深い霧に包まれたカッツェ平野。十数メートルも歩けば元居た場所が判らなくなるほどの、そんな場所で主従は対峙していた。主は困惑と怒りを。従者は決意と歓喜を。生者はなく、死者のみが集うこの地にて言葉を交わす。
「シャルティア。デミウルゴスから聞いていないのか? 私は誰も邪魔をするなと伝えた筈だが」
「聞いております。けれど参りました」
「何故」
「忠義故」
「下命に抗すか」
「大義故」
「それが裏切りであってもか」
「それが存在理由である故に」
モモンガは歯を噛みしめて、沈静化の波を越えて心をざわつかせた。
ああ、何故お前がここにくる。
ああ、何故よりにもよってお前が。
戦う理由が戦うなどと、笑い話にもなりゃしない。ナザリックを離れていたのに忠義を履き違えるのか。ナザリックを離れていたから忠義を履き違えるのか。違うだろう。違うだろう? 本当に主の意志を汲むなら、これは違うだろう。
成長したと思っていたお前が、きっと一番解ってくれると思っていたのに。成長した筈のお前だからこそ理解してほしかったのに。それとも離れた時間は、その分ナザリックとずれただけだとでも言うのか。籠の鳥は放すべきではないと。窓を開けてはいけないとでも。
ああ、私にそう思わせるなシャルティア・ブラッドフォールン。私はお前のために――
「モモンガ様、お可哀そう」
「なっ……に、を――」
「何故も何も。私は貴方様の盾。守護し、矛となり、腕となるもの。デミウルゴスのように拳を握り締めながら待つのも。アルベドのように解った風に待つのも。守護者としては違います」
「それが配下たるものの至上だ。みな私の意志を尊重し、汲んでいる」
「モモンガ様」
「――なんだ」
ふっと微笑んで、シャルティアは立ち上がる。血のように紅い出で立ちで、彼女は優し気に、神官の名に違わぬ雰囲気で言葉を紡ぐ。
「私は、貴方の配下です」
「ああそうだ」
「貴方は、私の全てです」
「…そうか」
「故に私は貴方の心のままに」
「ならば此処から消えよ。振り返り、何事もなかったように。そのままナザリックへ帰還せよ。どうか私を失望させてくれるな」
「嫌です」
「――っ」
こんな配下はナザリックに居ない。こんなNPCはナザリックに存在しない。そうあれと創られた者以外に、自分の言葉をここまで無下にするものなど有り得ない。成長ではなく、変化。悪くないと考えていたそれは、結局自分の願望でしかなかったのか。過ぎれば造反を招くのか。ああ――ナザリック以外との交流など、馬鹿げた話だったのだろうか。そんな暗い感情がモモンガを支配する。
けれど、吸血姫の口上はまだ続く。
「モモンガ様」
「…」
「本当に、戦いたいのですか?」
「なっ…!」
「私のために? ナザリックのために? 配下への示しのために?」
「ああ――そうだ! その通りだ! それが解っているなら何故止める!」
「守護者故に」
「それは聞き飽きた! ならばお前は――」
「守護者故に、モモンガ様の御心を護りたいと」
「…っ!?」
動揺を露にする主と、冷静に語り続ける従者。酷く対照的だ。それでも美姫は、狼狽したかのような死の支配者を揺らし続ける。それが最善だとでもいうように。それが使命と言わんばかりに。
「お可哀そうです、モモンガ様。誰とも何とも戦いたくもない癖に。お可哀そうです、モモンガ様。誰にも心を開いていない。お可哀そ――」
「黙れ! 何を――何が言いたいというのだ!」
「私はナザリック地下大墳墓、階層守護者『シャルティア・ブラッドフォールン』 至高の御方を守護する者。主が心を痛めているというのに看過はできません。命じてください、モモンガ様。 巫山戯た竜を懲らしめよと……ああ、どうか。どうか嫌な事は嫌だと仰ってください。我慢をしないでください」
「なっ――!」
少し離れていた両者の距離を、少女が詰める。たとえ不敬であっても。たとえ許されなくとも。守護者が主の心を護れぬことなどあってはいけないと。至高の御方に無理をさせて何が守護者かと。
「…私はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスターであり、至高の41人を統括する存在だ。お前達がそうあれかしと創られたように、私は全てに対し責任というものがある。それに……ああ、つまらぬ勘違いだとも。死の支配者たるこの私が無理をしているなどと」
強大な力を持つ支配者が。全てを知る全能の死の王が。恐れを知らぬ――恐れそのものであるオーバーロードが。戦う事を嫌がるなどと、争う事を忌避するなどと、誰が聞いても一笑に付すだろう。故に有り得ない、とモモンガは乾いた笑いを零す。そんな支配者を。そんな主を痛ましく見つめ、少女は語りだす。
「…短くて、長い旅をしました」
「…?」
「初めて言葉を交わした者は、仮面を被っていました」
話し始めるシャルティアを見ながら、今までと同じようにモモンガは本心を押し殺す。
誰にも弱さを見せぬように。誰かに『それ』を侮られぬように。配下に無能を晒さぬように。見限られぬように、見破られぬように、モモンガは細心の注意をはらってきた。心休まる時はあまりなく、けれど心休まる必要もない体になった。それでも無理やりに友と言えるものを作ったのは、消えていく人間の心を繋ぎ止めたかったからだろうか。変化する自分の心が怖かったからだろうか。そのせいで人間らしい心が残っているのは、正しかったのか。
「猫かぶりが滑稽で、けれど何よりも自分の欲を優先する狂人がいました」
「…」
「自由はすぐ傍にあるというのに、鎖で雁字搦めになっている小娘がいました。自分が苦労すれば大丈夫、と」
「…」
「狂人を名乗る小心がいました。単なる玩具で意気地なし、そんなひょうきん者が。でも、助けに来てくれた」
「…」
「誰しも仮面を被っていました。滑稽でした。矮小な人間種は、脆弱な存在は、自らを偽らねば生きることもままならぬのかと嘲っていました」
「…そうか」
目を閉じながら旅を語る少女を、少しの相槌を打ちながら見守る支配者。
「違うのですね、モモンガ様。仮面は偽りで、けれど慮りでもありました」
「…」
「名前を預けられました。きっとそれは外れた仮面でした。小鳥は鎖を千切って飛び立ちました。その時『ああ、いいな』、なんて思ってしまいました」
「…」
「仮面を渡してくれるのはなんて心地いいのか、と。鳥が飛んだ……それだけで少し嬉しくなるな、と」
「…ああ」
「モモンガ様。モモンガ様。最愛の慈悲深き至高の御方。どうか仮面を御取りください。ナザリックを籠にしないでください。我等にとってナザリックこそが大空でございます。どうか――お護りさせてください」
「…」
何者にも曲げられぬ強さを持った瞳で見詰められたモモンガは、仮面に罅が入ったことを感じた。
ああ、最初から見破られていたのだろう。詰まらぬ自尊も、『怒らなければいけなかった』ことも、乾いた見栄も。
失態を演じても盲目的な愛が隠してくれる。見当違いの指示を出しても盲目的な忠心が隠してくれる。けれど彼女は、消えていた彼女は、自分と一番離れてしまった彼女は――違った。彼女だけが知っていた。あるいは『だからこそ』
「…お前のそれは仮面ではないのか」
「その通りでございます。モモンガ様」
「それでも私に仮面を取れと?」
「――モモンガ様」
「な、なんだ」
真剣だった瞳が。優しかった瞳が。ガラリと変わって主人を詰る。少しの吃音を漏らす支配者は、たじろぎながらどもる。
「野暮です」
「…野暮か」
「はい」
「私が、野暮か…」
「とても、とても野暮でございます。女性の想いを汲むのは男の義務故に」
「そうか……ふっ、はは…! そうか、俺は気を使えない支配者か!」
「支配者が気を使う必要などございません。気を使わせるのです。けれどモモンガ様、男は女に気を使うものです」
女に向かって男が言ったのだ。『お前も仮面を被っているのに私には仮面を取れ』と、そういうのか、と。モモンガはそう問いかけたのだ。ああ、それはなんて野暮だろうか。
自嘲しながら、けれど至極楽しそうに笑う支配者を見て彼女は仮面を付け替えた。もう大丈夫、とばかりに。そうあれかしと創られたから。けれどそうありたいと心から思えたから。
「知っていんすかモモンガ様。女の仮面は美しさの分だけ数がありんすの」
「…ほう。なるほど、それならば確かに先程の私は――ああ、酷く野暮だな」
廓言葉は拠り所。涙を隠す、彼女にとっては偽りの仮面。けれど、今はきっと――大切なものに繋がる絆の一つ。ツアーが死ぬのは見たくない、お前が死ぬのも見たくない、と俯く少女に彼女は微笑んだ。故に今からはこの仮面。
「男に仮面はいりんせん。けれど、女は飾りにも使いんす……モモンガ様」
「…あちらも着いたようだな」
「モモンガ様」
「…はぁ。よりによってシャルティアに見透かされるのか……ちょっとショックだ。引き籠りたい。引き籠ってみんなが来るのを待っていたい……なんて、失望したかシャルティア?」
偉大なる死の支配者から一転――うらぶれたような、やさぐれたような、肩の煤けた青年の姿が見えた。それをとても、とても嬉しそうに受け入れる真祖の吸血姫。
「――いいえぇ、モモンガ様。とてもとても魅力的でありんす」
「ふん、この際ぶっちゃけよう。あの王女。なにあれ。話してると頭痛くなるんだが」
「わらわは愉快でたまりんせんが」
「それとあの『お椀』とかいうのはなんだ? 胸を大きくする裏組織っておかしいだろ!」
「わらわとは正反対の、胸に恵まれぬ女性――その味方。そんな存在にわらわはなりたいでありんす」
「…」
「…」
「それとあの忍者娘。マーレに執着しすぎだ! 目の前で抱き着くわ、ぐちゃぐちゃになりかけるわ…!」
「くわしく」
「ああもう! ペロロンチーノ!」
「ペロロンチーノ様がどうかしたでありんすか?」
モモンガがこの世界にきて内心で突っ込んだ数、数百と少し。けれどそれを表に出したのは両手で数えられるほど。鬱憤は沈静化で抑えられるかといえば、確かにそうだろう。しかし全く何も残らないなどということがあるだろうか。少なくとも、モモンガは今色々とぶっちゃけたことに非常に開放感を感じていた。
嘘をつかない。見栄を張らない。それだけのことがなんて気を楽にするのだろうか、と。彼女の言葉通り、彼の心は守られたのだろう。重荷を外されたのだろう。
「――まったく……いや、お前はそうあるべきなんだろうな」
「…?」
「気にするな。それより今は大事なことがあるだろう?」
「――はい」
「シャルティア。シャルティア・ブラッドフォールン」
「あい」
「よきにはからえー」
「…」
「冗談だ」
「そこは締めてほしかったでありんす、モモンガ様」
「はは、悪いな。ああ、それと――そうだ。モモンガではなく、鈴木悟だ」
「…スズキ、サトル?」
「そうだ。それが『俺』の名前だ」
「…くふ。はい、行ってきんすサトル様。シャルティア・ブラッドフォールン、必ずや勝利を御身に」
深い霧を突き抜けて、白銀が舞い降りる。竜の王者の風格を漂わせ、世界の超越者の名に相応しく。ずっとずっと遠くから二つの強敵を知ってはいたけれど、そんな無粋はありえないと威風堂々舞い降りる。
深い霧を突き抜けて、紅が舞い上がる。真祖の姫の体貌を見せ付けて、守護者最強の名に相応しく。きっときっと自分に近い強敵ではあるけれど、それでも敗北はありえないと威風凛々舞い上がる。
「待たせたみたいだね」
「詫びは体で払ってもらいんすから、気にせずともよいでありんす」
「…ごめん、僕に異種族交尾の趣味はないんだ」
「わらわも流石に竜は無理」
「そっか。じゃあ問題ないね」
「ふん、揶揄いがいのない竜でありんすな」
「永く生きてるとね、少々の事では動じないんだ。それに、なんとなく君と戦うような気はしてたから」
中空で停止しながら言葉を交わす竜王と吸血鬼。どちらも翼をはためかせてすらいない。人間には魔法を使わなければ届かない高み。けれど彼等は自然体でそこに在る。生物の頂点としてそこに居る。死者の頂点としてそこに在る。
「じゃあ――」
「さあ――」
視線が交差する。もはや言葉は要らぬと。後は体で示せと。全ては戦いで決せと。
「始めようか」
「終わりにしんしょうか」
白銀と紅が、空に舞う――
後に語り継がれる伝説。熾烈を極めた竜と吸血鬼の決闘の御話。一晩続いた、二人だけの戦争のお話。
白銀が煌めいて、紅が輝いた物語。
死者が蔓延る平原で、暴風が吹き荒れた。暴虐の嵐が全てを破壊した。竜王の吐息は強大で、竜王が放つ魔法は圧倒的。吸血鬼の真祖が振るう槍は凄まじく、吸血鬼の真祖が放つ魔法は破滅的。
一晩で死者の平原は消え去ってしまった。
全てを呑み込む爆発があった。全てを焼き尽くす炎があった。それは人々が語り継いできた神々の戦いそのもので、けれど残ったのは破壊の痕のみ。霧は晴れ、陽は差した。それでも人が住むにはあまりにも荒れすぎて、それ以上に畏れおおかった。
何度も何度も二つが交差して、幾度も幾度もぶつかり合った。終始優勢だったのは紅で、それでも白銀は食い下がる。竜の王たる誇りを胸に。世界の守護者たる責任を背に。禍々しい投擲槍で翼を撃ち抜かれても、自慢の牙を悍ましい盾で防がれても竜王は食い下がった。
竜の魔法は紅の吸血鬼を苦しめた。見たこともない、聞いたこともない、効果すら解らない古より続く始原の魔法が彼女を苦境に立たせた。攻撃も優っている。防御も優っている。速さは互角。それでも倒しきれぬ竜王を、吸血鬼は素直に称賛した。ああ、だからこそ勝利に価値がある、と。
けれど終わりは当然のようにやってくる。夜が明けて、日の出とともに戦いは終焉を迎えた。終末戦争のように、辺りには破壊しか残っていなかった。荒れ地の空の上、二つの影が交差して――
「――――っ!!」
「――ああぁぁぁ!!」
魔力はとうの昔に尽きていた。自身の肉体とスキルのみを頼りに、彼女は命ともいえる大切な槍を振るう。もう眷属すら召喚はできない。それは体力の限界と同義であり、自身が刻一刻と死へ向かっていることを彼女は実感していた。侮っていたつもりは毛頭ない。けれど予想を超えて食い下がられた、と。
けれど大切な主がずっと見守ってくれている。ならば敗北など有り得ぬと。ああ、この身に感知スキルなどないというのに、確かに感じている。主の心配と、主の期待を。
そして――そして、その隣にある小さな同族の気配を。
いつのまに来たのだろうか。どうやってきたのだろうか。何故きたのだろうか。そんな疑問が死闘の最中でも頭を過り、けれど答えなど解りきっているかと自嘲する。
そう、だからこそ己はここにいるのだから。主の心を御守りし、彼女の不安を晴らすために。それに、ああまったく。主の厳命だからと此処にこないシモベより、よほど見込みがあるじゃあないか。口角が吊り上がる。頗る昂る、滾る。
負けるわけがない。名を二つ、確かに預けられたのだから。『鈴木悟』という男のために、『キーノ・ファスリス・インベルン』という女のために。
負けるわけがない、世界を護りたいだけの竜王などに。世界より大切なものがない、そんな輩に――『負けるわけがない』。
「――君がもう少し、経験豊富ならきっと負けてたよ」
「…ぐううぅぅぅっ!!」
至高の存在達をして脅威と言わせしめたシャルティアの分身、エインヘリヤルは竜王の上空に……そして本体は竜王のすぐ下に。急降下するツアーの咢が彼女に迫り、けれど体勢は整わない。分身は竜に追いつかない。既に両者ともに理解していたのだ。決着は数秒もかからないと。
勝負を分けたのは、きっと経験値。数値上のそれではなくて、永き年数を生き抜いてきた経験値。設定上のそれではなくて、過去の争いを耐え抜いた経験値。歴戦の猛者であり、なのに戦い慣れているとは言い難い吸血姫の歪な戦い方に、彼は勝機を見出したのだ。
シャルティアの顔が歪む。こんな筈ではなかったのに、と。
シャルティアの顔が歪む。こんな『勝ち方』はまったく優雅でないな、と。
「え――?」
「くふ。経験ならわらわは豊富なのよ。けれど――言ったでありんしょう? 流石のわらわも竜は趣味ではありんせん、と」
名を預けられた。友誼を結んだ。そして大切なものを交換した。いずれは返し、いずれは返してもらうと約束したものを使わせ『られる』なんて、本当に美しくないと彼女は思った。他者と位置を交換するアイテム――それがスキルによって生み出された存在まで対象になるかなんて、博打もいいところ。そんな事を考えながら竜王の『背後』で彼女は笑った。
「――あああぁぁぁっ!!」
「くっ…! あ――」
ボロボロの翼を穿ち、白銀の体を紅の弾丸が撃ち抜いた。一晩続いた空の戦いは終結し、勝者と敗者が地に墜ちる。並んで横たわる姿は同じでも、どちらが勝ちかは明白だった。
「はぁ、は――っ……わらわの勝ちでありんすな」
「…そう、みたいだね」
「ぬしの負けでありんすな」
「…そう、なるのかな」
「これでわらわの配下となったわけでありんすが」
「…うん。……うん? いやいやいやなんでそうなるのさ!」
「くっ、ふふ。ようやく慌てる姿が見れんした」
「むっ…」
死に体ではあるが――死んではいない。シャルティアは最初から死んでいるが。
「ふう、殺さないように手加減するというのも難儀でありんした」
「よく言うよ」
「くふ……嘘か真か、どちらがいいでありんすか?」
「…聞かないでおくよ」
「強敵でありんしたのは事実。称賛は素直に受け取りなんし」
なかなかやるじゃねーか。ふん、お前もな。要約すればこんな感じである。兎にも角にも戦いは終わり、朝陽が二人を照らした。主と友人が近づいてくるのを感じ、シャルティアは身を起こす。
「…」
「どうしたんだい?」
「…ぬしと戦ったのがわらわでよかったものか、と。御方は成長と仰ったけれど、悪い変化でないものか、と。わらわが気付いていないだけで、ただ御方を軽んじてしまっただけではと。ナザリックを離れた分、何かを失ったのではないかと。疑問は尽きんせん。ぬしに言ってもしょうがありんせんが」
「ああ、そういえば君だけ別の場所に現れたと言っていたね」
「旅をすることに意味はあったのか、ずっと気になっていんしたの。御方が必要と言ってくれたことに疑いはありんせん。けれど……何故わらわだけが、と」
「偶然じゃないのかい?」
「…」
要らないから弾きだされた。至高の存在にそれを否定されても、ほんの少しだけ不安が残るのは仕方のないことだろう。それだけ孤独は彼女を傷つけたのだ。
「旅……旅、か。そういえば君の主人と同じ『プレイヤー』が言ってたっけ」
「…?」
「『可愛い子には旅をさせよ』だったかな? キーノ達と冒険をしたんだよね。それに意味は無かったかい?」
「…」
「僕も本当の意味で冒険をしたわけじゃないけれど……永い時の中でも、その思い出はずっと輝いてる。僕の、ツアーと呼ばれた僕の冒険には最高に意味があったよ。君はどうだい?」
「…くふ。説教臭いのは爺の十八番でありんすか。そう、そうでありんす……わらわの、シャルティアの冒険は――」
最高に、意味があった。彼女は満面の笑みでそう言い放った。
年(度)内完結の約束を守れてよかったよかった。
ほんっとに難しいですね、二次小説って。はっきりいってうまく書けたとは言い難いですが、これが今の精一杯でした。最後らへんでエタる人がいるのも納得です。
一年間くらいかな? お付き合いありがとうございました。まどか☆マギカの方を仕上げたら、また新しいものを書くと思いますので、よろしくお願い致します。
あ、エピローグ残ってますけど。