それでは楽しんでください。
一行は先程と同じホールに居た。
エレンは少し怠さと吐き気を感じていた。そんな状態を無視して周りを見渡すと、目の前には異形の者が立っていた。背は二メートルくらいあり、オレンジ色の髪の毛がもじゃもじゃしていた。何よりも目が一つしかなく腕が4本もあった。
「新種の妖怪?」
「なっ!?馬鹿な事を言うな!」
異形の番人に対してもエレンは容赦なく本音を呟き、失礼な発言に驚いたルドゥガは叫び、エレンの頭を拳骨で少し小突いた。シェムも唖然してしまい口を開けぱっなし状態になってしまっていた。怖がっていたタラはそれを見てクスクスと笑って少し緊張が和らいでいた。
「今まで地球から来た魔術師に怖がられたことはありますが、出会い頭に妖怪扱いされたのは初めてです」
思わず一つ目の男性も呆気に取られた。
そんな中でも青と銀色の制服を着た番人達がエレン達を険しい視線で見張っている。槍はいつでも怪しい者を刺せるように握っていた。
一つ目の男性は仕切り直す為、わざと咳払いしシェムに言葉を掛けた。
「高等魔術師様、再びお目にかかれるとは、なんたる光栄!」
一つ目の男性は通行を許可する合図を出し、一行を通らせた。
その時"門"が開いたと告げるベルが鳴り、一つ目の男性は前より激しく動き回りだした。エレンとタラは彼の行動が気になってずっと一つ目の男性を見ていたが、一行はそのままホールから出ていった。
「治安係りじゃ、客が到着するたびにあんな感じに慌てふためく。今ではあれが普通の状態になってしまったがな。タラはカリブリス女史のところに行って登録してもらう。エレンはどうするんじゃ?ルドゥガ」
シェムは溜め息混じりにこれからの事を説明する。そしてエレンの事に関してルドゥガに質問をした。
「そうですね...。エレンの場合は両親が居ないので正式にランゴヴィ王国に保護して貰う事にします。私は特別な孤児制度の手続きをするので、シェムナシャオヴィロダントラシヴュ先生。エレンも一緒に、お客様としての登録して貰っても構いませんか?」
タラはこの話を聞いてかなり驚いた。
「分かった。エレンもお主の手続きが完了するまではわしの一時的な招待客にしよう」
「ありがとうございます。シェムナシャオヴィロダントラシヴュ先生」
ルドゥガはシェムに御礼を言うと、一行にお辞儀をしてから離れ別行動にする事になった。
エレンとタラはこれからの事を質問した。
「「これから、何を登録するの?何で登録をするの?」」
「王宮に入る為の身分証明書じゃ。それがないと誰も入れないからな。お前達はわしの一時的な招待客としてレベル6の証明書が貰える。出入りが出来ると言っても、自由に入れる場所と駄目な場所がある。登録してくれる場所にはカリブリス女史が居り、王宮の規則、礼儀作法、寝る場所、国王陛下への挨拶の仕方など彼女が説明してくれるのじゃ」
「国王陛下に挨拶?無理だよ」
エレンは弱音を吐いた。
「大丈夫じゃ。礼儀作法と言ってもそれほど、厳密なものではない。万が一、失礼な事をしたり言ったりしても地球から来たばかりだと言えば大丈夫じゃ」
シェムは話をしても理解しづらい事が目に見えていたから、手っ取り早く王宮内を案内するのであった。
王宮内は誰もが動いていた。
タペストリーに魔術を掛けて掃除をする若い魔術師。ガチャガチャと音を立てながら動く鎧兜。王宮でさえも機嫌に応じて景色が変わった。
景色は太陽の光、牧場が映し出され、小鳥がさえずる光景は機嫌が良い状態だと感じ取れる。エレンはその光景に見惚れてボーと突っ立ち、タラはよく見ようとして身を屈めていた。
廊下の端まで移動した時には、エレンとタラの周りを魔術師にキスを投げかける嬉しそうな娘達が現れると共に、馬とユニコーンと小動物も現れダンスをするかのように陽気に飛び跳ねていた。二人はその映像に挨拶を返してしまう。
楽しげな雰囲気は突然消えて無くなる。理由はタラが叫び声を上げたからだ。
逃げようとしたタラは、シェムの腕から逃れて後ろに飛び退いた。タラと同様危険な状況だと気が付いたエレンは、ソクラテスを抱き上げて空中に飛び上がった。足元には目が眩みそうな深い穴がいつの間にか空いており、その底から夥しい数の足と爪と口をもつ一匹の巨大な昆虫がエレンとタラを興味深そうに見上げていた。
昆虫が物凄い速さでその穴をよじ登って来た。
タラは逃げられなくて悲鳴を上げそうになった時、シェムは毒液で光る昆虫の爪を対して気にもとめない様子で、タラを掴み説明しながら叫んだ。
「王宮はご機嫌じゃ!心配ない。新しく来た者は皆同じように驚く。けど、何も怖がることはない。幻覚にすぎんのだから。何と...!?エレンも飛んでないで降りてきなさい!」
エレンの飛んでいる姿を見たシェムは、口を大きく口を開け固まってしまう。
だが、数秒間経った後、我にかえったシェムは叫んで降りるように命令をした。だけどエレンはその命令を無視し、穴を越えるまでは降りてこなかった。
穴を越えるとエレンはシェム達の前に降りる。
シェムはエレンが降りた途端、詰め寄り胸ぐらを掴んだ。
「エレン!お主...その力...!一体何処で手に入れた!!」
余りにの怒鳴り声で周りの宮廷人が、一斉にシェム達の方に振り向いた。
エレンはその迫力に呑まれて喋れなかった。急に落とされたソクラテスはシャーとシェムに向かって威嚇している。タラは二人の間に急いで入ってシェムに向かって怒鳴った。
「シェム先生!何でそんなに怒っているのかですか!?そこまでする事何ですか!?飛び上がる程度、他の魔術師だって出来ますよね!?それのどこが可笑しいのよ!だからエレンを離して下さい!!」
タラの剣幕に驚いたシェムはエレンを離した。
エレンは咳き込み、ソクラテスはエレンに近寄り心配そうに鳴いた。シェムはタラに諭すように言う。
「良いか、タラ。確かに空中浮遊の魔術は有るとは言え、そんな直ぐに発動しないのじゃ。さあ、エレン。その力どこで手に入れた?」
タラと話終わったシェムはエレンの方を向き、真剣な眼差しをしながら話し掛けた。
しかし、エレンは先程のシェムの剣幕によって頭がテンパってしまった。
「何で?!何で?!何でそこまで怒るの?!こ、こんなの当たり前だよ!?」
「当たり前じゃと?そんな事を出来る者は中々居ないのじゃ!では聞き方を変えよう。誰から教わった?」
「自分で練習して、出来るようになったんだよ」
シェムははっと息を呑むに対して、怒りが収まらないエレンはシェムを無言で睨み続けた。このままだと切りがないと思ったシェムは一時諦める事にする。
「まあ、良い。後で話を聞くからな」
「............別に大したことないのに」
エレンは胸ぐらを掴まれた事によって、シェムの事が嫌いになった。
とは言え、高等魔術評議会で魔術師を管理している世界にとっては未登録の魔術師【ソルスリエ】が勝手に力をつけていることはかなりの大問題である。それこそ別世界【オートルモンド】の存続の危機である。実際に、勝手に力をつけている集団は今や別世界【オートルモンド】や地球の存在を脅かす危険な存在になっている。
だからシェムの対応はある意味正しいのである。
険悪な雰囲気につつまれ、オロオロするタラ。不機嫌な様子でポケットからブラシを出して少し逆立った髪を治すエレン。前の方でぶつぶつ言うシェム。気まずい雰囲気の中歩き続けた。
今度は、壁の中に入る人達を見た。入る時は腕を前に振っていた。魔術師【ソルスリエ】が連れているファミリエも上手く通り抜けていた。何らかのコツがあるみたいだ。
只、慣れない二人にとってはぶつかるようにしか見えなくてひやひやした。
この後色々な事が起きた。
タラが石鹸水をかけられたり、若い魔術師の乾かす魔術の賭け方にシェムが文句を言ったり、海と珊瑚の景色の中に巨大な鮫が現れて驚いたりした。
エレン達は歩いている内に、攻撃的なポーズをとっている戦士の彫像の前に着いた。
シェムは戦士の脇腹を素早く引っ張った。
すると彫像は動き出した。彫像は自ら自分で掃除を始め二匹の蜘蛛を追い払い、自分の上に積もっている埃を払った。大理石が大きく軋む音と共に、他の彫像も同じように動き出す。彫像達は、目の前に誰が居ようがお構い無しなので、タラは動き回る巨大な身体を避けるのに必死だった。
その時近くで大きな物音がした。
急に行き交っていた人々が膝まずいた。エレンとタラは急な変化に驚いた。タラは特に酷く、恐怖のあまり顔色が蒼白しシェムに叫びながら問い詰める。
「何が合ったの!?何が合ったの!?」
強いしゃっくりに身体を揺すりながら答えた。
「別に何も、ハック、あいつがお前達の前を通ったら、ヒック、他の者と同じようにすればいいのじゃ」
王宮中に惹き付ける様な騒ぎを起こした張本人が、やって来ると人々は恭しくお辞儀をした。
その人は人ではなく頭はライオン、胴体は山羊、尻尾は蛇と言う、妖怪顔負けの妖怪のような生き物だった。恭しくお辞儀される程の高貴な生き物なようで、身に付けている物全て高級品だった。黄色い羽で飾られた縁なしの帽子、超金細工が施された銀のブローチの付いた、見るからに高級そうな生地の青いローブを纏っていた。
その生き物は、シェムに対してものものしく挨拶をしたが、シェムは簡単にお辞儀を返しただけだった。
再び歩き出すとエレンとタラは質問した。
「「一体、何?」」
「キマイラ。国王と王妃の第一顧問で名前はサタラールと言う。とてもずる賢い年老いたペテン師だ。明日、あいつに質問されたら、答えに気をつける事じゃ。人々を上手く喋らせて色々な事を聞き出すのじゃ。......まぁ、エレンに関しては寧ろ喋って欲しいけど」
エレンは横にプイッと向き、タラはキマイラが遠ざかるのを確認していた為何も答えなかった。シェムはタラを捕まえ無理やり着いて来させた。
その後は無事に目的地に着く事が出来た。
どうやら、目的地は普通の場所らしく、エレン達は普通のドアから部屋に入った。部屋の片隅には堂々としたコンピューターが置かれ、資料で埋った巨大な事務机が部屋の半分を占領し、座り心地の悪そうな三脚の椅子が社長用の肘掛け椅子の正面に置かれていた。
タラとエレンに椅子に座るように合図すると、シェムも椅子に腰かけた。するとシェムはしゃっくりしながら叫んだ。
「カリブリスさん、ヒック、わしらは悪いことをした使用人ではない!ホック、御願いだから肘掛け椅子を貸してくれんかね」
空っぽの部屋から声が聞こえてきた。
「あらら、ごめん遊ばせ!トレーニングしていたものですから。椅子の座り心地が悪ければ悪い程、罪深い魂が悪くなるですってよ。でも貴方がたは勿論そうじゃないわよね」
「トランスフォルミュス【変身させる】のおまじないによって、椅子よ変われ!お客様が寛げるように!」
別の声が聞こえた途端に、エレンのお尻の下で何かが動き、髪がパチッと音が鳴ると共に、居心地悪い椅子が柔らかい肘掛け椅子へと変わった。
椅子が変わるのと同時にカリブリス女史が姿を現す。
エレンとタラは息を呑んだ。身体は一つ、足と腕は二本。ところが頭が二つあるのだ!エレンは思わず、新種の妖怪、と言いそうになるが、先を読めたシェムは睨んで止める。二つの頭はタラをまじまじと見ようとして身を屈めた。
「ええと、貴女はたしか......」
「.........あの有名なタラティランネム・ダンカンですよ」
「まあまあ、よくいらっしゃいました」
「お会い出来て嬉しいわ」
「私達はカリブリス女史よ。私はダナ・カリブリス」
「そして私はクララ・カリブリス」
一つめの頭がダナ。二つめの頭がクララと自己紹介をした。
「そちらの貴女」
「......名前は何て言うのかしら?」
2つの頭はエレンの方を見て質問をした。
「エレン・ふわふわ頭・オーレウスです」
エレンは普通に応えた。
「まあ...かの有名なオーレウス?」
「......でも、あれはおとぎ話」
エレンよりもタラの方に興味があり、すぐに話題はタラの話題に戻る。
「ここまで......」
「........上手くいらっしゃれた?」
「あ、はい、カリブリスさん」
カリブリス女史はタラの方を見て親しげに声をかける。
「イザベラがきちんと...」
「......育てたのね。良く分かるわ」
「シェム、教えてちょうだい。一体...」
「......何が起きたの?私達が聞いたのは...」
「シェム?シェム?」
二つの頭は、話を中断して不安げな色に変わりつつある魔術師の方を同時に見た。シェムは前よりも激しくしゃっくりをしていた。それを見たカリブリス女史は慌てて、タラとエレンとマニトゥーとソクラテスを避難させた。
更に大きなしゃっくりをした瞬間、魔術師が膨れ始めた。エレンとタラの怯えた目の前で、シェムはどんどん大きくなっていった。身体と腕と足が段々と伸び、顔が変わり、不気味な牙が生えてきた。青と銀色の鱗が全身を覆ったかと思うと、背中には鋭いギザギザのとさかが現れ、ローブを引き裂いた。指にはサーベルのような長い爪が生え、巨大な翼が音を発てて羽ばたいている。その度に書類が辺り一面に飛び散った。
シェムが居たところにドラコンが立っていた。
タラとマニトゥーとソクラテスは恐怖のあまり悲鳴を上げ、エレンは呑気にドラゴンだ、と呟き観察する。
頭を上げた途端に天井にぶつかったドラゴン。
その衝撃で石が幾つか落ちてきて物凄い音を発てる。
「タラ?エレン?カリブリス女史?何処に居るんだ?」
ドラゴンの声の大きさに壁が震えた。
タラは泣き出しそうになった。
そしてタラとマニトゥーとソクラテスは、急いで机の下の更に奥まで潜り込もうとする。エレンは逆に近付こうとした時、カリブリス女史は机の下から出てきて、勇敢にもドラゴンに立ち向かった。
「あらまあ...」
「......何てお行儀が悪いのでしょう!」
「どうにかして頂戴......」
「.........今すぐよ!」
それを聞いたドラゴンはシュンとして抗議した。
「申し訳ない。でもしゃっくりをするとこうなるのじゃ!」
「そんな事は知っているわ!」
「オワゾー・ド・ニュイ博士が貴方を治療したんじゃなかったの?」
「.........思い違いじゃなければね」
ドラゴンは俯いて答えた。
「あの薬...とてつもなく不味いんだ!」
「まさか、薬を飲んでないわけ......」
「.........ないでしょうね?」
「分かった、分かった、薬飲むよ!ちょっと退いて。元に戻るから。アラカサム【姿を変える】のおまじないによってドラゴンの身体は、いつまでも人間の体に戻るのだ!」
あっという間にドラゴンの身体は縮まり、牙や爪や翼や鱗が消え青いローブを纏った年老いた魔術師が現れた。
姿がきちんと戻った事を確認したカリブリス女史は再び話始める。
「だから私達は.........」
「.........地球で何が起きたのかちゃんと.........」
「.........分かっていないよのね」
シェムは呪文を唱えて、自分が押し潰した三つの肘掛け椅子は形を取り戻す。シェムはそこに腰かけ、呑気にタラ達の居る方を見る。エレンは始めから外に出ていたが、逆にタラは慎重になって机の下から出てこなかった。
シェムはカリブリス女史を無視して、とても優しくタラに語りかけた。
「ここにおいで、タラ。とって食ったりしないから」
タラは震える声で叫んだ。
「でも、信じられないわ!!貴方はドラゴンに変身したってわけね!」
「いや、してない」
「してない。ですって!!」
「わしは人間に変身したんじゃ。元々わしはドラゴンだからな!」
タラは机の下にずっと居ることにした。
そして皮肉を言わずにはいられなかった。
「まったくよね。貴方はドラゴンで人間に変身するのよね。そして勿論、皆その事を知っているわけね」
「お前はわしの言うことを信じとらんのじゃな。それじゃあ見せてやろうか!!」
「「「やめてぇ!!!」」」
三つの叫び声が部屋中に響き渡った。
タラとカリブリスの二つの頭は一緒に悲鳴を上げる。タラが急いで取り繕う。
「貴方がドラゴンだと言うなら、貴方は確かにドラゴンよ!私にとっては何も問題ないわ」
「では机の下から出てきて、ここに座りなさい。マニトゥーを落ち着かせなさい。わしは、子供も犬に変身した老いぼれ魔術師も食ったりせんから。エレンもソクラテスを机の下から出しなさい」
エレンは机の下に行き、嫌がるソクラテスを無理やり抱っこした。ソクラテスはシェムを見る度にシャーと威嚇した。マニトゥーもタラに着いてシェムに傍に行くのを拒否して、必要となればいつでも飛びかかれる体勢で肘掛け椅子に乗った。
シェムはそれらを見て溜め息つきながら説明を始めた。
「わしは数百年前から高等魔術評議会を率いている。代々、魔術師【ソルスリエ】達を訓練し、魔術を完全にマスターさせてやるのじゃ。お前達の才能はお前達のものだ。人間は魅惑的だ。そしてわしらドラゴンは、長い間生きている。わしらの最悪の敵は何か知っておるか?」
「「?」」
エレンとタラは首を傾げる。
一応、二人とも、本で読んだ程度の知識はある。だけども、エレンに至っては名前しか覚えていないし、タラは創作を想定した本の知識では当てにならないと分かっていたので黙っていた。
シェムは暗い眼差しを向けながら言った。
「狂気じゃ。わしらは狂人になる危険に脅かされている。わしらの中の何人かは気が触れ、大災害の様に他の種族に襲いかかり、そいつらが行く先々で大損害を与えるのじゃ。そうした気の狂った何匹かのドラゴンが人間を文字通り殺戮した。」
想像出来てしまったエレンとタラは息を呑み、吐き気を感じる程気分が悪くなった。
二人があからさまに気分が悪くなっている事を感じながらも、シェムは話を続ける。
「この手の問題が起こらぬようにする為には、狂気に堕ちいらないように、出来るだけ気をつける事じゃ」
「「でも、そう出来なかったら?」」
エレンとタラは段々と話に引き込まれていく。
答えは容赦ないものだった。
「そうすると、我々は死んでしまう」
「でも、そんな事は......」
「.........ここでは有り得ないわ!」
ダナとクララが書類を拾い上げながら苦々しく反論をする。
不穏にもカリブリス女子の言葉に頷く事はなく、逃げるように話を変えタラとエレンに質問をした。
「お前達は、最初に自分の能力を使ったのは何歳の時じゃ?」
「九歳よ」
「ええと、............確か十歳......かな」
エレンは自信なさげに答えた。
シェムは驚いたようだったが、その事については何も言わなかった。
「やれやれ。まあいい。カリブリス女史、後で詳しく話すから、先に登録するのじゃ」
「分かりました.........」
「.........では登録します......」
「先に......」
「.........エレンの方から......」
「しましょうか.........」
エレンの情報がコンピューターに記録された。
そのコンピューターもこれまた普通ではなかった。クララが「コンピューター!」と叫ぶと、コンピューターはの電源が独りでに入り「奥様、御用で?」と返事をし、二人を驚かせた。
ダナが言った。
「人間の女性魔術師の登録。姓はふわふわ頭・オーレウス、ふ、わ、ふ、わ、あ、た、ま、お、お、れ、う、す。名はエレン。年齢は12歳。区分はユニコーンの南棟。」
「記録いたしました。招待客ですか?有料ですか?」
今度はシェムが答えた。
「正式に保護するまでは高等魔術評議会からの無料の招待客じゃ。お金は持ってはいないが後で、一クレディミュ金貨を渡す」
「記録いたしました。ファミリエは?」
「白い猫。名前はソクラテス」
「身分証明書の種類は?」
「レベル六、青と黒と黄色のゾーンじゃ。緑と赤のゾーンは立ち入り禁止」
「登録完了」
コンピューターは、透明でピカピカした素材の長方形の形をしたカードを二枚出した。その後、タラもエレンと同じくカードを二枚貰った。
「貴女達の身分証明書よ。エレンは私に、タラはシェムに、手を出して」
カリブリス女史は命じると、エレンはカードを受け取る為素直に手を出す。タラも少し警戒しながらシェムに手を出した。
カリブリス女史とシェムはそれぞれ、エレンとタラの手首をぎゅっと掴んで呪文を唱えた。
「「フィキュス【固定させる】のおまじないによって、この身分証明書が、全ての壁の為の通行証となるように!」」
手首がヒリヒリと痛く違和感を感じて視線を向けると、なんと!その身分証明書は、皮膚に埋め込まれてしまったのだ!二人は急いでその部分を擦ってみたが、皮膚しか感じられなかった。それでも長方形のカードは完全に透けて見えた。更に驚いたことにカードには顔の写真が付いていた。身分証明書には白いユニコーンが浮かび上がり、その上には銀色に輝く三日月が描かれている。シェムはマニトゥーの右足に、カリブリス女史はソクラテスの右足に同じことをした。
クララは微笑んだ。
「ほら、こうすれば、失くさないわ............」
「.........王宮の全ての住民が身分証明書を持っているのよ。三日月とユニコーン付きのね。これはランゴヴィの紋章よ。ドアは通れても、これがなければ壁は開かないわ。カートの期限が切れていると......」
「............捕まってしまうのよ。壁が全部、塞がってね」
「赤と緑のゾーン以外は何処へでも好きに行けるわ......」
「......その禁止ゾーンに行けるのは、王家と高等魔術師、王様の護衛隊長と王国の大蔵大臣だけよ。枕元に......」
「......王宮での生活の心得書が置いてあるわ。朝食、昼食、おやつ、夕食の時間、医務室、武器部屋、そして......」
「大事な礼儀作法。カリバンが......」
「.........貴女達を部屋に案内してくれるわ...」
「カリバンは......」
「.........すぐ、ここに来るわ。ではごゆっくりと」
カリブリス女史が言い終わるか終わらないかの内に壁が開き、黒いボサボサ頭の男の子が現れたのであった。
人物説明
タラのおばあちゃん。本名イザベラ・ダンカン
容姿は銀色の髪に緑色の瞳。性格は厳格で冷静。その一方、短気で頑固で身勝手なところがある。ランゴヴィ王国の高等魔術師で地球を監視する任務をしている。
サタラール
頭はライオン、胴体は山羊、尻尾は蛇でできた生き物でキマイラという種族。火をふくことが出来る。とてもずる賢い。国王と王妃の第一顧問をしている。
カリブリス女史
一つの体に二つの頭を持つ、タトリスという種族。一つめの頭はダナ。二つのめの頭はクララ。
用語説明
生きている王宮
ランゴヴィ王国の王宮で、機嫌によって景色を変えたりしている。イタズラが好きで初めて来た人をよく驚かせている。
スペルカード
弾幕名が書かれた契約書のこと。
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