ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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 あ、どうも。松露饅頭です。
 前回の更新から少しだけ間が空きまして、中にはエタったんじゃないか? と思われた方もいらしたかも知れませんが、これこの通り、一応健在です。

 今回珍しく前書きを書いているのには幾つか理由がありまして、一つは今回の話(2話分)は5月の末頃にいつも本作を投下している掲示板で有志の方によるSSコンテストのようなものが開催され、それに合わせて御題の「チョコレート」「ノート」「小瓶」の文字を必ず入れること、という条件に沿って書かれていますので、これをふまえて読んで頂きたいということ。

 さらに、書いた日付も当然5月の内ですから、末日に発売された「オーバーロード」本編10巻の内容は、この時点で全く考慮されてなかったということも覚えておいて頂けると幸いです。本編であの人がクローズアップされて出て来た時は悶絶しました(笑)

 そして、肝心のオーバーロード本編10巻発売と、当「ジルクニフ日記」について、後書きで少しお話させて頂きたいと思う次第。
 宜しければ最後までお付き合い下さい。



その19

○月○日 095

 今日は以前から依頼のあった帝スポからの取材を受けた。

 魔導国の出現以降の昨今、只でさえ忙しいのにとあまり乗り気では無かったのだが、その取材内容というのが「皇帝の普段の生活にスポットを当てたい」というものだった事で、鮮血帝と言われる「公」の部分に対し、柔らかく親しみやすい「私」の一面を見せることも、大衆の統治には必要なイメージ戦略の一環だと秘書官達に説得されて了解することにした。

 確かに彼らの言うことは理に適っていると認めざるを得ないし、正しい意見の具申ならば、その言はきちんと取り上げることが皇帝たる俺の役目だ。個人的な好き嫌いは許されない。

 

 やって来た記者はグレーの髪にグレーの口髭を蓄えた40代と思われる男で、何やら荷物を入れた袋を背負っているが、どう見ても歴戦の戦士を思わせる精悍な雰囲気を漂わせていた。どこかのワーカーが記者を騙ってスパイに来たと言った方が納得できる風貌なんだが、ホントに記者か?

 

 背負った荷物の中身は、今回のインタビューを受諾したお礼とお土産を兼ねての品ということで、「これは編集長から・・・」と取り出した箱には“九○珍味明○子セット”と書いてあり、中を見ると食べ物らしき物が幾つもの小瓶に分けて入っていた。お前のとこの編集長って何者だよ。

 それぞれ、“明太うに”“ほたて明太”“イカ明太”“たこ明太”などと書いてある。見た目赤くて、なんだか美味そうには見えないんだが、記者は「絶対美味いですから!」と太鼓判を押すので後で試してみよう。作者も美味いって言ってるし。

 

 さらに「うちの田舎の名物なんですよ」と、“白○恋人”なる菓子折を貰ったんだが、お前の田舎もどこだよ。

 まあ、中身は薄いクッキーでホワイトチョコレートを挟んだもので美味かったが。

 

 取材の前に色々と聞いたが、なんでも以前は確かに冒険者をやっていたそうで、それなりの地位にもいたらしいが、その後、紆余曲折を経て期間限定特派員という形で、友人のラケシルという男と一緒に帝スポの記者をやっているそうだ。便利な表現だよな、紆余曲折って。

 

 取材の方は俺の執務ぶりをレポートする前半と、後半のインタビューで構成されるそうで、まずは前半部分の取材に取り掛かる。これは要するに、俺としては普段通りの仕事をするだけだ。

 秘書官や役人の報告を受け、レポートを読み、決済をする。当然だが機密に関するような報告やレポートについては、予め今日の午後に回すよう手配済みだし、本来ならこれに会議の時間も加わるが、まさか部外者を出席させることなどできないので、例の会議がいつも通り延期されるのは当たり前だな。文句あるか? 無いよな?

 

 記者の方は、そんな俺の執務する姿を見学しながらノートにメモを取っているというわけで、俺の方は普段通りに特に演技する必要すらなく、諸々の懸案事項を決済し、必要なら指示を与えて行く。

 我ながら絵になる姿だと思うのだが、タイトルにするなら「偉大なる為政者」か? 今度肖像画でも描かせてみるか。

 

 そして後半のインタビューだが、主題が私生活の一面ということなので、内容も他愛のない質問ばかりでサクサクと進行した。趣味の時間は読書に勤しみ知識を蓄え、好きなタイプは知的で淑やかなタイプの女性、好きな食べ物はカレーなどだ。

 有能でありながら庶民的な食べ物を好むとか、これはもう高感度うなぎ登り間違いないだろう。

 

 ただ、ちょっと気になったことがあって・・・インタビューが順調すぎて熱が入ったのか元々仕事熱心なのかは知らんが、質問しながら、何かこう、にじり寄る感じで妙に接触したがるというか、質問する記者の距離がどんどん近くなって・・・いや、親し気なのは別に問題無いんだが・・・。

 俺の腰の辺りを見る視線が妙に気になったし、油断すると同じ椅子に無理矢理座ろうとするし・・・ちょっと気持ち悪かった。

 

 

 

○月×日 096

 予定通り今日は早めに仕事も終わって、息抜きに〝雷光〟を連れてお忍びで夜の城下に繰り出したのだが、俺としたことが少々マズイ失態を犯してしまった。

 

 とは言っても大したことじゃなく、知っての通り〝雷光〟のやつは平民出身なので、貴族では知りようの無い店の知識もあったりするわけで、つい、時間を忘れて過ごしてしまったということだ。あ、別にイヤラシイ系の店じゃないぞ。そこは帝国皇帝の名誉に賭けて念を押しておく。

 問題は、だ。

 

 ・・・今朝、ロクシーに今日は早めに帰ると言っていたことを、すっかり忘れてたことだな。

 

 一人で帰っては命の危険があるので、ここは〝雷光〟にも責任を取らせるべく、一緒に連れ帰ることにした。あいつが誘わなければ、こんなことにはならなかったんだから当然だよな。

 あいつは嫌がったが、行きたがっていた闘技場の八足馬の重賞レース開催日に特別休暇を許可するということで手を打った。

 

 公邸に着くと、いつもの黒目出し帽は出迎えに出てきたものの、ロクシーの姿が無い。前にもあったなこのパターン。うん、なんかもう判っちゃった。

 どうせいるんだろ? とか思いつつ〝雷光〟を連れて奥に向かい、部屋を覗くとやっぱりいた。

 テーブルを挟んで王国の王女とロクシーがお茶を飲みながら談笑しており、王女の後ろには真っ白のフルプレートを着た護衛の騎士が直立不動で控えている。もうやだこいつら。

 

 ロクシーは俺に気付くと「あら、おかえりなさいませ」と、妙に澄ました顔で声を掛けてきた。ヤバイ、これ絶対怒ってる。

 王国の王女の方は、余裕の表情でにこやかに「おかえりなさいませ」と声を掛けて来るが、この時初めて王女の存在に気付いた〝雷光〟は、どうやら思考停止したようだ。声も出せずに固まっている。そりゃそうだろう、俺も前回は腰が抜けたし。

 王女の背後に立つ若い護衛の騎士からは盛大に「ごめんなさいのオーラⅤ」が放たれていた。お前も苦労してるようだな・・・わかるぞ、その気持ち。お前は悪くない。

 

 とりあえずロクシーには〝雷光〟との事前の打ち合わせ通り、ちょっとした相談事に乗ってやってて遅くなったんだということで納得してもらった。まだ半分現実逃避している〝雷光〟も、無理矢理現実に引き戻して証言させたので事なきを得たようだ。これ以上小遣い減らされてたまるか。こっちも必死だ。

 

 しかし、まだ多少の疑いは残っているようなので、話題を逸らす為にも逆に王女の件を問い詰めるが、こっちはいつもの「お友達のところに遊びに来た」で一蹴されてしまう。証拠として幾つかゲームを持って来ているということで、流れ的に実際にやってみようという話になってしまった。

 どう考えても何か騙されてるというか、向こうの手の内で踊らされてる気がするのだが、こっちにも負い目があるので無碍にも断れない。

 

 最初に王女が取り出したのは「パーフ○クショ○ゲーム」とかいうゲームで、ルールは簡単、制限時間内に様々な形のパーツをボードの所定の穴に嵌め込むというゲームで、タイムオーバーすると途中まで嵌め込んでいたパーツが飛び散るというギミック付きだそうだ。おい、作者、色々無理あるんじゃないか? 平気か?

 

 罰ゲームまで用意しているという念の入れようで、クリア出来なかった者は王女特製ロシアン・チョコレート(要するに中に香辛料詰め込んだチョコがある)の刑だそうだ。

 参加者は、俺、ロクシー、王女に、〝雷光〟と王女御付きの騎士の五人。王女のやつ、嬉々としてノートに成績を付ける準備までしている。お前、なんでそんなノリノリなんだよ。

 

 抽選の結果、順番はロクシー、王女、俺、〝雷光〟、王女御付きの騎士になったが、結論から言うとロクシー、王女、俺の三人は軽々クリア。残り〝雷光〟と王女御付きの騎士がクリアできずに罰ゲームということになった。

 罰ゲームのチョコは、それぞれが選んで同時に口に入れるという手順で行われ、〝雷光〟が見事に当り(ハズレか?)を引いたようで、涙目になっていたのは滑稽だった。お前、Luck値低いっぽいな。

 

 続いて王女が取り出したのは「黒○危機○髪」という・・・おーい、作者、やっぱり色々無理ないか? 本当に平気か?

 もう、ルールは読んでるお前等知ってるだろうから割愛させてもらう。手抜きって言うな。細かく説明するのも冷や汗出るんだから察して欲しい。

 

 抽選の結果、剣を刺す順番は〝雷光〟、王女、ロクシー、王女御付きの騎士、俺の順だったが、運悪く泥棒髯の海賊野郎を飛ばしたのは俺だった。あれ? 俺もLuck値低い?

 ちなみに順番と罰ゲームは、作者がリアルにサイコロ振って決めてるのでわりと真面目な話だ。救いようがないとか言うな。

 

 王女が嬉々として取り出した罰ゲームはポーションの一気飲みで、小瓶の中には焦げ茶色のポーションが入っている。何のポーションか聞くと、最近発売された廉価版の回復ポーションで、安い割りに回復率が良いことと味の不味さで人気(?)らしい。

 匂いを嗅いでみると、なにやら打ち身に貼る膏薬のような、なんとも言えない鼻に抜けるような香りがする。

 王女が言うには「ルー○ビア味と言うそうですわ。一般には飲むサロ○パs・・・」

 慌てて黙らせ、覚悟を決めて一気に飲み干したが・・・これは確かに不味い。おい〝雷光〟、皇帝を指差して笑うな。楽しそうだなお前。

 まあ、不味かったが、最近の激務で悪化していた肩凝りが治ったのは助かったけどな。負け惜しみじゃないぞ。

 

 俺の罰ゲームが終わると、王女は「まだ他にもあるんですのよ。例えばこの人○ゲームとか・・・」と、さらにゲームを出してくる。いい加減にして欲しいのだが、ロクシーの機嫌がいいし、下手に断って帰りが遅かったことを蒸し返されると俺の懐的に非常にマズイことになる。

 なんとか打開策は無いかと頭を悩ますが、ふと、王女御付きの騎士と目が合うと、「ごめんなさいのオーラⅩ」全開で申し訳無さそうな視線を送ってきた。うん、まあ、お前も被害者だよな。お前とは良い酒が飲める気がする。

 

 しかし、そんな漢たちの思いも虚しく、ゲーム三昧の夜は更けていった・・・。

 

 




 前書き振りです。松露饅頭です。
 当作を最後まで読んで下さった方へは、本当に感謝の言葉しか御座いません。暇なんですか?

 お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、今回、この「ジルクニフ日記」について、「完結」のマークを付けさせて頂きました。
 これは、皆さんご存知のように本編の「オーバーロード」の第10巻が発売され、その中でジル君を取り巻く状況が一変してしまったことが理由です。

 しかし、実を言うと私個人としては「ジルクニフ日記」を続ける意思も意欲も全く変わっておりません。

 では、なぜこういう処置を取るかと言うと、これまでの「ジルクニフ日記」はあくまで9巻までの内容を反映したものでしたから、このまま続けると10巻の内容を反映した境界線が曖昧になってしまう。それでは少しキャラを動かしにくいと思ったのが理由です。

 よって、「ジルクニフ日記」はここで一旦区切りを付け、これからは10巻までの情報を下敷きにした「ジルクニフ日記2(仮称)」へと移行する予定です。
「ジルクニフ日記」内で前編のみ掲載となっている影の悪魔編の後編も、「ジルクニフ日記2(仮称)」での掲載になる予定です。

 本編10巻の内容の咀嚼に少々お時間を頂くことにはなりますが、ネタも少しづつ貯めてありますので、もし宜しければ再開の日をお待ち頂けると幸いです。


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