ロボット、人間?との遭遇
最初にその姿を捉えたのは空母赤城であった。空母である
「南東の方角に未確認機確認! 皆さん警戒を!」
幸いにして彼女たちの目前の敵は駆逐艦一体のみであった。それに反して彼女達は空母一、戦艦一、軽巡洋艦二、駆逐艦二、のバランスの取れた艦隊であり、被害状況も先の戦闘で戦艦が小破された程度であった。弾丸、燃料共に余裕があり、まだまだ戦力は残っていた。
「了解ネ!早くこっちを終わらせて、次の相手をするヨー!」
空母の指示を受けて、戦艦金剛の
「あーもう当んないないなぁ」
「いい加減に沈みなさいな!」
どこか間延びした声の軽巡洋艦北上と鋭く声を上げる同じく軽巡洋艦大井の二人も、味方への被弾を避けるために得意の魚雷を扱えずにいた。ならばあとは相手の同じ土俵に立つ、駆逐艦の出番であったが彼女達はまだ練度が低く、実践経験が不足していたためにうまく立ち回れないでいた。
そして戦況がなかなか進まない中、ついにそれの姿がはっきり捉えられる位置までやってきた。
まずその姿に、彼女達は圧倒された。その時、敵駆逐艦もその存在の重圧感に圧されたのか動きを止めてしまう。
自分達の十倍はあるのではないのかと思える程の巨体、金属のようなその表面は鮮やかに三色、所謂トリコロールカラー、フランスの国旗と同じ色で塗装されていた。角ばったその体は人と同じような形をしており、手や足があり、顔にあたる部分には口や鼻こそ無いが太陽の光を反射するサングラスのような目のような物がついていた。彼女達の知識の中にはそれを表現する物は無かった、彼女達からすれば巨人といったところだ。しかし、彼女達の総指揮を執る立場にいるある人物が見たならば、わかりやすくこう言っただろう。
即ち、巨大ロボットであると。
その姿に呆気に取られていた彼女達だが、すぐに気を取りもどす。もっともまだ建造されて間もない子供といってもいいような駆逐艦の二人は目を回して気絶していた。かろうじて沈むことはなく海の上には立っていたが。
それよりも、歴戦の戦士といってもいいような赤城と金剛の二人はすぐに思考を切り替える。この巨人が敵か否か、それを見極めないことには始まらない。もしこれが敵の新兵器か何かであった場合、少しでも相手の戦力を把握し、それが強大な物であるならば、犠牲を払ってでもその情報を彼らの基地、鎮守府に持ち帰る必要があった。
誰かがゴクリと息を飲む。それと同時に巨人も緩慢な動きで腕を動かし始める。そしてその手は未だ硬直したままの敵駆逐艦に伸びる。そしてその巨大な手でつまみあげるようにして掴むと顔の前にまで持ち上げる。この段階になってようやく敵駆逐艦も逃れようともがくが、相当な力があるのか巨人の指はピクリとも動かない。
まだ、彼女達は動かない。
そして巨人は次に反対の手を動かし、目を回していた駆逐艦のほうへと伸ばした。
「Stop! 彼女達には手を出させないネ!」
駆逐艦に害が及ぶ前に金剛が動いた。砲を向け停止するように勧告する。それに従うかのように巨人は手を止め彼女の方へと視線を向ける。
「こんだけ大きいと魚雷も当たりやすいよね~」
同時に北上と大井も散開し、互いに敵を射程圏に収める。さらにその時、赤城もまたいつでも艦載機を発艦出来るように、その手に持つ発着甲板の役目をする弓の弦を引く。
時間が止まったかのように錯覚する中、波の音と敵駆逐艦の鳴き声のみが静かに辺りに響いていた。
十秒か二十秒か、はたまた一瞬か永遠かと思われた時間の中、緊張を破ったのは巨人であった。巨人は敵駆逐艦を摘み上げた時のように緩慢に手を動かし始める。
彼女達はそれを見てもすぐには動かない、その理由は二種類。まだ巨人が敵かどうかわからない、もし敵で無かったならばまだ手を出すわけにはいかない。先に弾を放ってしまえば、戦争の口実を造る事になることを軍艦であった彼女達は知っていた、故に決定的な敵対行動を取るまでは手を出すことは出来なかった。そしてもう一つ、巨人が敵ならば、致命的な隙を狙う必要があった。戦力が未知数である以上は軽んじた行動は慢心でしかない。やるならば少しでも有利になるようにする必要があったのだ。
巨人の手が駆逐艦達に届く。まだ弓は放たれない。
敵駆逐艦と同じように味方駆逐艦も摘み上げられるのかと、思っていた彼女達の前で、巨人は優しくそっと手の平に駆逐艦達を救い上げた。
それを見て艦隊の旗艦を務めていた赤城は、北上、大井、金剛の三人と目くばせをすると彼女のみ武器である弓をそっと下す。他の三人は未だに砲を下ろさず警戒を続ける。
「こちらは呉鎮守府所属、航空母艦の赤城です。 そちらの所属と名称、行動目的をお教えいただけますか?」
弓を下ろした赤城が代表して巨人に問いかける、人型をした人口物のような外見から知能のある何かだと判断しての行動だった。そしてそれに応える声が巨人から発声される。
『こちらリルル、元メカトピア鉄人兵団所属、行動目的は……友人の捜索』
どこか無機質な声であったが、巨大なその姿からは想像出来ない可愛らしい声に彼女達は驚く。
「ではリルルさん、まずは味方の救護に感謝を。 そして質問ですが、その手に捕まえている深海棲艦はどうするつもりでしょうか? 差支えなければこちらに引き渡しを求めたいのですが」
『深海棲艦というのはこの魚みたいなモノの事かしら? なら問題ないわ、私達はこれを必要としていないわ」
「ありがとうございます。 それともう一つ、こちらにはあなたの所属先の…失礼、元所属先の情報がありません、よろしければ私達の鎮守府までご同行願えないでしょうか?」
巨人の口ぶりはまるで深海棲艦を知らないようであった。その事に彼女達は疑問を抱く、世界の海が深海棲艦に支配されてはや数年、空路海路を共に封鎖される原因になったその存在を知らないものなどほぼ存在しないだろう。だが、ひとまずそれを差し置いて巨人が知性を持った行動を取り、仲間を優しく救い上げた姿を見て、彼女達は巨人は敵ではないと判断した。そこからさらなる情報を手に入れる為に鎮守府への同行を申し出た彼女達だが、流石に初対面の者についてくることはないと思っていた、少しでも会話を長引かせ情報を得る為であった。
『…いいわ、ついていくわ』
「ではすぐに帰投します。全艦、作戦を一時中止! これより鎮守府に帰投します」
赤城の予想とは裏腹に巨人は素直に同行を認めた。その事実に一瞬だけ赤城の表情が揺らぐが、すぐに冷静さを取り戻し艦隊の指揮に戻る。
「申し訳ありませんがリルルさん、その二人と深海棲艦を運搬をお願いしてもよろしいでしょうか?」
『構わないわ、ジュドもこれくらい問題無いわ』
また新しい単語が出てくる、ジュドとは何か、おそらくこの巨人の事であろうが、ならばこの声の主は巨人そのものではないということになる。彼女達の疑問は募るばかりであった。
進路を変え、帰還へと動きだす彼女達の速度に合わせるような速度で空を飛び巨人はついていく。そんな中、赤城は帰還を待ち切れずに巨人に問いかける。
「なぜ砲を向けられているにも関わらず、救護を優先してくれたのですか?」
普通ならば、砲、銃口、刃、それらの物を向けられたならtばまずは声を出し誤解であるならそれを解こうとするだろう。しかし巨人は自らの身が危険に晒されながらも救護を優先した、それが赤城には理解できなかった。
『何故って? だってあなた達はこの子達を守ろうとしていたのでしょ? だったら恐れる必要はないじゃない、あなた達は暖かい心を持っているのだから』
その言葉に赤城は、思い悩む、彼女達は人の形をしている。行動もだいたいは人のそれと変わらない。ただ彼女達はかつては人ではなかった。冷たい鉄の城であった自身に暖かい心などあるのか、赤城には分からなかった。
そこで会話は途切れる。以降は鎮守府に辿り着くまで誰も口を開かなかった。彼女達が水を切り進む音と、波の音、それと巨人につままれたままの深海棲艦の鳴き声だけが、海に消えていった。