カオスな世界に転生 ~最強目指して頑張ります!~ 作:矢竹秀光
ついてない。
色々とついてない人生を歩んできた俺だが死に方までついてないとは……徹底してついてないな。
早朝、会社に行く為に駅に向かって歩いていたが唐突に暴漢とエンカウントしてしまった。
モヒカン、肩パッド、破れたジーンズ、サバイバルナイフ、眉なし、スカーフェイス、どこか別の世界を見ているような目。
どう見てもあれです。本当にありがとうございました。
俺は、暴漢の奇声と同時にサバイバルナイフを入刀され、地面に横たわっていた。頭の中ではメンデルスゾーンの結婚行進曲がエンドレスで鳴り響いている。バージンロードを歩くことは叶わなかったが、劇的な最期を迎えさせてくれてありがとう。大して自分の人生に未練がないので心からそう思った。
即席のウェディングケーキと化した俺に興味をなくしたのか、モヒカンの彼は「あべし!!」と叫びながらどこかに行ってしまった。そのセリフは俺が言った方が正しい気がする。
腹から溢れ出る血を見て思う。学生時代『ジャガイモをさらにボコボコにしたような容姿』略して『ジャガボコ』と言われた俺にも赤い血は流れていたようだ。
だんだん気が遠くなってきた。
そういえば、アミゾンで新作のRPGを注文してたな。せめてあれを遊んでから死にたかった。そう思いながら俺は目を閉じた。
こうして、ついてない三十路男『田中敏郎』は一生を終えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
次に俺が気が付くと、殺風景な白い部屋にいた。ここが、あの世なら作った奴に文句を言いたいところだ。
コンビニの釣銭間違いをちょろまかしたこともない、正義の人である俺には、もう少しまともな待遇を要求する権利があるはずだ。
否! 断じてその権利があると強く主張する。
しばらくそんなことを考えていると、何もない空間から白い背広を着た男が現れた。女神様でも出て来るのかと思ったらおっさんかよ。
「この度は、突然このような場所にお呼び立てして申し訳ありません」
ずいぶん腰の低い神様だ。
「あなたをここに呼んだのは、私共の手違いをお詫びするためでして……」
「手違い?」
俺は素っ頓狂な声を上げる。
彼の話によると俺は死ぬ予定の人間ではなかったようだ。本来ならあの場で暴漢を撃退していたらしい。
モヒカンの彼が「あべし!!」と言ったのは、あながち間違いでもなかったようだ。
「あなたが想定よりも弱……失礼、か弱かった為に、起こったアクシデントでして」
言い直しになってねーよ! と叫びたかったが我慢した。
相手は神様だ。
「それで、アクシデントによる死者には、希望を聞いたうえで転生してもらうルールになっておりまして」
「希望を聞く?」
「はい、必ず希望にそえるわけではありませんが、できるだけ本人の希望に合った転生先を用意するようになっています」
なるほど、アクシデントで死ぬのも悪くはないなと思った。椅子とテーブルを神様が出したので、勧められた椅子に座って考える。
ある考えが頭に浮かび、俺は自分の希望を神様に言う。
「剣と魔法の世界に転生させて下さい。それと、三つの願いを叶えて欲しいです」
「三つの願い?」
「ええ、普通に転生しただけでは、また同じようなことになるかもしれませんから……」
できるだけ悲壮な感じを出しながら俺は言った。
「なるほど……ではご希望を伺いましょう」
俺は心の中でガッツポーズをとった。聞いてくれるなら願いが通る可能性はある。
詳しい条件を神様に話す。
一つ目は『美形で才能豊かな男であること』
二つ目は『記憶を持ったまま転生させること』
三つ目は『無限に強くなれること』
転生先は剣と魔法の世界だ。無限に強くなれるなら、どんな奴相手でもいつかは何とかなるだろう。
一つ目の願いが三つの願いになってしまっているのが微妙なところだが、言ってみるだけ言ってみた。
「わかりました、条件に合う転生先を探してみます」
神様はカバンからパソコンのようなものを取り出して何かを打ち込んでいる。
「こちらなどは、いかがでしょうか」
モニターを俺の方に向けられたので、のぞき込むと青黒い髪にエメラルド色の瞳をした少年がベッドに横たわっていた。
少年の近くには母親と思われる人間がいて泣きながら彼の頭を撫でている。
「ご希望の条件を満たすとなると、赤ん坊などではどう成長するかわかりません。その為、ある程度成長した人間から選別することになります。彼は美形ですし、この世界で生きていく為の才能も豊かです。さらに病気で死にかかっています。彼が死んだと同時にあなたの魂を入れるのが最善かと思いますが、いかがでしょうか?」
素晴らしい! 希望にぴったりの人間が見つかったようだ。
二つ目と三つめの願いも聞いてくれるようだし、最早、言うことはない。病気というのが気にかかったが、俺が入った時点で健康体にしてくれるようだ。
俺が猛烈な勢いでうなづいているのを見て、神様は言った。
「それでは、新しい人生での成功をお祈りしております」
その言葉と同時に視界からあの殺風景な部屋が消えた。俺は空に浮かんでいた。次の瞬間、魂が重力に引かれ真っ逆さまに落ちていく。
気を失う直前に俺は思った。転生方法も指定しておくべきだった……。