ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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その15

○月▽日 075

 帝スポを読んでいたら、「読者のお悩み相談・カイレ様が斬る!」のコーナーに目が行った。

 タイトルこそカイレ様となっているが、本人急病の為、現在は代理で隊長とか言う人物が受け持っているらしい。

 人に相談できるような悩みなど、俺に言わせれば悩みの内にも入らない。いつもなら読み飛ばすコーナーなんだが、今日に限って何かしら予感めいたものを感じたのだ。

 

 内容はエ・ランテルにお住まいの匿名希望S・スズキさんから「最近友人になった友達と、もっと仲良くなりたいのですが、どうしたらいいですか?」という他愛の無い相談だ。

 回答は「カイレ様ご健在なら法国の秘宝でイチコロなんですが」と断った上で「もっとその友人の役に立つよう頑張りましょう」「プレゼントなどで喜ばせるのも良いですよ」という、こちらも当たり障りの無い模範的回答だった。

 俺の勘は良く当るんだが、いったい何が俺の目をこの記事に向けさせたのかが良く判らない。ちょっと嫌な感じがしたんだが・・・今回ばかりは俺の勘もハズレかも知れん。

 

 それはそうと、ナザリック殺人事件の続きも載っていた。ちょっと楽しみにしていたんだ。

 前回はアフィーレア・バレバレ氏がパーティーの最中に毒殺されたが、今回はついに第二の殺人が起こってしまった。被害者は屋敷に勤めるバラというメイドで、地下室の小部屋で、首が胴体と切り離された惨殺遺体となって発見された。

 地下室だから部屋には当然窓は無く、1ヶ所しかない扉には内側から閂(横にスライドさせるタイプの鍵だな)が掛かっていたと言う。

 これは完全な密室殺人だな。

 怪しいのはバラと出来ていたという噂のある屋敷の主人クリンガか、妻のナイベドが嫉妬に狂って殺したという線もある。

 しかし、これが連続殺人となると2人にはバレバレ氏殺しの時のアリバイがあるからなあ。

 バレバレ氏殺しの容疑者だった執事のギャリソンは大層女好きで、バラにも食指を伸ばしていたという噂があるらしいが、こいつは今回のバラ殺しにはアリバイがあるんだよなあ。

 バラ殺しの動機があるのは、ギャリソンと何やら確執があったと噂のあるメイドのシャンシャンだが、女性に首の切断という荒っぽい殺しは似合わないよな。動機も弱い気がするし。

 

 謎は深まるばかりだが、とりあえず探偵のミス・ゴールドと、相棒の探偵犬プライムも登場したことだし、続きを楽しみに待つとしよう。

 

 

 

○月□日 076

 ナザリックのロウネから便りがあった。

 最初はあんな化け物の巣に一人取り残されて、いったいどうなることかと心配したが、最近は色々と貴重な情報をもたらしてくれて助かっている。

 ただ、今回の手紙は・・・他愛の無い内容なんだが・・・何でも、「9階層にあるバーでゴ○ブリと一緒に酒を飲んだ」と書いてある。何度読み返してもそうとしか読めない。

 

 何と飲んだって?

 

 ロウネ、ロウネよ、すまないが、お前が何を言ってるのか俺にはわからない。

「9階層にあるバー」・・・これはわかる。

「酒を飲んだ」・・・これもわかる。当たり前だな。

「ゴキ○リと一緒」・・・わからない。これは何かの比喩なんだろうか?

 別に俺の頭が悪いんじゃないよな? ちょっと不安になってきた。

 偶々傍にいた〝雷光〟のやつに手紙を見せて聞いたら、〝雷光〟もやっぱり意味が解らないと言っていたので少しホッとしたが、今になって考えてみると、確認した相手が〝雷光〟じゃあ、あまり意味が無かったか?

 

 ロウネによると「彼」は非常に気持ちの良い漢で「かの大威震○連制覇(だい○しんぱーれん○いは)や、天挑五○大武會(てん○ょうごりんだい○かい)などの出場暦を誇る剛の者」であると言う。

「出場」と言うからには何かの大会か?

 そんなもの聞いたことも無いし「生涯の知己を得た」と書いているが、すまないロウネ、理解できない。したくもない。

 剣○太郎とマブダチって、だから誰だよソレ。

 〝雷光〟によると、何となく聞いたことがあると言うが、知っているのか雷光。

 

 俺の精神の安定の為にも、これは何かの暗号だと思い込むことにして、手紙は情報部へ渡し、重要な情報が込められているはずだから、必ず解読するようにと厳命した。

 渡された情報部員は泣きそうな顔をしていたが、そのくらいの給料は払っているはずだ。

 

 

 

×月○日 077

 珍しく王国の国王、ランポッサ三世からホットラインがあった。

 いったい何の用かと思ったら、娘を知らないかと言う。

 

 いい加減にしろ。

 

 どうなってんのあの国。

 何で親爺がいない、娘がいないで、いちいち俺に聞くの? 俺はあいつらのママなの?

 俺、敵だよな? この認識間違ってないよな? 不安になってきたぞ。

 

「息子がいるだろ、皇太子に聞け」と言うと、あのデブもいないと言う。

 デスヨネー。そんな気はしたんだ。

 俺もだんだん慣れてきたのか、成長したんだろう。そこのお前、調教されてるって言うな。

 

 とにかくジジイを落ち着かせ、どうせすぐ帰って来るんだろうし、もう少し子供を信用したらどうだと説教してホットラインを切った。

 どう考えても敵国同士の皇帝と国王の会話じゃないのだが、俺も大人になったということだろう。断じて調教の結果ではない。

 

 午後は気分を切り替えて会議に臨む。議題は延ばし延ばしになっている竜王国救援軍派遣検討会議だ。

 どうも最近、皇帝は帝スポ読んでるだけとか言う輩がいるようなので、きちんと仕事をしているということもアピールしとかんとな。帝スポはこうしてちゃんと仕事をしている合間に読んでるだけなのに、風評被害も甚だしいと思わんか?

 

 それはさて置き、援軍の派遣には問題は幾つかあって、まず帝国軍の戦力に援軍として派遣するだけの余裕が乏しいこと。

 これは四騎士の一人、〝不動〟こと、ナザミ・エネックが死亡したのが大きい。ん? 実は生きてるとか言ってなかったかって? 気のせいだろう。空気読め。

 そしてもう一つは、竜王国の現状が本当に厳しいのか、不明な点があることだ。闘技場出場者を公募する余裕はあるみたいだしな。

 

 こちらに余裕があれば助けてもいいが、無理をして必要の無い戦力を出して削られるのも阿呆の所業だ。帝国臣民の生命財産は、帝国の繁栄の為に使われるべきであって、他国の為に無駄にしてよい物では無い。よって現状では「様子見」というのが、我々の採るべき方向性だろう。

 手遅れになったらどうするのかって? そんなこと俺に聞く暇があったらオリジナルの作者に助命嘆願のお便り出す方が建設的だと思うぞ。

 

 ただ、対外的なメンツというものがある。単に動かないだけでは竜王国側からすれば「援軍拒否」の返答を突きつけられたに等しいだろうし、それでは将来に禍根を残す可能性がある。

 そこで、このバランスを保つための援軍派遣延長理由を色々と思案してみたのだが、なかなか名案が浮かばない。

 仕方が無いので延長理由を公募してみることで会議は決した。

 帝スポに募集広告を出すことも検討中だ。

 

 

 

×月×日 078

 今日は朝から〝雷光〟のやつが元気が無かった。

 鬱々として覇気が無く、時々溜息をついている。

 〝激風〟が心配して体調でも悪いのかと聞いていたが、そんなことはないと言う。

 〝重爆〟が理由を聞いても、「別に何でもない」「たいしたことじゃない」と言を左右にして答えをはぐらかす。

 〝重爆〟は、こっそり俺に「失恋でもしたんでしょうかねえ」と言って来たが、「あいつのことだ、博打で負けたとか、そんなことじゃないか」と冗談めかして答えておいた。

 

 まあ、人間、アンニュイな気分になる日もあると言うもの。そこは帝国三騎士の一人、〝雷光〟であっても例外ではないだろう。

 本人にとっては大きな悩みだが、人に話せば笑われるような、そんな小事であることも自覚してるので他人には相談できない、なんてことも良くあることだ。

 そしてそんな悩みは、大抵時間が解決してくれる。

 

 心配する2人(友情とは良いものだな!)には、そういう時ほどいつも通りに接するようにと、こっそりアドバイスを授け、俺自身もいつも通り〝雷光〟に話しかけ、冗談を言い、元気に振舞うようにする。

 そうしている内に〝雷光〟の方も元気を取り戻したようで、午後にはすっかりいつもの〝雷光〟になっていたのでホッとした。

 

 

 〝雷光〟よ、すまん。

 

 お前のPMP(プレイ・マジック・ポータブル)の「ナザこれ」のセーブデータを間違って消したの、俺だ。

 お前があんな所に忘れて帰るから・・・わざとじゃないんだ、事故だったんだ・・・見回りの兵が来たから慌てて・・・つい・・・ちょっと見るだけのつもりで・・・帝国皇帝と言えども好奇心には勝てなかった。

 

 この秘密は墓場まで持っていく。

 

 

 

×月△日 079

 今日、皇城で一騒動あって大層疲れた。

 

 事の起こりはこうだ。

 午前の執務を終えて昼飯を食おうと、三騎士に秘書官、それに3人のメイドを従えて食堂に向かったのだが、食堂の扉を開けたらデスナイトが立っていた。

 皇城の食堂にデスナイトが出現するなど前代未聞。メイドが2人卒倒するわ、俺を庇って三騎士の抜いた剣に払われて、入り口両脇に飾ってあったペアで金貨200枚はする壷が粉々になるわエライい騒ぎだ。

 俺自身も、あまりの衝撃に一瞬固まったが、慣れた(慣れたくなかった・・・)もんで即座に違和感を感じ、よーく見てみるとデスナイトの顔が何やら(*^◯^*)なことになっている。

 三騎士に何者だと誰何され、しばらく何やらモゾモゾやっていると思ったら、背中が割れて今度は中からアインズの糞野郎が現れた。

 

 うちの皇城、出入りフリーすぎるだろ。

 

 そこまで気丈に意識を保って傍から離れなかったメイドが、その時点で卒倒したのは仕方が無い。デスナイトの中から、さらに骸骨とか、ただのメイドには悪夢以外の何物でも無いだろうからな。後で見舞いと褒美を与えよう。

「こんな所で何をやってる!?」と問い質すと、アインズのやつは「愛されるナザリックを目指して、いわゆる「ゆるキャラ」の着ぐるみ作ってみたんだがどうだろう?」と言う。

 

 緩んでるのはお前の頭だ。

 

 (*^◯^*)な顔してたって、全体から滲み出る威圧感はオリジナルと何も変わってないどころか、顔だけ滑稽な分、余計に禍々しい。

 こんな凶悪なゆるキャラ見たのは「夕○メロ○熊」以来だ。

 

 こちらが呆れていると、糞野郎は一人で捲くし立てる。

「どうだい?驚いてくれたかい?やはり国を治めるとなると、愛されることは重要だろうと思うのだよ」

 言ってることは正しいが、行動は270度間違ってる。

「この「デスナイト君」は自信作なんだが・・・他にもトブの森に住む魔獣「トブベアー」をモデルにした「くま○ン」とか、王国に生息するらしい「ガガなんとか」と言う青い血の魔獣をモチーフにした「レディー・○ガ」とかも作ってみたんだが・・・駄目かな?」

 

 駄目だろ。

 

 お前、いったい何に喧嘩売ってるんだ?

 伏字で誤魔化すのも限界ってもんがある。聞いてるだけで冷や汗が出るぞ。

 

「何しろ国の運営など初めてなのでな。先のカップ麺といい、我々も色々考えているのだよ・・・そう言えば、先だってのカップデスナイトだが、あれもちゃんと製品化に成功した完成品もあるんだ。その内ジルにも見てもらおうと準備してたんだが、ルプーのお陰で予定が狂ってしまった」

 要するにそれ、悪巧みしてました宣言じゃないか。そんなもの見たくも無いから、ずーっと予定狂ってて欲しい。

 

 アインズのやつ、言うだけ言ったら満足したのか、上機嫌で「これはジルにプレゼントするよ」と言ってデスナイトの着ぐるみを置いたまま帰ってしまった。

 どうしろって言うんだコレ。こんな物、置いていかれても非常に困る。

 どうしようか考えた末、ちょっと思いついて着ぐるみを着て公邸の方に帰ったら、迎えに出てきたロクシーが卒倒してしまって、後でこっぴどく叱られた。俺、皇帝なのに。

 

 最初に迎えに出てきた、例の黒目出し帽の使用人連中が平気な顔してたから、てっきり大丈夫かと思ったんだが・・・これ、俺が悪いのか?

 

 




2016/05/02 文章の修正を行いました。

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