タラ・ダンカンと空白少女   作:オタクさん

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一応、書き終わりましたのでどうぞ。楽しんで読んで頂けると嬉しいです。


第3話 カリバン・ダル・サラン

少年はここまで走って来たのだろうか、はあはあと息切れをし、元々ボサボサであった黒髪が更に酷くなっていた。少年の後ろに居る赤い狐も元気良く着いてきていた。彼の特徴である灰色の瞳は好奇心旺盛そうに大きく見開いて、散らかっている部屋を見詰めてからタラ達の方を見る。

 

「こんにちは!僕、カリバン!カルって呼んで良いよ!君達の名前は?」

 

タラはカルの元気のよさにちょっと圧倒されていた。

 

「初めまして。私はタラティランネムよ。でもタラの方がいいわ」

 

エレンは圧倒させれず快く挨拶をする。

 

「こんにちは!初めまして。エレン・ふわふわ頭・オーレウスです。よろしくね」

 

カルは一層にっこりとした。

 

「うん、分かった。ところでカリブリス女史、何か御用で?」

 

「タラとエレンは、シェムナシャオヴィロダンドラシヴュ先生のお客様よ。ユニコーンの南棟に滞在する事になったから、タラとエレンをお部屋まで案内してくれない?」

 

「かしこまりました。僕も南棟にいるんだ。すぐ隣さ。行くよ。あれ、タラ、荷物無いの?」

 

タラは答えようとする前にがシェムが先に言う。

 

「荷物は後から届くんじゃ。タラ、エレン、行く前に水晶番号を覚えておきなさい。タラはわしの水晶番号、万が一の時の為じゃ。エレンはルドゥガの水晶番号じゃ」

 

その言葉に従って、小さな紙がタラとエレンの手の中に降りてくる。そこには光る数字で番号が書かれていた。

 

「覚えておきなさい」

 

もう一度シェムは言った。

カルは吃驚していた。高等魔術師の番号を教えて貰う等と言う事は普通では有り得ない事だからだ。

 

「タラ、エレン。じゃあ、後でな。楽しむがいい」

 

「では後程、シェム先生......カリブリス女史」

 

「失礼します」

 

タラとエレンは丁寧にお辞儀をした後、カルと一緒に部屋を出ていく。マニトゥーは老魔術師を避けるように、ソクラテスは老魔術師に向かってシャーと威嚇しながらも着いてきた。

壁が閉じた瞬間カルは元気よく聞いてきた。

 

「高等魔術師のプライベートな番号だって。番号を教えてくれるなんて初めて見たよ。ところでさ」

 

「あの一つ余分な女史をどう思う?」

 

「カリブリス女史のこと?どうして頭が二つ有るのかしら?」

 

「新種の妖怪かと思った」

 

カルはエレンの言葉が意味不明すぎて、理解が出来なくなりきょとんとする。しかし、理解が追い付くとカルは思わず笑ってしまった。

 

「アハハ、そんな風に言うの。エレン、君が初めてだよ。アハハ、あれはタトリスなんだ。タトリスは誰でも身体は一つだけど、頭は二つ有るんだ。でもその二つの頭の意見が違ったりすると大変だよ。上手く仕事が出来なかったりしてね。ところで、君達は高等魔術師に招待されたんだって?パパやママも?」

 

「いいえ、二人とも死んだわ」

 

「お父さんは病気で死んじゃって、お母さんはずっと前にはぐれたの」

 

カルは廊下の真ん中で急に立ち止まった。

ちょうどそこにいた宮廷人とつまづきそうになり、三人を睨み付けた。

 

「ごめん。僕はうっかり口を滑らすことがあるんだ」

 

「いいのよ!だって知らなかったんだもの。イザベラお婆ちゃんが私を育ててくれたのよ。でもお婆ちゃんは、私が魔術師【ソルスリエ】だって事を嫌がって内緒にしていたの。だから私は漸く最近になって、自分が魔術師【ソルスリエ】だって事を知ったのよ」

 

「大丈夫だよ。カル、私は気にしてないよ。もうずっと前のことだもん」

 

エレンはカルに気を使ったものも、俯きながら少し暗いトーンで話した。その様子を見たカルは余計に気を使うことになった。

 

「本当にごめん。だからそんな顔をしないで、お詫びに困ったことがあったら何でも言って手伝うから」

 

カルの様子を見たエレンは急いで笑った。

これ以上心配させないように素早く笑顔を取り繕ったが、その行動が更にカルを追い詰める。

 

誰も喋らなくなりシーンとした雰囲気の中、気まずくなったタラはカルに話し掛ける。

 

「...えっと...実は私達...別世界【オートルモンド】の事を全然知らないの。何か教えてくれないかしら?」

 

その言葉を聞いた途端、カルの顔には少し微笑みが浮かんだ。それを見たタラとエレンは驚いた。

 

「それは素晴らしい!ついに偉そうに知識をひけらかしたりしないやつに会えたぞ!タラ、エレン、僕達仲間になれそうだ!」

 

タラには願ってはない事だった。早速質問をする。

 

「ねぇ、血の約束って何だか知っている?」

 

その言葉にカルは好奇心で満ちた眼差しで、タラをまじまじと見詰める。 

 

「血の約束だって?!戦士達の話かい?」

 

「ううん、そうじゃないけど、どうして?」

 

タラは狼狽して言った。

 

「血の約束って言うのは、二人の戦士が同じ敵と戦って傷を負った時にするもんだろ。その内の一人が死んだら、もう一人は二人の血を混ぜるんだ。そして復讐する事を誓うか。又は死んでいく戦士に頼まれたことを果たすと誓うんだ」

 

タラは考え込みながら言った。

 

「ああ、分かった。それで、その戦士の一人が自分の息子か娘が絶対に魔術師【ソルスリエ】に成らないようにしてくれて相手が頼んだとする。でもその相手が誓いを守らなかったらどうなるの?」

 

「血の約束をかわしたのに守らなかったら、その戦士は死ぬのさ」

 

カルの言葉にタラは深い溜め息をついた。

タラは深い顔をして考え込んだいたが、急に立ち止まりパッと振り返った。エレンとカルが驚いているのを横目にタラは駆け出した。

 

驚きながらもエレンとカルは追い掛けて叫んだ。

 

「どうしたの!?」

 

「どうしたんだよ、一体!?」

 

タラは二つ目の廊下が交差するところで止まった。

 

「何でもないわ。ねえ、カル。ここで皆が着ているローブやチュニック、それに身に付けているものは何色?」

 

立ち止まったタラは真剣な表情で質問をする。

 

「特に決まってないよ。メウス王国のジャファールでは赤、ヴィラン王国のブランディは緑、オモワでは女帝の色と言われている黄色と紫、そしてここランコヴィでは青。トラヴィアの宮廷が青と銀なんだ。でも、どうして?」

 

質問に答えたカルは、どうしてこんな質問をしたんだ?と不思議そうな顔をした。

タラは大きく息を吸い込むと呟く。

 

「そう、やっぱり思った通りだわ...」

 

「どうしたの?」

 

エレンが心配そうにタラの顔を覗きこんだ。

 

「シェム先生に言い忘れた事があるの。ちょっとここで待ってくれない?」

 

タラはにこにこしながら言った。

エレンはすぐに頷き、カルは興味深げに目を細め、乗り気ではなかったが渋々承知した。

 

「うん、わかった」

 

「いいよ。ここで待っているよ」

 

タラは二人が了承した瞬間直ぐ様走り出した。

 

「どうしたんだろうね?」

 

「さあ?」

 

エレンとカルは不思議そうな顔をしながらも、言われた通りに待ったのであった。

 

 

 

五分くらい経つとタラは息を切らしながら戻ってきた。

 

「もう居なかったわ。ねえ、シェム先生がどこに居るかわかる?」

 

「そうだな、先生の執務室じゃないの?」

 

「そうなのね。シェム先生にも執務室があるんだ。ドラゴンだから洞窟にでもいるのかなと思っていたわ。ところでカル、この王宮に詳しいの?」

 

カルは思わせ振りに肩を下げて言った。

 

「何でも任せてくれよ!僕は2年前からサルドワン先生の初級魔術師なんだ。先生は魔法数学と空間学の専門家さ。だから、僕が何処にいるかを何時でも知っておかなければならないと言って、もう何千回も王宮の隅々まで見せてくれたんだ。立ち入り禁止ゾーン以外だったら、自分のポケットの中身よりも王宮のことをよく知っているくらいだよ!」

 

「分かったわ、じゃあ道を教えてちょうだい。行きましょう」

 

カルはランゴヴィの紋章であるユニコーンと三日月によって示されている通路をどうやって突き止めるのかを教えながら歩く。

 

「通路が見つかれさえすれば、後は身分証明書を見せるだけでいい。そうすると、ユニコーンが通行を許可してくれよ。後、壁を使って移動するよ」

 

先程初めて壁を通り抜けたエレンとタラはゾクゾクしていた。

エレンは髪が静電気で酷くなるし、タラも気持ち的に嫌なので二人揃ってカルの言葉を聞いて嫌そうに顔をしかめっ面をする。

 

「「えっ、何で?」」

 

「この場所ではドアは何処にでも有るわけではないんだ。それにドアよりも壁抜け通路の方がたくさん有るし、壁抜け通路の方が便利だし早いし」

 

エレンとタラは何も言えずに着いていったのであった。

 

カルの案内の元シェムの執務室の前に着く。

壁の窪みにはユニコーンの彫像と小さなドラゴンの彫像が置かれていた。タラはどうしていいのか分からないものも、とりあえず軽く壁を叩いてみた。すると置いてあったユニコーンと小さなドラゴンが動き出した。

 

「そこに居るのは誰だ!?」

 

「ほら見ろよ、女の子だぜ!そこのお嬢さん、何の用かね?」

 

小さなドラゴンは怒鳴りユニコーンは陽気に喋り始めた。

 

「ええと、タラ・ダンカンと言います。出来るだけ早くシェム先生にお会いしたいのですが...」

 

「仕方ないなあ、聞いてくるよ。後、お前。俺が良いって言うまで開けるなよ」

 

ドラゴンは不満そうに答えユニコーンに注意した。

 

「分かってるって」

 

ユニコーンは目を開けて軽く答えた。

そんな様子に見とれている内に小さなドラゴンが直ぐに戻ってきた。

 

「高等魔術師様は、直ぐにお前に会いたいそうだ。中に入ってよし」

 

小さなドラゴンは驚きながら言った。

 

「タラ、行きなよ。僕らはここで待っているから」

 

「行ってらっしゃい」

 

エレンとカルは優しく見送り、それを見たタラはありがとうと呟くと壁の中を進んで行ったのであった。

 

 

「しかし、一体何が合ったんだ?」

 

「さあ、分からないよ。戻ってきたら聞いてみたら?」

 

タラが居なくなった後、暇潰しの為に自然と会話が始まった。

 

「そうだな。そうすっか」

 

カルはニヤリと笑う。

 

「話変わるけど、エレンはどこから来たの?タラと同じ所?」

 

「ううん、違うよ。幻想郷から」

 

「幻想郷?それって何?」

 

カルは首を傾げた。そんな事をお構い無しにエレンは話を続ける。

 

「山の中に在る自然豊かな人里だよ」

 

「へえー、そうなんだ。それってどこに在るの?」

 

「分からない」

 

「えっ!?自分のもといた場所が分からないの」

 

カルはかなり驚いた。

 

「うん、だって生まれ育った場所じゃないし、流れ着いた場所だもん」

 

「流れ着いた場所...?じゃあエレン、君の出身地はどこ?」

 

「う~ん、分からない」

 

カルはエレンの話を聞いて首を捻るが、小さい頃に引っ越して生まれ故郷を知らないだけだろと思った。とは言え"流れ着いた"という表現には気になった。また、幻想郷の件についても山奥に在る人里でそこでしか過ごさなかったから、他の場所の事を知らないだけだろうと勝手に考え、自己完結してしまった。

お手上げになったカルは話を変える。

 

「ふーん...じゃあ。あっちでは何して過ごしていたの?」

 

「幻想郷の事?だったら、友達と鬼ごっことかして遊んで過ごしていたよ」

 

「友達ってどんな子がいたの?」

 

「霊夢は無邪気で明るくていつも一緒にいて楽しかったなぁ。幻想郷での初めての友達。雫は村の人達にいつも虐められていて泣いていだけど、誰よりも優しくて気配り出来る子だったなぁ。杏里は雫の妹で霊夢と同じく無邪気で明るい子だけどドジっ子でいつも転んだりして、放っておけない子だけど間違いだと思えば誰にだって反論出来る。強い子だったな....」

 

エレンは楽しそうに語る。

 

「え...?村中の人達に虐められた!?それって笑いながら言う話じゃないよ!何で雫と言う人は虐められていたの!?」

 

「えっと......確か......て、て、"程度"?"程度"なんちゃらのせい」

 

「......"程度"?何だそれ?それって虐められる理由になるか?」

 

「分かんない」

 

「.........うん...まあ......取り敢えず...皆良い人達になんだね......」

 

「うん!」

 

こうして、エレンとカルが話している内にタラが戻ってきたのであった。

 

 

 

「待たせて悪かったわね。あれ...?カル...待っていただけなのに随分と疲れたそうね。何か合ったの?」

 

「......エレンが......」

 

「エレンが?」

 

「......何でもないよ......。ところでシェム先生と一体何を話していたのさ」

 

「.........」

 

エレンとの会話が物凄く気になっていたが、自分の話を聞かれたくないタラは黙り込む。

 

「ああ...君もそうなんだね......。君が答えなくないなら、その事はもう聞かないよ。...少なくとも今はね...」

 

カルはそう言うと歩き出し、案内を再開したのであった。

 

 

 

目の前の壁が開けば心地好さそうな居間が現れた。

 

「さあ、着いたよ。お嬢さん方、ようこそいらしゃいました!」

 

大きな窓ガラスから入る日の光が部屋を照らしている。

部屋の中には小さな丸テーブルが数台置かれており、その回りには寛げるように肘掛けの椅子とソファーが置かれていた。更に暖炉が二つと飲み物の自動供給機も置いてあった。部屋の両隅には階段が取り付けられ、一方がユニコーンの共同寝室、もう一方はフェニックスの共同寝室に通じていた。

 

「ここが休憩室だ。ここでは話し合いをしたり、ミーティングをする。君達の部屋は隣だよ。こっちから行くからついてきて」

 

「あら、貴方は個室を持っているわけじゃないの?」

 

タラは驚いた。

 

「僕達は初級魔術師は、アシスタントみたいなもんなんだ。だから、僕達は下積みなんだ。もっと高いレベルの魔術師にならないと自分の部屋が持てない。レベルが上がれば上がる程、部屋は大きくなる。シェム先生の部屋は特別大きいんだ。だって、寝ている間に元の姿に戻っちゃうから」

 

カルは暗い声で言った。

 

「ドラゴンの姿ね?」

 

「そうさ。大体、ドラゴンなんて全く厄介だよ。あんなに燃えやすい書類の山の中で寝てるんだよ。いつか、ドラゴンが大きな唸り声をあげたら、王宮中が火の海になるんじゃないか皆言っているよ。ほら、身分証明書を壁に差し出して、タラかエレンかどっちでも良いから、君達が招待客だってことを示さなくちゃ。でないと、捕まっちゃうよ。僕は許可なく女の子の部屋に入るわけには行かないんだ」

 

タラはその言葉に従いカードをかざし、三人は部屋の中に入って行った。

部屋はそれほど広くはなかったが、部屋の中に備え付けられた家具はどれも特徴的であった。青いビロードの天蓋付きの大きめなベッド。明るい色の大理石でできたベッドサイトには小さなテーブルが置かれている。木全体がピンク色に木目が青緑色のタンス。カーペットは青い芝生でできており、あちらこちらに真っ白い小さな花が咲いている。部屋の残りの空間は大きなタンスで仕切られていた。壁面には緩やかな起伏の丘が遠くまで広がっていた。

 

「王宮は君達の事を気に入ったようだね。ここで見えるものはユニコーンの国マンタリールだよ。直ぐにユニコーンが出てくると思うよ」

 

カルが満足げに言った数秒後。若いユニコーンが、エレンとタラのベッドの周りを飛び跳ねた。

タラは触れないと分かっていたから、ユニコーンに触ろうとしなかったものも手がウズウズしていた。エレンは触ってしまい、感触が壁だった事が分かるとがっかりしてシュンとしてしまった。悲しみの音が静電気として髪がパチッと軽く鳴った。

 

「さあ、ここではベッドやタンスに自己紹介をしないといけないんだ」

 

ユニコーンに見惚れているエレンとタラを現実に戻す為、カルは手を叩きながら話始めた。

 

「「ベッドやタンスに自己紹介するの!?」」

 

エレンとタラは驚いた。

 

「そうさ、自分の物にするためさ。自己紹介するだけで君達の事が分かるようになるんだ。やり方は簡単だよ。ベット前に立って名前を言うだけで良いよ。タンスも同様だよ。やってごらん」

 

「タラ・ダンカンです!」

 

「エレン・ふわふわ頭・オーレウスです!」

 

タラとエレンはベッド前に立ち叫んだ。

すると天蓋のカーテンが独りですうっと開いた。中にはふかふかの羽毛布団と綺麗なシーツが掛けられている。

 

カルは説明をする。

 

「天蓋のカーテンは独りでに閉まるんだ。だって、僕達のように若いと、眠っている間、能力をいつものようにコントロール出来るとは限らないからね。王宮中を飛び回ったりしないように、天蓋の中に閉じ込められているわけさ。もっと上級の魔術師達はカーテンのないベッドで寝ているよ。だけど、天蓋付きのベッドが気に入って、少しでも長く寝ていたいからって、自分の能力をコントロール出来ない振りをしている連中もたくさんいるけどね。さてと、挨拶も終わったから、もうベッドは君達の物さ。浴室を見に行こうか」

 

浴室は白いタイル張りでゆったりとしていて長風呂にも最適だった。そこでは穏やかな湖が静かな波の音を立て、その真ん中では美しい水の精オンディーヌが緑色の髪をとかしている。

浴室を見学している間に寝室から大きな物音が聞こえてきた。

 

寝室に戻ってみれば、届いたタラの荷物がベッドの側に置いてあった。

カルは手を擦り合わせた。

 

「それじゃあ、君達が僕の話を聞いていたかどうか、試してみようかな。タンスの所に行って名前を言うんだ」

 

エレンは先程と同じ様に前に立ち、タラはちょっと警戒して言った。

まるで目が付いているかのようにタンスが反応して、両開きのドアと三段の引き出しが独りで開いた。カルはその前に立ったかと思うと叫んだ。

 

「ランジャリュス【整頓する】のおまじないによって、ここに来るのだ!服は全てしまわれる!」

 

カルが手を叩いて唱えれば、エレンのリュックサックからタラのトランクから服が竜巻のように吐き出され、タンスの中にきちんとしまわれていった。数秒後、タンスはいっぱいになり再び閉じた。

タラは感心して言う。

 

「わあ、凄いじゃない!何て言ったんだっけ?『ランジャリュス【整頓する】のおまじないによって、ここに来るのだ!服は全てしまわれる!』だっけ?」

 

タラがカルと同じ言葉を言っただけで、タンスは再び開き、マルディーニ爆発が起きたような騒ぎになった。服が次々と凄い勢いで吐き出され、それと同時に女の子達が部屋の中に入ってきた。頭にタラとエレンの服を被り、目の前が見えない状況でやってきた一団はかなぎり声を上げた。

 

タラはおろおろして口ごもりながらも、その一団に駆け寄った。一番背が高くて、歳上に見える茶色い髪の少女が顔色を真っ赤かにして怒っている。リーダー格の少女は、敵意に満ちた黒い瞳でタラをじろじろ見ながら嫌味を言う。

 

「大馬鹿としか言い様がないわ。自分の服をこんなに吹き飛ばしてどうすんのよ!カリブリス女史に言いつけてやるわ。どういう事になるか見物だわ!」

 

「ご、ごめんなさい。わざとやったわけじゃないのよ。本当にごめんなさい」

 

ただ見ているのも暇だったエレンは、タラが散乱とした服を片付けるのを手伝う。

 

「あ、エレン、手伝ってくれるの?ありがとう」

 

「別に良いよ。それにしても、たかが服を吹き飛ばして顔に被った程度なのにそこまで怒らなくてもいいと思わない?ちゃんと謝ったのに」

 

エレンはこの雰囲気の中爆弾発言をしてしまう。それもまだ当事者達がいる前で。

 

「はあ!?何よそれ!まるで私達が悪いって言い方ね!元はと言えば、あんたが服を吹き飛ばさなけゃいいって話でしょ!」

 

タラの事を指で指しながら言う。

 

「こっちが悪いと思っているよ。けど、そこまで怒る事なの?」

 

「当たり前でしょ!」

 

「???」

 

少女が叫ぶとエレンは首を傾げる。

その反応を見て少女は余計に怒らせてしまった。

 

「もう!頭にきたわ!あんたらみたいなチビでお馬鹿達はこの部屋から出ていきなさい!今すぐによ!!」

 

「アンジェリカ、何言ってんだ。タラとエレンがこの部屋から出ていくなんて、出来るわけないじゃないか?」

 

カルが背の高い少女の前に立ちはだかった。

 

「あんたこそ、ユニコーンの南棟で何してんのよ?ここに入ってくるのは禁止されてるんでしょ!」

 

「そんな事ないさ。カリブリス女史とシェムナシャオヴィロダントラシヴュ全体の両方に頼まれたんだぞ。タラとエレンをこの部屋に案内を、色々助けてやるようにって。お前こそ初級魔術師じゃないか。僕達みたいに共同寝室に居なきゃいけないんだろう。出ていくのはおまえのほうさ!」

 

カルは反論をする。

アンジェリカの拳が怒りで強く握られていた。緊迫とした雰囲気に包まれる中、どうやらアンジェリカは思い止まり捨て台詞を叫んだ。

 

「あんた達なんか庭の小人じゃない!必ず仕返ししてやるわ!3人のお馬鹿にはボロ着を着せて働かせればいいのよ。それにしても、ドラゴッシュ先生のところに行って私がどれだけ能無しと隣り合わせでいなきゃならないか聞いてもらわなきゃ。そうしたら、先生はきっとこの部屋を私にくれるわ!」

 

悪意のこもった視線をタラとエレンにもう一度投げ掛けると、アンジェリカはお付きの一行と一緒に出ていった。

 

「ふぅ。あいつに殴られるかと思った!」

 

カルは溜め息をついた。

 

「私もよ。ところでエレン。助けてくれてありがとう。でも、いくらなんでもあの人達の前で言わなくても良いのに、喧嘩になったらエレン、危ないわよ」

 

タラは動揺しながらも、エレンの身を心配をして注意をする。

 

「大丈夫だよ!私の方が強いもん。魔法を使えば良いもん」

 

エレンは腰に手を当て胸を張って言う。

 

「エレン。心意気は良いけど、止めた方が良いわよ」

 

「タラの言うとおり止めた方が良いよ。あいつは見ての通り。ここの女王様気取りする嫌なやつさ。しかもその上、魔術の力が備わったのが随分と遅いんだ。だから今年で十六歳なんだ。因みに話関係ないけどさ、タラの魔術で暴走した服を被っただけなのに、随分と怖がりすぎだなあ」

 

カルは全然動じておらず笑いながら言う。

 

「私だってビックリしたわよ!でも、どういう事なの?どうして私の服がまた飛び出したの?きちんとしまわれてたのに!」

 

カルはタラを尊敬の眼差しでじっと見詰める。

 

「君は片付けの魔術をもう一回かけたんだよ。と言うより、まるでまた荷造りするようにもう一度命令しちゃった事さ。でも、どこにしまわれるのかをきちんとイメージしなかったから、あっちこっちに飛んでいったのさ!」

 

「...ってことは...私が呪文を口にしただけで、直ぐに魔術がかかると言うわけ?そんなの怖いわ!」

 

「えっ?魔法って言葉を使えば、想像しやすくなってやり易くなるから、初心者向けの補助じゃないの?」

 

「何言ってんだよ!これは凄い事なんだよ!生まれつきの才能がそうさせるのさ。普通は、魔術をかけようとするとすのは、かなり骨がおれるんだ。上手くやるには、物凄く努力しなきゃならない。強い意志が必要なんだ。だから、エレン。君がやってみればいいよ。ほら、どうぞ」

 

エレンはカルを怒らせてしまう。

怒らせてしまった事に後悔しても謝る暇はなく、イライラしているカルに言われるがままに一歩前に出る。エレンは取り敢えず出した物が元に戻るようにと、いつも通りにイメージを頭の中に描く。しかし......

 

「呪文何だっけ?」

 

エレンは呪文を忘れていた。

 

「ランジャリュス【整頓する】おまじないによって」

 

カルは呆れながらフォローする。

 

「...コホン。ランジャリュス【整頓する】おまじないによって、元に戻る!」

 

軽く咳払いをしてから腕を前に伸ばし、思い浮かんだイメージを固定しながら叫ぶ。それでも散乱とした服はそのままで、髪の毛が静電気でパチパチとなっただけだった。

 

「あれ?」

 

何も変わらない様子にエレンは驚いた。

(いつもなら、直ぐに片付けられるのに...やっぱり.....)

 

普段エレンは魔法を使わないが、自分で作業するよりも魔法を使った方が良い時には仕方無く使う時がある。その時は今のようにイメージを浮かべて手を少し動かす程度だ。あまり魔法を使わないが失敗する事はそうそうない。

 

「ほらね。難しいでしょ。......って、あれ?」

 

カルがエレンを諭していると、服がゆっくりと動き出し元に戻り始めた。十数秒ぐらいでエレンの服、タラの服全てがタンスの中に入っていった。

その様子をエレンはじっと見る。

 

(...呪文を使うと、変に意識をしちゃうから、やりづらい)

 

「イタッ⁉」

 

エレンが考え込んでいると、バシッと背中から軽い衝撃が走る。

 

「凄いじゃないか!エレン。初めてにしては上出来だよ!」

 

どうやら背中を叩いたのは興奮していたカルだった。

 

「へえ~、凄いなあ。二人とも!この事は誰にも言わない方が良いよ。カワイコちゃん達」

 

「カ、カワイコちゃん!?」

 

エレンは顔を真っ赤にする。

 

「そんな風に私を呼ぶないで!それにしても私は魔術何か使えない。それも禁止されているのよ!」

 

タラは怒った。

 

「ああ、分かったぞ!"血の約束"の話、あれは君の事だったんだね!」

 

カルに好奇心で目を輝かせながら言った。

 

「そうよ。私が魔術を使えば、おばあちゃんは死んでしまうのよ。貴方も私の前で魔術を使うときには、気を付けた方が良いわ」

 

タラはきまり悪そうに答えた。

 

カルは考え深げに唇を噛み締めた。

 

「でも、"血の約束"は絶対ってわけじゃないんだ。それを口にした人間や、その時の状況にもよるらしい。君は、おばあちゃんの前で魔術を使って見せたことはある?」

 

「あるわ」

 

「で、おばあちゃんは、バッタリ倒れて死んでないよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「だから、きっと色んな条件があるんだよ。一緒に図書室に行こう。そういう事に詳しい本を見つけてあげるよ。ところで、タラはここにどれぐらいいるの?」

 

「十日ぐらいの予定よ」

 

「そうか、じゃあ、その間にきっと本も見つかるよ」

 

エレンが話についていけずにポカーンとしていると、銅鑼の音が聞こえた。

 

「やった!昼食の時間だ。早く行こう!」

 

カルはそう叫ぶとタラとエレンの手を掴んで、凄い勢いで駆け出して行くのであった。




人物紹介

カリバン・ダル・サラン。通称カル
ランコヴィ王国の初級魔術師。容姿は長くボサボサの黒い髪に灰色の瞳。性格はいつも冗談を言うお調子者だが基本的に冷静で頭の回転が速い。彼のファミリエは赤い狐のブロンダン

博麗霊夢
東方プロジェクトの主人公。登場した際に詳しく書きます。

西方雫
オリジナルキャラクター。登場した際に詳しく書きます。

西方杏里
オリジナルキャラクター。雫の妹。登場した際に詳しく書きます。

アンジェリカ・ブランドロー
ランゴヴィ王国の初級魔術師。容姿は尊大で大柄な美女。性格は野心家で嫌味、狡猾な性格の持ち主。根性は捻れている。美男子に色気を振り撒くことと策謀をねること以外興味はない。

用語説明

ファミリエ
魔術師とって相棒と言える知的生物を指す。心の中で会話をする事が出来る。また、精神的に深い繋がりを持つ程、片方が重傷を負えば片方も命に関わる。

設定説明

旧作である靈夢は先代巫女にさせて頂きました。
本来ならば旧作と紅霧異変はそこまで時間は経っていないです。ですがこの作品ではかなり時間差があることにします。

それでは失礼します。
感想や意見、誤字脱字などがありましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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