勉強がダメ。運動もダメ。何をやってもダメな少年の元に未来から猫型ロボットがやって来た! ただし、そのロボットはお世辞にも善人とは言い難い凶悪な面構えをしている…
勉強がダメ。運動もダメ。
何をやってもダメな少年の元に未来から猫型ロボットがやって来た!
ただし、そのロボットはお世辞にも善人とは言い難い凶悪な面構えをしている…
簡素な一軒家が並ぶ住宅街。
建ち並ぶ家々の峰に挟まれた道路をやや俯き加減にして歩く少年がいる。
ランドセルを背負っていることから学校帰りなのだろう。
だがその表情は暗く沈んでいて、足取りも重く遅い。
やがて二階建ての住宅――自宅に辿り着く。
「ただいま……」
覇気のない声をかけて建物の中へと入っていき、二階にある自室へと足を運ぶ。
部屋を区切っている襖を極力音を立てないように恐る恐る引いて…
僅かに開けた隙間から部屋の中を確認しようとする。
鋭利な三白眼と視線が合った。
「――おかえり、のび太くぅぅぅ~ん?」
それが獣が唸るような声で少年の名を口にする。
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
情けない声を上げながら尻餅を突く。
襖の向こうから白い毛で覆われた指が隙間にかけられ…襖を全開に開き、声の主が姿を現す。
耳元まで大きく裂いた口。
生物を一撃で仕留められそうな爪と牙。
人よりも巨大。しかし無駄な贅肉がない細身の獣。
二本の足で立つ猫科の青い体毛の猛獣が目の前にいた。
彼の名は「ワルえもん」未来からやって来た猫型ロボットだ。
「出会ってから一週間以上経っているってーのにまだ慣れねーのかァ?」
逆光で顔が暗い。だがその瞳だけは爛々と紅く妖しく輝く。
それはまるで暗闇の中で獲物を待ち伏せする獣の様。
のび太と呼ばれた少年は恐怖におののき…
「あわわわわわ…」
四つん這いになって離れようとするも、首根っこを掴まれ部屋の中へと引き摺り込まれる。
「今日は学校が終わるのが早い筈なのに、随分と遅かったじゃねェか?」
胡座をかいて座るワルえもんと正座しているのび太が向かい合うようにして座っている。
のび太は自分よりも背が高く、凄みのある猛獣に萎縮し身を縮こませる。
「…友達が用事あるから掃除を代わりに引き受けて……それで……」
「ああん? そのせいで俺はお前がやる筈の家の用事をやらされたんだが…?」
不機嫌に顔を歪ませるワルえもんに「ゴメン」と小さく呟いて頭を下げる。
フンっとつまらなさそうに鼻を鳴らすと無言で立ち上がり…
「ちょっと出掛けてくるわ…」
そう言い残して部屋を出ていく。
後には今にも泣きそうな顔ののび太だけが残された。
町にある空き地の一つ。
のび太と同じ年代なのだろう、そこには少年達が野球をして遊んでいた。
リーダー格の少年が打ったボールが勢いよく飛んで、地面を転がっていく。
やがて誰かの足下にぶつかり止まり、その場にいた少年達の視線が集中する。
「ひっ!?」
誰かが短い悲鳴を漏らす。
それも無理もないだろう。
何しろ…そこには一般人ではなく――
「テメーらはのび太のクラスメートだよなァ?」
爪と牙を覗かせる獰猛そうな青い猛獣がそこにいたのだから…
「のび太の話だとテメーらは外せない用事がある、って筈なんだが…」
一歩一歩、地面を踏みしめて少年達に近づいていき…
「その外せない用事が、まさか…空き地で野球をすることじゃねぇよなァ~?」
大きな身体をさらに大きく膨らませ、爪を伸ばし、牙を鋭く尖らせる。
誰かが喉を鳴らす音が狭い空き地に静かに響く。
翌日の朝。場所はのび太の自室。
薄暗い部屋の中、布団の中で幸せそうに眠っているのび太。
セットして置いた目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、手を伸ばす…
その手を
「――――っ!?」
声にならない悲鳴を上げながら布団を足で撥ね飛ばし、飛び上がる。
布団の上で痛む腕を押さえながら踞るとワルえもんが顔を近づけて…
「起きろ」
短く一言だけ告げる。
至近距離から凶悪な顔に睨まれて、のび太は黙って頷くことしかできなかった。
「のび太が寝坊することがなくなって…
ワルちゃんが来てくれたお陰で本当に助かるわ~」
父親と母親に一人息子。
ごく普通の家庭にごく普通の食事風景。
だがそこに明らかな異物が一つ。
「フンっ、テメーらが甘やかすからだろ…
それと俺はロボットで食事する必要はないから用意をしなくていいんだが?」
ワルえもんだ。
彼はそう言いながらも箸を動かす手を止めない。
「別にいいわよ。ワルえもんはバイトで稼いだお金を生活費の足しにしてくれてるから」
「居候してる分際がタダ飯を食らってたら、格好がつかないからなァ~」
ニタニタと悪人のように笑う。
それを黙って見つめるのび太。その背中はどこか寂しそうである。
そして…
「ごちそうさま。学校に行ってくるよ…」
食事もそこそこに席を立つ。
「おう、気をつけて行ってこい。それと早く帰ってこい」
返事の代わりに一つ頷き、食卓から離れていく。
一人息子の様子に母親である玉子は…
「悪いわねぇ、ワルえもん。いつもはあんな風じゃないんだけど…」
「大方、俺みてーのがいるせいだろ…見てくれだけなら極悪人だからなァ~?」
そう言う居候に「ハハハ…」と乾いた笑いで返答する。
教室の扉が音を立てて開かれる。扉を開けたのはのび太。
普段ならば寝坊のせいで遅刻することが多いのだが…
ワルえもんが来てからというものの遅刻することはなくなった。
それ故に同級生を驚かしたが、最近は慣れたのか一瞥する程度にとどまる。
そしてのび太は教室内、男子児童の変化に驚く。
一部の生徒を除いた級友が暴行を受けたのか、顔を腫らしているのだ。
のび太の脳裏に家に居候している青い猛獣の姿が過る。彼ならやりかねない…
それと同時に自分に報復されるのでは、と考え…身を震わせる。
「あ、あのさ…ジャイアン…?」
近くにいた体格のいい男子に声を掛けると――
「ゴメンナサイ…赦シテクダサイ…
モウ、二度ト掃除ヲ押シツケルヨウナ真似ハ致シマセン…」
焦点の合わない、光を失った目でひたすら呟いていた。
正直、彼がどんな目に遭わされたのか気になったが…
これ以上、心の傷を増やすのも…と気の毒に思い、そっとしておくことにした。
その日は珍しくのび太にとっては平穏無事な一日を過ごすことができた。
ついでに男子生徒がのび太に掃除を押し付けたことが先生にバレていて、
彼らは揃って放課後の掃除をやらされることとなる。
不思議と彼らは反論もなく大人しく従い、サボることもなく掃除をしていたという。
そして下校。
「よう」
校門の前にはワルえもんがのび太の帰りを待ち構えていた。
凶悪な面構えの猛獣がいれば通報されそうなのだが…
「俺の知り合いから貰った便利な道具を使っているんだよ。
まァ、それでも限度ってもんがあるらしいがな…」
何が可笑しいのか「くっくっく…」と口の端を上げて笑う。
のび太は内心びくつきながらも同級生達のことを問いただす。
ワルえもんは悪びれもせずに…
「学校から仕事を任されたのに、人に押し付けた上にサボったんだ。
その罰を与えてやったんだよ」
「…でも、あれは少々やり過ぎだと思うんだけど…」
「ああん?」
息がかかる距離にまで顔を近づけさせて睨む。
「口で言って性格変わるなら…世の中ァ悪人なんて消えていなくなるんだよ。
テメーはアイツらが「本当は善人で良い子なんです」とでもほざくつもりか?」
「…そうは言うつもりで言ったわけじゃないけど…」
「ならいいじゃねぇか。とっとと帰るぞ」
後ろを振り返り、家路に就く。
その後をのび太が慌てて追いかける。
のび太は彼が善意ではなく利害故に動いたのは理解した。
それでも彼のお陰で何事もなく過ごせたのも…
「…ありがとう。ワルえもん…」
消え入りそうな声で小さく呟く。
「なんか言ったか?」
唐突に振り返る。
その表情は不機嫌そうだ。
「ううん…別に…」
ふんっと鼻を鳴らして前を向き、歩き始める。
道すがらもワルえもんについて聞いてみる。
「そういやワルえもんって、何のバイトしてるの?」
「パチンコと競馬。あとは競艇と競輪だな」
「それバイトじゃないじゃん!?」
「くっくっく…中々いい稼ぎになるぞ? 今度一緒に行くか?」
「僕は未成年者だよ!?」
「こまけーこと気にすんじゃねぇよ」
「気にするよ!?」
そう言い合いながらも自宅へと向かう二人なのであった。
(´・ω・)にゃもし。
三人称だと、どこか違和感を感じる今日この頃。
ぶっちゃけ私はマンガ、アニメのドラえもんは好きではない。
でも映画は好きなのだ。
マンガ、アニメはホイホイ道具を出すし
イジメ、暴行、人格否定 etc と数えたらキリがない。
それでも時々、泣ける回があるので侮れない。そして奥が深いのだ。
人間らしいというか人間臭いというか…
良い部分もあれば、悪い部分もあるというか…
一言では表せない、ということです。
因みに私の中でののび太の評価は「やる気のない超人」である。
あれは小学生とは思えないスペックを持っていやがる…
それと、もしかしたら…「教師編」「両親編」「ワルえもん流、幻の最終回」
…をやるかもしれん。
(´・ω・)ゆんやーっ。
ここまで読んでくれて、ありがとうなのです。