タラ・ダンカンと空白少女   作:オタクさん

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若き魔術師たち
第1話 別世界へ


まだ朝日が昇らない内にエレンの朝が始まる。

ゆっくりと寝袋から上半身だけ起き、周りを見渡しボーとした頭で一生懸命に考え、思いだそうとした。

 

薄暗い部屋。

エレンの寝袋で未だに寝ているソクラテス。近くにのベットで寝ているルドゥガ。灰が残った暖炉。部屋の端っこに置かれたエレンとルドゥガのリュックサック。机の上には鍋や皿などの食器が置かれている。窓からは薄暗くもぼやける程度には見える景色。

 

(あれ...ここは何処?何でここに居るの?すぐ近くに寝ている男性は誰だっけ?う~ん、思い出せないなあ。でもなんか、異常な程のワクワク感があるんだよね)

 

エレンがゆっくりと立ち上がり、ドアノブを回そうとした瞬間ルドゥガが起きる。

 

「おはよう。エレン」

 

「おはようございます。えっと......誰でしたっけ?」

 

エレンは挨拶をし申し訳なさそうに尋ねる。

 

「.........ルドゥガ・ドライオンだ」

 

ルドゥガはすっかり呆れ果てていた。

 

「はあ...まったく...いい加減、名前を覚えなさい」

 

「ごめんなさい」

 

エレンはシュンと頭を垂れる。

ルドゥガはエレンの様子を見て反省している事が分かったてはいたが、呆れすぎて溜め息を思い切り出してしまう。けれども、反省はしているからそれ以上言わない事にした。暖炉の前に立って仕切り直す。

 

「まだ、夜明けだけどもう二度寝する気はないし。さっさと御飯を食べて別世界【オートルモンド】に行く準備でもしようか」

 

「別世界【オートルモンド】...って何?」

 

ルドゥガは思わず転びそうになってしまった。

 

「エレン、別世界【オートルモンド】すら覚えていないのかい!?」

 

「うん、私昔から物覚えが悪くて」

 

エレンは申し訳なさそうに言う。

 

「よく今まで旅してこれたね。一歩間違えれば死んでいたかもしれないよ」

 

ルドゥガは呆れた様子を隠さずに言う。

 

「私だって、身を守る方法とか!戦う魔法とか!ちゃんと覚えているから平気だもん!」

 

カチンとなったエレンは必死になって言い訳をする。

その様子が微笑ましく見えてきたルドゥガは、エレンの頭を撫でながら言う。

 

「はいはい、わかったよ。言い過ぎてごめんね」

 

子供扱いされたエレンは恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になってしまい思わず顔を俯く。けれど、撫でているルドゥガは違う事を考えていた。

どうしてこんな幼い子供が力を持っているのだろうか?魔術には詳しいのに何故別世界【オートルモンド】の事だけは知らないのだろうか?疑問を誤魔化す為にも撫で続けていたのだが、それでは先に進まないのでエレンの頭から手を離す。

 

「少し早いけど朝ご飯にしようか?」

 

「.........うん」

 

照れて返事が遅れるエレンであった。

 

朝の日差しが漸く差し掛かった頃、エレンとルドゥガは朝御飯を向かい合って食べていた。

朝のメニューはパンとチーズと少し焼いた干し肉。飲み物は普通の水。特に話題が無くて黙々と食べる中、ルドゥガはエレンに話し掛ける。

 

「エレン、君は一体何処から来たのかい?」

 

「う~んと......幻想郷...?」

 

「幻想郷...?それは何処にあるのかい?」

 

「分かんない」

 

「幻想郷は地球に在るの?」

 

「うん、在るよ」

 

「聞いたこと無いなあ...。そんな場所」

 

ルドゥガは溜め息を思わずついた。

聞いても結局何の手掛かりにもならなかった。

 

                                                                                                                                                

 

ログハウスを出て一時間歩くと、目的地のタゴン村に辿り着く。

その村にはブゾワ=ジロンと言う伯爵が住んでおり、彼が所有している城には地球と別世界【オートルモンド】を繋ぐ"移動の門"があり、その"門"を使って別世界【オートルモンド】に行くのだ。

 

どうやら別世界【オートルモンド】に行くのはエレン達だけではなく、目の前には老人と少女が手を繋いで歩き、少女の傍らには黒いラブラドールが大人しく着いていた。

ルドゥガはその姿を見ると声を掛けた。

 

「シェムナシャオヴィロダントラシヴュ先生」

 

その声に反応したおじいさんと少女は、止まりこちらを振り向いた。

 

老人の方はかなりインパクトが強く、町で見掛ければ誰もが振り返る容貌だった。もじゃもじゃした白い髪と髭はミミズクを連想させ、髪の毛のせいで金色の瞳が半分隠れていた。服装も個性的で脇にスリップが入ったブルーのチュニックドレスには、銀色のドラゴンが散りばめられている。ドラゴンと同じ色の銀色の靴はかなり先が反り返っていた。

少女は老人と違ってインパクトは強くないが、整った顔立ちや神秘的な雰囲気が人を魅了させる。キリッとした顎の線は意思を強く感じさせ、鼻まで真っ直ぐに伸びた額は賢い印象を持たせる。三つ編みにされた美しい金色の髪の毛の中には、歳に相応しくない白髪が混じっていた。宝石のように煌めくマリンブルーの瞳は、何か嫌な事があったのか、暗くぼんやりとしている。老人とは違って黒と白のシャツや青のジーパン等といった無難な服装だった。

 

「ルドゥガではないか」

 

エレン達を認識した老人は、ルドゥガに親しげに話し掛けた。

 

「はい、おはようございます。シェムナシャオヴィロダントラシヴュ先生。しかしこの前の電話の件は本当にすいません」

 

ルドゥガはおじいさんに挨拶を済ませるといきなり謝罪をする。その様子にエレンと少女は驚いていたのだが、驚いているエレン達の事を気にも止めず、老人はエレンを見ながら愚痴を溢す。

 

「全く...あんな時間に電話をかけるほどの内容でもなかろうに。ではそちらの少女が件の子か?」

 

「はい、そうです」

 

ルドゥガはお辞儀しながら答えた。

エレンは黙って聞いていたのだが、少女の方は気になってしょうがないようで質問をして会話の中に入っていく。

 

「ねえ、シェム先生。この人達はどちら様?」

 

少女の指摘に老人は慌てて紹介をする。

 

「ああ、ごめんごめん。この方達を紹介せんとな。こちらの男性はルドゥガ・ドライオンじゃ。わしと同じくランゴヴィ王国のトラヴィアの王宮に働く魔術師【ソルスリエ】じゃ」

 

「どうぞ、お見知りおきを」

 

ルドゥガはタラに向かってお辞儀をした。

 

「こちらの少女はお前さんと同じく、未登録の魔術師【ソルスリエ】じゃ」

 

老人はエレンを見ながら言った。

エレンは言われなくても空気を読んで始める。

 

「初めまして、私の名前はエレン・ふわふわ頭・オーレウスです。で、この子の名前はソクラテス。よろしくね」

 

エレンは喋りながらソクラテスを抱き上げ、自分とソクラテスをまとめて紹介をした。

少女も皆に見習って自己紹介を始める。

 

「初めまして、私の名前はタラティランネム・ダンカンよ。でもタラの方がいいわ。あの黒いラブラドールはマニトゥーよ。よろしくね」

 

タラもまた自分とマニトゥーとまとめて紹介をした。

 

「では、わしの事を知らんエレンの為にちゃんと自己紹介をしよう。わしの名はシェムナシャオヴィロダントラシヴュじゃ。ランゴヴィ王国のトラヴィア王宮で高等魔術師として働いておる」

 

シェムは少し偉そうに自己紹介をした。

 

「さて、皆の自己紹介が済んだことじゃし。それではブゾワ=ジロン伯爵の城に向かうとするか」

 

シェムとルドゥガとマニトゥーは前の方を歩き、エレンとタラは後ろの方を歩く。同世代エレンとタラは自然に会話が始まっていた。

 

「エレン、貴方は何処から来たの?」

 

「幻想郷からだよ。タ...タラは何処から来たの?」

 

「ここが私の出身地よ。幻想郷?聞いたことないわね。そこってどんな所?」

 

「山の中に在って自然豊かな所だよ」

 

「へえ、初めて知ったわ。そこって良い所?」

 

「う~ん、自然は綺麗だけどちょっと危険かな」

 

「えっ!?危険ってどういう事!?」

 

ちょうど、タラが質問したタイミングでブゾワ=ジロン伯爵の城に着いた。

 

「ほら、お主たち着いたぞ」

 

城の入り口ではブゾワ=ジロン伯爵が待っていた。

 

自然と会話が終わり話が続けられなくなる。

タラは後で絶対にこの話をしよう、と思い決めて今は黙った。

 

「よくいらっしゃいました。高等魔術師殿。もうお戻りになるのですか?」

 

「そうなんじゃ。タラとエレンとマニトゥーとソクラテスを連れて行かないといけないのじゃ。お前の息子はもう行ったのか?」

 

「はい、行きました!2時間程前に」

 

自慢気に答えた。

 

「それでは行こうか」

 

谷を見下ろすの高い塔の部屋に門があった。

その部屋には神話の場面が描かれていた5枚のタペストリーが架かっていた。タペストリーにはユニコーンと小人、石の塊に彫刻をほどこした巨人、尖った耳をもつ緑色の服を着た人間などが描かれていた。その上には王杖が置かれている。

 

「中央まで来てください」

 

伯爵の言葉を合図に中央まで集まった。

エレンはルドゥガとタラはシェムと手を繋いだ。タラは怖がっているのかシェムはタラに微笑みをかけ安心させようとしたが、引きつった笑みを浮かべるだけであまり意味はなかった。一方エレンは怖がっていなかった。

 

伯爵が小さな生き物が描かれたタペストリーの下に来ると、持っていた王杖をその上に置いた。杖はタペストリーの絵のなかに吸い込まれていく。それを見た伯爵は別れを告げて出ていった。

王杖は輝き、他のタペストリーから光が発せられる。光は虹のようになった時、シェムが大声で「トラヴィアの王宮へ」と叫び、一行の姿が消えたのであった。




人物紹介

タラティランネム・ダンカン
正式名はタラティランネム・タル・バルミ・アブ・サンタ・アブ・マル・タル・ダンカン
金色の髪の毛だが一房に白い髪が混じっている。整った顔立ちにマリンブルーの瞳。
聡明な人柄で正義感が強い。猪突猛進な所はあるが慎重な面もある。独立心が強く頑固な一面がある。
強力な魔力を持つ。

シェムナシャオヴィロダントラシヴュ
通称はシェムかシェム先生
青と銀のドラゴン。人間になるときの姿は老人だがドラゴンの歳では30代半ばごろ。見通しが悪くどこか人間臭く滑稽なところがある。


ブゾワ=ジロン伯爵
ファブリスの父親。地球と別世界【オートルモンド】を行き来る移動の門の番人。

用語説明

移動の門
別世界【オートルモンド】と地球や国同士移動するために使う門

ランゴヴィ王国
人間とドラゴンの王国。首都はトラヴィア。ベア王とティターニア王妃が統治している。

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