タラ・ダンカンと空白少女   作:オタクさん

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第10話 煉獄

エレン達が目に映ったものは応急医務室ではなく、灰色の広い原っぱだった。

空は青ではなく退廃的な紫色で、他は何にも無い寂しい場所だった。エレン達はその原っぱの真ん中にぽつんと立たされていた。

 

「ここは?」

 

「煉獄じゃ。悪魔の支配者が住むサークル七じゃ」

 

エレンは何気なく辺りを見渡す。

その時気が付く。タラの右手を掴んでいたはずなのにエレンの手の中には何もなかった。

 

「あれ?どういうこと!?」

 

エレンは手を見るのと同時に自分の体を見た。

その体は幽霊の様に透明になっていた。タラやシェムも同じ様になっており、シェムはこの結果に困惑し嘆いた。

 

「ちくしょう!身体もついてくると思っていたのだが、魂しか通り抜ける事は出来なかったようじゃ。ここで魂に起きる事は全て、彼方の世界の身体も起きてしまうのじゃ。だから気をつけるのじゃ。禁書によれば、わしらは直ぐに、煉獄の支配者の元に辿り着く事になっておる。その城が数分後にはわしらの手の届く所にやってくる筈じゃ」

 

「城がやってくるの!?」

 

エレンは思わず驚いた。城が自ら移動するとは到底思い付かないからだ。

 

「ああ、そうじゃ」

 

シェムは何でもないように言う。

そんなやり取りをしている中で、タラが突然目を覚ました。でも、タラは今まで殆ど眠っていたので、状況が解らなず首を一生懸命に振って辺りを見渡していた。

 

「あら!ここはどこ?...もう!大丈夫だわ!!シェム先生!私はもう治ったの!?」

 

タラは何と先程までの熱や痛みを感じなかった。

それで治ったと思ったタラは喜びのあまり、辺りを走ってはしゃぎまわった。

 

「ほんとなの!?タラ!」

 

「ええ!そうよ!..エレン。今まで心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫よ!」

 

「ほんと!良かったよ!!...それに!謝らなくていいよタラ!」

 

「...うん、ありがとう」

 

タラとエレンは向かい合い抱き合うと喜びの涙を流した。二人は手を取り合うと円となってはしゃぎまわる。そんな二人を物凄く気まずそうに見るシェムは、声をつまならせながらもやっとのことで言う。

 

「.........残念ながらそうじゃない。タラ、今のわしらは、魂だけがここに来ているから、苦しみを感じていないのだ。......それとエレン。お主はちゃんと話を聞いていなかったのか?煉獄に行くだけで治るなら、こんなに仰々しくはならんよ。気軽に二人で行ってくるさ」

 

タラはまだ自分が命の危機に脅かされている恐怖で、エレンは上げて落とされたショックで泣き崩れる。泣いている二人を見ることを出来なかったシェムは速く城よ来い!と念じながら待っていた。

 

シェムの願いが届いたのか、悪魔の城は直ぐにこちらに来てくれたのであった。

 

 

悪魔の城は四本の足で支えられた巨大な黒い石の城だった。

 

エレンとタラは驚きのあまり泣くことを止め、城自らこちらに向かって来る様子に、エレンとタラは口をぽかーんと開けたまま城を見詰めアホ面を晒す。

シェムはそんな二人を現実に戻す為に手をパンパンと叩く。その音に二人はハッとして意識が現実に戻り、シェムは二人の状態を確認してから話を始める。

 

「悪魔の支配者の城がやって来たのじゃだが、相手の挑発に乗らないように気をつけるのじゃ」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

タラとエレンがしっかりと返事をする。

シェムはジャンプするような動作で飛び上がり、ある程度の高さまで飛ぶと着いてくるように手で合図を出した。タラとエレンは合図に従い飛び上がる。

 

この城に興味を持ったエレンとタラは近づいて見る。すると面白い事に、ドアや窓の家にとって重要な役割を全く理解しておらず、ドアが壁の高い所にあったり、逆に窓が低い所にあったりとしていた。屋根なんかは壁の側面についていた。

タラはこの城を作った人に、もう一回家をちゃんとを見たら?と思っていた。エレンも変な城と感じていた。

 

タラは自分の命に関わっているのに飛ぶことが楽しく感じてしまっていた。エレンも髪の毛が静電気でバチバチしないことに喜びを感じていた。

 

城に入る方法は?とエレンとタラが悩んでいると、シェムが見本を見せるかのように壁を幽霊のように通り抜けて中に入った。

 

中に入ると、シェム達は現実離れた光景に頭が着いていけず激しい目眩に襲われた。

そこでは赤色、黄色、青色、白色、黒色がぶつかり合いをして恐ろしい戦を戦いを繰り広げられていたからだ。

 

派手な黄色は左側の壁と床の一部を陣取り、時折ぶつかってくる明るい赤色を襲い掛かろうとしている。どぎつい青色は右側の壁を陣取り、怖がって後退りしている臆病な白色に攻撃をしていた。天井を陣取った黒色が他の色に襲われて呑み込まれそうになるものも、触手の様なものをだして牽制していた。

 

エレン達は戦っている色達をよく見てみてみた。

すると漂っている窓の周りだけは汚れていなかった。窓からの景色はすっかり"色が抜け落ちた"様な灰色の草原が見える。どうやら、色達はこの場所がかなり気になるらしい。

 

その事に気が付けても、どうしてそうなったのかはエレンとタラには分からなかった。ただ、シェムだけは目を細めてじっと窓の方を見詰めていた。

 

「....何で、色が戦っているの?色って、動くものだったの?」

 

エレンはタラの気持ちを代弁するかのように質問をする。だが、タラは他にも気になる事があったようだ。

 

「...ねぇ、私の身体、少し戻ってきてない?」

 

「......ム!!呪われた悪魔めが!!あの色達を閉じ込めたようにわしらにも閉じ込める呪文を唱えたのだ。しかも、わしらは完全な魂だけの存在だけではないから色達に触れる事が出来てしまう。色達はあの真ん中にある魔法の窓から外に出るために戦っているのじゃ。それ故に色は、外に出るためにわしらに張り付こうとしている」

 

シェムだけはこの現状に気づくことが出来た。

更に質問をしてきたタラを見てシェムはため息をつく。

 

「壁に触るな、罠に嵌まるのではないぞ。急がないと何も通れなくなるぞ。わしの後に着いてくるのじゃ」

 

色達は言葉が理解できるらしく、シェムの話を聞いた途端、じっと動かずに辺りを伺いはじめた。

 

始めに動いたのは赤色だった。赤色は電光石火の速さでシェムの足目掛けて飛んできた。シェムは寸でのところでかわすことが出来たが、天井から降りてきた黒色がいつの間にか近付いて待ち伏せをしていた。シェムは後ろに飛び退いて避けた。

 

タラとエレンもシェムと追い付く為に色達の罠の中を全力で走り抜ける。

 

特にエレンの動きは見事だった。

迫り来る色達を紙一重に避ける。赤色が右肩を狙えば、わざと少し前に出て意表を突き、戸惑わせて立戸ませ前に進む。その間に左足が青色に狙われるのだが、膝を上げ位置を変えて避ける。黄色と白色も狙われるが、黄色と白色の間をスレスレに駆け抜けてかわしてシェムの所にたどり着く。

 

それを見たタラも真似をしようと思ってしまう。それが間違いだった。だと言うのもこの回避方法は、常にギリギリで避けないといけない為、少しでも怖いと思えば失敗してしまうのだ。エレンは幻想郷での戦いで馴れているが、タラはまだまだ普通の少女。避けれる訳がなかった。それでも真似をしてしまったのは、シェムの所に急いで辿り着かないという思いからの焦りだった。

 

黄色に捕まったタラは左腕から徐々に侵食されていく。

 

「し、しまったわ!」

 

焦り出してももう遅い。シェムが捕まったタラを見て、赤色と白色に捕まってしまう。エレンも青色、黒色に追いかけられ鬼ごっこ状態になってしまう。

 

エレンが逃げ回り、更に赤色、黄色、白色が追加されそうになった時タラが何か思いついたのか甲高い声で叫ぶ。

 

「聞いて!エレン、シェム先生動かないで、色達と話をさせて!」

 

「えっ何で!?」

 

納得いかないエレンは逃げ続ける。

そんなエレンにタラは説得を大声で必死になって説得をする。

 

「色達を解放する方法を思いついたのよ!」

 

「でも!どうやって!?」

 

「それは、エレンが止まってくれれば、出来るわ!だから!お願い!止まって!!」

 

タラは全力で叫んだ。あまりにも必死に頼み込むので、エレンは渋々だが言うことを聞くことにした。エレンが動かなくなり、色達はそれを良いようにと着色していく。タラはエレンの動きを止めたことを確認すると、部屋中響き渡る声でもう一度叫ぶ。

 

「色達よ!貴方達を自由に解放してあげるわ!その代わり、私の話を聞いて!」

 

色達は話を聞かず動きは止まらない。タラはめげずに叫ぶ。

 

「聞いてちょうだい!私達は、悪魔の支配者に会わない限りは、この城を出ていかないの。だから、私達にとりついても無駄よ。でも、私の言うことを聞いてくれるのなら、ここから出られるわよ」

 

それでも色達の動きは止まらない。エレン、シェム、タラの体は絶え間なく汚されていく。タラは自分の出した案に後悔しかけた時、辺りを伺っていた赤色の動きが止まる。それを境に黄色、黒色、青色、白色の動きが止まり辺りは静寂に包まれる。

 

タラはこの状態を逃さないようにと全身全霊の力を込めて叫ぶ。

 

「貴方達は一つになるのよ!そうしないと、出口を通ることは出来ずに、ずっとそうやっていなければならなくなるわ!色の明るい順に並んでみて!白、黄色、赤、青、黒の順よ。それから部屋の真ん中の窓の前まで行くのよ。ほら!」

 

最初は色達は動かず、躊躇いがちだったものも渋々従い始める。

 

色の渦にもだまにならずに白、黄色、赤、青、黒の順で合体していく。

 

だが、直ぐには何も変化が起きなかった。

 

ただただ色が一つに固まっただけ。何も変わらないことに色達は不満になり、また暴れるのではないかと一行は不安に陥る。ところが──

 

鋭い風切り音ともに色達がクルクルと回り始める。五つの色は一つの虹となり、部屋中に輝きだす。そこからは新たな色が生まれだす。明るい緑、魅惑的なオレンジ色、甘いピンク。色達が回れば回る程虹は綺麗になっていく。中央の窓まで辿り着くと色達は大喜びで出ていく。そして灰色の平原は、美しい色で埋めつくされていくのであった。

 

「タラ、エレン、大丈夫か?」

 

シェムは色達が出ていった後、直ぐに自分の肌の中に色が残っていないか確認をする。

 

「あれ?タラ、ネックレスつけていたの?」

 

エレンがタラの首元に指を指す。

 

シェムは振り返りタラは自分の首もとを見ると、タラの喉のくぼみには不思議な模様がいつの間にかできていた。しかもそれは美しいネックレスになっていた。金のフレームにルビー、サファイア、ダイアモンド、黒檀が付いたネックレスだ。位置はちょうどタラがローブの襟を上げれば隠すことができる場所だ。

 

「いや、私、ここに来てからネックレス何て付けていないわ」

 

タラは手を振って否定する。

 

「それはここから解放してくれた色達からのお礼じゃ」

 

シェムが説明をする。

 

「えー!良いなあ!私にも欲しい!」

 

エレンは目をキラキラさせながらタラにねだる。

 

「私はいらないわよ。トラヴィアに戻っても、また肌がこんな風になっていたら困るんだけど.....」

 

当の本人は喜んでいなかった。

 

「先程言ったように、ここで起きたことは現実でも起きる。残念だかな。ただ、タラ。その色は感謝の印だから害はない。もしお前がいつか色達を必要になった際に、その名前を呼ぶだけで色達が戻ってきて助けてくれるのじゃ」

 

「えっー!良いな!良いな!凄いじゃん!私も欲しいー!」

 

エレンは更に目をキラキラさせてタラにもっとねだった。

 

「それでも、私はあまり嬉しくないわ。そんなに欲しいならエレン。貴女にあげるわ」

 

いくらいつでも助けてくれるからって、タラには要らないもので余計なお世話だった。

理由は色の印がタトゥーに見えるからだ。別世界【オートルモンド】ではタトゥーが善いものか悪いものか、どちらの立ち位置かは知らないけど、地球では悪い印象を与えるからだ。そしてタラはいずれ地球に戻るのだ。そうなると、いくら隠せたところでいつかは見付かるし、最悪の場合この印のせいで何かを諦めないといけない可能性もでる。しかも模様はネックレス。何でわざわざタトゥー入れたんだ?と同じやつを買えばいいんじゃないのか?と余計に言われやすい。

 

そんなタラの気持ちを一ミリも察していないエレンは嬉しそうに注文をする。

 

「ほんと?ありがとう!えっーと...。金のフレームにルビーはハートの形をしたネックレスが欲しい!」

 

「そう、分かったわ。....ところで、全部の色は引き取ってくれないの?」

 

タラは一部の色しか持っていかないことに心底がっかりする。その様子にエレンは首を傾げる。エレンはタラを何とか元気付けようと必死に数秒間考える。

 

「...そうだ!!ねぇ、タラ。だったら、お互い同じものを持とうよ!」

 

「同じもの?ペアルックのこと?でも、何で急にペアルックを言い出すの?」

 

エレンはペアルックが何なのかは分かっていないが、タラが興味を示してくれたのでそのまま話をする。

 

「そうそう!それだよ!それ!私と同じネックレスにしようよ!私が金とルビーのネックレスなら、タラは黒と白を混ぜて灰色のシルバーのフレームに、サファイアをハートの形にしてお揃いにしようよ!」

 

「......そうね..。それなら...いいわ。では...色達よ!私達の望むものになりなさい!エレンの喉に黄色と赤でハートのネックレスを彩りなさい!私の喉に黒と白で灰色になり、青でハートのネックレスを彩りなさい!」

 

タラがそう言うと色達は喉の窪みから出て宙に浮かぶ。赤と黄色はエレンの元に行き、望み通りの姿に変える。タラのところに残った青、白、黒も変わっていく。黒と白は混ざって灰色になり青はハートの形になる。

 

「...!!模様が付いた!タラ!ほんとにありがとう!!」

 

色はタラの言われた通りに模様をつけた。

エレンは模様を確認すると、エレンは嬉しさのあまり満面の笑顔でタラに抱きつく。タラはそんなエレンの姿を見てまあ、良いか。と色達の印を受け入れる。タラの険しかった表情がどこか緩んだ優しい表情となる。

 

「ゴホン」

 

シェムは咳払いをする。その音でほのぼのとした雰囲気から現実へと戻される。

 

「お主達。いい加減にしなさい。時間は無いのじゃよ。今でさえ、実体がでてきているのに、もっと実体ができてしまったなら、もう壁を通り抜けることができない。それと、悪魔の支配者に色達を逃がしたことをばらすのではないぞ。ほれ、気づかれる前にさっさと立ち去るぞ!」

 

シェムはそう言ってエレン達の返事を聞かず、先に壁を通り抜ける。エレンとタラは急いで後を着いていく。

 

 

 

壁を通り抜けたさきは、大きな部屋だった。

 

悪魔の王の姿は何と黒いドラゴンだった。ドラゴンの周りには普通の生物ではありえない形、色をしているおびただしい数の悪魔がいた。

 

どれもこれも小刻みに体を揺すり、涎をたらし、何かを罵り、そこらじゅうに唾を吐き、その音はとても五月蝿くエレンとタラに物凄い不快感を与える。

 

シェムは喧騒とエレン達の様子を無視して、悪魔の支配者にお辞儀をして話し掛ける。

 

「御会いできて光栄です。悪魔の支配者殿。ドラゴンの姿をなさるとは、ご自分の本来の姿はお気に召さないのですか?」

 

支配者が雷鳴のような叫び声で返事をする。それだけで辺り一体の悪魔達の喧騒が止まる。

 

「ふん。私は叫び声が大嫌いでな、お前の若い仲間達を怖がると五月蝿いから、配慮したわけだ。光栄に思えたまえ」

 

エレンは急いで口を塞ぐ。「じゃあ!さっきまでの騒動は別に良いの?」と余計な事を言ってしまいそうだからだ。

 

「ほら見ろ、そこの金髪の小娘が、怖がって口を塞いでいるのではないか」

 

悪魔の支配者はケタケタと嗤う。シェムはエレンを一睨みすると悪魔の支配者と向かい合う。

 

「いえ、彼女は別です。隣の者はちゃんと躾られております、悪魔の支配者殿。怖がってなどおりません」

 

今度はタラが怖い顔でシェムを睨み付けた。

タラは表だって行動をしていないが、本当は怖くて仕方なかった。そんな気持ちを無下にするシェムに心底タラは怒りを覚えた。

 

シェムと話をしていた悪魔の支配者が突然姿を消す。

エレンとタラがびっくりしていると悪魔の支配者が姿を現す。何故少しの間消えたのか、この後それを嫌でも知る事になる。

 

それは悪魔の本来の姿は黒いドラゴンではなく、何とも形容しがたい不気味な姿に変身...いや、戻ったからだ。

本来の悪魔の姿は、口でできており長い紫色の舌がぶら下がっている。しかも点々と黒いシミがついている。他にも大きな白い球もついている。その球の周りには長い触手がたくさん生えていた。更に触手の先には目までついていた。目は赤、緑、青などのカラフルで大きさも大小様々で揃っていなかった。

 

この形容しがたく、一目見れば何週間も夢でうなされる程の醜悪で恐ろしい姿に、エレンはもっと力をいれて口を塞ぎ、タラは何も行動をしていないが精神力で難とか耐える。

 

王座に座った悪魔の支配者は、怖がりながらもエレンとタラが恐怖を耐える姿を愉しそうに見つめる。悪魔の支配者は満足すると数百の目をシェムに向けて話し出した。

 

「それで、シェムナシャオヴィロダントラシヴュの為に何をしてやったら良いのかね?...しかし、まあ...随分と長い間、私に相応しい人間に会っていなかったから。嬉しいよ。とは言え、お前達の世界の時間の十二年前に会ったがな。確か...名はマジスターだったな。そいつは力を求めていたから、私はある条件と引き換えに喜んで力を与えてやった。結果は、そいつの望みを上回るものになってしまったがな!...プッ、ワアハハハハハ」

 

悪魔の支配者は何故か喜び嗤いだす。その様子にシェムの堪忍袋が切れて怒鳴り声をあげた。

 

「貴方のせいで!そいつは気が狂い!わしらを脅かし!わしらの言うことを完全に聞かなくなるぐらい強くなった!全ての世界を支配したいと考えるぐらいにな!奴の力への強い欲望がこの若い娘を傷つけたのじゃ!!貴方がこの娘を傷つけたようなものじゃ!それに、わしらの取り決めを知っている筈じゃろ。ドラゴンと人間の魔術師の連合軍が悪魔に勝ったあの最後の大きな戦以来、ドラゴンは悪魔を攻撃せず、悪魔もドラゴンに近付かないことになった筈じゃ」

 

この会話についていけないエレンはボーッとしていたが、タラは一語一句逃さないように話を聞いていた。愉快に嗤っていた悪魔の支配者は、シェムの反論を聞くと眉をひそめて苦々しく語りだす。

 

「私達が選んだ事ではない。それに、お前達が、悪魔をこの煉獄に閉じ込めたのではないか。まるで下等生物を扱うようにな。お前達が呼び出さない限り、私達は戻ることさえできないのだ」

 

苦々しく話していた悪魔の支配者が何故かニヤニヤと嗤う。喉をならし悪意に満ちた口調へと変わる。

 

「ふん。その小娘が傷付いたと文句を言うが。それは貴様らの自業自得ではないのか?大体、力を与えたからと言うが、今みたく、貴様ら側が自由自在に此方に来れるのがいけないのではないか。それなのに、何故私の責任になるのかね?しかもそいつは人間ではないか。取り決めでは人間には関係がない。そうじゃないかね?」

 

「わしらの国の人間に攻撃することは。わしらを攻撃することと同じじゃ。だから、償いを求めているのじゃ!」

 

何も言い返す事はできなかった。が、シェムは断固として譲らなかった。

悪魔の支配者はせせら嗤う。

 

「そりゃ、はったりだ!そんなもんは全く通用しない。お前が詳しいように、私も協定の条項に詳しいのだ。我々、悪魔達はちゃんと取り決めを守っているさ。だがお前は、悪魔とドラゴンとの間で戦争を起こしたいようだね。お望みならばやってやろうじゃないか!」

 

悪魔の支配者の言葉に追い込まれるシェム。それでも引き下がらず低姿勢で頼み込む。

 

「いや、そんな事は望んでおらん。だからいい貴方に、この娘を無料で治して頂けないかと頼んでいるのじゃ」

 

悪魔の支配者は小馬鹿にしふんと鼻を鳴らす。

 

「無料でだと?馬鹿を言うではない、この老いぼれトカゲが。私はこれまで一度だって無料で何かをしてやったことなどはない。その小娘を治してやったら、それ相応の見返りを貰わないとな」

 

シェムがその言葉を聞いて、待ってました言わんばかりのスピードで、カルが盗んできたアルピーの卵を取り出す。

 

「わしはアルピーの新鮮な卵を持っておる。何なら直ぐに差し上げてもよい。アルピーの解毒剤一瓶に対しては、中々良い取り引きだと思うがな」

 

悪魔の支配者は可笑しそうに嗤い出す。

 

「はあ?アルピーの卵だと?私を馬鹿にしているのか?そんな卵など全く必要ないわ。......そうだな、どうせなら、魔法のメダル"エスカリドス"はどうかね?一世紀前にお前が取り戻したのを知っているぞ。それなら私にも使い道がある」

 

シェムは悪魔の提案に苦い顔をする。その表情を見たエレンとタラは、そのメダルがとても大事な物だと察する。

 

「...よし、分かった。それでは、わしのエスカリドスと引き換えに解毒剤一瓶だな」

 

シェムはかなり渋々だが取り引きを了承する。

悪魔の支配者はシェムを注意深くじっと見ていたが、自分の目を一つ舐めると、ゲラゲラと嗤い出し、長い紫色の舌を出して挑発をする。

 

「ああ、残念だ!」

 

その声はとても嬉しそうだ。だが、急に溜め息をつく。

 

「もう少しでお前のエスカリドスを手に入れる事ができたのに。でも私は、残念ながらそんな解毒剤を持っていないのだ。ああ、残念だ。私が持っていなければ、他に持っている奴何て、誰もいないだろうな~」

 

悪魔は口笛を吹く。

そんな様子に、今まで黙っていたエレンが怒りが頂点に達し、これまでの不快感を忘れ叫ぶ。

 

「じゃあ!何で!こんなことをしたの!?」

 

「あの有名なシェムナシャオヴィロダンドラシヴュが私に屈服するのを見たかったからだ!このちっぽけな人間を救うために、こいつがどこまで譲るのかと思ってね」

 

悪魔はゲラゲラと嗤いながら答える。

その様子にタラも猛烈に腹が立ち、シェムの言いつけを破ってしまう。

 

「私達を助けられないのなら、とっとと消えなさいよ!全く!口程にもないじゃない!ああ~、時間の無駄だったわ。高等魔術師先生、行きましょう!本当に力を持っている人のところに!」

 

タラの発言に悪魔の支配者の怒りを買ってしまう。

更に周りには家来達がいるので、腸が煮えくり返る程の怒りになってしまう。

 

「ほお~、この小娘は牙を持っているようだ。私に噛みつくとはいい度胸だな。この私に力がないと思っている。直ぐに思い知らせてやろう!お前はお前達の世界に戻れば、直ぐに実感させてやろう。直ぐに、直ぐにだ!この私を嫌でも思い出させてやろう。.....スパリダム!」

 

悪魔の支配者が叫ぶと、エレン達は嵐に飛ばされるただの藁くずのように、煉獄から追い出される。

エレン達が消える直前、悪魔の支配者の怒りの叫び声が聴こえるのであった。

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