タラ・ダンカンと空白少女   作:オタクさん

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東方projectorのキャラクターが一人出てきます。

原作は一旦、大きく先に動きます。


第15話 誘拐されたタラ

タラが居なくなったのは、エレンとモワノーが遊びに来た次の日のことであった。

 

いつものように、エレン、カル、ファブリス、モワノーが食堂の前に集まっていたのだが、タラだけが来なかった。

何かあったのか?という心配よりも、来なくなって当然だよねっていう同情だった。毎日陰口を叩かれれば誰だって、行きたくなくなるのは当然のことだからだ。

 

四人で仲良く食べた後、タラとマニトゥーとファミリエであるギャランのご飯を持って、部屋に遊びに行ったのだが...

 

部屋の呼び鈴を押しても何も反応はなかった。

何度も何度も押したのだが、一向に反応は来なかった。この時から四人は何かあったのではないか?と胸騒ぎをする。四人は考えながら呼び鈴を押したりしていたのだが、部屋に居ても嫌がらせがあって、用心しているのじゃないの?あの意地悪な人達ならしそうだしと、エレンがどこか希望的観測で言うとカル、モワノー、ファブリスは直ぐ様納得をして、自分達の名前とタラの名前を部屋の前で大きな声で叫んでも何も反応はなかった。

 

そんな彼等の前に、気象魔術師のデリアがファミリエのカササギを肩に乗せて現れた。

 

「あら、貴方達...確か...タラのお友達だったわよね?」

 

「うん、そうだけど、今はそんなことよりも!早くタラの部屋の鍵を開けてよ!」

 

「そんなに慌ててどうしたのかしら?状況を説明してくれない」

 

「あのですね!実は...」

 

急かしているカルの代わりにモワノーが説明をする。

説明を聞いていくう内にデリアの顔は青ざめていく。

 

「わ、分かったわ。急いでシェム先生を呼びに行くから、待っててね」

 

言い終わる前にデリアは走り去る。

シェムが来るまでの間残された四人は、タラが寝ているだけでありますように、と神に縋る様に祈るのであった。

 

 

答えは結局、四人の胸騒ぎ通りであった。

部屋中を隈無く探してもタラ、マニトゥー、ギャランはどこにもいなかった。部屋は特に荒らされた様子はなく、突然神隠しに遭ってしまった様に消えてしまった。

 

「タラも...誘拐されてしまったのか...。すまぬタラ!」

 

「タラも...?」

 

悔やむシェムにエレンは訊ねる。

かなり気になる言葉を呟いたからだ。呟きを聞かれたシェムはエレンをぎょっとして見ていたのだが、素直に説明をする。

 

「ああ...そうじゃな...。ここ、ランゴヴィ王国では、去年から初級魔術師達が誘拐されてしまっていたのじゃ」

 

「えっ...?去年からこんな事件があったの?」

 

「うん。あったよ。四人ほど誘拐されたんだ」

 

「そうだったんだ」

 

カルはシェムの話に補足をする。

事件を思い出したモワノーは誘拐された子供達に同情をし、ファブリスはそんな凶悪な事件が起きていた事に驚き微かに震えた。

 

「あぁタラ...!!私が...私が....」

 

探していたデリアが見付からなくて泣き出してしまう。その泣き声には悲痛な叫びが入っていた。この場に居る全員が悲しみに暮れる中シェムが話を切り出す。

 

「皆の者、気持ちは分かるが、いつまでもこうしておったら先に進まん。わしが責任を持って調査を進めておくから、君達は別室で休んでいなさい」

 

「でも...!!私は...!!タラのボディーガードとして、最後まで探す義務が有ります!」

 

「私も友達として探しにいきたい!...ところで、タラって...良いとこのお嬢様?」

 

心配をしていたエレンだったが、デリアの発言に興味を持ってしまい、この場の雰囲気にそぐわない質問をしてしまう。

 

「はい。そうですよ」

 

「エレン...。タラのお婆さんは、別世界【オートルモンド】の世界の有名人だと、謁見の時、言った筈じゃったが...」

 

エレンの物忘れと空気の読まなさに、シェムは呆れて果てていた。思わず溜め息をつきたくなったが、ドラゴンなので下手に息を吐くと、一緒に炎を吐いてしまう可能性があったので我慢するのであった。

 

そんなシェムの苦労を知らないエレンは、タラの捜索の手伝いが出来ない事に不満に頬を膨らませていた。エレンだけではなく、デリア、ファブリス、カル、モワノーも納得はしていなかった。

 

「そうですか!ならば私は、勝手に探しに行きます!イザベラ様に頼まれている身として、何もしないっていう選択はあり得ません!...そちらがそういうお考えでしたら......私はタラが見付かるまで、ここには戻っては来ません!そのつもりで!」

 

「待つのじゃ!デリア!」

 

言うだけ言ったデリアは、シェムの返事を聞かずに部屋を出ていく。シェムは後を追い掛けようとしたが、かなり哀しそうな表情をしたファブリスによって止められた。

 

「シェム先生...。デリアはずっと、タラの小さい頃からずっと一緒に過ごしていたんだ。その気持ちを...無視しないでよ。それに...大人で、ボディーガードを務める程強いのだから...探しに行かせてあげても良いじゃないのですか?」

 

「うーむ......。分かった。デリアは認めよう。...しかし!お前さん方は駄目じゃ!」

 

「えーー!?ここは良いよっていう流れでしょ!」

 

「馬鹿もん!子供にそんな危ないことをさせるか!エレン!御主は、力を持っているかっていい気になっておる!兎に角御主達は部屋で待機じゃ!いいな!」

 

必死にエレンはせがむがシェムは聞く耳を持たない。

ファブリス、カル、モワノーも高等魔術師相手に何も言えなかったが目で必死に語っていた。けどシェムは、その想いを無視する。

 

エレンだけは突っ掛かろうとしたが、カル、ファブリス、モワノーに連れられて部屋の外に出る。

 

「もう!みんな!何でそんなに言うことを聞けるの!?手伝うくらい何が駄目なの!?」

 

「僕達だって、探しに行きたいよ。けど...高等魔術師であるシェム先生がああ言っているのだから、従うしかないだろう」

 

カルは悔しそう言うが、エレンには効かなかった。寧ろ怒りが増えるだけだった。

 

「こんな時に言うことなんて聞きたくないよ!」

 

「そうは言っても...」

 

「僕達はまだ初級魔術師だし...」

 

カル、ファブリス、モワノーはもう諦め気味だった。カル達が怖じ気づくのは仕方ない事であったが、今のエレンに気にする余裕が無かった。

力があるのに何も出来ないと言う事は、屈辱的なものである。まるで大切な誰かが牢屋に入れられてしまって、その人が入っている牢屋の鍵を持っているのに、適当な理由で開けてはいけないという焦れったさが生まれてしまっているのだ。

 

エレンが一人で行動をしようとした瞬間...

 

 

バシッ!

エレンの腕をカルが力強く掴んだ。

 

「離して!」

 

「離さないよ!」

 

エレンは怒鳴って嫌がったが、カルも同じくらい音量で拒否をする。二人は互いに睨み合う。

数分間に及ぶ睨み合いの末カルから切り出す。

 

「そりゃあ...力を持っているエレンには、歯痒い気持ちになるのは分かるけど...。でも、どうやって探すんだよ!どこを探すんだよ!目星はあるのか!」

 

「そ、それは...」

 

カルにもっともな疑問を言われて、しどろもどろなるエレン。そこにカルが畳み掛ける。

 

「そもそもどうして誘拐されたのか?どうやって誘拐されたのか?そこから理解しないと、意味ないだろ!」

 

「じゃあ...タラはなんで誘拐されたの?」

 

話を聞く気になったエレンは質問をする。

今度はモワノーが説明を始める。

 

「タラが誘拐された理由は分からないけど、誘拐された四人には共通する点はあるのよ。誘拐された子供達は皆、強い魔力を持っているのか、何か特別な力を持っているのか。そして、全員の親が高等魔術師である事」

 

「タラが誘拐されたのは、強い魔力を持っているから?」

 

「そうね。その通りよ。でも、それだけではないわ。タラの祖母であるイザベラは、高等魔術師よ。イザベラの娘ではないけど、孫娘ではあるわ」

 

「一人、小人だけは例外だったけど...」

 

カルが難しい顔でモワノーの話に補足する。

 

「じゃあ!共通点は無いの!?」

 

「ううん。誘拐された小人...確か、ファニールっていう少女は、強い魔力を持っていた筈だわ。でも...彼女の親は高等魔術師ではないけど...」

 

「と言う事は....強い魔力を持っていれば、誰でもいいってこと?」

 

ずっと話を聞いていたファブリスが質問をする。

この事件について考えていた為、ファブリスの顔の眉間に皺は、この先も痕が残ってしまうのでないか?と思う程寄っていた。

 

「そうかもね...」

 

「だとすると、エレンも大分危なかったのかもな...。そう言えば、何でファミリエごと誘拐したんだ?」

 

「そりゃあ、ファミリエが誘拐の邪魔をするからだろ。逆にファミリエが誘拐されそうになったら、魔術師だって守る為に戦うし」

 

「なら....何で、争った形跡が無いんだ?それとも、タラの件だけ?」

 

「ううん。誘拐された子供達全員、争った跡は無いわ」

 

「そうなんだ...。結構難しいなあこの事件...」

 

推理小説をたくさん読んでいるファブリスでさえも、お手上げだった。それでも四人はその場で話し合って考え続けた。

 

 

「タラが誘拐されたの本当のことかい!?」

 

四人が考えていると、新しく友達になったばかりのロバンが急いで現場に向かってきてくれたのだ。髪を振り乱して息を切らすその姿は、相当必死だったのだと感じさせる。

 

「ええ.........本当のことよ」

 

四人を代表してモワノーが悲しそうに答えた。

その姿にロバンは認めざるを得ないかった。関節が白くなる程拳を握り締めていた。彼もまた、相当悲しくて悔しかったのであろう。

 

エレン達は自分達以外にも、タラを心配してくれる人が居て嬉しくなったのだが、それ以上にタラ本人が居なくて悲しくなる。

 

「へぇ~。あの子やっと居なくなったの」

 

今度は呼ばれてもいないのに、アンジェリカがニヤニヤと嗤いながら現場にやって来る。モニカやキャロルといった子分を連れて。

タラが誘拐された事が、あっという間に、王宮中に広まっていた。

 

「アンジェリカ!この大変な時に何しに来たんだよ!!」

 

カルは思わず殴り掛かろうとしたが、何とか我慢して怒鳴ることだけですんだ。

エレンとロバンは既に襲い掛かろうしていたのだが、エレンにはモワノー、ロバンにはファブリスが何とか止めていた。でも、その二人もアンジェリカ達が憎くて憎くてしょうがなかった。

 

アンジェリカは彼等を馬鹿にするように、鼻でフンと息を鳴らす。

 

「だって、あんな危険な奴、今まで放っていたのがおかしいのよ!やっと解放されたわ。これで安心して過ごせるわね」

 

「そうよねアンジェリカ。私達の平和がやっと訪れたのよ!」

 

「やったわ!これで平和な日々が過ごせるわ!誘拐されたと言うよりも、元の場所に帰されただけじゃないの」

 

アンジェリカ達は好き勝手に言う。

そんな彼女達の行為は許される訳もなく、堪忍袋の緒が切れた五人に一斉に襲い掛かれるのであった。

 

 

ガッシャン

 

牢屋の鍵が閉まる音が鳴り響く。

エレン、カル、モワノー、ファブリス、ロバンの五人は暴れたことにより、牢屋に入れられてしまった。

 

特にエレンの暴れっぷりは凄かった。

雷を何発も何発も落とし、辺りをしっちゃかめっちゃかにしてしまい、アンジェリカ達を魔術が無ければ、全治半年の大怪我を負わせる。更に駆け付けてきた衛兵にも攻撃してしまった。もう彼等にとって、アンジェリカの味方をする者は、全員敵だと思う程怒り狂っていたのだ。暴れ狂う五人に衛兵の攻撃が過激になっていくが、僅かな隙間があれば、エレンは避けられるのだ。そのせいで捕まえるのにかなり手間が掛かったのだ。

 

捕まえられてしまったエレン、カル、モワノー、ファブリス、ロバンはファミリエと共に、反省するまでの間牢屋に閉じ込められることになった。

でも彼等にとって反省する気はこれっぽっちも無かった。例え、これが原因で牢屋にずっと入ることになっても。

 

謝るように促す衛兵絶対に謝る気は無い五人。

彼等の攻防は三日間にも渡る。

 

 

「君達、いい加減にしたらどうだ?」

 

「友達が居なくなって、気持ちが普通ではなくなるのは分かる。でも!君達のやったことは犯罪だ」

 

「そうよ!そうよ!アンジェリカ達に謝りなさい!」

 

「可哀相なアンジェリカ、キャロル、モニカ。あんた達のせいで!ずっと悪夢にうなされているのよ!」

 

「可哀相に、雷の音を聞いただけでも気絶してしまう程なのよ!」

 

「人殺し!この悪魔!」

 

「「「「謝れ!謝れ!謝れ!謝れ!」」」」

 

衛兵とアンジェリカ側の女性初級魔術師達が謝るように促す。衛兵は諭すように言うだけなのだが、初級魔術師達は彼等が、魔術を使えないことに調子に乗り、ずっと口汚く叫び続けた。

 

エレン、カル、ファブリス、モワノー、ロバンは何も言わずに黙っているが、睨むことだけは絶やさなかった。

もう彼等にとって周りには味方がいないからだ。衛兵達でさえも口は優しめなだけであって、結局はアンジェリカの味方であるからだ。

五人は毎日見たくもない顔を見せられた苛立ちとタラを探しに行けないもどかしさで、どうにかなってしまいそうであった。

 

 

そんな彼等に、救いが、突然やって来る。

 

カツン

 

カツン

 

カツン

 

ヒールを履いた誰かが、ゆっくりとわざと音を立てながら、エレン達の後ろから近付いてくる。

驚いたエレン達は後ろを振り向く。この牢屋にはエレン達五人しか入ってないからだ。

 

一番驚いたのは衛兵だった。

エレン達が入れられているこの牢屋は、魔術は使えないうえ、周りには他の衛兵が常に監視をしている。だから逃げようにも、近付こうとしても、誰かしらに見付かってしまうのだ。そもそも、牢屋の中に自ら入るなんて、馬鹿のする事だ。そして、この牢屋に自ら入った人物はとても印象に残る人であった。

 

美しく長い金髪。

 

宝石の様に輝く紫色の瞳。

 

大人の女性らしくグラマラスなボディ。

 

白い帽子をかぶり、長い金髪の毛先を赤いリボンで結わえて、瞳と同じ紫色のドレスを纏い、室内なのに日傘を差している。

 

まるで絵の中からそのまま飛び出してきた美女。

 

目を奪われた衛兵は、ただただ女性にしか目が入らなくなる。急に現れた女性が好みの衛兵に至っては、唾を飲み込んで見惚れていた。女性に気を取られていたが、一人の衛兵は仕事を思い出す。

 

「き、貴様!どこから!入ってきたんだ!答えろ!」

 

恐怖で震えながらも勇敢に女性に槍を向けるのだが、女性はわざとらしく悲しい顔をしていた。もうわざとらし過ぎて、誰もが面白がっている様にしか見えなかった。

 

女性は衛兵にも女性初級魔術師達にも興味は無く、エレン達の事しか見ていなかった。

 

「初めましてと久し振りね」

 

エレン、カル、モワノー、ファブリス、ロバンは女性の言葉にきょとんとする。初めましては兎も角、会ったことはないのに久し振りと言い出したからだ。

 

「僕、お姉さんと会ったことあるかなあ?可笑しいなあ!こんな美人さんに会ったら、忘れたくても忘れなれないのに!」

 

「うふふ。有り難う。貴方とは初めましてよ」

 

カルのジョークが気に入ってくれたのか、女性は上品に笑う。

 

「では、誰に対して久し振りなのですか?」

 

疑問に思ったモワノーが質問をする。

初めはいきなり入ってきた女性に、不信感を抱いていたが、カルと普通に話す姿を見て大丈夫そうだと思ったからだ。

 

「それはエレンよ。エレン・ふわふわ頭・オーレウス。久し振りね。いつだったかしら?確か...博麗神社で会ったことがあると思うのだけど...」

 

「私が...貴女と会ったことがあるの?」

 

当の本人は首を傾げるだけであった。

でも女性には、エレンがそういう反応をすると予想していたからか、特に気にしてはいなかった。

 

「ええ。ほら、博麗霊夢は知っているでしょ?」

 

「博麗............霊夢.........ああ!霊夢は知っているよ!昔遊んだことあるもん!」

 

思い出したエレンは嬉しそうにはしゃいだ。

常に忘れるエレンにとっては、思い出す事は至難の技であるからだ。しかも思い出した内容は楽しい事であり余計に嬉しく感じさせる。

 

「思い出したみたいで良かったわ。なら、一度は会ったことがある筈よ。だって私は、博麗霊夢の保護者みたいな者だから」

 

「と言う事は......お姉さんは...幻想郷の人?」

 

エレンの昔話に、霊夢の話が出ていた事を思い出したカルは恐る恐る女性に訊ねた。

 

「ええ、そうよ。私の名前は八雲 紫【やくも ゆかり】。幻想郷を愛し、幻想郷を守る者よ」

 

「げ、幻想郷だと!?」

 

衛兵の緊張が更に高まる。

今の別世界【オートルモンド】にとっては、幻想郷は変わった魔術を使う、特別強い魔力を持ったエレンの故郷。そんなエレンに恐れを抱いてる別世界【オートルモンド】の住民にとっては、エレンの様な魔術師が他にも居る事に、恐怖を感じて、取り調べと監視をするべき場所だと認識している。

 

「お、お前の目的は何だ!?」

 

「幻想郷の場所を教えろ!」

 

「我々には魔術師【ソルスリエ】を保護する義務がある!」

 

衛兵達が恐怖に負けないように必死に怒鳴るのだが、紫は鬱陶しそうに見るだけであった。

 

「私の目的は幻想郷が平和に、穏やかに、過ごせる様にする事。だから、貴方達には興味は無いわ。それに...幻想郷は全てを受け入れる場所よ。貴方達のように、自分達が気に食わないものは排除しようとする者はいないから、保護する必要はないわ。そんな貴方達に偉大なる幻想郷を教える訳ないでしょう」

 

紫は淡々と答えているが本気であった。

紫からは冷たい殺気を流れていた。本能でこの人を怒らしてはいけない、とこの場に居る全員が悟る。衛兵達が黙ると紫は元の笑顔に戻ってエレン達と向き合う。

 

「では、話を進めましょうか。貴方達は...タラを助けに行きたくはないかしら?」

 

「行きたい!」

 

「行きたいです!」

 

エレンとロバンが風の様なスピードで返事をする。

 

「それは友達想いで良かったわ。では早速、準備をするから待っていてね」

 

話がトントン拍子に進んでいく事に紫は喜びながら、準備を始める。しかし......

 

「待ってください!」

 

ファブリスが異議を唱えた。

 

「あら、何故なのかしら?私は貴方達の力になろうとしているのよ」

 

疑問を訊ねる紫は不思議そうに首を傾げる。

しかし、カル、ファブリス、モワノーには本当に不思議そうには見えなかった。それもその筈、紫も疑われる前提でここに来ているのだ。

 

「いや...都合が良すぎるでしょ」

 

ファブリスが当たり前の事を言う。

 

「僕達を助けても何のメリットは無いからね」

 

カルももっともな事を言う。

 

「そうね。本当なら嬉しいのだけど...。まだ会ったばかりの貴女を、どうやって信じればいいの?」

 

疑うモワノーは当たり前だ。

疑う三人を気にせず紫は語りかける。

 

「確かに、私のことを信用できないのは当然の事よ。でも...貴方達が大変だった時、助けてくれなかった大人達は信頼出来る値の人物なのかしら?」

 

「...どういう事だ?」

 

反応したカルに紫はほくそ笑みをする。

 

「だって、大人は、子供を守り、教育するのは当然の事なのに、貴方達を苦しめたアンジェリカという少女には、お咎めというお咎めが無かったわね。原因を作ったあの子にも原因があるのにね。それに比べて貴方達は...話は誰からも聞かれず、一方的に咎められるだけ。貴方達も暴力で解決しようとした事は、いけない事なのだけれど、そもそも、アンジェリカと言う少女が、貴方達に喧嘩を売らなければ、始まらなかった訳じゃない」

 

「私は信用出来なくて当然の人よ。けれど...ろくに教育をしなかった大人達。貴方達はそんな大人を信頼する価値があると思う?」

 

紫に今までの不満を言われてカル、ファブリス、モワノーは黙った。それに紫の言っている事は正しかったからだ。特にエレンの頷きは半端なかった。

 

「そうよね。とても信頼できる人物には見えないわね。それに...アンジェリカの様な人物が生まれるのは、どうしてだと思う?」

 

誰もその質問には答えられなかった。

けれど、紫にとってはこの状態も想定済みなので特に気にしてはいなかった。寧ろ真面目に聞いている事に喜んでいた。

 

「それは...大人達は全て悪いのよ」

 

「大人達が...全て悪い...?」

 

「ええ、そうよ。大人達が差別をするからよ。例えば、非魔術師【ノンソ】に対しては、馬鹿にする。それは魔術が使えないから。でも可笑しくないと思わない?たかだか魔術が使えないだけなのよ。そんな理由で人を馬鹿にしていいものかしら?貴方達魔術師よりも、弱い存在だとしても。何をそんなに気にしているの?何で放っておく事は出来ないのかしらね?」

 

更に紫は語り続ける。

 

「じゃあ、強くなれば尊敬される存在になる?違うわよね。エレンとタラは力が強すぎて、苛められているじゃない。タラはコントロール出来ていないから、怖がられやすくても、エレンは問題なんて無かった筈よ。それなのに、怖がられている事はどういう事なのかしら?」

 

「結局は大人...いいえ、弱い人間は、自分達の都合に良い存在と、自分達のストレスを解消させる存在が居て欲しいのよ。現に非魔術師【ノンソ】は弱いから苛められている。エレンは自分達のやり方に従わなくて、未知の魔法だから怖がられている」

 

紫は扇子で口元を隠しながら話を続ける。

 

「そんな大人からの、差別は駄目と言われても、説得力は無いでしょう。私からも学ぶべき姿は一つもないと断言するわ。で...話はここからだけど......」

 

「貴方達は、口先だけの人間の言う事を聞いて待つの?それで良いの?」

 

紫からの問いにエレンだけが直ぐに応える。

 

「嫌!待ちたくないよ!私!直ぐにでも行きたいです!」

 

エレンだけ紫を信じて直ぐにでも行こうとしたが、信じられない他の四人は黙っているままだった。

だがしかし、紫はエレンの応えを無視してカル、ファブリス、モワノー、ロバンの四人見据える。

 

「...もう一度だけ訊ねるわ。信用出来ない私の言う事を聞いて、すぐタラや誘拐された子供達を助けに行く?それとも...口先だけの大人達の言うことを聞いて待つ?好きな方を選んでいいわ。最終的に決めるのは私ではない、貴方達。どうするのかしら?私としてはどちらでも構わないわよ。但し......」

 

 

「私も忙しいし、こうしている間にもタラに危険が迫っているかもしれないわ。貴方達が悩んでいる時間なんてそんなにないわよ」

 

紫の瞳が四人を射貫く。

エレンの友達の保護者と言えども、今さっき出会ったばかりだし、そもそも魔力を封印されている牢屋にいきなり現れる紫を怖く感じた。

 

四人が悩みに悩み考えた末の決断は......

 

 

 

 

「僕達をタラの元に連れて行って」

 

紫を信じる事に決めた。

四人を代表をして言ったロバンの瞳に静かな炎が灯る。カルとファブリスは見極めようとしながらも紫を信じてその身を委ね、人見知りするモワノーは目に涙を浮かべながらも決意をする。

そんな魔術師達に、ファミリエ達も最後まで着いて行く事を決める。エレンだけは始めからそうすれば良かったのに、と一人文句を呟いていた。

 

「ええ、分かったわ。でも、少し待っていてね」

 

そんな彼等に紫は、成長した我が子を見守る母親の様な笑顔を浮かべる。

 

「行く前に、別の質問があるのだけど良い?」

 

真面目な顔をしてカルは質問をする。自分の持ち物を漁っていた紫の手が止まる。

 

「構わないわ。質問っていうのは何かしら?」

 

「どうして僕達を助けようとするんだ?紫さんに、何かメリットがあるのかい?」

 

「あら、その事ね。ええ、あるわよ。私だって、忙しいですもの。只では動かないわ」

 

「紫さんのメリットって...何?」

 

「それは簡単よ。貴方達に手を貸して、子供達を助け出せば、幻想郷は危なくない存在として、証明出来るからよ」

 

「紫さん自身では助けに行かないのですか?紫さんが直接助けに行った方が、幻想郷は味方だと証明できると思うけどなあ!僕だったらそうするよ!」

 

「貴方達が、私を信用するのに、どれくらい時間がかかっていたと分かっているのかしら?そもそも、子供達が私を信用してくれると思っているの?」

 

「あ...はい...。そうですね....」

 

紫の正論に思わずカルは黙ってしまう。

 

「分かってくれたらそれで良いわ。さあ...貴方達の助けとなる物を用意しておいたわ」

 

紫が取り出したのは一枚の地図だ。

 

「この地図...一見して、普通の地図に見えるけど、何か特別な物なのですか?」

 

ファブリスが質問をすると紫はにっこりと笑う。

 

「ええ。この地図は特別な物よ。ここは魔術が使えないから大人しいのだけど、この地図結構喋るのよ」

 

「喋るのですか!?」

 

「ええ、そうよ。でもそれだけではないわ。この地図は常に自動更新をしているわ。だから、都市の名前が変わったとしても、地図が教えてくれるから、迷う事は無いわ。で、この地図の使い方は、自分が今居る場所と移動したい場所を言うだけよ。目的の場所に、赤い丸が示してくれるわ。徒歩で時間を出すから、馬なら三で割り、ペガサスなら五で割ればいいらしいわ。詳しく知りたいのなら、こう唱えなさい、『デタイユス(細かく示す)の呪いによって、私の居場所を教えておくれ』とね」

 

一通り説明を終えると紫は、エレンに地図を渡して背を向く。エレンの髪の毛がパチッと鳴り、この地図は魔法の地図だと証明する。

 

「さあ...行きましょうか。準備は宜しくて?」

 

紫が訊ねると五人は一斉に頷く。

 

紫は彼等ににっこりと笑うと、何もない空間から目蓋が開く様に無数の目がある黒い空間が現れた。空間の切れ端には、ご丁寧に紫と同じリボンが結わえてあった。

 

「ええ...これは......。子供達を何とか説得しても....入ってくれないと思うわ......」

 

無数の目がある黒い空間に恐怖を感じてドン引きするモワノー。タラを助けに行くには、この空間を通らなければならないのだ。モワノーは入る前から涙を流した。

 

衛兵が最初から紫を怖がっていたのも、女性初級魔術師達がずっと黙っていたのも、この無数の目のある黒い空間を見てしまったからだ。

 

「ええ、そうでしょ。だから貴方達に頼んでいるのよ」

 

「あのう......帰りは?」

 

逆に気にしていないカルは大事な事を質問をする。

 

「それはごめんなさい。貴方達で頑張ってちょうだい」

 

「えっ!?これ、片道切符なのかよ!」

 

「大丈夫!僕に作戦があるから!」

 

不安がるカルにロバンが励ます。

 

「作戦って何だよ!」

 

「僕の身体には、何か合った時の為に、探知の魔術が掛かっているから、それが発動すれば、すぐに僕達が今居る場所を高等魔術師達に教えてくれるのさ!そうすればお父...高等魔術師達が助けに来てくれるさ!」

 

「その魔法が発動するのは、どのタイミング?」

 

「二日後だ」

 

「二日間の辛抱ね」

 

「何だ、余裕じゃん!さっさと行こうよ!」

 

「行くなら、空間に飛び込んでね」

 

やる気になった五人だが、改めて目のある空間を見て怖じ気付く。

 

 

だけど...

 

「えい!」

 

エレンがソクラテスを連れて最初に入る。霊夢の保護者、同じ故郷の者同士として信じたのだ。

 

「僕だって!」

 

ロバンもエレンの後を追うように、すぐ空間に飛び込んだ。

 

「なら、僕も!」

 

カルはロバンに負けない様に後を追う。

ファミリエであるブロンタンも、カルの勢いに負けない速度で飛び込んだ。

 

後に残されたのはファブリス、モワノー、モワノーのファミリエシーバだけだった。

 

「僕も...!!男として...!!負けるもんか!」

 

怖がる心を無視してファブリスは空間に飛び込む、最後に残されたのはモワノーは呆然と飛び込む仲間達を眺めていた。

 

「貴方は....大丈夫かしら?」

 

紫に心配されても怖くて返事が出来ないモワノー。

モワノーが何度も深呼吸をしていると、シーバがモワノーを安心させるかの様に先に空間に飛び込む。

 

「ま、待って!シーバ!!...私だって...!!私だって...!!行くんだ!」

 

モワノーは叫ぶと意を決して飛び込む。

 

 

 

後に残されたのは紫だけだ。

もうこの場所には、友達を助けに行った勇敢な五人も、応援を呼びに行った衛兵も、ただ怖がっていただけの女性初級魔術師達も居なかった。

 

紫は面倒な事が起きる前に帰ろうとしたのだが...

 

「待て!待つんじゃ!」

 

高等魔術師シェムを筆頭に紫の前に現れる。その人数はまるで軍隊の様であった。

彼等は全員殺気立っているが紫にはお構い無しだ。

 

「...もし私の正体を知りたかったら、今度そちらに私とマジスターとの戦いの様子を見せるから見てちょうだい。では...さようなら」

 

紫が黒い空間の中に入ると、目蓋を閉じる様に無くなってしまった。

 

「...待って!!お主がマジスターと戦うとはどう言う事じゃ!!?遅かったのか...!!」

 

シェム達が悔やんでももう遅い。

エレン、カル、モワノー、ファブリス、ロバンの五人は勇敢にタラを助けに行ってしまったのだから。




人物紹介
八雲 紫【やくも ゆかり】

東方プロジェクト側のキャラクター。
腰まで届く長く綺麗な金髪、宝石の様に輝く紫色の瞳、グラマラス体型の女性。見た目は若い麗しき女性だが、幻想郷古参中の古参と言われる程長生きをしている妖怪。
基本的に胡散臭く、端麗な顔から作る笑顔でも不吉で気味が悪い。行動などをどんなに分析しようとしても心が読めない為に信用されていない。幻想郷の住民から出来る限り会いたくないと思われている人物だが、本人は意外と話したがり屋で冷静に色々と教えてくれる。だが、しかし、話をしてくれたとしても真偽のほどは確かめようがないので胡散臭くさは抜けない。こんな彼女だが幻想郷への愛情は限りなく深い。
能力は境界を操る程度の能力。
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