銅鑼の音に気づくと五人は直ぐに食堂に向かった。
昨日と同じく豪華な食事が並べてあり、五人の中で一番お腹を空かしているカルが、今か今かとウズウズしながら待っている。
だが、今日も何か連絡事があるみたいでカリブリス女史が叫ぶ。
「静粛に!」
「皆さんに、シェム先生からお話があるので聞いて下さい」
カリブリス女史はそう言うと一歩下がり、代わりに老魔術師のシェムが前に出た。
「この度、シェムナシャオヴィロダントラシヴュは、エレン・ふわふわ頭・オーレウスを私の初級魔術師として選びました」
他の初級魔術師や使用人達が驚きながらエレンの方を見る。
「えっ!?嘘でしょう!」
エレンも驚きのあまりかなり狼狽している。
気になったタラが辺りを見渡すと、高等魔術師達は驚いていない事に気付く。
タラは仲間達にコソコソと話し掛ける。
「もしかして、監視?」
「えっ、えぇ、そ、そうかもしれないわ」
「もう、動き始めたのか」
「やっぱり。僕やモワノーだって考えられたんだから、高等魔術師達の方が考え付くさ。まぁ、大丈夫だと思うけど」
驚きすぎて固まってしまったエレンを余所に四人は話をする。シェムは言うだけ言うとさっさと自分の席に戻る。
今日の連絡事項はこれだけのようで、シェムが席に座るのと同時にカリブリス女史は食事の号令をかけた。
すぐにざわめきが消えて食事が始まったが、五人の内カル以外は直ぐに食べれなかった。
「大丈夫だよ。別に捕まる訳じゃないからさ」
カルは口をモグモグしながら言う。
その言葉を聞いてエレン達は一先ず、食べる事に集中力したのだった。
ご飯を食べ終えた五人はそれぞれ自分の部屋に戻る。
タラとモワノーは女子寮へ、カルとファブリスは男子寮へ、エレンは自分に与えられた部屋に戻る。
エレンは自分の部屋に戻ると直ぐ様お風呂に入った。
三十分以上ゆっくりと湯船に入って、身体をほぐし疲れをとる。
身体も心もリフレッシュさせた後は、髪の毛をタオルで乾かし櫛で整える。
自分の櫛をしまった後はファミリエ用の櫛を持ち変えて、ソクラテスの毛を櫛でとかしていく。ソクラテスの毛をとかす度にゴロゴロと音をたてて喉を鳴らす。
(これからどうなちゃうのかな...)
ゆったりした時間が癒すことはなく、逆に不安を募らせてしまう。それでも、気分を誤魔化す為にソクラテスのブラッシングを続ける。
ニャーっと、どこか気の抜けた声がした。
エレンの顔を見上げるソクラテスの顔はまるで、大丈夫だよと伝えているかのように感じさせる。
「...そっか。ありがとう」
エレンもソクラテスに気遣いに感謝をし、優しく微笑んで返事をする。
消灯時間がくるまでの間、エレンはソクラテスにブラッシングを続けて揺ったりとした時間を過ごすのであった。
次の日の朝自然と食堂の前に五人が集まる。
エレンが着いた時にはタラ、モワノー、カル、ファブリスが到着していた。
「おはよう。みんな!」
「おはよう。エレン」
「お、おはよう」
「おう、おはよう」
「おはよう。エレン」
エレンが元気よく挨拶するとそれぞれ挨拶を返した。
揃ったのでさあ入ろうとした瞬間。
エレンの身分証明書がブンブンと唸り声をあげながら鳴る。エレンが何かする前に身分証明書は、人間の姿のシェムの笑顔が浮かび上がらせる。
「やあ、エレン。おはよう」
「お、おはよう。...誰?貴方には番号を教えていないんだけど」
「それは、ワシらが情報を扱っているから解るもんじゃ。それと、エレン。ワシの名はシェムナシャオヴィロダントラシヴュだ。...ハァ~。御主、エレンは物は忘れしやすい理由も解るし、仕方ないとは言え...これは酷すぎる。まあ、それよりもエレン、君は昨日から、ワシの生徒じゃぞ。先生と呼びなさい」
「はい、先生」
戸惑うエレンを余所に話を続けるシェム。
「それで、よろしい。大事な話がある」
「何?」
「陛下どのが、御主の作った魔術に興味があるから見たいそうだ。朝御飯を食べ終えたら至急、外の広場に来なさい」
「それって、私達も見て良いですか?」
エレンが返事をする前にタラが話に入り込む。
浮かんだシェムの顔をタラ、ファブリス、モワノー、カルが不安そうに見つめている。
シェムは少しの間考えこんだ後に言う。
「...まあ、良いだろう。高等魔術師達も集まるし、初級魔術師達も釣られて見るかもしれないしな。なら、カル。エレンを案内しなさい」
「はい、解りました」
カルは少し緊張しながら返事をする。
「では、よろしい。待っているからなエレン」
シェムはエレンの返事を聴かずに勝手に通信を消してしまう。
後に残されたエレンは、自分がまるで罪人の様な扱いに呆然とし、そのまま突っ立ってしまう。
「エレン。大丈夫?」
タラはエレンの顔を心配そうに覗きこむ。
タラの様子を見て心配させたくないエレンは、首を激しく横に振り更に頬を叩いて元気を出す。今までの対応に不満を感じて怒りが爆発する。
「私は大丈夫だよ!だって魔法を使うだけ!誰かを傷付ける為に使うわけじゃないもん!そんなに魔法を見たきゃ、見せてあげる!私は悪くないもん!危険人物じゃないもん!」
そんなエレンの様子を見て、カルはピューッと口笛を吹き手を叩く。
「良いぞ。エレン!その調子だ」
「カ、カル!」
「でも、カルの言う通りかな。別に、エレンは悪い事をしている訳じゃないし。そりゃあ、昨日のカルとモワノーの話で、高等魔術師達が慎重になるのが分かるけど。それに...僕も...エレンの魔法見てみたいし」
「で、でも......」
「別に大丈夫よ!それに、私達が見ているから、何かあったらフォローするから安心して!」
面白がるカルを咎めるモワノー。カルの肩を持つファブリスにモワノーは戸惑い、自分達に言い聞かせるようにエレンを励ます。
「うん!よーし、久し振りに使うから、いっぱい食べて備えよー」
「おう!僕もいっぱい食べるぞ!」
「カルは関係ないでしょ」
気分が上がり片手を上げるエレン。それに続くカルを見て呆れるタラ。クスクス笑うファブリスとモワノー。何とも愉快な朝御飯が始まる。
朝御飯を食べ終えた五人、特にいっぱい食べたエレンは準備万端だ。五人は、いつも通りに喋りながら外の広場に向かう。
それでも五人は大丈夫だと、心の底から言い聞かせて不安を誤魔化しながら歩いたのであった。
五人が着いた時にはもうシェムが待っていた。
「やあ、来たかね。準備は良いか?」
「うん、良いよ」
「では、行くぞ」
返事を聞くとシェムはエレンの手をとり連れて行く。
「また後でね~。バイバイ」
「おう、また後でな」
「え、ええ。ま、またね」
「またね」
「じゃあ、また後で」
エレンには余裕あり手を引かれながらも手を振る。
空元気なのか、本当に余裕あるのかは分からないが、カル、モワノー、タラ、ファブリスもいつも通りに手を振って分かれるのであった。
エレンと別れたタラ達は、エレンの魔術を見る為の場所を探す。
広場には既に高等魔術師や初級魔術師が集まっており、その集団が大きな円を作り出している。円の中心は空いていて、そこでエレンが披露するだろう、とタラ達は推測をする。
高等魔術師は吸血鬼のドラゴッシュ先生やエルフのダンマリル先生、カルの先生のサルドワン先生や第一顧問のキマイラなどがいる。
初級魔術師はロバンやスキレール、アンジェリカとその子分であるモニカとキャロルなどがいる。
更に空には二枚の黒い翼が生えた上に、スピードアップの為なのかジェットエンジンが付いた黒い小さな箱のような物体が飛んでいた。黒い箱には大きな一つ目も付いており、その大きな目で辺りを見渡している。それらが何台も空を飛んでいた。少しでも見逃さないようにしていた事が容易に伺えた。
「あれは何?」
「あぁ、これ?スクープだよ。撮影する為の機械さ」
タラは空に指を指しながら尋ねる。
話ながら少し歩くとタラ達は丁度良いところを見付け、そこで見学することにしたのだ。
タラ達が待って数分後。
円の中心からシェムとエレンが登場する。登場したシェムは綺麗なお辞儀をして挨拶をする。自分が終えるとエレンに催促し、エレンにもお辞儀をさせる。
二人のお辞儀が始まりの合図だったようで、エレンは何も呪文を唱えずに高く飛び上がる。
それだけの行動で辺りの魔術師から驚きの声をあがる。カルとモワノーも例外ではなく驚いている。驚いていないのは見たことあるタラと別世界【オートルモンド】に来たばかりで、考え方が浸透していないファブリスだけだった。
ある程度の高さまで飛ぶとエレンは止まった。
エレンは静電気で少しぼさぼさになった髪の毛を気にした後ハートの赤い光弾を放つ。最初は数個の光弾だったが、数十個まで増えて、大きな一つのハートを作り出していた。
次に繰り出したのは紫色の光弾だ。
光弾は左右に三個ずつ合六個出てくる。すると光弾は形を変え、先がぐねっとしたレーザー状に変化する。
これには全員がおおーっと感嘆の声をあげる。
髪の毛をパチパチが少し酷くなっているが、まだまだ続いていく。今度は黄色の光弾が四つ程繰り出し、光弾はどこかに飛んでいく。
「えい!」
光弾がどこかに飛んでいる間にもエレンは、自分の身体よりも二倍大きい赤い光弾と青い光弾を一個ずつ作り出す。赤と青の大きい光弾は、エレンの周りをぐるぐると回っている。
戻ってきた黄色の光弾が赤と青の大きい光弾にぶつかるが、壊れるどころか赤の大きな光弾から掌サイズの赤の光弾、青の大きな光弾も掌サイズの青の光弾が大量に作り出される。
光弾が戻ってきた事に、大きな光弾から小さな光弾が作り出された事に、魔術師達は目を見開いたまま口を開けて驚く。
大きい二つの光弾が消えると今度は、自分の背後に大きな円型の魔方陣が現れて数百個の光弾を出す。光弾はエレンの周りを右方向に回転ながら円を描き、しかも、光弾は次々と色を赤、青、緑、黄色と色を変える。
もう魔術師達は驚きすぎて反応が無くなっていた。
「はぁ!」
数百個の光弾が消えると、今度はカードの様な形をした四角い赤い魔方陣が二つエレンの後ろに現れる。四角い魔方陣から赤いビームを打ち。同時に数十、数百個に及ぶ赤い光弾も一緒に現れる。
数十秒間出して終えると。
「魔符 ふわふわアブラカタブラ」
唱えたエレンは右手と左手を揃えて前に突き出す。両掌の中心から赤い魔方陣が現れると極太の赤いビームが放たれ、ビームは空気を振動させ遠くまで飛んでいった。
これには驚きすぎて固まったままの魔術師達が、恐怖のあまり腰を抜かしてしまう。
「デウス・エクス・マキナ」
これだけやってまだ終わらずエレンは唱える。
今までものとは少し変わったタイプで、エレンの近くに現れていた魔方陣が、広場の中心の誰もいない場所に現れた。それなりの大きい黄色の魔方陣が現れた瞬間、雷が魔方陣目掛け、落ちてきて雷鳴が轟き、地面を振動させる。雷が落ちた場所には焼け跡が残り、そこから焦げた臭いが充満する。
アンジェリカは、「ひゃっあ!!」っと恐怖のあまり情けない声が終了の合図かの様に、終わらせたエレンは地上に降りてくる。
エレンの髪の毛は静電気が酷すぎて、アフロヘアーになっていてパチパチと音が鳴る。エレンはやりきった解放感でどや顔で胸を張っていた。けれども、皆の様子を見た時にこの行動が間違いだと気付く。
エレンの事を誰もが恐怖の目で見ている。
タラ達も驚きのあまり近付いて声を掛けてこなかった。驚愕の色が目に浮かぶだけだった。シェムは調子を取り戻すと、直ぐ様エレンの腕を引っ張りどこかに連れて行く。
彼らが恐怖を感じたのは魔術の威力だけではない。
ほぼ呪文を言わずに、身振り手振りだけで出来るからだ。呪文と言ってもかなり短い。別世界【オートルモンド】の魔術師達は長い呪文を使うのだ。もし、彼女と戦うのならば圧倒的に別世界【オートルモンド】側が不利になる。
エレンの光弾を避けれなかったスクープの残骸が、怯えた彼らの心を更なる恐怖に駆るのであった。