神の都 1

 ユグドラシルプレイヤーにとって一番恐れるものはなんだろうか。人によって答えが異なる問いではあるが、それでも大多数の者は同じ回答をすることだろう。すなわち『装備をロスト』することである、と。

 

 最上級の装備ともなると、一つ作るだけでも大変な労力を要する。たとえ廃人プレイヤーであったとしても、フル装備の全てを失うことにでもなれば失禁しかねないショックを受けることは間違いない。人によってはPKによるロストを恐れて、普段はワンランク下の装備を着けている者もいるほどだ。

 

 神器級の装備とはそれほどのものであり、レベル差が十もあれば覆しようのないユグドラシルにおいても、仮にレベルが下の方であるプレイヤーが神器級、上の方が聖遺物級の装備だとするならばその差は埋まりかねないほどである。

 

 もちろんプレイヤー自身のスキル、職業構成などで戦力など千差万別ではあるが、やはり装備の差というのはことのほか大きいのだ。そして装備を失うというのは、自分の時間と努力の結晶を失う事と同義だ。

 

 奪われたのならば取り返せばいい。しかしもし『破壊』などされようものならその恨みは筆舌に尽くしがたいものがある。もちろん神器級の装備というからには耐久性も相当なものではあるが、プレイヤーの中には敵の装備を破壊することに喜びを見出す不逞な輩という者が一定数存在するのだ。

 

 例えばユグドラシル一のDQNギルド、そのメンバーである社畜スライムなどがそれにあたる。自身のスキルや高位のアイテムを駆使して廃人プレイヤーの装備を破壊しつくす様はまさにDQN。おまけに自身は装備をせずに――スライム故に特殊なものを除いてはできない――戦線に突っ込み、デスペナルティを気にせず嫌がらせを敢行するのはもはや鬼畜の所業としか言いようがない。

 

 何が言いたいかといえば、どんな世界においても装備は重要である、ということだ。

 

 精神的な苦痛でもあり、物理的にも装備を失えば戦力は激減である。神器級の装備でそれなのだから、ワールドアイテムなど奪われようものなら殺意すら芽生えることもあるだろう。つまり『装備を狙う』という戦術は、あらゆる場面においてかなりの効果を発揮するということだ。攻勢においても、防衛においても。

 

 ――そして、反攻においても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超位魔法とは、ユグドラシルにおいて魔法の頂そのものである。MPは使用せず、リキャストタイムは長く、一日の使用回数制限もある制約の多さも特徴の一つ。当然そんなデメリットを補って余りある効果が超位魔法にはあるし、その種類も多岐に渡る。

 

 とはいえ、覚えるだけで相当な時間を要する魔法総数を誇っていたユグドラシルの中では、割合的には少ない方だ。そもそも魔法を全部覚えているものなど極々一握りだけであるが。

 

 例えば広範囲に絶大なダメージを与える単純なもの、もしくは対象は個人に限定されるものの発動さえできればまず勝利が確定するようなもの、変則的ならば経験値を消費してランダムで選ばれた選択肢の中から願い事をする特殊なものも存在する。

 

 魔法という括りにおいてあらゆる場面に使用できる種類ぐらいは、当然ながら存在するのだ。広い戦場で、守るべきギルドで、限定的ながらもPVPで、諜報で、遊びで、その他諸々で。その中には敵の攻勢があって初めて効果を発揮するカウンターとしての超位魔法も存在する。

 

 しかし使いどころが限られ、効果時間こそ超位の中では最長を誇るものの、マイナーの誹りは免れない超位魔法。それがモモンガが今回使用した魔法である。

 

 軍師である『ぷにっと萌え』などはその有用性に一定の理解を示していたが、いかんせんユグドラシルには意外と脳筋が多い。ギルド『燃え上がる三眼』などは別にして、諜報戦を重要視はしていても得意とするギルドは案外少ないものだ。

 

 しかしながら今回ばかりはいかに情報を得るか、いかに情報を遮断するかも重要なファクターであった。故にモモンガは情報系の攻勢防壁において一番いやらしい選択肢を取ったのだ。

 

「来るな、来るな、来るなぁー!」

「た、たしゅけ…!」

「こ、こっち見るなー!」

「給料半年分の装備がぁーー! あ゛あ゛あ゛あぁ…」

 

 諜報系の魔法を使用された際、それに対するカウンターの手段にはいくつか種類がある。一番ポピュラーなものとしては、その魔法の使用者そのものに対する攻撃だ。それは防壁が発動した時点で使用者の意志にかかわらず自動的に攻撃をする魔法であるのだが、問題点としてはやはり攻撃力の低さにあるだろう。

 

 そもそもカウンターに対する魔法も存在する以上、対策をしていないなどという間抜けなプレイヤーでもない限りカウンターの反撃に晒されることはまずないと言っていい。ユグドラシルにおいて『諜報』とは地道に足で拾うものである。

 

 言ってしまえば、魔法で遠くからお手軽に情報を得ようなどというものぐさなプレイヤーなど程度が知れるというものだ。

 

 『故に』モモンガはこの超位魔法――迎撃系の自動召喚魔法を選択したのだ。

 

 素の実力では恐らく弱者が殆どであるこの世界。しかしワールドアイテムの存在が示唆されているとなると油断はならない。ドラウディロンからの情報。法国が実際に起こしている行動。推定される戦力。ナザリックの知恵者デミウルゴス、パンドラズ・アクター、アルベドがこれに鑑みて、吟味し、想定した答えは法国の『非常識』が逆に想定を裏切る可能性だ。

 

 『プレイヤーが存在しない』しかし『プレイヤーが遺した知識はある』 絶対的ではないが、少なくとも法国はその可能性が高いことに疑いはない。けれどユグドラシルを生きたものが居ない以上、その部分においての『常識』と『非常識』の境界が曖昧な可能性がある。

 

 つまりあらゆる面で『ちぐはぐ』さが出てしまうのではないかという可能性だ。そして『タレント』といういまだ解明できていない異能の問題もある。知識の薄さに付け込める部分、知識の薄さで逆に空ぶってしまう部分、知識の薄さが武器となる可能性、知識の薄さが露呈してしまう危険性。

 

 あらゆる可能性を加味した結果、その超位魔法は選択された。

 

「変なもん見せてんじゃねえよてめえ!」

「言ってる場合か! 神殿を守る方が優先だろう!」

「だけど武器がねえんだよお…」

「とにかく布でもなんでも巻き付けて! 恥とは裸体を晒すことではなく、神殿を守り切れぬことだろう!」

 

 召喚系のカウンターはそれなりにポピュラーである。ギルド拠点防諜においての防衛手段としては最適解と言ってもいい。しかし弱小ギルドであまり使われないのは、基本的にコストの問題があるからだ。実際の金貨にしても、リアルマネーにしても拠点防衛費用としては中々に割高なものがあるし、基本的には使い切りなので一回使用される度に張りなおさねばならないのも敬遠されている理由の一つだ。

 

 ただし一番低位のものは拠点ポイントも金貨もほぼ消費しない。いわば拠点として最低限の防衛機構が、鬼畜運営のほんの少しの優しさで備え付けられているのだ。

 

  

 《サモン・アビサル・レッサーアーミー/深遠の下位軍勢の召喚》という魔法がある。位階も低く召喚される悪魔も低級で弱いものだ。召喚系のカウンターにしても随分お粗末なものではあるが、実のところこの魔法は初期のユグドラシルにおいてはそれなりに猛威を振るった。

 

 その理由が召喚される悪魔『ライトフィンガード・デーモン』である。プレイヤーの格差に関しても糞調整を誇る運営ではあるが、この悪魔に関しては相当なクレームが相次いだ。確かに弱いモンスターではあるが、しかしこの手癖の悪い悪魔は一定の確率で装備、アイテムを盗むことができるのだ。

 

 それがたとえ『ワールドアイテム』であったとしても。

 

 不運が重なって装備を盗まれた場合、それが廃人プレイヤーであればあるほどその絶望は大きい。まあ結局は修正パッチが当てられ、悪魔のレベルに応じたアイテムしか盗めないという、名実ともに雑魚モンスターに成り下がったのだが。

 

 しかしモモンガが使用した超位魔法は、ぶっちゃけるとこの魔法の強化版に近い。ただでさえ糞と言われている運営が、クレームが相次いだからといって簡単に修正などする筈もない……まあこれに限っては確かにしっかりと修正はされたのだが、『こういう系統の嫌がらせはあるべきだ』という謎理論によって雛形そのものは残り、この超位魔法へ受け継がれたという訳だ。

 

 『素早さ』と『強奪』のスキルに特化された『ライトフィンガード・デーモン』の最上位種。レベルに応じて装備を奪う特性は変わっていないが、自分のレベル以上の存在に対してはそのレベル差ごとに確率が低くなっていくだけに過ぎない。つまりどんなプレイヤーでもアイテムを奪われる危険性があり、実際に相対すれば脅威と言わざるを得ないだろう。

 

 使いどころは難しいが、えげつない魔法。それがこの超位魔法だ。

 

 なにせ使用者を叩かないと、時間が切れるまでは悪魔を召喚し続けるのだ。そして前述した通りこの魔法の効果は中々長い。結果として神都は阿鼻叫喚の地獄絵図――裸体祭り的な意味で――となったわけだ。一部の人にとってはむしろ酒池肉林かもしれないが。

 

「巫女姫はどうなっている!」

「…あの悪魔に叡者の額冠を奪われ、既に心を狂わせたようだ」

「くっ……なんということだ」

「これ以上の失態は……いや、もはやそういうレベルではない。これ以上悪魔の侵攻を許せば、神殿の秘奥にまで辿り着かれる。それだけはなんとしても避けねばならん!」

「ああ、王国へ派遣している戦力を一刻も早く戻さねば」

 

 混乱の渦に巻き込まれる神都ではあったが、しかし首脳部は流石の優秀さであり、たとえ悪魔が跋扈する状況でも的確に指示を出している。

 

 ちなみに全員全裸である。

 

「いあいあはすたー…」

「巫女姫様! いけません! お戻りに…!」

「もう放っておくぞ! 既に法国の役には立たなくなってしまった存在だ!」

「はあ!? あんたそれでも巫女姫様の護衛!?」

「今は優先すべき事柄があるだろうが!」

「ふんぐるいむぐるうなふ」

「身を犠牲にして法国へ全てを捧げたお方を! たとえ漆黒聖典の介錯を待つ間だけでも忠誠を捧げるのが私達の誇りじゃない!」

「法国のために全てを捧げたお方だからこそ! 今の状況で私達が『役立たずの巫女姫』を保護することなど望んではいないだろうよ!」

「――っ!」

 

 何度でも言うが、全員全裸である。

 

「いやぁぁーーっ!」

「な、なんで街中に悪魔なんか…!?」

「へ、変態ーー!」

「ばっ、自分で脱いだわけじゃねえよ!」

「こっちみんなー!」

 

 悪魔が街に蔓延る。蔓延る、蔓延る、蔓延る。老若男女分け隔てなく全てを奪う。街は戦火に包まれ――てはいないが羞恥の叫びと怨磋の叫びがそこら中に飛び交っている。悪魔が街に現れた瞬間こそかなりの混乱を見せた神都だが、とりあえず命の危機は無いと知れた今では違う意味で混乱が広がっている。

 

「神殿の方達はまだ来ないのか!?」

「知るか! だいたい神殿の方から悪魔が出てきてるんだぞ!」

「何だその言い方! この粗チ〇!」

「て、てめえ…」

 

 そう、今のところは命の危険がない。だからこそこんな状況でも法国が誇る最大戦力『絶死絶命』はでてこないのだ。むしろ当然ともいうべきだろうか。敵は装備やアイテムを奪う悪魔。万が一彼女が守る『ぷれいやー』の遺産、引いては傍にいるカイレの装備が剥ぎ取られれば一大事を通り越して滅亡まっしぐらなのだから。

 

 しかし――そう。どの道法国は死に体でもある。因果は連なり、結果は収束する。彼らが守護の名のもとに下してきた非情な決断は、巡り巡って彼らに帰るのかもしれない。彼等の増上慢はナザリックの怒りを買った。たとえそれが回避できようとも、しかし事態はとうに動き出しているのだ。

 

 水面に揺らぎを与えたならば、波紋が広がるのは道理。ナザリックへの敵対がそれ以外の脅威を産むのもまた必然。

 

 『魔』が悪いとは――こういうことだろう。

 

「カジッちゃーん。準備できた?」

「うむ。エ・ランテルでの準備をそのまま流用できたのはでかい。儂自身の力量も上がっているしな」

「へー、使える位階上がったの?」

「残念ながらそこに関してはな……だが単純な筋力と魔力量は大幅に上がったぞ」

「ふーん。にしても……くひゃっ、なにあれ。面白すぎでしょ」

「好都合というものだ。評議国の反撃が思いのほか早かったということか?」

「評議国があんな攻撃するとは思えないけどねー。ま、なんにしてもやることは変わんなーい。どんだけ王都に戦力向けてるかは解んないけど、今ほど神都が無防備になることは金輪際無いでしょ」

「うむ」

 

 神都の端にて会話をするのは、王都から姿を消したクレマンティーヌ。そして帝都で情報収集をしていた、シャルティアの忠実な僕カジット。彼らは神都が無防備になるのを予測して、大胆にもエ・ランテルで起こそうとしていた悲劇をここで始めようとしていたのだ。

 

 イビルアイから事情を聞いたクレマンティーヌはとても頭を悩ませた。このまま事が進めば、おそらく自分は――そう、『助かる』から。法国の現状に鑑みれば自分ほどの戦力は喉から手が出るほど欲しいだろう。ならば許される公算は高い。

 

 しかし、だ。許されて、次はどうなるか。

 

 まず間違いなく『使い潰される』だ。謝罪して戻ったところで確執としこりは無くならない。評議国との戦場で、危険な任務を事あるごとに言い渡されるだろう。

 

 頭を下げて、またも兄の下に置かれ、使い潰され、最後に死ぬのか。とはいえ逃走しても逃げ場などない。恭順か死か。クレマンティーヌが選択したのは『嫌がらせ』であった。

 

 彼女はラナーやモモンガとは違って、法国に関して確たる情報を持っていた。シャルティアを洗脳したのは法国の至宝。使い手は恐らくかの老婆。この状況ならば間違いなく神都の奥に引きこもることも、絶死絶命が王都にはまず出てこないであろうことも。

 

 しかし王都にかなりの戦力を傾けることも予期していたし、神都が無防備になる公算も高いと踏んでいた。アンデッドの大軍を出現させればかなりの混乱が期待でき、絶死絶命が鎮圧に現れたならばそれこそ思うつぼである。

 

 『漆黒聖典』であった自分なら、神殿の細部を熟知している自分なら、一部を除いて法国最速の自分なら、絶死絶命が居ないなら。最短距離を走ってシャルティアを洗脳している輩を殺せる。無論、成功確率は精々数%、下手をすればコンマ以下だということも彼女は知っていた。

 

 それでもなおこの選択を選んだのは、シャルティアに対する情。

 

 ――などではもちろんなく、自分を追いかけまわした法国に対する嫌がらせ。成功すれば見れるであろう兄の絶望の表情。あとは単なる意地である。まあ少しくらいは情もあったかもしれない。

 

「ごめんねー、ンフィーくーん。ま、聞こえてないだろうけど」

「…」

 

 当然神都を死都に変えるために一番必要なもの、叡者の額冠の使い手は拉致してきた。世界広しとは言えども、転移のために逸脱者『フールーダ・パラダイン』をこき使うのは彼女くらいのものだろう。シャルティアを救う可能性があるとなれば、彼にとっても帝国に被害が及ばない範囲であれば手を貸すのに躊躇は無かった。故に転移程度の助力は当然とも言えたのだ。

 

「ふふ……楽しい楽しい虐殺の始まりってやつかなー」

「相変わらず趣味の悪い奴だ」

「お互い様じゃん」

 

 装備も何もない神都の兵士達。これから起こることを知れば、命の危機は無いなどと口が裂けても言えないだろう。

 

 悪魔の軍勢と不死者の軍勢が神の都を汚す時、全てが始まり全てが終わる――




阿鼻叫喚の神都。荒ぶる死者の軍勢。

クレマンティーヌ「くひゃひゃひゃひゃ!」

転移してきたモモンガさん「…」

後は解るな?



あと新しくまどマギのSS書いてるので、良かったら見てやってください。性癖全開だけどね! これを書いてたから遅くなったなんてことはない。

ない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。